第0032話 オーク殲滅!
「シホっ!村全体を覆うシールドを張れ!」
「はっ!」
「全知師っ!村内のオークすべてをターゲット指定して、村外の上空1000mへ転送してやれ!」
>>承知!
村内のオーク27匹……転送ターゲット指定完了!
村の中心とターゲット指定オークとを結ぶ線分の延長線上2000mの村外、その上空1000mへとそれぞれを転送します。
……転送処理マクロ記述完了!マクロ実行!……転送が完了しました!
エルガラズガットへ転移すると……
ちょうど村の門4つが……それらすべてが破られ、大剣を振るいながら鎧を身にまとったオークどもが、雄叫びを上げながら、次から次へと村内に押し入ってくるところだったのだ!
それを見て即座に、シホには村を守るシールドを展開させ、これ以上のオークの侵入を防がせる。そして、既に村内に入ってしまったオークは、全知師に命じて、そのすべてを村外へと転送させてやったのである!
シホと全知師に命令した後、村を守っている防壁の強化を行う。
現在ある石造りの防壁の内側に、SRC、つまり、鉄骨鉄筋コンクリート造りの
防壁を新たに建設して二重防壁とし、4つあった門は、取り敢えず、壁型シールド発生装置を設置して代用しておいた。
次に、上空からの攻撃に備えてミニヨンを防空の任にあてることにする。
亜空間倉庫からミニヨン1000体を村の上空全体に広げた"見えざる神の手"の上に取り出し……
「ミニヨン起動!自身にシールドを展開!……上空からの攻撃からこの村を守れ!ただし、火属性神術の使用を禁止する!行けっ!
シホ!シールド解除!」
「はいっ!」
ミニヨンが起動したのを確認し、"見えざる神の手"を消す。
その直後、シホによって展開されていた村を覆うシールドが解除される……。
上空からはすごい数の矢の雨が降り注いでくる!
だが、心配ご無用!それらはすべて、上空で待機していたミニヨンによって迎撃されていく……ミニヨンに内蔵された"フェイザー銃"から放たれた光線によって、矢は次々に蒸発させられているのだ!
「いいかい、ハニーたち!
これから正面の門に張ってあるシールドだけを解除するつもりだ!
すぐにオークどもが押し入ってくるだろうからな、それらを倒しちまってくれ!手段は任せる!ただし!火属性神術の使用は厳禁とする!いいかい?
……シェリー!ハニーたちの面倒を見てやってくれ!」
"はいっ!"
マップで状況を確認する……
「おいおい、ノリゼム!
お前さんから大量のオークだって聞いて期待してたんだがな……がっかりだぜ!
たったの5千匹かよっ!?あーあ!5万匹はいるだろうと期待したのになぁ」
「えっ!?ご、ごご、5万匹を想定されていたんですか!?」
「ああ!そうだとも。お前さんの顔に悲壮感が滲み出ていたからなぁ……」
「う、うう、上様にお願いできて良かったです。は・は・は……」
「それはそうと、あの辺でポカンと口を開けて見ている村人たちに事情を説明してやってくれねぇか?それから、怪我人がいたらシホに治療してもらうから、聞いてみてくれ!……シホ!ノリゼムに同行して、怪我人の治療に当たってくれ!」
「はい!分かりました!行くわよ!ノリゼム!」
「は、はいっ!」
さてと……5千匹相手だと、そうだなぁ、ミニヨンは2千体もあればいいかな?
いつでも投入できるように、ミニヨンには、攻撃対象や攻撃方法、禁止事項等を設定した。ミニヨン起動用のマクロも準備してあるので、いつでも命令1つで投入可能である。
しかし、ミニヨンはそれぞれが人の頭ほどの大きさがあるので、今ここに2千体も出したら場所を取ってしまってハニーたちの邪魔になってしまうだろう……。
ということで、投入予定のミニヨン2千体は、まだ、亜空間倉庫内に入ったままの状態である。
これで準備は整った!俺は、正面の門へと行き、シールドを解除してやる……
まず、5匹、大剣を持ったオークが押し入ってくる!すかさずハニーたちが攻撃神術を放つ!
「「「「ウインドカッター!」」」」
「やぁーーっ!」
他のオークの後ろに隠れてなんとか生き残ったヤツはシェリーが剣で斬り倒す!
うわっ!予想した通り、後から後から、次々とオークたちが門から入ってくる!
ハニーたちはそれらを、火属性を除く各種属性の攻撃神術を駆使して、ガンガン倒していく!快調だ!
死体が折り重なり、門から入って来ようとするオークの邪魔になっているなぁ?
空からの攻撃を防いでいるミニヨンに命令して、ハニーたちが始末したオークの死体をその都度、ミニヨンに内蔵されているフェイザー銃を使って蒸発させることにした。……よしっ!これで彼女たちもやりやすくなっただろう!?
◇◇◇◇◇◇◇
ん?ハニーたちに、ちょっと疲れが見えてきたな……肩で息をし出したぞ!
そろそろ潮時かなぁ……それじゃぁ、ミニヨンを投入するかっ!
まず、正面の門にシールドを張り直して……っと。OK!それじゃぁ……
「ミニヨン起動!敵を殲滅せよ!」
ミニヨン起動用のマクロを実行する……ミニヨンは、次々と村外へと転送されて行った……。
ハニーたちはよくがんばった!
どうやら全部で200匹を超えるオークを始末したようだな!これはすごい!
ハニーたちの息は荒い。ぜぇぜぇ言っている。
テーブルと椅子を亜空間倉庫から取り出し、テーブルの上に冷たい飲み物を各種用意した。彼女たちに飲んでもらうためだ。彼女たちを労う……
「お疲れ様!そして、ありがとう!よくがんばったな!さぁさぁ、ここに腰掛けて冷たい飲み物を好きなだけ飲んでくれ!」
「うまそーっ!遠慮なしにいただくっす!……かぁ-ーっ!うんまーーいっ!」
「いただきます!……ああ!生き返りますぅ~~!!」
「うん!
「はぁ~、美味しいぃぃっ!」
こうしている間にもミニヨンたちは仕事をしてくれている。残りのオークは既に20匹程にまで減ってしまっている。ミニヨンの損害は……ゼロだ。ま、当然だ。
ミニヨンが放つフェイザー光線が、オークを一瞬で蒸発させていく……。
後には、魔石どころか一滴の血も残されていない。
一方で、ミニヨンに対する敵の攻撃はすべて、ミニヨンの防御シールドが完璧に防いでいる。だから、ミニヨンには傷ひとつつけられていないのだ!
たった今、最後のオークを倒したようだ。
これでこの村を襲っていた危機は完全に去った!
『シホ、どうだ?怪我人は多いのか?』
『いえ、軽傷者が3名と重傷者が1名でした。怪我は私がすべて治療しましたのでご安心下さい。今からそちらへ戻ります』
『ああ、お疲れ様。宴は午後7時からだったよな?余裕で間に合いそうだな?』
『はい。少々遅れるかと思っていましたが……さすがはダーリンです!』
『いや、俺はなんもしてねぇ。がんばってくれたお前さんたちハニーとミニヨンのお陰だぜ。ありがとうな!』
『いえいえ。……あ、ダーリン!村長がお礼に娘を献上すると言っていますがどうします?』
『あ゛あ゛ーーっ!なんでこの世界の男どもは女性を物みたいに扱うのかなぁ!?クソ野郎ばかりでうんざりするぜ!』
『いいえ、村長は女性ですよ。ダーリン、娘さんの方は、す、すごい美人ですよ!
どうやらこの村を守るために、村長がオーク・キングへの生け贄として差し出すつもりだったらしいですね。かわいそうに…。でも、そうなる前に救ってもらったから、本人もダーリンにもらってもらえるのを望んでいるみたいですよ。
ちなみに……彼女の魂の色は、"スカイブルー"です。まぁ、取り敢えずそっちへ連れて行きますね』
断ろうと思っていたのに……シホが俺の答えを待たずに念話を切ってしまった。
妙だなぁ……なんかシホの態度が変だ。
お?ミニヨンが凱旋してきた!綺麗な4列縦隊で、正面の門から入ってくる。
ミニヨンのシールドも周波数変調パターンが同じだから、シールドをすり抜けて入って来られるのだ。
『ミニヨンたち!ご苦労さん!ありがとうなっ!……転送!……』
ミニヨンたちに労いの言葉を掛けてから、門を潜ってきた順に、亜空間倉庫へと転送していく……。
上空を防御してくれていたミニヨンたちの方は、既に、シホとの念話中に亜空間倉庫の中へと仕舞ってある。
シホが、ノリゼムと、すごい美女二人を連れて戻ってきた。
彼女等の後ろには、ぞろぞろと村人がついてきている……俺の前に立ち止まると村人たちは一斉に右膝をついて跪いた。
「上様、ご尊顔を拝し、恐悦至極に存じます。私は村長のミィミィ・ガアイゼレと申します。この度は窮地をお救い下さり、誠にありがとうございました」
「ああ、よろしくな。取り敢えず危機が去って良かったな」
「はいっ!ありがとうございます!つきましては……恐れながら、お礼と言っては何ですが……私の娘、バーセア・ガアイゼレを上様に献上致します。見ての通りの器量よしでございます。お納めいただけますと幸いに存じます」
「いやいや、お前さん、娘さんは物じゃねぇぜ? 献上するだなんて……ちょっと酷ぇんじゃねぇのか?娘さんの気持ちも考えろよ?オーク・キングへの生け贄にもしようとしたらしいじゃねぇか?かわいそうに……」
村長が一瞬俺を睨んだ……ように感じたのだが。??
すぐに村長は俯く……そして、わなわなと震え出した。
シホが村長の方を向き、一瞬、何やら合図を送ったようだが……気のせいか?
俯いて震えている村長が発する次の言葉を待っていると……
暫くして感情の制御ができたのか、震えは収まり、彼女は意を決したかのように顔を上げ……キッと眉を上げ、力強い眼差しをこちらへと向ける……
「実は……もともとこの子は、最終選考で落とされてしまいましたが、上様のお后候補者のひとりでした。ですからこの子にとっては上様のお側にいることは最上の喜びなのです。それに……神殿の規則で最終選考に敗れた者は生涯独身を貫かねばなりません。上様にここでもらっていただけなかったら、明日よりこの子は残りの生涯を、森の奥でたったひとりで暮らしていかなかればならないのです」
なに?生涯独身を強要されるのは、最終候補者だけじゃなく、その前の候補者もなのか!?一瞬、神殿幹部会議のメンバーをぶん殴ってやりたい衝動に駆られる。
村長の眉尻が下がる……
「この子と違って、この村の他の若い女性たちには将来、素敵な男性と知り合い、幸せな家庭を築ける可能性があります……ですから…うう……オーク・キングへの生け贄には、この村ではこの子が…この子がなるより他に……ううう……。
だ、だれが大切な娘を好き好んで生け贄になんか選びますかっ!……泣く泣くに…き、決まっているじゃない…ですかっ……うう……」
「そうか……そんな事情があったとはなぁ……」
俺が話に食いつくように……話をちゃんと俺に聞いてもらうために、わざと娘を物のように扱った乱暴な物言いをしたのか……?
ははーん?これにはシホも一枚噛んでいるな?
もちろんオークの襲撃は無関係だろうが、いずれ何らかのタイミングでこの子を俺に引き合わせようとしていたに違いない。
「事の次第は分かった!バーセア・ガアイゼレ、お前さんが望んでくれるのなら、俺はお前さんを嫁にしてぇと思うんだが?どうだろう?」
「ううう……ありがとうございます。なりたいです……上様のお嫁さんになりたいです。それが私の子供の頃からの夢でした」
「そうか。それは嬉しいな。ありがとうよ。よろしくな、ハニー!」
頬を染めたバーセア。パッと笑顔の花が咲く。
ああ、どんどんハーレムが大きくなっていく……。
しかし、いつも疑問に思うんだが……俺はこの世界にいなかったのに、どうして会ったことも見たこともない俺の嫁になりたいと思うようになるんだ?
俺のプロモーション動画が流れているってわけでもないだろうに……。
>>民間伝承と生命体起動時のプロパティ値が関係しているものと思われます。
この惑星で創造されたすべての生命体は、マスターに対する敬意、好感度の両プロパティの初期値として最大値が設定された上で生まれるようになっています。
一方で、マスターに対する愛情については、最大値を100として、50がプロパティの初期値として設定されることになっていますが、これらのプロパティ値は生命体の活動期間内は変動します……
全知師によると……
この惑星での実験がし易くなるように、管理システムにより、全ヒューマノイド種族に対して『古より口承されてきた……』として、人々に受け継がせている事柄が多数あるらしい。
その1つが『神は心が清らかな神殿神子たちの中から、自分の后となる者たちを選び出す……』というものである。
他にもたくさん、神の武勇伝や数々の伝説、逸話、神を美化する話などを人々に受け継がせているらしいのだが……これらの伝承が、彼女たちの愛情プロパティ値上昇に一役買っているのではないか……ということだった。
もう少し詳しく聞いてみると……
厚い信仰心の持ち主たちに囲まれて育ったことで、彼女たちの神に対する敬意と好感度が下がることは一切なく、ずっと最大値のまま成長して行く。
そんな中で、神についての武勇伝や、数々の伝説や逸話を読んだり聞いたりしている内に、彼女たちには、神への恋心が自然と芽生えて、それがどんどん膨らんでいく……つまり、彼女たちの神に対する愛情プロパティの値が、どんどん上昇していって、やがて、神子になってお后に選ばれたいと願うようになったのではないか……というのだ。愛情プロパティ値の上昇には、敬意と好感度の値が大きく影響するらしいのだ。
記憶がないので、どんな話が信徒に伝わっているのか、それは全く分からないのだが、やはり、これは一種の洗脳じゃないんだろうかなぁ……。
『シホ、エルフ族では、他の最終候補落選者も同じような境遇に置かれるのか?』
『はい。そうです。ちなみに……他の落選者も、魂の色は"スカイブルー"です』
『分かったよ。お前さんがしてぇことが……。他の落選者も望んでくれるのなら、みんな嫁にするから手配してくれねぇか?』
『はいっ!喜んで!……さーすがぁっ!ダーリン!大好き!』
『は・は・は……ところで、最終選考の前までに篩にかけられた女性たちは大丈夫なんだろうな?酷い目に遭ってねぇだろうな?』
『それは大丈夫です。通常の生活に戻っただけです』
『そうか、よかった。ああ、それから……最終選考落選者で、俺の嫁になることを拒む子がいても、一応形だけは、一旦俺のフィアンセということにするぞ。
そうしねぇと、その子は一生独身でいねぇといけねぇんだろ?だから、救済するからな』
『はい!ダーリン、やさしいーっ!ほ、惚れ直しましたっ!』
『は・は・は……ったく、シホには敵わねぇなぁ……』
「バーセア、よろしくっす!よかったっすね?」
「ウェルリ、ありがとう。こんな奇跡が起きるなんて……ううう……」
「よ、よかったっすね。ううう……」
他のハニーたちも全員、溜め涙……大きく何度も頷いている。
ウェルリもみんなも本当に優しいいい子たちだなぁ。
神殿幹部会議……これは解体だな!幹部は全部クビにしてやる!絶対に!
「シホ!神殿幹部会議のメンバーと近いうちに面談する! 基本的に全員をクビにするつもりだ! こんな酷ぇ決定をするようなクソ野郎どもを、このままのさばらせてはおけねぇからな!女性は物じゃねぇっつうのっ!クソがっ!」
ところで、最終選考落選者って何人いるんだろう?
「シホ、最終選考に臨んだ后候補の神子たちは全部で何人いたんだ?」
「合格して最終候補者となった3人を入れて全部で6名です」
「そうか……悪ぃけど今夜の宴に、最終選考落選者も全員を呼んでくれねぇかな?宴に参加している者たちの前で俺の嫁だと宣言する時だけでもいいから、みんなを連れてこられねぇかなぁ?」
「ふっふっふーっ!そうなるだろうと思って、ちゃんと各神殿で待機するようにと伝えてありますよ!うふふっ!偉いでしょう?」
「ああ、偉い、偉い!よしよし!」
俺は冗談半分でシホの頭を撫でてやった。
「ああーっ!ずるいっす!あたしもオーク退治、一所懸命がんばったっす!撫でて欲しいっすよぉ!」
「わ、わわわ、私も!」
「ご褒美を要求します!」
「私も……ごにょごにょ……」
「……」
「みんなよくがんばったなっ!よし!よし!……」
みんなをひとりずつ順番にハグして、頭を撫でる……
「バーセア、お前さんとお義母さんには、つらい思いをさせちまったな。オークの生け贄にされず、ホントよかったぜ!よし!よし!」
もちろん、バーセアもハグして撫でた!当然だ!
「きゃあああーーっ!!」
突然金切り声があがった!声がした方を見る……正面の門の方だ!
「シホ!みんなを守れ!」
「はいっ!」
俺はシホに命令しながら、即座に高速移動で門へと向かう……。
門の向こうには、身長が2mを超えていると思われる、筋骨隆隆で、緑色の肌をしたイケメンがよろけながら立っていた。左腕を肩から失っており、全身には火傷なのだろうか?生々しい痕がある。
そいつは俺の顔を見るとハッとして……
「う、上様……な、なぜ、私たちをお創りになったんですか?こ、こんな惨い目に遭わせるためだけに私たちは創られたのでしょうか……」
ステータスを確認した。オーク・キングだっ!ぶよぶよに太ったヤツを想像していたのだが……すごいイケメンだ!
「修復!」
取り敢えず、ちゃんと話がしたいので、怪我を治してやった。
ここではなんだから、オーク・キングとは森の中で話をするか……。
『シホ、みんなのことを頼むな。こいつはオークの王のようだ。だが心配するな。こいつらが俺を絶対に傷つけられないってことはお前さんも知っているだろ?』
『わ、分かりました。でも、ダーリン、気をつけて下さいね?』
『ああ、ありがとうな。ちょっと話をしてくるわ』
◇◇◇◇◇◇◆
「
なぜ、上様は私たちのような不完全な魔物を創られたのですか?あまりにも酷いではありませんか?オスしか生まれず、しかも、繁殖には"他種族のメス"を孕ませなければならない。
そして種を残そうと行動を起こせば……今回のように、まるで邪悪な存在とでも言わんばかりに惨たらしく殺されてしまいます。
一体我々にどうしろと?ただただ他種族に蹂躙され、殺され、絶滅せよと仰るのですか?酷すぎます……」
彼の言い分も、ある意味ではもっともだ……。オークにしろ、ゴブリンにしろ、他種族の女性を孕ませなければ、子供を得られない。それはその通りだ。不完全と言えば不完全で、かわいそうな存在ではある。なぜこんな仕様にしたのかを過去の俺に問い質したいくらいだ。
だが!だからといって、他種族の女性を凌辱していいという理屈にはならない!
それは話が別だ!どう理由をつけようとも正当化などできるものじゃないっ!
「お前さんは、自分たちオークが被害者みたいに思っているようだがなぁ、それは違うぜ! こうして俺と話ができるくれぇの知力があるんだから尚更だ!」
「私たちは殺されて当たり前だとでも仰るんですかっ!?」
「ああ、そうだよ!そうしてしまったのはお前さんたち自身だぜ?分かるか?」
「り、理解でき兼ねます!私たちは生き延びようとしただけです!」
「確かに、子孫を残すには他種族の女性の協力が必要だということは理解できる。
理解はできるがなぁ……お前さんたちは絶対にやっちゃぁいけねぇ間違いを犯したんだよ。だから、その報いを受けているに過ぎねぇんだよ。分かるか?」
「私たちがなにを間違ったというのですかっ!?私たちは、ごく普通に生きてきただけですよ!?」
「分からねぇのか!?じゃぁ、教えてやろう!お前さんたちがした間違いはなぁ、他種族の女性を凌辱したことだっ!
子供を他種族の女性に産んでもらわにゃならんのは分かる!だがな!そうだからといって他種族の女性を無理矢理犯して孕ませていいという理屈にはならねぇっ!分かるかっ!?」
「……そ、それは……」
「そんなことをしたら、他種族の恨みを買うに決まっているだろうがっ!?
ちょっと考えりゃすぐ分かるだろうがっ!?ばかものっ!
今じゃ、他の種族すべてにとっての共通の敵だぞっ!殺されて当たり前だ!」
「……」
「不完全な魔物をなぜ創っただぁ?この世界に必要だからに決まってんだろうが!
悲劇の主人公面すんじゃねぇぞっ!アマゾネス・オークを見てみろ!同じような境遇なのに真っ当に生きてるじゃねぇかっ!?違うか?
彼女たちは俺の手助けだってしてくれているんだぞ!」
オークって本当に必要な種族なんだろうかなぁ……記憶がないから適当なことを言ってしまったが、こうして存在しているんだからな、必要に決まっているよな、うん、そういうことにしておこう!うん、うん!
「言っておくぞっ!……女性だろうが、男性だろうが、俺は他者を凌辱するようなヤツは絶対に!許さん!てめぇらが今後も女性を凌辱するって言うんなら、容赦はしねぇ!ぶっ殺す!分かったか!?」
「はい……でもどうすれば……」
「まずは他種族と仲良くなることを考えるんだな」
「仲良くですか?」
「そうだ!お前、肌の色が違うだけで、それ以外は人族に見えるから、一度人族の町で冒険者でもやりながら暮らしてみろよ?そうすれば、人族のことが理解できるだろうし、人族の友達や恋人だってできるかも知れんぞ。どうだ?」
「…………はい。そうしてみたいです」
「問題となるのが肌の色だが、それは俺が一時的に変えてやろう。残念ながら……この世界では肌の色で差別を受けるからな。人族は特に差別が酷ぇ」
「私には人族のことが分かりませんが……お任せします」
オーク・キングに、地面で横になるように言い、肌の色を決めるプロパティ値を編集する……完了!
「リブート!」
オーク・キングは一瞬意識を失ったことに驚いている。
自分の手足を見て、肌の色が変わったことを確認したようだな……。
「ところで、お前、名前はあるのか?」
「いえ、名前持ちではありません」
「それじゃぁ不便だから、俺が名前をつけてやろう?どうだ?」
「ありがたき幸せでございます」
どんな名前がいいかなぁ……リザードマンの時は『リザドゥ』にしたから、ドゥつながりでいくか……『オークドゥ』でいいかっ?
「命名する!今日からお前は"オークドゥ"と名乗れ!よいなっ!」
「ははぁーーっ!ありがたき幸せ!
……うぐぐっ!ち、力が……みなぎってくるぅ!!」
さてと、今回も進化したかな?……ステータスを確認……
おおっ!ロイヤル・オークになったぞ!
「オークドゥよ!お前はロイヤル・オークに進化したぞ。今までよりもかなり強くなっているはずだ。
だがな、よいか?己の欲望を満たすために暴力は振るうな。大切なものを守る時だけにしろ!それに、分かっているとは思うが、女性は襲うなよ。人にはやさしくしろ!いいか?」
「ははっ!承知しました!肝に銘じまする!」
俺はオークドゥに冒険者らしい服装と装備、当面の活動資金を与えた。
明日か明後日にでも、アウロルミア神国の神都、エフデルファイに連れて行ってやることにしよう……。
「ところで、オークドゥ。お前さんたちの集落には攫ってきた女性はいるのか?」
「はい。エルフ族の女性が9名います」
「その子たちを解放する!集落の場所を教えろ。今から行くぞ!」
「はい。しかし……」
「ほおう?まさか教えられねぇとでも言うんじゃぁねぇよなぁ?
それならそれで別に構わねぇぜ。この国のオークを根絶やしにしながら見つけるだけのことだ。それでいいんだな?……ミニヨン起動!」
オークドゥの目の前で、ミニヨンを次から次へと出現させる。
ミニヨンは出現すると同時に、垂直に上昇し、その後、四方八方へと飛び去って行く。おおよそ1万体を出動させて見せた。
ミニヨンにはいかにもサーチライトで何かを探しているかのように辺りを照らすように指示してある。
「ち、違います。違いますっ!ここから歩いて行くには少々距離があると申し上げたかっただけです!お教えしますから!ど、どうか皆殺しはご勘弁下さいっ!」
◇◇◇◇◇◆◇
オークドゥと一緒に彼の集落へ転移して来たのだが……女性たちは劣悪な環境におかれていた。衣服の類いは何も身につけておらず、まるで家畜であるかのような扱いをされていたのだ。
「完全浄化!完全修復!衣服等装着!」
女性たちは驚いている。自分の身体が淡い緑色をした半透明な光のベールに包み込まれたかと思うと怪我が治り、下着や靴、衣服までもが身につけられたからだ。
俺は彼女たちのもとへと駆け寄る……
「みんな、助けに来たぞ!もう大丈夫だ!家に帰ろうな」
"うわぁーーーん!"
みんなは安堵感からか大声をあげて泣く……。
だが、その中でひとりだけ、にこにこ笑っている子がいる?……ああ……なんてことだ……精神に異常をきたしてしまっている。くそっ!涙が溢れてくる……。
バックアップが取ってあれば話は別だが、さすがに壊れた心までは修復できない……悔しくて、悲しくて、グッと拳を握る……。
隣にいるオークドゥをボコボコにしてやりたい!殴り殺してやりたい!
その時である。俺を敵だと判断したのか、女性たちの監視をしていたと思われるオークがこちらへと走ってきた。
だが、俺の顔をひと目見るとハッとした表情を浮かべ、その場に即座に跪いた。
その光景を見て、なんとか怒りを抑え込むことができた。
「オークドゥ、『今後は他種族の女性は絶対に凌辱するな!』と、全集落に対して禁止令を出すように部下に指示してこいっ!」
「はっ!」
「お前の直属の部下どもにもちゃんと言い聞かせろよ!分かったか?」
「はいっ!」
「俺はこの女性たちと集落の外で待っているからな。それから……旅の準備もしてこいよ。いいな?」
「はい。承知しました」
「ところで、他の集落には監禁されている女性はいねぇんだな?」
「はい。これから確保する予定でしたので……」
「この9人はどうしたんだ?」
「人族の奴隷商人が乗った馬車が、この集落に迷い込んできましたので、そいつを殺して奪い取りました。偶然の賜物です」
「くどいようだが、他にはいねぇんだな?」
「はい。この女性たちだけです。間違いありません」
かわいそうになぁ……この子たちはどこかから攫われて来た上に、更にオークに凌辱されたということか……気の毒でしょうがない。
この件にも、例の国境警備隊の隊長"ノアハ・ロバート・ヴェリエ"が絡んでいるかも知れないな……だとしたら、絶対に許さん!ぶっ殺してやる!……いや、そうじゃなくても、たとえ絡んでなくてもぶっ殺す予定だけどな……。
「分かった……それじゃぁ俺たちは集落の外、門のところで待っているからな」
「はっ!承知しました!」
正気を失った女性の手を取り……
「さぁ、それじゃぁ取り敢えずここを出るから、俺の側に来てくれ!
…………よしっ!転送!」
オーク集落への入り口である門の外へと転移して来た。
"きゃあっ!"
門衛のオークが大剣を構えて俺に襲いかかろうとしたのを見て、女性たちが悲鳴を上げる!……だが、オークたちは俺の顔を見ると、ハッとした表情を浮かべたかと思うと、申し訳なさそうな表情をしながら、その場に跪いた。
「貴方様は一体……はっ!う、上様!」
俺に跪くオークを見て、ひとりの女性が、俺が一体何者なのかと問おうとした。 だが彼女は悟る。俺の顔、眉間の印を見た途端、俺の正体に気付いたのだ。
正気を失った女性以外は皆、その場に跪いた。
「お前さんたち、酷い目に遭ったなぁ……だがもう大丈夫だ!ちゃんと家に帰してやるからな!安心おし!」
女性たちが嗚咽を漏らす……。
「悔しいが……心の傷までは治してやれねぇ……だが、身体は完全に綺麗になっている。嫌だと思う者もいるかも知れねぇが、生娘に戻っている。それどころか一番活力溢れる、お前さんたちの全盛期の年齢にまで戻っているんだが、これは治療の副作用みたいなものだから悪ぃけど勘弁してくれ。
それから、オークどもの痕跡はお前さんたちの身体の中には一切残っていねぇ!完全に消し去ってある!だから、お前さんたちはもう完全に綺麗な身体だ」
女性たちの表情が柔らかくなった。
「『人の気も知らないで!』と怒るかも知れねぇがなぁ……オークどもに襲われた件は、事故にでも遭ったと思って忘れるようにした方がいい」
みんながすすり泣く……。
「帰る場所がねぇとか、周りから偏見の目で見られるのが嫌で帰りたくないってんなら、住居と仕事の世話もしてやれる。だから、どうか前向きにこれからの人生を歩んでいって欲しい。なっ?」
にこにこ笑っているひとりを除き、女性たちはおいおいと泣き出した。
どうか立ち直ってくれよと心で呟いた……。
◇◇◇◇◇◆◆
オークドゥが出てくるのを待ってから、みんなでエルガラズガット村へと戻ってきた。女性たちをすぐに家へと送り届けてやりたかったが、首都、エスヴァイスの中央神殿前広場で開かれる予定の宴、その開始時間が迫っていたため、女性たちとオークドゥも連れて、一旦中央神殿へと戻ることにする。
もちろん、新しくハニーの仲間入りをした、バーセア・ガアイゼレも一緒だ。
エルガラズガット村の村長で、バーセアの母親、ミィミィ・ガアイゼレも連れて行くことにした。娘の晴れ舞台を見たいだろうからな。
シホは手を振りながら先に転移して行った。
というのも、中央神殿へと向かう前に、バーセア以外の最終選考落選者を迎えに行ってもらったのだ。シホたちとは、宴会場で合流することになっている。
さてと、俺は中央神殿に帰る前に一仕事だ!
門に設置してあった壁型シールド発生装置を回収し、代わりに頑丈な門扉を取り付けてやろうと思っている。普通なら大変な工事になるのだろうが、作業開始から完了までに5分とはかからなかった。我ながら便利な能力だ!
「ノリゼム、後は頼んだぞ!村長が留守の間、しっかりと村を守れよ!」
「はっ!身命を賭して!」
「命がけはだめだ!命あっての物種だ!命は大切にしろよ!いいな!?」
「は、はぁ……分かりました」
村人たちは一斉に跪き、俺たちの旅立ちを見送る……。
「それじゃぁな!転送!」
◇◇◇◇◆◇◇
神殿前広場へと転移してくると、既に多くの人が集まっていた。
食欲をそそるいい匂いが漂っている。宴の開始時間には間に合ったようだな。
暫くするとシホも美女二人と、その両親と思われる人々を連れて転移して来た。
バーセアもそうだが、なぜこの二人が最終候補に選ばれなかったか分からない。魂の色も"スカイブルー"、器量も飛び抜けている。美人だ。
気になってシホに尋ねたところ、神殿力学の問題だと言って笑った。どうやら、候補者を選出した神殿の、中央神殿における影響力が大きく作用したらしい。
絶対に!神殿幹部会議ってのをぶっ壊してやる!
偉いさんたちを全部クビにしてやる!と強く心に誓うのであった!
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