エルフ族の国、ヴェレビア

第0031話 沈魚落雁閉月羞花

 おお!木造建築だ!


 エルフ族の国、ヴェレビア。その中央神殿、管理助手のシホが指定した場所へと転移して来た。ここに来る前は、人族の中央神殿にある"謁見の間"のような場所を想像していたのだが……転移してみると、そこは、白木で造られた神聖な雰囲気が漂う建物の中だった。

 扉は開け放たれている……神棚が思い出された。神棚で御神札を納めるところのように、扉にはかざり金具のようなものまでが施してあったからだ。


 白州か?扉の向こうには階段がある。その下は白い玉砂利が敷き詰められた広い庭になっていて、そこに50人ほどの人、エルフ族の神殿関係者と思われる人々が皆、右膝をついて跪き、頭を垂れている……まるで任命を受ける騎士のようだな。


 その集団の前には、3人のエルフ族の女性が正座をして、両手を胸の前で組んだ状態で頭を垂れていた。顔はよく見えない。

 その3人の女性の横に、エルフ族担当助手のシホが右膝をついて跪き、こちらを見ている。


 扉の外に出て振り返る。なんと、建物は神明造そっくりである!神棚のようだ! 俺と俺の後ろについてきたシェリー・グラッツィアは、まるで神棚から出てきたかのようだった。


 シェリーは人族の神殿騎士の格好をしている。だからきっと眼前の人々には俺の護衛のように見えていることだろう……。



 しかし、この神棚のような建築物をエルフ族が作ったかと思うと、どうしても、違和感を感じてしまう……。


『ダーリン、それでは打ち合わせした通りにお願いします』

『おう、分かった!』


「シホ、俺を呼び出すとは、一体何の用だ?」

「はっ!この度、上様のお后候補者3名が決定しました。つきましては、上様に、この中よりお后となる者をお選びいただきたく、お越しいただいた次第です」

「なるほど。そういうことか……皆の者、面を上げいっ!」


 "ははっ!"


 皆が一斉にこちらを向く……き、緊張するなぁ~。

 おおっ!后候補者はみんなすごい美人だな……。

 沈魚ちんぎょ落雁らくがん閉月へいげつ羞花しゅうか!右の女性は特に美しいな!シオリといい勝負ができるほどに美しい!

 まぁ美の基準は人ぞれぞれだからな、あくまでも俺の個人的主観なのだが……。


「それで……候補者のみんなは、本当に俺の嫁になってもいいと思っているのか?

 どうだ?ザシャア・ヴェレビア!」

「ど、どうして私の名前をご存知なのですか!?」

「ははは。俺は一応神だぜ。何でもお見通しだぜ!」


 ステータス情報を見ただけだけどね。

 しかし、本当にすごい美人だな……でもどこかで見たことがあるような……。

 そうだ!リ○ージュIIだ! まるで、リネー○ュIIのエルフのようだ。


「はっ!し、失礼しました。申し訳ございません」

「ああ、いい、気にするな。それでどうなんだ?ザシャア?」

「はい。王家の血を引く者として、上様のお子を授かるのは当然の義務ですし……私は上様の后に是非ともなりとうございます」


『おい、シホ、この子は王族なのか?』

『はい。この国の王、カイゼルン・ガグルド・ヴェレビアの第7王女です』


「第7王女としての義務と感じているのか?義務感で俺の妻になるというのか?」


 ザシャアは『どうして第7王女だということを知っているのか』と言いたげな、訝しげな表情を浮かべると……


「はい。つい先ほどまではそのように思っておりました。しかし、こうして実際にご尊顔を拝し……その瞬間、私は上様の"とりこ"となりました。今は私自身が后となることを心から望んでおります」


 嘘は言っていないようだな。

 それでは、真ん中の子はどうだろうかな?ウェルリか、ツインテールにしているエルフって珍しいんじゃないだろうか? しかし、この子もすごい美人だな……。


「そうか……では、ウェルリ、お前さんはどうだ?俺と本当に結婚してぇのか?」

「したいっすよ!あたしも望んでるっす!上様はあたしの好みのタイプっす!

 上様の顔を見た瞬間、ビビビッときたっす!」


 ま、まぁ、言葉遣いをどうこう言うのは無粋だ。これも個性なんだろうけど……こんな美人が下っ端言葉使っていると……なんか俺は残念な気がしてしまう。


「そ、そうか、では、ジー、お前さんは抵抗はねぇのか?俺の妻になることを納得できているのか?」

「はい。理性に基づき、論理的に判断した結果です」

「ろ、論理的って……大丈夫か?感情を無視してもいいのか?お前さんの気持ちが知りてぇんだが……」

「ロジカルな人間が感情を持たないとか、あるいは、感情を排除していると考えることは非論理的です。自分の感情を論理的に分析し、最善の結果を得られるようにマインドコントロールしているため、ともすると感情を持たないように思われがちですが、感情を持っていないわけではないのです。

 私にとって上様の妻となることは最上の喜びであるため、その他否定的なファクターをも含めて理性に基づき、論理的に分析した結果、上様の妻となることが私にとって最善だと判断した次第です。何か問題がございますでしょうか?」


 最初にジーの言葉を聞いた時、思わず『長寿と繁栄を!』と言いたくなった。


 そう、スタート○ックで有名な、例のあれだ。

 右手人差し指と中指をくっつけ、薬指と小指をくっつけて顔の横に持ってきて、手を挙げるかのように手の平を相手に向けて言う……あれだ。

 論理的と聞いて、ミスター○ポックのことが頭を過ったのだ。


 彼女は感情が無いか、もしくは感情を抑え込んでいる人間じゃ無いかと、勝手に想像してしまったわけだが、確かにロジカルな人間、イコール、感情がない人間と考えるには論理的に無理があるわな。 理屈が通っているようだが、論拠を示せと言われても示すことができない。


「すまねぇ、俺が間違っていたよ。お前さんの"気持ち"と"考え"は分かった。

 お前さんのようなロジカルな人間は好きだぜ。気に入ったぜ」


『えっ?ジーで決まりですか?』

『いや、人族とのバランスも考えなきゃならねぇし、3人が本当に望むなら、3人とも嫁にしようと思うがどうだ?』

『あ、そうでしたか。いいと思います』


「あのう……上様の今のお言葉から察しますと、ジーさんをお選びになったということでしょうか?」

「いやザシャア、そうじゃねぇよ。3人が本当に望んでいるのなら、俺は3人とも妻にするつもりだよ。お前さんたちが嫌じゃなきゃ……だがな」


 ザシャアとウェルリにパッと笑顔の花が咲く。

 ジーは微笑んでいる……よく見ないと分からないのだが。


「あたしはなりたいっす!よろしくっす!上様、好きっす!」

「わ、わ、私もなりたいです!義務とか関係なく……、だ、大好きです!」

「私の答えは既に申し上げた通りです。二人が仰っていますから、私も念のために申し上げますが、私ももちろん上様が好きです」


「そ、そうか。みんなよろしくな」


 俺にはパッシブスキル"魅了"があるからなぁ……な~んか、インチキをしているようで気が引けるなぁ……。


 "うおおおおおおおおーーーっ!!"


 あーびっくりしたぁ!

 白州にいた50人程の神殿関係者が一斉に雄叫びのような歓声を上げたからだ。


『ところで、后に選ばれなかったらどうなっていたんだ?』

『はい。選ばれなかった者は、生涯独身を貫くことを強要されます。そのために、人里離れた森の奥で庵を結ぶことも強要されます。逆らえば死罪です』


『酷ぇルールだなぁ!?だれがそんなことを決めたんだ!?』

『神殿幹部会議で決定されました。仮にも上様の后になるために心血を注いできた者が、他の男のものになることは許されるわけがない。ということらしいです』


『"他の男のもの"って……女性蔑視じゃねぇか、失礼極まりないな!そんなことを言い出したのは男の神官だろ?違うか?』

『ええ、まぁ、神殿幹部のほとんどが男性ですから……』

『この世界の女性って、なんかかわいそうだなぁ……。まさかエルフ族までが男尊女卑だったとはなぁ……』


「ザシャア、ウェルリ、ジー、紹介するぜ、この子はシェリー・グラッツィアだ。この子もお前さんたちと同じエルフ族だ。そして、俺の妻だ。お互い、仲良くしてくれ」

「そなた、もしかして……グラッツィア辺境伯の娘か?」

「はい。ザシャア様。3女のシェリー・グラッツィアと申します。お目にかかれて光栄です」


「ちょっと待った!おい、身分の上下を持ち出すなよ!二人とも俺の妻で同格だ!生まれがどうのこうのってのは関係ねぇ!分かったか!?」

「す、すみません。つい」

「ああ、分かりゃぁいい、分かりゃぁな。仲良くしてくれよ。頼むぜ」

「「「「はいっ!」」」」


『そうだ、シホ、お前さんも俺の妻だと紹介した方がいいよな?』

『そうですね、他の者はともかく、神子たちには教えておいてもいいですね』


「あ、それから、このシホも俺の嫁だから、よろしくな」

「「「「えーーっ!」」」」


 あれ?シェリーまで驚いている?言ってなかったっけ?

 ソリテアの作ったスケジュール表には、まだ名前が載っていなかったかな?


「そうそう、お前さんたち、俺の妻となるからには、上様という呼び方は禁止だ。いいな?」

「それでは、どのようにお呼びすればよろしいのでしょうか?」

「ダーリン……私たちはダーリンとお呼びしています」


 シェリーだ。


「いいっすねっ!あたしもダーリンと呼ばせてもらうっす!いいっすか?」

「お、おお。いいとも。ザシャア、ジー、二人もそう呼んでくれていいぞ」

「は、はいっ!だ、だだだ、ダーリン……」

「分かりました。それではダーリン、以後私のことはハニーとお呼び下さい」

「わ、分かったよ、ジー、じゃなかった、ハニー」


 ジーがにんまりと笑った。新鮮だ。こんな表情もできるんだなぁ……。

 やはり笑顔が一番だな。茶髪のショートボブヘアもかわいい。しかし、俺の嫁になる子はみんなすごい美人だなぁ……しかも魂も綺麗だからなぁ。

 俺は幸せ者だなぁ……。



 一段落ついて、ようやく周りの状況が目に入ってくるようになった。

 緑が多いのって気持ちいいもんだな……マイナスイオンがたくさん漂っているのだろうか?爽やかだなぁ。


「ところで、シホ、俺たちはこれからどうすればいいんだ?」

「はい。今夜、お后決定を祝う宴が神殿前広場において開かれる予定です。終了は夜遅くになると思われますので、今夜はこの神殿にお泊まりいただくことになると思います」

「そうか、宴までは自由時間って事でいいんだよな?」

「はい」

「ザシャア、ウェルリ、ジー、お前さんたちは何か予定があるのか?」

「いえ、特に」「あたしも何もないっす!」「私も予定はありません」


「そうか、それじゃ、この街を見てみたいんだが、案内を頼めるかな?」

「はい。喜んでお引き受けします」


 他の二人も頷いている。


「シホ、お前さんも一緒に行ってくれるよな?」

「はいっ!」


 この時、シェルリィ誘拐事件のことが頭を過った。

 加護を授けておかなかったことを後悔するのはもう嫌だ……この子たちはすぐに加護してやろう。


「そうだ。ザシャア、ウェルリ、ジー、お前さんたちを加護してぇんだが、受けてくれるか?」

「えっ?加護ですか?加護とは……どういったものでしょうか?」


 ザシャアの問いに答える形で、ハニーたちに授けてきた加護について説明した。

 みんなは加護されることを喜んでいる。


「シホ、どこかみんなが横になれるような場所はねぇかな?」

「それでしたら、ダーリンに今夜お泊まりいただく寝所がよろしいかと思います。案内しますね」


 大きな木々が柵のように取り囲む建物へと案内される。豪邸だ!

 どうも見た感じでは寝殿造りの屋敷であるようだ。


「さあどうぞ、ここでしたら落ち着いて彼女たちのプロパティ値編集等が行えると思います。さあさあ、中へどうぞ」


 二重になっている門を通り抜けて庭へと入ると、そこには大きな池があった。

 まるで日本、平安時代の貴族の邸宅のようである。


 庭から寝殿へと案内された。

 ……広い!大きな部屋の中が、屏風びょうぶのようなものや衝立ついたてで、簡易的に仕切られている。ここが寝所のようだ。


 寝所内にマットレスを3人分生成してから、ザシャア、ウェルリ、ジーをそこに寝かせると、パッパッと手際よく彼女たちのプロパティ値他を設定していく……。


「よし!準備完了っ!これから加護を有効にするが、さっき説明した通り、意識が一瞬飛ぶ。そのマットレスの上に寝たまま、軽く目を閉じていてくれ。それじゃぁ有効にするぞ!……リブート!」


 一瞬の間の後、加護を授けられた女性たちは『はっ!』と意識を取り戻す。


「さてと、これでお前さんたちも加護された。さっき説明したようにSTRも急に大きくなったからな、力加減には十分気をつけるようにな」

「「「はい」」」


「シホ、どこかこの近くに、ファイヤーボールをぶっ放しても大丈夫な場所はねぇかなぁ?この子たちに練習させてぇんだよ」

「そうですね……エルフの国、特にこの神都周辺は森ばかりですからね……」

「それじゃぁ、未開の砂漠地帯、プレトザギスの端っこにでも行ってくるか?

 みんな俺の側に来てくれ!……よし!それじゃぁ、転送!」



 エルフ族の国、ヴェレビアの中央神殿がある首都、エスヴァイスから、北北東に1500km程離れた場所に転移した。ヴェレビア国と接する、未開の砂漠地帯の中である。その場所は、ヴェレビアとの国境からは、2km程、砂漠地帯に入ったところだ。

 未開の地とはいっても、ヴェレビアからアウロルミア神国へと続く街道がある。

 両国の国境線から2km程離れて、国境線に沿うようにして街道は走っているのだが、ずっと砂漠地帯を進む必要がある上に途中に宿場町もない。そのため、通行する者はほとんどいない。 俺たちはその街道の横に転移して来たのだ。


 マップ上で砂漠地帯にはヒューマノイドの生命反応がないことを確認した上で、砂漠上に標的となるゴーレムを数十体生成して、新しくフィアンセとなった3人に攻撃神術の練習をさせている。 指導役はシェリーにお願いした。


 街道脇には、特大ビーチパラソルと大きめの丸テーブル、椅子を人数分生成してあり、更に、その隣には練習後にシャワーを浴びてもらおうと、女性5人が同時に使える5つのシャワー設備とトイレ設備があるテントも設置してある。


 俺とシホは、パラソルが作り出す日影にいて、椅子に腰掛けて冷たいジュースを飲みながら練習を見物している。

 さすがに砂漠だけあって日差しが強いな……パラソルが作る影の中で飲む冷えた飲み物がたまらなく美味い!



「はいっ!それまでっ!みんなよくがんばった!これで一通りの攻撃神術が使えるようになったな!……それじゃぁ、こっちに来て休んでくれ!」


 みんなに冷たいジュースを各種生成して、好きなものを選ばせてやった。

 しかし、美味しそうに飲むなぁ……すごい美人が4人並んでジュースを飲む姿、地球の飲料メーカーが見たら絶対にCMに使いたくなるだろう。


 みんなが着ているものをスキャンして、同じ物の新品を用意して手渡す。

 ついでに亜空間収納ポシェットとハニー仕様の極薄シールド発生装置内蔵指輪もプレゼントした。


「これは着替えだ。あのテントの中に全員が一度に使えるシャワー設備があるから汗を流すといい。みんなが終わるまでちゃんと待っててやるからな、慌てなくてもいいからゆっくりと汗を流しな」


 ん?ウェルリが敬礼してから入って行ったぞ?何の意味があるんだ?

 しかし……下っ端言葉といい、愛敬があって面白い子だな。


 そんな時である……

 俺たちがいる場所のすぐ横を通っている街道、そのヴェレビア国へと向かう方角から土煙を立てて何かがだんだんと近づいてくる。

 取り敢えず、シホに頼んで、俺たちの周りにシールドを展開してもらい、様子を見ることにする。

 俺自身がシールドを張らないのは、街道に出て、こちらへ向かってくる何者かを待ち伏せるためだ。


 マップ上では、30人程のヒューマノイドの生命反応が確認できる。

 どうやら馬車が近づいてくるようだ。そして、その馬車の周りには、守るように10頭程の馬が並走しており、一頭にひとりずつ人が乗っている。


 それから10分程すると肉眼でもその一団がはっきり確認できるようになる。

 馬車の荷台には檻が載せられていて、中に10人くらいかな……人影がある。

 俺は嫌な予感がした。奴隷商人か?


 街道に立ち、両手を広げて一団の行く手を阻む……。

 俺の前には"見えざる神の手"を20本程出してある。


 威圧しながら……

「止まれ!積み荷を改める!これは命令だ!逆らえば殺す!」

「な、なんだてめぇはっ!?そこをどけっ!俺たちは急いでるんだ!邪魔をするとぶっ殺すぞ!」


 外の喧噪が気になったのか、ハニーたちがテントから出てきた。みんなは新しい服にちゃんと着替えている。ん?みんなの左手薬指には指輪がはまっている。


「おっ!上玉じゃねぇかっ!うひゃひゃっ!俺たちゃぁついてるぜっ!野郎ども!コイツらも攫っていくぞ!かかれっ!」

 "うおおおおおおおおーーーっ!"


 あー、やっぱりなぁ……盗賊か?闇奴隷商人か?いずれにせよ容赦は無用だな!


「な、ななな、なんだーーっ!う、動けねぇ-ーっ!」


 まぁ、動けねぇよなぁ……"見えざる神の手"でみんなとっ捕まえてあるからな。

 魂の色を確認するとみんなほとんどが黒に近い赤だ。一番まともなヤツでも黒みがかった赤である。


「おい、てめぇら、魚に喰われて死ぬのと魔獣に喰われて死ぬのとどっちがいいか選ばしてやる。どっちがいい?」

「い、意味が分からん。お前は頭がおかしいのか?」


 そうだよなぁ、いきなり聞かれても意味さえ分からないよなぁ……。

 今度からは聞き方を変えないといけないのかなぁ……。

 面倒くせぇ……ん?近くにサンドワームの群れがいるじゃないか!こつらの餌にしてやるか!


「選ばせるのはや~めた!お前らはサンドワームの餌にすることに決めたぜ!」

「な、何をわけの分からんことを言ってるんだ、てめぇはっ!?ぶっ殺すぞ!」

「あははははっ!笑っちゃうなぁ!やってみろよ?ほら?早くぅ~?ははは!」

「く、くそう……」


 盗賊?の首領らしき男は歯ぎしりをしている。

 魂の履歴で確認した……コイツらはヴェレビアの国境近くの数カ所の村を襲い、エルフ族の女性を16名攫ってきたのだ。


 魂の履歴についての情報はシホとも共有している。


「エルフ族の女性は、娼婦や性奴隷として人気が高く、高額で取引されているようなのです。その美貌ゆえ、人族の間では特に人気が高いということらしいです。

 ですから、人族の盗賊たちに目をつけられることが多くて困っております。

 悔しいですが、これまでも数多くの女性たちが攫われてしまっています」

「そうなのか?シホ!それでお前さんは何も対策してこなかったのか!?」


「ダーリンの帰還に伴い、私が再起動されてからは、国境に沿ってシールドを展開するようにして、対策を講じてきているのですが……どういうわけか、あり得ないことにコイツらみたいにシールドを突破するヤツが出てきて……」


 なるほど……。これは手引きしたヤツがヴェレビア内部にいるに違いない。

 その辺にいる"ごろつき"どもに、"シールド周波数変調パターン"を解析することなんて絶対にできない。シールドを突破できるはずがない。

 それに、シオン教の教皇シミュニオンたちなら話は別だが、そもそもシールドを突破するために必要な科学技術力さえこの世界にはない。

 ん?内通者じゃなくて、ひょっとしてシオン教が絡んでいるのか?


 魂の履歴をじっくりと解析すれば、手引きしたヤツが誰なのかは分かる。だが、少々手間がかかるので、コイツらの口を割らせた方が早いだろう……。


「おい、クソ野郎!てめぇらを手引きしたヤツがいるだろう?」

「はははっ!たとえ知っていてもお前なんかに教えてやるか!ボケっ!」

「四肢粉砕!」


 ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!


「修復!……どうだ?話す気になったか?」

「……」

「四肢粉砕!」


 ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!


「修復!……どうだ?」

「わ、分かった…か、勘弁してくれ……い、言うよ、言う!そいつの名前は……」


 ぐがあっ!がはっ!んぐっ!……


 急になんだ?…………毒か!?


 "見えざる神の手"で拘束していた盗賊?たちが次々に死んでいく。拘束していたすべての盗賊が死んでしまった!


 あっ!コイツらがしている首輪はアクセサリーじゃないっ!?隷従の首輪か!?

 しまった!誰かが命令に反した行動をすると、コイツら全員の首に、毒針が突き刺さるようになっているのかっ!?


 死んでしまった以上、しょうがない。取り敢えず、コイツらのことは後回しだ。

 まずは被害者を救出しよう。


 高速移動で馬車まで行き、荷台にある檻の扉を神術で解錠してやる。

 ……中にいたのはすべてエルフ族の女性で、全部で16人いた。

 幸いなことに、彼女たちは盗賊どもに凌辱されてはいなかった。よかった!


「管理者たる我が権限において、この者たちの奴隷契約を強制解除・破棄する!

 加えて"隷従の首輪"の除去!消滅!を命ずる!!」


 檻に入れられていたエルフ族の女性たちの首から隷従の首輪が外れ、床に落ちる前に粉々になりながら消え去った。

 彼女たちは、未だ警戒を解かない。俺は見た目が人族だからだろう……。


「怖かったね。もう大丈夫だよ。俺はこういう者だ……」


 そう言いつつ、眉間の印を輝かせた。


「ああ……神様……あ、ありがとうございます……」


 彼女たちはようやく安堵の表情を浮かべる。

 口々に俺への礼の言葉を述べている。

 着衣の乱れはほとんどないが、素足の者もいる。"見えざる神の手"で彼女たちを優しく掴み、俺たちのテントの側まで連れてきた。


 彼女たちを掴んだまま、いつも使う野営用のテントを亜空間倉庫から取り出してシャワー用テントの隣に設置して……。

 そして、彼女たちをそっとテントの中へと入れてやる。俺もハニーたちを連れて野営用テントの中へと入った。

 なお、素足だった者たちには、テントに入るとすぐにスニーカーを生成して装着させた。……履き心地が良いと喜んでいるな。


 食堂にみんなを連れて行き……サンドイッチや菓子パン、ケーキ、お菓子等々を生成する。もちろん、各種飲み物も生成してキンキンに冷やしてある。


「さてと、席は好きなところに座っていいからな。ここにある料理の中から好きな食べ物、飲み物を持って行っていいぞ。なくなってもすぐに作り出せるから遠慮は無用だ。どんどん好きなものを食べてくれ。もちろん、飲み物も足りなくなったら作り出すからな遠慮するなよ。好きなだけ飲んでくれ」



 外にあった盗賊どもの死体は、リーダーを除いてすべてサンドワームの餌にしてやった。もちろん、魂は"奈落システム"行きだ!

 リーダーは後で蘇生させてやる。エルフの国への密入国を手引きしているヤツの情報と、攫ったエルフの女性たちを誰に売るつもりだったのか等の情報を聞き出すためだ。それが終わったら、当然、惨たらしく殺してやる!報いを受けさせる!

 ということで、簡易シールド発生装置を死体の側に置き、獣や魔物に死体を食い荒らされぬように保護してある。



「ダーリン、このケーキ、美味いっすね!もう一個もらってもいいっすか?」

「ウェルリ、遠慮するな、どんどん食ってくれ!好きなだけ食っていいぞ!

 ……でもなぁ……太っても知らねぇぞぉ~?ははは!」

「うぐっ!……喉につまるとこだったっす!あぶねぇ~!ダーリン、意地悪を言うのはやめて欲しいっす!」

「ははは。ごめんごめん、お前さん、かわいいなぁ。ははは」


 ウェルリの頬は真っ赤っかだ。

 あっ!ジーが鼻で笑ったぞ。ははは。

 攫われて来た女性たちもだんだんと表情が緩んできた。ウェルリは計算して道化役をこなしているのかも知れないな……。


「お前さんたち、思い出させて悪ぃんだが……盗賊どもを国内に招き入れたヤツに心当たりはねぇかなぁ?」

「私の勘違いかも知れませんが……リーダー格の男が、国境付近で、僧衣のようなローブを着て、フードを目深にかぶった怪しい人物に、『エルフの血が半分流れているのに酷ぇ事をするなぁ、良心が痛まねぇのか?』と笑いながら聞いていたのを耳にしました」

「あ、私も聞きました。『エルフにいじめられた恨みを晴らしてぇからといって、女を攫わせるなんてなぁ、てめぇも相当だなぁ、ははは!』と言っているのを聞きました」


 なるほど、重要な手がかりだな。ハーフエルフの何者かが手引きしていることは間違いなさそうだな……。


「そうです。そのローブにフードの男が、エルフの国境にある結界の一部を消しているようでしたよ。国境を越えてから振り返ると、ローブの男はこちらへは来ず、ちゃんと結界は元通りになっていましたので……」

「なるほど。情報ありがとう。助かったぜっ!きっとそいつを見つけてぶっ殺してやるからな。もう二度とこんな悪さができねぇように……なっ!」


「みんなありがとう。また何か思い出したら何でもいいから教えてくれ。

 そうそう……まだまだ食べ物も、飲み物もたくさんあるからな、遠慮するなよ、どんどん飲み食いしてくれていいぞ!」



 ◇◇◇◇◇◇◇



 俺はテントの外へ出てきた。

 盗賊のリーダーを生き返らせて、情報を聞き出すためだ。

 まずは隷従の首輪を外す。折角生き返らせたのに、また毒針で殺されては洒落にならないからだ。

「……よし!首輪は外したので、次は解毒か……浄化!修復!」


 これで取り敢えず蘇生の準備は整ったな……

「蘇生!」


「……う、ううう、うーん?あれ?お、俺は一体……」

「ああ、てめぇはな、隷従の首輪に仕込まれた毒針で殺されたのを、俺が生き返らせてやったんだよ。ありがたく思いな!」

「ああ、ありがとうございます。ありがとうございますっ!」


 むさい男が涙をボロボロ零している。うわっ鼻水もダラダラだ!お、俺にすがりついてくるな!……"見えざる神の手"で俺に抱きつけないように防御する。


「か、神様ぁ~。あ、ありがとうございますぅ……か、必ず…こ、心を入れ替えて真っ当な人間になります。お誓いしますぅ……」


「分かった、分かったから!それよりもまず、てめぇらを手引きしたヤツの名前を教えろ!ハーフエルフの何というヤツだ?」

「えっ?ハーフエルフだってご存知なんですか?さ、さすがは上様!」


「それで、名前を教えろ!そいつに首輪もつけられたんだろ?」

「はい。仲間の証だから首につけろと言われて……。

 ノアハ・ロバート・ヴェリエめっ!絶対に許さねぇっ!」


「ノアハ・ロバート・ヴェリエっていうのか?」

「すごく執念深い女ですぜ!」


「じ、女性なのかっ!?そいつは!?」

「えっ?ご存じなかったんですか?俺はてっきりご存じかと……」


「それで執念深いってのはどういう意味だ?」

「はい。ノアハは人族とのハーフなんですがね、ハーフエルフってことで、子供の頃から酷いイジメに遭ってきたらしいんですよ。それで、その恨みを晴らすために同胞の、しかも、女ばかりを片っ端から売り飛ばしているってことらしいですぜ!

 いくらエルフに恨みがあるからといって……酷ぇ話ですぜ!ったく!」


「その片棒を担いできたのは誰だっ!?調子ぶっこいてっとぶっ殺すぞ!?」

「ひいいいぃぃぃぃぃっ!!お、お許し下さい!お許し下さい!」


「それで、その女はどこにいるんだ?」

「ぐ、グラッツィア辺境伯の領地にザイエって町があるんですが、そこに常駐している国境警備隊の隊長をしています」


「グラッツィア辺境伯領なのかっ!?」

「はい……そうですが、何か」


 俺のハニー、シェリー・グラッツィアの父親が治める領地か……。


「いや、てめぇには関係ねぇ事だ。それよりも攫ってきた女性を買うヤツの名前を教えろ。闇奴隷商人か?」

「いえ、足がつかねぇように数人の奴隷商人を渡っていきますが、最終的には神国の神都、エフデルファイの名門貴族である、チュライズ・ロレンゾ侯爵が性奴隷として買い取ってくれます」


「そうか。よく話してくれたなぁ。最初はてめぇを惨たらしくもう一度殺してやるつもりだったが、正直に話してくれた褒美として、最後のチャンスをやろう」

「ひいぃぃぃぃぃっ!こ、殺さないで下さい。お願いします、お願いします」

「ああ、だから最後のチャンスをやるって言ってるだろ!だまれ!うるせぇぞ!」

「はいっ!」


 盗賊のリーダーに、ナノプローブを注入して、何らかの行動を起こした時に呼び出されるイベントに、イベントハンドラを割り当てる。

 そのイベントハンドラに、人の物を盗んだり、己の欲望のために人に危害を加えようとしたりすると、激痛を伴いながら灰になって消滅するようにプログラミングしておいた。


「リブート!」

「……ん?一瞬目の前が真っ暗になったような……」

「ああ、てめぇが、もし今度悪さをしようとしたら、激痛を伴いながら灰になって死んじまうようにしてやった。

 これは嘘や冗談じゃねぇからな、ちゃんと俺との約束を守るんだぜ、いいな?」

「は、は、はいっ!ぜ、絶対に守ります!真人間になりますっ!」


 マップ上のコイツのアイコンにマークをつけてから、解放してやった。

 盗賊のリーダーだった男は、ペコペコと何度も頭を下げながら立ち去っていく。

 この男の情報も"輪廻転生システム"のブラックリストに登録済みだ。天寿を全うできた時はブラックリストから外すように……と今回も注釈が入れてある。

 男の寿命の初期値は58歳である。

 この男はひょっとしたら真っ当なまま天寿を全うできるかも知れない……。


 あ、そうだ!キャロラインの元クソ亭主、チャルゲルと連んでいたヤツらはどうなったかなぁ?さすがにまだ生きてるだろうな。ちょっと見てみるか……

 ……ん?反応がないぞ? もう悪さをしようとしたのかっ!?

 まさかなぁ半日も持たなかったとはなぁ。今頃は"奈落システム"の中か、バカなヤツらだ……。



 ◇◇◇◇◇◇◆



「ダーリン、何してたんっすかっ?さみしかったっす!」


 なんか……ウェルリが、残念な子じゃなくて、だんだんと、かわいらしく思えるようになってきた。愛いやつじゃ!エルフのツインテールっていうのもいいもんだなぁ……ウェルリは特に似合っている!


「ウェルリ、お前さんはかわいいなぁ。ははは」


 うぶな子だ……頬を染めている。

 そういえば、今回フィアンセになった子たちも、みんな魂の色は"スカイブルー"なんだよな。みんないい子でよかったよ……。



 ◇◇◇◇◇◆◇



 攫われて来た女性たちは、俺とシホとで手分けして、それぞれの家へと、転移で送ってやった。

 その後一旦、神殿の宿舎へと戻ったのだが、今は街へと繰り出してきている。


 本当は、すぐにでもぶち殺してやりてぇのだが……もう時間も遅いし、ノアハ・ロバート・ヴェリエ国境警備隊長を成敗するのは明日にした。

 シェリーの親父さんには絶対に火の粉がかからないようにしなくてはならない。

 シェリーにも一応、今回の件については話をしてある。彼女も父親が厄介な事に巻き込まれるんじゃないかと心配している。

 俺とシェリーは、宴の途中、二人でこっそりと抜け出してシェリーの親父さんに会いに行くことにした。盗賊との内通者がいて、しかも、それが"国境警備隊長"であることを知らせておかねばならないと考えたからだ。


 一方、攫われた女性たちを買い取っている輩、チュライズ・ロレンゾ侯爵の方はシオリとおエンに任せた。

 ただ、まずは情報を収集するようにと言ってある。チュライズに攻撃を仕掛けるのは俺が戻ってからということにしておいた。相手が女性の敵である。女性二人で乗り込ませるのは危険だから避けたいからだ……。まぁ、二人に対抗できるヤツがいるとは思えないんだけどね。



 ◇◇◇◇◇◆◆



「あのさぁ、シホ、エルフの寿命ってどれくらいなんだ?」

「そうですね……最長で2500歳くらいですね」

「あ、やっぱり人族に比べると長命なんだな」


 試しに行き交う人々の年齢を確認してみる……。


「お、俺たちと同い年くらいにしか見えねぇのに300歳!」


 ん?待てよ……この惑星で実験が始まってからそんなに時間が経ってないぞ?


「シホ、なんで300歳ってヤツがいるんだ?おかしいだろ?」

「ああ、あれは初期設定値が高かったからです。この世に生を受けた時点で200歳以上が設定されています。そして……その分のニセの記憶も埋め込まれました。辻褄合わせっていうんでしょうか……」


 設定って……かわいそうになぁ。

 年齢設定……ヘビメタのボーカルで、自分は十万○○歳のデーモンであるという設定で活躍されている、相撲好きの"デー○ン閣下"の顔が頭を過る……。


 この惑星の実稼働年数よりも高年齢で亡くなった者たち、つまり、辻褄合わせで高年齢が初期値として設定されてしまった者たちで魂が綺麗であるならば、せめて"輪廻転生システム"では優遇されるようにしてやりたいなぁ……。

 後でこの件は全知師に丸投げしてやろう……。



 この街は森の中にある。緑がとても豊かで、街の人々も自然と共存しているのが分かる。

 俺の美的基準で見てなんだが……エルフ族は美男美女ばかりのように思える。

 しかも、魂が綺麗な者ばかりだ。こんないい人たちが人族のクソ野郎どもに食い物にされるのは看過できない!守ってやらねば……。


 そんなことを考えながら歩いていると、ひとりの男がふらふらした足取りで俺の前まで来ると、突然地面に膝から崩れ落ちるように倒れてしまった。

 服はボロボロ、そして、身体全体が酷く汚れている。


 ステータスを見ると、脱水症状と極度の疲労、それに空腹だと分かる。

 怪我をしているようではないな。だが一応……

「浄化!修復!……そして、下着に衣服に靴を生成してっと……古い着衣を消滅!そして生成したものを装着!」


 一瞬、男が素っ裸になったので、ハニーたちは『きゃっ!』と言いながら、手で顔を覆った……が、指の間からちゃんと見ていたのを俺は見逃さなかったぜ!


 すぐに栄養ドリンクを生成して、男を起こす……

「しっかりしろ!目を覚ませ!」

「ん…」

「ほら、これをゆっくりと飲むんだ。いいか?ゆっくりとだぞ!」

「んぐっんぐっんぐっ……はぁ……あ、ありがとうございます」

「お前さん、どうしたんだ?」

「はっ!そうでした!た、助けて下さい!オークが……オークの大群が村を襲っているんです!」


 男の話によると……

 この男の村、エルガラズガットは、この首都、エスヴァイスから北北東50km程の位置にある。周りは深い森に囲まれていて、これまでもオーク等の襲撃を度々受けてきたのだが、今回のような大群は初めてらしい。

 村は高さ10m程の石造りの防壁に守られているが、いつまで持つか分からない状況だという。この男、ノリゼムは村で一番の健脚らしい。それで、助けを求めるために首都へと送り出されたらしいのだ。森の中を約10時間必死に歩いてやってきたという。


「ぐ、軍隊を派遣してもらいたいのですが、どこに行ったらいいでしょうか?」

「王城へ向かい、王に直訴するのが早いのですが……残念ながら、恐らく小さな村1つのために王軍を派遣するのは難しいでしょう」


「ザシャア、お前さんにゃ悪ぃが……小っちゃな村1つ救えねぇのか?そんなんで何が王だ!?情けねぇなぁ~!……シホ、神殿騎士は派遣できねぇのか?」


 ザシャアが唇を噛む……


「申し訳ありません。今、主力部隊は、別の村からの要請でゴブリン退治に行っておりまして……気の毒ですが、神殿からも騎士団を派遣できません」


「うわぁーっ!あんまりだぁーっ!む、村が……滅びてしまうっ!」

「落ち着け!大丈夫だ!俺が行ってやる!俺に任せろ!」

「あ、ああ、あんたひとりで何ができるというんだ!ああっ!もうお終いだっ!」


「無礼者め!このお方をどなたと心得る!恐れ多くもこの世界の主!我らが神様にあらせられるぞ!そこに直れ!成敗してくれる!」

「ひいいいぃぃぃぃぃっ!!」


「シェリーさんや、まぁよいっ!剣を収めよ」

「はっ!」


 なんか、シェリー、だんだんスケさんに似てきたなぁ……。


「ということで、ノリゼム、俺はこの世界の神だ。俺の助けじゃ不服か?」

「め、めめめ、滅相もありません!ありがとうございます!どうかお助け下さい!どうか村をお救い下さい!お願いしますっ!」

「おう!引き受けたぜ!ドンと任せな!大船に乗ったつもりでいろ」


 さてと、森の中か……しかも大量の敵かぁ、どうしたものかなぁ……上空からのフェイザー砲も使えないだろうしなぁ……。


 >>マスター。戦闘ミニヨンをご使用になることをお勧め致します。

 <<ミニヨン?あのバナナみたいな色をした大きな目玉のかわいらしいヤツか?

 >>いえ、球形をした攻撃ロボットです。フェイザー銃、シールド発生装置を標準装備しており、各種攻撃神術も使用可能な、浮遊型ロボット兵器です。


 あ、そうか!昔プレイしたゲーム『ダンジョン○スター』に出てくる球形をした戦闘用魔法機械みたいなものなんだな!そんなものまであるのか!?


 よく似ている名前なので、ミ○オンと間違えてしまった。

 そう、あの大きな目をした黄色いカプセルに手足が生えたような姿で、オーバーオールを着ているかわいらしい生物を思い浮かべてしまったのだ。


 だが、そうだった。俺たちオッサン世代でミニヨンといえば、かつてヒットしたリアルタイムRPG『ダン○ョンマスター』でプレイヤーが使用できる便利な魔法機械のことだったな……ははは、忘れてた。


 よしっ!方針は決まった!

 これはちょうどいい機会だし、新メンバーのハニーたちに戦闘経験を積ませるとするかな。


「ハニーたち!お前さんたちにも戦闘に参加してもらいてぇんだが、どうだ?戦闘経験を積むいいチャンスだぜ?」


「やるっす!攻撃神術を実際に試してみたいっす!参加するっす!」

「もちろん、王族の一員としての義務でもあります。参加します!」

「愚問です!」


「よしっ!それじゃぁ、ひと暴れしてきますかぁ?……おっと、その前にちょっとだけ準備をさせてくれ!」


 全知師のアドバイスにしたがって攻撃ミニヨンを次々に生成し、亜空間倉庫へと保管していく……シホにも手伝ってもらって、レプリケーターのマクロも利用して、全部で10万個のミニヨンを作成した。時間にしておおよそ5分程度だった。


「さてとお待たせ!それじゃぁ、行きますか?俺の近くに集まってくれるか?」


 シェリーが俺の正面から抱きついてきた。シホは俺の背中に引っ付いている。

 新しくハニーの仲間入りをしたエルフ族の娘たちは、さすがに恥ずかしいのか、俺の服の裾を掴んでいる。 ん?ノリゼムが足にしがみついている!?


「よしっ!では行くぞ!……転移!」




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