第0030話 拉致

「あれ? なんだよ! 話が違うじゃねぇか!?

 まだ死んでねぇのかよ? キャロライン、てめぇ、しぶてぇなぁ……

 まぁ、かまうことたぁねぇか!

 おい! 死にぞこないっ! ローラは俺がもらってくからなっ!

 てめぇが死ねばコイツの居場所いばしょはねぇんだから俺がもらっても文句もんくはねぇよな?

 コイツを奴隷商人に売っ払う話がもうつけてあるんだ! いいな!

 さぁ、ローラ! こっちへ来いっ!」


 カッチ~ン! このクソ野郎……勘弁かんべんならねぇ!


「なぁ~に勝手なことをほざいてんだぁ!? このクソ野郎!

 ふざけたことをぬかしてっとぶっ殺すぞ!」


「なんだ、小僧こぞう!? てめぇの方こそぶっ殺されたくなかったら、そこをどけっ!」


 ざわざわざわ……


「か、神様になんという暴言ぼうげんを……」

「終わったな、あいつ……」

「バカなヤツだ。 相手を見てものを言えってんだ」

「あいつがいなくなれば、キャロラインたちもせいせいするだろう。ははは」


「て、てめぇら! なにをこそこそ話してるんだ!? てめぇらもぶっ殺すぞ!?」


 ふざけたことをかしやがったクソ野郎の名はチャルゲル。俺が蘇生そせいさせた母親のキャロラインと娘のローラを捨てた元夫もとおっとである。


 そのチャルゲルが、家の中に足をみ入れようとした瞬間しゅんかんである!


 チャルゲルがまるで爆風ばくふうで飛ばされたんじゃないのかと思うような勢いと格好で、家の外へと後ろ向きに飛ばされ……

 地面に後頭部こうとうぶから落下した! いや、たたきつけられた?


 そう! まさにたたき付けられたのである。 それをしたのは……シオリであった!


 ぐわっしゃ、ごきっ、ぶちゃぁっ!

 ぐっちゃ! ぐっちゃ! ぐっちゃ!……


 その場面を目撃した者の証言によると……


 シオリはどうも俺への暴言ぼうげん我慢がまんできなかったようだ。

 男のシャツのえりを右手でつかむと、トルネード投法のように、右足を軸にして身体を回転させながら、オーバースローで男を後頭部から地面へと叩きつけたのだそうだ。


「いやぁ~、すごかったですよ!

 シオリ様は、絶対に怒らしちゃならねぇと思いましたよ!

 ホント、すごかったです! 見ていてチビリそうになるくらいでした!」


「あれは一瞬で首の骨が折れましたね……すごい音がしましたもん!」


「シオリ様の怒りはすごかったっすよ!

 もうヤツは首の骨が折れて死んでるのに……

 ヒールで何度も何度もみつけるんっすから!

 ひえぇぇぇーっ! って感じっす!」


 以上は目撃者の証言である。 し、シオリちゃんや……。


 幸いなことに、俺や近所の人たちが邪魔じゃまで、娘のローラには事の次第が見えていなかった。 良かった!


 いくらクソな親父でも……こんな小っちゃな子には自分の父親が殺されるところは見せたくはない……。


 クソ野郎、チャルゲルの魂を "奈落ならくシステム" へと放り込み、凍らせた"血の海"と共に死体はサメのいる海へと転送した。


 ちょうど転送が終わった頃に僧衣そういのようなこげ茶色ちゃいろのローブを着た男性と、露出ろしゅつの多いベリーダンサーのような服装で派手はで化粧けしょうをした女性がこちらへとやって来た。


「チャルゲル!? どこ? あんまり遅いから奴隷商人を連れてきたよーっ!?」


 二人とも魂の色は赤黒い……。

 チャルゲルの愛人と、ローラを買い取るために来た奴隷商人のようだ。


「チャルゲルは死んだぜ! 今頃はサメのえさだ」


「あはははっ! 冗談はよしとくれ!

 あのしぶといチャルゲルがそう簡単にくたばるわけがないじゃないかっ!

 ははは。 あ~おかしい……で、どこなんだい?」


 野次馬やじうまたちがイライラしながら言葉を発する……


「だ・か・らぁ--っ! 死んだんだってっ!」


「そうだよ! チャルゲルのヤツは無謀むぼうにも神様にからんだからね!

 シオリ様の怒りを買って……天罰てんばつが下ったんだよ! 本当にもう死んじまったよ」


「……」


 コイツらはチャルゲルの仲間らしいな……


「てめぇたちもチャルゲルの共犯か?

 ローラを奴隷商人に売り払おうとしているのなら……ぶっ殺すぜ?」


「わ、私は関係ないよ! でもチャルゲルはローラの父親なんだろう?

 だったら娘を奴隷商人に売っても問題ないじゃないか!?」


「お、俺もただチャルゲルに娘を買ってくれと頼まれただけだ!」


 コイツらの魂の履歴を確認したところ……

 以前からずっとチャルゲルとつるんで悪事のかぎりをくしている事が分かった!


「てめぇら……相当悪いことをしているよな? 俺には丸っとお見通しだ。

 このまま生かしておいちゃぁ、世のためにならねぇなぁ~。 ぶっ殺すか?」


「「ひぃぃーーっ!」」


「だがな……もう二度と悪いことはしねぇと、真っ当に生きると誓えるんだったら、ラストチャンスをやってもいいがどうする?」


「「ち、ちかいます! 誓いますっ!」」


 二人をターゲット指定して、ナノプローブを注入ちゅうにゅう

 何か行動を起こした時に必ず呼び出されるイベントに、イベントハンドラを割り当てる……


 そのイベントハンドラには、人の物を盗もうと考えたり、自分の欲望のために人に危害を加えようと考えたりした瞬間、激痛をともないながら灰になって消滅するようにプログラミングしてある。


 コイツらは、よからぬ事を考えただけで死ぬことになるのだ!

 しかも、尋常じんじょうではない強烈な痛みを味わいながら死ぬのだ。


「リブート!」


「……はっ!? な、何が起こったんだ?」


「てめぇらが、もし今度悪さをしようとしたら、激痛を伴いながら灰になって死んじまうようにしてやったんだ。

 うそじゃねぇから、ちゃんと俺との約束を守るんだぜ、いいな?」


「「は、はいっ!」」


 まぁ、何日持つことやら……。

 俺たちと別れた瞬間、はいになっちまいそうだなぁ。


「いいか? とうに生きろよ」

「「はいっ!」」


 二人はあわてて逃げるようにしてこの場を去って行く……。


 二人のことは"輪廻転生りんねてんしょうシステム"のブラックリストに登録済みだ。

 天寿てんじゅまっとうできた時はブラックリストから外すよう……注釈ちゅうしゃくが入れてある。


 奴隷商人の寿命は62歳、ケバい女の方は71歳が初期設定された値だ。


 天寿てんじゅまっとうできるまでには何十年もある。その間とうに生きられたら、地獄の苦しみを味わわなくて済むようにしてやったのだ。 まぁ3日も持つまいが……。



「さぁ、それじゃぁ、昼飯を食いに行こうか?」

「「はいっ!」」


 キャロラインが普通に歩けるようになったのを見て、みんなが驚いている。


 家の前にいた人々の中のひとりがひざまずいて俺に手を合わせた。

 すると、他のみんなも次々と同じようにし出す! なんか気恥きはずかしいな……。


「それじゃぁなっ!」


 みんなは深々と頭を下げる。


 俺とシオリ、キャロラインとローラは、さゆりたちと合流すべく、その場を立ち去った。



 ◇◇◇◇◇◇◇



『ダーリン! 大変! シェルリィがっ! シェルリィがいなくなっちゃったの!』


 突然、さゆりから念話が届いた!


 さゆりのことだから、既にマップ上でも確認済に違いない。それでもシェルリィの行方が分からないから俺に連絡してきたんだろうとは思ったのだが……。


『マップでは確認したのか?』

『うん、確認したんだけど、見つからないの。どうしよう』


『分かった。 えず、すぐにそっちへ転移するわ』


「みんな、これから転移しようと思うから、俺の身体にれてくれ」


 シオリが俺の腰に手を回しながら、正面からきつく。

 キャロラインは俺の左腕に右手をからませ……

 娘のローラの方は俺の左手を右手でにぎった。


「転移!」


 キャルとシャル、さゆりが待っているところへと俺たちは転移して来た。


 キャルもシャルも、そして、さゆりも真っ青な顔をしている。


「それで、どうしていなくなったんだ?」

「分からないの。 私のすぐ右隣を歩いていたんだけど……

 ちょっと目を離したすきにいなくなっちゃったの、どうしよう……」


 さゆりは泣きそうな顔をし出した。


 またしても俺は後手ごてに回ってしまった。 シェルリィを加護かごしていなかったことを心からやんだ。 自分の間抜まぬけさに腹が立つ!


全知師ぜんちし、シェルリィがマップ上で探知たんちできないんだが……

 どのような事が考えられる?」


 >>お待ち下さい。 各種可能性について早急さっきゅうに検討します。


 ふと、ノルムの町の神殿がレッサードラゴンに襲われた時のことを思い出す。


 そういえばあの時、シオリたちが襲われているのに、敵のレッサードラゴンの姿をマップ上では確認できなかったなぁ……。


「全知師! 可能性についての検討を中止せよ!

 神都を中心とした半径100kmを範囲として、シールド反応を大至急だいしきゅう調べよ」


 >>シールド反応を探知しました。

   我々のシールドよりも数世代前の古いタイプのシールドを展開した飛翔体が、約400km/hで、神都から北東方向へと移動中です。


「シールド周波数変調しゅうはすうへんちょうパターンは解析かいせき可能か?」


 >>古いタイプのシールドであるため、周波数は変調しません、固定です。

  ……周波数を特定しました。 これよりシールド内部も探知たんち可能となりました。

  ……シールド内部にシェルリィの生命体反応を確認しました。


「よし! でかしたぞ! 全知師! フェイザー砲を用意しろ!

 俺がシェルリィをこちらへ転送し次第しだい、フェイザー砲を発射せよ!

 なお、たした後、敵の【魂の履歴】はコピーしておいてくれ!

 そして、魂本体は "奈落ならくシステム" へと送ってしまえ!」


 >>承知しました。

  フェイザー砲準備開始ほうじゅんびかいし……完了。

  魂の履歴コピー用のストリームと保存用ストレージ領域を確保。

  "奈落ならくシステム" への送致そうち準備完了。

  フェイザー砲発射ほうはっしゃ待機たいきします。


『シェルリィ、聞こえるか? 俺だ。 もう大丈夫だよ。今助けるからね』

上様うえさま、怖いよぉーーっ! 助けて-ーっ!』


『大丈夫だよ。今助けるからね。……転送!』


 シェルリィが腹を下向きにして、身体をくの字に曲げた状態で空中に出現した。


 なわしばられており、さるぐつわをめられている。

 腹を下にして、ドラゴンの首にけるように乗せられていたようだ。


 俺はシェルリィの下へ高速移動し、空中から落下してくる緩徐をきとめる!


「全知師! 攻撃開始だ!」


 >>はい。 フェイザー砲発射! ……対象たいしょう消滅しょうめつしました。

  ……対象者の魂の履歴をコピーしました。

  ……対象者の魂を "奈落ならくシステム" へと "送致そうち" しました。


「さぁ、もう大丈夫だよ。……拘束こうそく解除! 浄化! 修復!」

「うわぁーーーん! こ、怖かったよぉーーーーっ! わーーーんっ!」


 自分がなさけない……ちゃんと加護かごをしておいてやれば良かった……。

 シェルリィは極薄ごくうすシールドをちゃんと展開している。


「よくがんばったね。 えらいぞ。 ちゃんと指輪のシールドも展開したんだね」


 シェルリィの話では……


 キャルとシャル、さゆりと話をしながら歩いていると、路地ろじから突然黒いローブを着た魔導士風の男が現れ……

 シェルリィの右腕をつかんで、路地ろじへと引きずり込んだらしい。


 さけび声を上げようとするシェルリィの口を、男は右手で押さえて……

 シェルリィを左脇にかかえると、その場を離れて路地裏ろじうらへと移動した。


 そして、シェルリィにさるぐつわをめると、ロープでグルグル巻きにして麻袋あさぶくろに押し込み、肩にかついでどこかへと移動したらしい。


 しばらく肩にかつがれたままでいたが……

 突然袋から出されると、目の前にはレッサードラゴンがいて、その首の部分におおい被せるように乗せられたという。


 その時、自分が神都の外に連れ出されたということを理解したらしい。


 どこだったのかはわからないが、草原のような場所にある大きないわかげにドラゴンはかくされていたとのことだった。


 そこから飛び立って北東方向へと飛行しているところを、俺に助けられたという事だった。


 シェルリィをさらった男の、魂の履歴〔コピー〕を調べてみると……

 なにやらみょうな映像が記録されている?


 ん? 教皇シミュニオンか?


「はははっ! この世の神だとほらを吹く小僧よ! これは警告である!

 そして、お前に命ずる! 助手シオンの管理者権限をすぐに元に戻せ!」


 なんだぁ、これは? シオンの管理権限を元に戻せだってぇ? ふざけるな!


「この命にしたがうまで、毎日ひとりずつお前の仲間を殺してやる!

 命令は絶対である! よいな! シオンの管理者権限を早急さっきゅうに復旧させよ!」


 やはりシオン神聖国の仕業か……。


 自分たちが信じる女神が本当に本物の神だというのなら……

 その女神に管理者権限をくれとたのめばいいのに、俺に要求している時点でインチキ宗教だとみずから認めているようなものなのになぁ……。


 しかし……シェルリィの拉致らちに失敗することは想定済そうていずみだったわけだな?

 この映像を見せるためだけに、シェルリィをさらった可能性さえあるのか?


 これは絶対に許せんな!


「全知師! 人工衛星はシオン神聖国上空にも配置してあるのか?」


 >>はい。


「よしっ! それを首都、シオン教の大聖堂だいせいどう上空へと移動させ、フェイザー砲の発射準備をさせろ! 目標は大聖堂の屋根やねだ! 屋根だけを吹き飛ばす!

 くれぐれも人的被害じんてきひがいが出ないように留意りゅういせよ!」


 >>承知しました。

  ……衛星を移動……完了。

  ……フェイザー砲の発射準備……完了!

  ……フェイザー砲の出力調整……完了!

  ……大聖堂上空の大気が不安定です。

  大気による散乱さんらんに対する照準しょうじゅん補正ほせいが必要です……補正完了!

  マスター、フェイザー砲の発射準備が完了しました。

  いつでも発射可能です。


 直後に教皇シミュニオンへと念話をつなぐ……。


『おうっ! クソ教皇! よくも俺の大事な仲間にちょっかいを出したな?』

『誰だ!?』


『分からねぇのかぁ? 俺だよ、俺! 神だ!』

『オレオレ詐欺さぎか? 神は女神シオン様だけです! おろか者めっ!』


 なにっ? "オレオレ詐欺" って言葉を知っているのか?

 こいつもひょっとして……日本からの転生者なのか?

 ……まぁ、えず今はどうでもいいか……。


「フェイザー砲、発射っ!」


『うわっ!? な、ななな、なんですかっ!? や、屋根が!! うわぁーっ!』


 俺には衛星からの映像が見えている……。

 大聖堂の屋根が、一瞬でフェイザー砲によって蒸発じょうはつさせられたのだ!


『これは、最後通牒さいごつうちょうだっ! いいか、よく聞けよ!

 今度また俺の仲間にちょっかいを出しやがったら……てめぇをぶっ殺すっ!

 必ずてめぇをぶっ殺してやるっ! いや、この惑星からシオン神聖国、そのものを消してやるからそのつもりで覚悟しろっ! じゃぁな!』


『う、う、うるさいっ! 黙れ、悪魔ぁーーっ!

 私は絶対にくっしないぞっ!

 お前の方こそ、すぐにシオンの管理者権限を元に戻せ! じゃないとお前の……』


 シミュニオンは何やらわめいていたが、念話回線を切断せつだんしてやった。

 ああ、ぶっ殺してやりたいなぁ……シオンの魂さえ救出できればなぁ……。


 ハニーたち全員に念話回線をつなげる……。


『みんな聞いてくれ! シェルリィがシオン教徒にさらわれかけた。

 もちろん、彼女は無事だ。 安心してくれ。 俺が救出した。

 だが、シオン教はお前さんたちの命をねらうと言ってきた。

 だから、早急に仕事にキリをつけて、マンションの1階ホールに集まってくれ。

 いいな?』


 念話回線を切る。

 ……何か対策をらねば……安心して外国を訪問ほうもんできない。


「というわけで、みんな悪ぃがレストランで昼食を食べるのは中止だ。

 今日も1階ホールでバイキングにする」


 みんなの顔には『それはしょうがないな』というような表情が浮かんでいる。


「キャロライン、ローラ、お前さんたちも一緒いっしょに来てくれ。

 レストランでは食事ができねぇが、昼飯ひるめしはちゃんと食わせてやるから安心しろ」


「あ、あのう……大変そうですので、私たちは遠慮した方が……」


「いや、大丈夫。それよりキャロラインに聞きてぇんだがな……

 今住んでいる家は借家しゃくやだよな? よかったら俺たちと一緒に住まねぇか?

 もちろん、家賃やちん無料むりょうだ」


「そ、そそ、そんな……恐れ多いです」


「遠慮は無用だ。 約束しただろ? 俺が面倒めんどうを見てやるって?

 よかったらだが、神殿での仕事も紹介しようかと思っているんだ。 どうだ?」


「あ、ありがとうございます……ううう……」


「ようし、決まりだ! ローラちゃん、よろしくな!」

「はい。よろしくおねがいします」


 お! しっかりしているな! この子もかわいいな。

 ん? キャルとシャルが俺に引っ付いてきた。 え? シェルリィもか!?


「シオリ、マンションに帰ったらマンションの住民をすべて加護しようと思うがどう思う?」


「はい。教皇きょうこうシミュニオンからのおどしの件が気になりますので、そのようにされた方がよろしいかと存じます」


「お前さんもそう思ってくれるか? ありがとう。じゃぁ、そうすることにするな。お前さんからGOサインが出ねぇとなぁ、不安でなぁ……ははは」


 シオリはいつも冷静に状況を判断してくれている。

 だから、シオリに俺の考えをぶつけて、反応を知りたかったのだ。


 しかし、シオリは相変わらずの話し方だなぁ。

 仕事とプライベートは、"キッチリ"と分けるタイプなんだな……さすがだ。


 あれ? さゆりの表情が暗い……

 ああ、そうか、シェルリィがさらわれた事に責任を感じているのか……。


「ダーリン、ごめんなさい。 わ、私がしっかりしていれば……。 ぐすん」


「そんなに気にするな。 シェルリィも無事に救出できたことなんだしな……。

 それに悪いのはシオン教徒だ! お前さんじゃねぇよ」


 シェルリィも大きくうなずいた。

 あえて不注意を反省はんせいしろとは言わない。 本人が一番分かっているだろうからな。


「うわぁーーーん! ごめんなさーーい……ううう……」

「おいおい……小さな子たちがあきれて見ているぞ。 ははは。 よしよし」


 さゆりの頭をでてやる……。


 さっきから俺に引っ付いているキャルたちも、な~んか、でて欲しそうに見えたので順番に頭を撫でてやった!


 んん? シオリもローラもうらやましそうな顔をして見ているな?

 俺の勘違かんちがいだろうか? ええい! 面倒だ! みんな撫でてやる!


 キャロラインも含めて全員の頭を "よしよし" といった感じで撫でてやった。


「キャロライン、お前さんはローラをかかえて、ひとりでよくがんばってきたなぁ。

 偉いぞ。 だが、これからはけっしてお前さんはひとりじゃないぞ!

 俺たちがついているんだからな! 安心おし! 遠慮は無用だぜ!

 困ったことがあったらなんでもいいから俺たちを頼れよ!」


 キャロラインも撫でたのは、今までの苦労をねぎらってやりたかったからだ。

 キャロラインはさめざめと泣いた。



「さぁ、それじゃぁ、マンションへ戻るか!……転送!」



 ◇◇◇◇◇◇◆



 マンションに戻ると、すぐに加護していない仲間たち全員を加護することにした。


 シェルリィだけではなく……

 神殿騎士試験受験生3人と、キャロラインとローラも加護かごすることにする。


 キャロラインとローラにも、ちゃんと極薄ごくうすシールド発生装置内蔵指輪をプレゼントしておいた。


 あ、もちろん、ハニーたちにプレゼントした物よりはグレードを落としてある。

 それは当然のことだ! 当然の区別くべつだ!



「リブート!」


 マンションの1階ホールにはベッドが生成してある。


 その上に寝転んでいる今回加護を授けた者たちが……

 一瞬意識を失ったことに驚いている。


「さぁ、これでみんなに授けた加護が有効になったぞ。

 さっき説明したように、力加減が難しくて、最初は戸惑うかも知れねぇが……

 すぐになれると思う。 でも気をつけてくれな」


 みんながうなずいている。


 ちから加減かげんって、ホント、難しいもんなぁ。


 ホールに生成したベッドを片付けると、昼食の準備はシオリとさゆりにまかせて、キャロラインとローラを部屋に案内する。 4階、メイグズの部屋の西隣だ。


「ここが、今日からお前さんたちの部屋だ。 自由に使ってくれていいからな」

「うわぁーーっ! すっごいっ!」


 ローラが驚きの声を上げる! キャロラインもびっくりしているようだ。

 部屋の中を設備の使い方を説明しながら一通ひととおり案内して……。


「この中に食料品や飲み物が入っているから、自由に使ってくれていいからな」

「何から何まで……本当にありがとうございます」


「ああ、気にするなって。俺が好きでやっていることだしな」


 おっと、そうだ。お隣さんのことを教えてやらないとな。


「そうそう。 東隣に住んでいるのがメイグズといってな、お前さんに紹介しようと思っている仕事をしている者だ。 後でメイグズを紹介するつもりなんだが……

 お前さんが、仕事を気に入ってくれるといいんだけどなぁ」


 キャロラインは不安そうな顔をしている?


「あ、自分に合わねぇと思ったら、その時は無理せず、絶対に言ってくれよ?

 自分に合った、別の仕事を探せばいいだけだからな。無理は禁物だぜ。 いいな」


「はい。ありがとうございます。このごおんは忘れません」

「ホント、気にするな。 俺の趣味みたいなものだからな、ははは」


 さてと残るは……あと2部屋か……。


10階。東から、シン(シェルリィ、キャル、シャル)、シオリ。

 9階。東から、スケリフィ、カークルージュ、キャル、シャル。

 8階。東から、ソリテア、インガ、ヘルガ、タチアナ・ロマノヴァ。

 7階。東から、ディンク、カーラ、ゼヴリン・マーロウ、さゆり。

 6階。シェリー、ラヴ、ラフ、ミューイ。

 5階。神殿騎士試験受験生の3人が住む。最も西の部屋にシェルリィ。

 4階。東から、メイグズ、キャロラインとローラ。空き部屋が2部屋。

 3階。東から、ニング、ロッサナ、スリンディレ・クラルケ、

        レキシアデーレ・ストリドム。

 2階。東から、ベックス、ティーザ、レイチェ、タニーシャ。

 1階。食堂兼多目的ホール。厨房他。



 そろそろ、もう一棟マンションを建てるか……。


 キャロラインとローラと共に、マンションの1階ホールへと戻ると、昼食の準備が既に整っていた。 さすがは、シオリとさゆりだ。


 キャロラインとローラは、豪華な料理に驚いている。



 昼食には神殿騎士隊長のバルバラ・クラルグ・エザリントンも呼んである。


 教皇シミュニオンからの脅しの件がある……

 だから、彼女とは、今後の警備体制についての話し合いがしたかったからだ。


 彼女も料理の豊富さに驚きを隠しきれないようだ。


「……ということで、今日からこの子たちも俺たちの仲間になったので仲良くしてやってくれ。……それでは! かんぱーいっ!」


 楽しい団欒だんらんが始まる……。



 ◇◇◇◇◇◆◇



「……ということで、仲間の命をうばうって言いやがったもんだからなぁ……

 シオン教の大聖堂の屋根を蒸発させてやったんだよ!

 それでもまだ俺の仲間を殺すってほざきやがったから、一応こっちも備えておこうと思ってな、それでお前さんに相談したわけだ」


「そうでしたか……ちょっと心配ですね?」


「ああ。まぁな。 ところで、バルバラ。かなりの数のシオン教徒が神都に潜伏せんぷくしているようなんだが……見つけ出して排除はいじょするいい手はねぇかなぁ?」


「そうですね……シオン教徒だとひと目で分かる何かが無い以上、難しいですね。

 人の心の内までは分かりませんから……」


「心の内かぁ。難しいな。 心の中までのぞいちまうのは気が進まねぇしなぁ……。 

 えず神都全体は無理だとしても、神殿敷地内への出入りのチェックはきびしくする必要があるな?

 入り口をひとつだけにして、入ってくるヤツに対して踏み絵をさせるかぁ……」


「ふみえ?……なんでしょうか、それは?」


「えーとな。 神殿敷地内への入り口の地面に教皇シミュニオンの顔写真をプリントしておいてな、入ってくるヤツにそれをませるわけだ」


「ぷりんと? ってなんでしょうか?」


「ん~、地面に教皇シミュニオンそっくりの絵みたいなモノを描くと思ってくれ」


「なるほど。 シオン教徒だと教皇の顔をむのを躊躇ちゅうちょするというわけですね」


「ああそうだ。 それで……


 『シオンという "インチキクソ女神" なんて存在しないっ!

  教皇シミュニオンは大嘘おおうそつきのクソビッチだっ!』


 って、ちゃんと言い切った者だけを敷地内に入れるようにするんだよ。どうだ?」


「な、なるほど……

 シオン教徒なら絶対に激怒して何らかのアクションを起こすでしょうね。

 でも、神殿の敷地は広すぎます。

 出入り口をひとつにしぼるのは難しいのでは無いでしょうか?」


「ああ、それなら簡単だ。 街とこの神殿の敷地との境界線上に、壁型にシールドを展開できる発生装置を1000個ほど配置して……

 この神殿の敷地をシールドによる防壁で囲うつもりだ」


「シールドによる防壁? ですか?」


「そうだ。 この神殿前までつながっている中央の道があるだろ?

 その道が街へと入っていくところ、神殿敷地と街との境目さかいめに、検問所を設置しようと思っているんだ」


「なるほど、でも……シールド発生装置を1000個も配置するんですかっ!?

 設置が大変そうですね……

 神殿騎士と職員を総動員そうどういんする必要がありそうですね? 手配てはいしますか?」


 空中に、この神殿を上から見た映像を映し出す……。


「いや、俺ひとりで大丈夫だ。

 まず、シールド発生装置を神殿前広場に1000個生成して……っと」


「あっ! 何か筒状の剣の柄みたいなものがたくさん出てきました!

 これがシールド発生装置なんですね?」


「ああ、そうだ。 で、地図上のここから……ここまで、神殿敷地を取り囲むようにぐるりと半円状の外周を指定してっと……」


「あれっ? 映像には、太い赤線が神殿の敷地の外周に表示されましたね。

 この線に沿って配置するのですね?」


「そうだよ。 そして……転送処理用マクロエディタを起動し、転送処理を記述するよっと……」


 そう、攻撃神術から転送処理にいたるまでのあらゆる処理について、その実行とかの効果を細かく制御するためのマクロが記述できるようになっているのだ!


 実は今回、1000個ものシールド発生装置を、一体全体どうやって配置しようかと考えていたら……全知師ぜんちしがマクロを組めばいいと教えてくれたのだ。


 壁型かべがたシールドが展開可能な最大はばよりも1mだけせまくした、余裕を持たせた間隔かんかくでシールド発生装置を赤線に沿って神殿敷地をぐるりと取り囲むように……

 等間隔で配置するようにマクロを組む。


「転送処理マクロ実行!」


「うわっ! 広場にあったシールド発生装置が次々に消えていきます!

 あっ! 映像上、赤線の上に、何やら丸い印が等間隔で?で描かれていきます」


「ああ、あれはシールド発生装置が配置されたところを示す印だ」


 シールド発生装置の転送はすぐに終わった。


 空中に表示されている神殿敷地を取り囲む太い赤線上に……

 等間隔で印が、柵用の杭が打たれたかのように、ぐるりと一周取り囲むようにつけられている。


 バルバラは、神殿敷地を上から見ている映像から視線を窓の外へと向ける……。


「あっ! なにか棒のようなものが地面から伸びてきましたよ!?

 すべて同じくらいの高さですね? えーと……50m位の高さでしょうか……」


「そうだ。 大体それくらいの高さだな。 ……シールド展開!」


 直後に、スカイブルーの透明な膜のようなものが、地面から突き出て垂直に上へと伸びた "棒" と "棒" の間に張られる。


「よしっ! これで、この神殿敷地はシールドの防壁で守られたぞ!」


「あのう、検問所はどうするのでしょうか? 入り口が無いように思えるのですが、どこから出入りすればよいのでしょうか?」


「転移!」


 バルバラの左手を右手でつかみ転移する!


 神殿中央から街へと伸びている道がシールドとぶつかるところへと一緒に転移して来たのだ。


「このシールド発生装置にあるスイッチを押してみろ」


 ちょうど、道をはさんで立っていて、まるで門のようにも見えるシールド発生装置、そのうちのかって右側をゆびさす……。


 そこには押しボタン型スイッチがひとつ、バルバラの目の高さにある。


 バルバラが、指示に従ってボタンを押すと、道をふさいでいた部分のシールドだけが消えた!


「これで、シールド展開を制御せいぎょするわけですね? 便利ですね!」


 さてと……教皇シミュニオンの顔写真かおじゃしんをこの石畳いしだたみの道路上にプリントするか!


「うわっ!? 教皇シミュニオンの顔が道路に! ……ここを踏ませるのですね?」

「ああ、そうだ。 これがってやつだ」


「シオン教徒なら踏めないでしょうね。

 もしも、これがシンさんのお顔だったとして、それをめと言われても……

 私にはとても踏めませんもの!」


えずこれで神殿の警備強化はできると思うんだがなぁ、どうだろう?」


「はい。 神殿敷地しんでんしきちへのシオン教徒の侵入しんにゅうふせげそうです。

 早速さっそく検問所とここを守る門衛もんえいのための簡易宿泊施設かんいしゅくはくしせつを作らせます」


「あ、それなら俺がててやろう」


 ちゃちゃっと検問所と、それに隣接する宿舎しゅくしゃ留置施設りゅうちしせつを建設してやった。


「それじゃ、ホールへ戻るか。 転移!」


 再び、バルバラの手を掴むと、マンションの1階ホールへと転移で戻ってきた。

 なぜか偶然ぐうぜん恋人こいびとつなぎになってしまった!? バルバラはほおめている。



 ◇◇◇◇◇◆◆



 今日の昼食もとても楽しかった。

 キャロラインとローラも楽しんでくれていたようだ。


 甑中そうちゅうちりしょうず……彼女たちはきわめてまずしい生活を送っていた。


 これまで、ローラのために食べるのを我慢してきたのであろう……

 キャロラインはガリガリに痩せてしまっている!?


 今後は彼女たちが、ちゃんとお腹いっぱい食事が食べられるようにしてやることを心の中で誓う! 特にキャロラインにはしっかりと食事をとって欲しいものだ!



 このところ、後片付あとかたづけはいつもマンションの住人すべてが手伝ってくれる。

 後片付け効率は別としても……みんなの気持ちがとても嬉しい。


 昼食の後片付けを終えると……

 ふと、シオリにお願いしなければならない事を思い出した!


「シオリ、シオン教のこともあるしな、俺がエルフ族の国へ行っている間、ここに残ってみんなを守ってくれねぇか?

 ……ホントは、お前さんも一緒に行ってくれると心強いんだがなぁ。

 今回は、俺とシェリーだけで行こうと思う」


 シェリーというのは、魔物あふれ事件の時にすくった冒険者4人のリーダーで、今朝、神殿騎士に昇格しょうかくしたばかりのエルフ族の女性だ。 俺のハニーでもある。


「そうですね。今回はしかたないですね。 人族担当のさゆりさんを連れて行くと、人族を贔屓しているとも取られかねませんし……

 今回は二人で行かれるしかないようですね。 承知しました」


 ちょうどシェリーと視線が合った。

 手招てまねきしてシェリーを呼び寄せる……。


「シェリー。 昼食後に俺は、エルフ族の国、ヴェレビアの中央神殿に行かなければならないことは既に知っていると思うが……

 急で申し訳ねぇんだがな、お前さんに同行してもらいてぇんだけど、可能か?」


「スケリフィさん、カークルージュさん、お二人の許可があれば可能です」


 スケさんとカクさんもこちらを見ているので、手招きする……。


「スケさん、カクさん、急で悪ぃんだが……

 今日からおもむくエルフ族の国へは、シェリ-に同行どうこうしてもらおうと思うんだがな、どうだろう? 許可してくれるか?」


「「はい。ダーリン、もちろんです」」


「ダーリンの同行者どうこうしゃとして、エルフ族の彼女はってけだと思います」


「ふたりだけの旅行……まるで新婚旅行のようですわね?

 うふふふ。 うらやましい限りですわ」


「へ、ヘルガ……? 本当はお前さんたちハニーを全員連れて行きてぇんだがなぁ、そうすると人族ばっかり贔屓していると思われちまうんでなぁ……

 悔しいんだが、泣く泣くあきらめたんだぜ!」


 ヘルガはニコニコしている? いや、ニヤニヤ……か?


「まあ、シェリーのことをよく知るためのいい機会だと思って楽しんでくるぜ。

 そうだ! シェリーのご両親にも挨拶あいさつしてこねぇとな!?」


「いつか、私も、ふたりだけの新婚旅行に連れてって下さいね。 うふふ」


 いつの間にかハニーたちが集まってきている?

 みんなが "うん! うん!" とうなずいている!?


 ん? キャル、シャルまでがうなずいているぞ!? ど、どういう意味だ?


 ハニーたちから、妙な圧力を感じているのか、シェリーは汗をたらたら流しながら俺にしがみついてきた!?


「きょ、許可が下りましたので、喜んでお供します。 よろしくお願いします」


「ああ、助かるぜ。よろしくな。

 だが、ホントすまねぇ。里帰さとがえりするのに土産みやげを買いに行かせるだけの時間的余裕もねぇんだよ。 申し訳ねぇ!

 必要なものがあったら生成してやるから、遠慮えんりょ無く言ってくれ。 どうだい?」


「向こうに着いた都合つごうで、お願いすることになるかも知れませんが……

 その時はよろしくお願いします。 それに……

 父と母にとっては、私が神様の妻になれることが一番の土産みやげになると思います。

 お気遣きづかいありがとうございます」


 土産ぐらいは買いに行かせてやりたいのだが……

 シオン教が "ちょっかい" を出してくるかも知れない。


 彼女を神都へ買い物に行かせるのはちょっと躊躇ためらわれたということもある。

 いや、時間的な問題よりもそっちの方が気になっていたのだ。


 そんな時である……。


『ダーリン、そろそろこちらへお越しいただけますでしょうか?』

『ああ、すぐにそっちへ向かうな。よろしく頼むぜ』


『はい。 お待ち致しております。では』


 エルフ族担当助手のシホからの念話である。

 なんかバタバタだ……あわただしいなぁ……


「たった今、エルフ族担当助手のシホから念話ねんわでお呼びがかかった!

 急にこんなことになっちまってわりぃけど、シェリー。このままエルフの国へと転移しちまってもいいだろうか? それとも旅の準備ができるまで待った方がいいか?」


「いえ、このまま旅立っても大丈夫です。

 先日いただいたポシェットの中に必要なものを入れて持ち歩いていますので」


「そうか! さすがは元冒険者だなぁ! ……それじゃ、このまま旅立つか!」


 シェリーの左手を右手でつかむと……

 自然と恋人こいびとつなぎになってしまった! まわりの視線が痛い!


「よ、よしっ! それじゃ行ってくる!

 シオリ、さゆり、ハニーたち! 後は頼んだぜ! ……転移!」



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