第0027話 欺瞞

 ステーションにある自室まではなんとかたどり着けた。


 足取あしどりはふらふらだった。会議室から出てきた俺の姿を見た助手たちが皆、体調が悪いのかとたずねるくらいだから、顔色も相当そうとう悪かったのだろう……。


 さゆりから聞いた真実しんじつ……。

 最初に俺の心を支配したのは驚きであった。 それは頭の中を真っ白にした……。

 しばらくすると今度は、今まで感じたことのない強烈きょうれついかりがこる。


 さゆりは管理者会議終了直後に、彼女のかつての同僚や部下たちがまとめた、ある報告書を受信した。


 それは、俺がプライベートで依頼いらいした調査の進捗状況しんちょくじょうきょうの報告だった。

 その依頼とは、俺の最愛の人を殺した犯人を探すこと……。


 犯人は特定された。だが、その行方ゆくえ不明ふめいということである。

 地球上には、犯人のたましい痕跡こんせきすら確認できないという。


 犯人が地球上で死亡した事実はなく……

 忽然こつぜんせたかのようであるということであった。



 部屋の中に入ると、俺はひざからくずちた。


「まさか……まさか鬼神おにがみが…犯人だったなんて……」


 犯人の"鬼神おにがみ 亜輝良あきら"は俺が最愛の人を失った時にささえてくれた親友しんゆうだった……

 いや! 親友のふりをしていたクソ野郎だっ!


 いかりがふつふつとげる……。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 時間は、さゆりからこの件の報告を受けている時にまでさかのぼる……


 犯人の名前を告げられた時、俺は、初めは信じられなかった。

 さゆりの悪い冗談じょうだんだとさえ思えた……。


 だがさゆりから見せられた報告書には、俺の最愛さいあいの人だった "たちばな ユリコ" の葬儀そうぎ参列者たちの【魂の履歴】をコピーしたデータが添付されており……。

 それらコピーに記録されていた、葬儀会場の映像をすべて見終えると、親友だと思っていた男と、その恋人のことが信じられなくなってしまった。


 そこに記録されていた映像では、慟哭どうこくする俺のかたわらに鬼神おにがみと彼の恋人がい俺の背中をさすっている場面がうつっていた。


 二人はニヤニヤと笑っている!?


 俺になぐさめの言葉をかけながら、二人は肩をすくめている……顔は笑顔だ。

 しかも、それは極悪人ごくあくにんではないかと思わせるような悪い笑顔だ。


 あの時、コイツらに感謝の言葉を言った俺はバカみたいだ! 何にも知らず……。

 コイツらのささえで今日まで生きてこられたと、ついさっきまでそう思っていた。


 そんな自分自身に対するいかりがみ上げてくる!


 それでも、心のどこかではヤツらを信じたい自分がいたのだが……

 ユリコが殺された当時、警察庁刑事局長の側近をしていた鬼神の父親、そいつの【魂の履歴】のコピーを見て、そんな思いは端微塵ぱみじんに吹き飛んだのだ。


 鬼神の父親は、事件をやみから闇にほうむるべく暗躍あんやくしていた。


 捜査本部に圧力をかけて、当初は事故で処理させようとしていた。 すべてはバカ息子のために……だ! 子故こゆえやみまよう……。


 いや、子供のことを思って思慮しりょ分別ふんべつをなくして悪いことをしてしまった…という、下手をすると同情さえもされかねないような動機どうきではなくて……


 結局のところは単なるかわいさ……保身ほしんのためだったのかも知れない。


 しかし、初動捜査しょどうそうさにあたった刑事がマジメ一筋ひとすじで、一本筋いっぽんすじとおった男で、事件性を強くうったえたため、傷害致死事件しょうがいちしじけんとして捜査が始まることになる。


 だが! 殺人事件ではなくて! 傷害致死事件としてなのだっ!


 すると、今度は早く迷宮入めいきゅういりさせるように、使える手をすべて使い出す……。


 鬼神親子にとって一番厄介いちばんやっかいだった、事件性を強く主張した刑事にぎぬせて、彼には全く身に覚えのない反社会勢力はんしゃかいせいりょくとの癒着ゆちゃくをでっち上げ……

 地方の交番勤務こうばんきんむへと左遷させんさせやがったのだ!


 そういえば、当時、俺に会いたいと言ってきた警察官がいたが、約束の場所に現れなかったのを思いだした。


 鬼神の父親、牙次郎がじろうの【魂の履歴】、といっても当の本人はまだぬくぬくと生きている! だから、ヤツの "魂の履歴のコピー" を見たのだが、それで分かった!

 その、俺に会いたがった警察官が、地方へと飛ばされた元刑事であったのだ!


 しかも! 俺と会う直前に交通事故をよそおって殺されてしまっていた!


 だから約束をしたのに俺に会いに来なかった……

 いや、会いに来られなかったのか! 事件の真相をつかんでしまったから!



 鬼神 牙次郎の【魂の履歴〔コピー〕】から事件の詳細が判明する。


 たちばなユリコの転落死を、警察は当初、事件と事故の両面りょうめんで捜査を行っていた。

 事件性の有無を調べていた捜査官の聞き取り調査で、"鬼島亜輝良"の名前が頻繁ひんぱんがるようになる。 そう、捜査線上そうさせんじょうにヤツが浮かび上がって来ていたのだ!


 ユリコは俺に心配かけまいとして、俺にはずっと隠していたのだが……

 亜輝良から度々たびたびちょっかいをかけられていたらしい。


 なんで……なんで俺に話してくれなかったんだ……。


 その場面を目撃したことのある、主に、同じ大学の学生たちから、ユリコの死には鬼島 亜輝良がからんでいるのではないかという話ががっていた。


 捜査本部の責任者は "ヒラメ野郎" だった!


 つまり、目が上に向いている。 上司にはこびへつらい、部下には厳しいタイプの人間だった。 立身出世りっしんしゅっせのためなら何でもする男だ!


 鬼島亜輝良が、刑事局長側近、鬼島 牙次郎のひとり息子だと知ったヒラメ野郎はすぐに牙次郎へと連絡を入れる。


 "ヒラメ野郎"からの連絡で、捜査線上に息子、鬼島 亜輝良の名前が挙がっていることを知った牙次郎は、息子の亜輝良を問い質す……。


 美人であり、自分の好みのタイプであったユリコに目をつけて、俺たちに接近したということから始まって、事のすべてを父親に話して 亜輝良 は父親に泣きついた。


 俺と たちばな ユリコ、鬼島 亜輝良、如夜叉にょやしゃ 閒利子まりこは同い年だ。

 俺たちは、学部は違うが、同じ大学に、同じ年の春に入学した。


 俺とユリコは同じ高校の出身で、高校1年の春から付き合っていた。


 鬼島と如夜叉とは、入学式後のオリエンテーション合宿で知り合うこととなる。

 いや……初めから鬼島は、ユリコに目をつけて俺たちに接近してきたのだ!


 最初に、俺とユリコが話をしているところに、鬼島 亜輝良がやって来て、友達になろうと話しかけてきた。


 そのあと、如夜叉 閒利子が『仲間に入れてくれ』と話しかけてきたのだが、今思い返すと……亜輝良のヤツが俺たちに、"自分は警察官僚の息子である"と紹介したのを聞きつけて、閒利子は俺たちの仲間に加わったように思える。


 閒利子は亜輝良に目をつけたらしい。


 俺は、4人はごく自然に意気投合いきとうごうしたものだとばかり思っていた。

 まったく大間抜おおまぬけである。 自分に腹が立つ!


 鬼神 亜輝良!……子供の頃からわがままし放題に育ったコイツは、欲しいものは何でも手に入れてきた。


 俺とユリコが、将来をちかった仲であることを知った上での横恋慕よこれんぼ


 ヤツは、ユリコを絶対に自分のモノにしたいと考えていた……

 いやユリコへの愛情じゃない! 単に肉欲を満たすこと! ユリコを自分のモノにすることのみを欲していたようだ。


 ユリコを犯す機会を虎視眈々こしたんたんねらっていたのだっ!


 一方で、如夜叉閒利子は、ユリコのことを邪魔に思っていたらしい……

 亜輝良を "完全に自分のモノ" にするためには、亜輝良が強くほっしているユリコが邪魔だと常々考えていたのだ!


 自分とは肌合はだあいが違うユリコには、嫌悪感けんおかんすらいだいていた。

 常々、ユリコをめちゃくちゃにしてやりたいと考えてらしいのだ! クソッ!


 閒利子は、警察官僚の息子で金回りもよかった亜輝良とは、打算的ださんてきな考えから付き合っていた。 けっして愛情で結ばれていたわけではない。


 閒利子は、亜輝良の欲望を利用してユリコを排除はいじょしようと考える。


 亜輝良が欲しいモノを手に入れると、その途端とたんに、欲しかったモノへの興味を失う性格であることが分かったのだ。

 だから、亜輝良にユリコを凌辱りょうじょくさせてしまえば、それ以後は、自分の思う通りになるだろうと計算して、亜輝良にユリコを襲うように "そそのかした" のである!


 亜輝良に、だいきらいなユリコを凌辱りょうじょくさせ、ユリコをめちゃくちゃにしたいという自らの欲求を満足させた上で……その件で亜輝良の弱みをにぎってあましるを吸い続けることをたくらんでいた!


 一石二鳥いっせきにちょうねらっていたのだ! まさに如夜叉にょやしゃな女である!


 事件じけん当夜とうや、閒利子は、り入って相談したいことがあるとうそを言ってユリコを新築ビルの建築現場近くの公園に呼び出す。


 ユリコはなんでそんなさそいに乗ったんだろう……それがくやしい。


 閒利子に呼び出された現場に亜輝良が現れたことで、すべてを察したユリコはその場を逃げる!


 追う亜輝良!


 逃げるユリコは、新築ビルの工事現場前までくると、先回りした閒利子に行く手をはばまれ、工事現場へ逃げ込まざるをなくなる!


 基礎工事現場の大穴のそばでユリコは亜輝良と閒利子につかまり、暴行を受けそうになってしまう!


 必死に抵抗して二人のをなんとかはらい……

 その場から必死に逃げようとしたユリコは地面に置かれていた鉄筋てっきんに気が付かず、つまずいてしまい、バランスをくずして基礎工事現場の大穴おおあなへと落下してしまったのだ!


 そして……無惨な姿と…なってしまう……。


 これが事件の真相であった。


「ゆ、許せんっ! くそっ! くそっ! くそーーーっ!」


「だ、ダーリン、目が血走ちばしってるし……こわいよ……」


「す、すまん、さゆり……。 ちょっと部屋で休んでくるわ……。

 も、申し訳ねぇが、昼食の準備を……頼んでもいいか?

 シオリちゃんと手分てわけして神殿の方も頼む……。 本当にすまん……」


「あ、はい。わかった。私たちでちゃんと準備するから大丈夫だよ」

わりぃな……」


「あ、犯人の行方については引き続き調査させますので……。

 それから、橘ユリコさんの魂が現在どこにいるのかも調査中ですから……」


 俺は右手を軽く挙げただけで、ふらふらしながら、その場を離れたのだった。


「あっ! それから、マーラーの交響曲第5番! 手に入りましたよ!

 その他の音楽も全部手に入りましたからねーーっ!」


 最後にさゆりが言った言葉は俺の頭を素通すどおりした。



 ◇◇◇◇◇◇◆



 後からシオリが教えてくれたんだが……


 管理者会議メンバーのための昼食は、さゆりとシオリによって、バイキング料理が用意された。 みんなは美味しいと大変喜んでくれたらしい。


 マンションの1階ホールの方の昼食も同じものにしてくれたということだ。


 俺も一緒に食事をとったんだが、俺にはその時の味の記憶が全くない。

 何を食べたのかも分からない。 どれだけ食べたのかも分からなかった。

 心ここにあらず……だったんだろう。


 俺の様子がおかしいことはみんな気が付いていたそうだ。


 助手のみんなは気を使って、俺になるべく話しかけないようにしていたらしい。

 俺の心をなごませようと、つとめて明るくってくれていたということだった。


 みんなには気を使わせてしまったな……申し訳ない思いでいっぱいだ。

 折角の会食が……ホント、すまない、みんな。



 ◇◇◇◇◇◆◇



 マンションには帰る気が起きない。


 ステーションにある自室でボーッと……

 ベッドの上に腰掛けて、ただただボーッとしている。


 あんなクソ野郎どものことを、俺を支えてくれた恩人おんじんと思ってありがたがっていた自分が情けなくて……、腹立たしくて……、怒りを通り越して何も考えられない。


 ポーン!


 この部屋への来客を知らせるチャイムの音だ。

 返事をする気力すらかない。 すると横開きのドアがスッと開く……。


「失礼します。 ダーリン、大丈夫ですか?」


 シオリだ。 シオリが心配して訪ねてきてくれたのだ。


 シオリの心配そうな顔を見ると、押さえ込まれていた、我慢がまんしてきた何かが……

 心から何かがあふてくる……。


 言いようのない何かが。 怒りだろうか? 悲しみなのか? 分からない……。


「シオリ……俺はとんでもない間抜けだぜ。 何にも知らずに…バカみたいだ」


「話は…話はさゆりさんから聞きました。

 ……何と申し上げればよいのか…心中しんちゅうをおさっしします」


「お、俺はくやしい。 ヤツらに復讐ふくしゅうしてぇ……。

 何もできないこのもどかしさを一体いったいどうすりゃいいんだ……

 ヤツらをぶち殺してやりてぇよぉ。 なのによぉ……

 どこにいるかも、生きているのか、死んでいるのかも分からねぇんだぜ。

 いったい俺は、この怒りをどこにぶつけりゃいいんだっ……くそっ!」


 シオリが俺の左隣ひだりどなり、ベッドの上に腰掛こしかけると……だまって俺をきしめる。


 一瞬いっしゅんで俺の心が、何かあたたかいものにやさしくつつまれたような感じがした!

 目からは涙があふてくる……。


 シオリは、ただただだまって俺をきしめている。

 言葉をはっしないからこそ、その心が、暖かい思いやりの心が、ひしひしと伝わってくる。


 ああ……これが本当の "なぐさめ" ってやつなんだなぁ……。


 ユリコを失った時にヤツらから受けた慰めとは明らかに違った。

 ハッキリと違うことが、この時に分かった。


 俺は間抜けだなぁ……。


 ああ、シオリが…心にってくれる……もう離れたくない…離したくない!

 その瞬間、俺は心の奥底おくそこからげるような衝動しょうどうられる!


 俺はシオリを求め……彼女も応じたのだった。



 ◇◇◇◇◇◆◆



 何時間経ったのだろう……ベッド上で目が覚めた。

 俺のとなりにはシオリがいてくれた。


 シオリはやわらかく、慈愛じあいちた笑顔を俺に向けながら俺をきしめる……。


 無言むごんだが『あなたには私がいます。私がついています。安心して下さい』とでもいうんだろうか……そんな気持ちが彼女からは伝わってきた。


 俺は心がかなり回復していることを自覚した。 すべてシオリの御蔭おかげだ……。


「お目覚めですか? ご気分はいかがでしょうか?」

「ああ、ありがとう。本当に……ありがとう。 なんだ……そのう、ありがとうな」


 他に適当な言葉が見つからなかった。


「私は……いえ、私たちはみんなダーリンをおささえします! 全力でお支えします!

 ですから…ですからひとりでかかまない下さい! たよって下さい!

 私は……いいえ、私たちは絶対に裏切うらぎりません! ダーリンの味方です!」


「ありがとうな。

 俺は親友だと思っていたヤツらに裏切られていたんだ。しかも、親友どころか友達ですらなかった。

 ヤツらにバカにされていたと知った時は、もう金輪際! 誰も信じない!

 そう考えた……」


 シオリは悲しそうな目をする。


「この宇宙も余所の宇宙も、みんな、すべてを滅ぼしてやろうとさえ考えたが……

 シオリ、ありがとう。 お前さんのあったかい心にれて正気しょうきに戻ったよ。

 魔神まじんにならずにすんだ。 ヤツらがクソなだけだということに気が付いたんだ」


「ダーリン……」


 シオリはもう一度俺をギュッときしめる。

 そしてちからゆるめるとうるんだひとみで俺をじっと見つめながら顔を近づけてくる……


 ふたりはお互いに深い愛情を感じ、唇を重ねた……。



 ◇◇◇◇◆◇◇



「あ、ダーリン! お帰りなさーいっ!」


「ダ~リン、聞いて下さいよぉ~、今日ぉ~変態さんが来たのぉ~。

 怖かったですぅ~」


「何? タチアナ! どういうことなんだ? 詳しく話せ」


 彼女たち、病院で外来患者の診察をしていたハニーたちの話によると……

 茶色いローブを身にまとった男が、前屈まえかが気味ぎみに、いかにも具合が悪そうに診察を受けにおとずれたらしいのだが……。


 以下はその再現である……


「どうされましたかぁ~」


「お、俺の……俺のここを見てくれ! さぁっ!」

「きゃぁ~~~っ!」


 バキッ!……ぐはっ! ズガガガガガーーーン!!


 タチアナの前で、その男はローブの "前" をはだけた!

 ローブの下はぱだかだった! しかも彼の "彼自身" は臨戦態勢りんせんたいせいとなっていた!


 ただ、タチアナの話では、小っちゃかったらしいんだが……。


 それを見たタチアナは、思わず男の胸のあたりを思いっきりきとばす!


 男ははいの中の空気をすべてすかのように "ぐはっ!" と一声ひとこえはっして……

 病院の壁を突きやぶって、はる彼方かなたへと飛んで行ったとのことだった。


 多分……その男は死んだな。 まぁ、自業自得じごうじとくってヤツだな。


 他のハニーたちのところにもたようなやからが来たらしい。

 美人神子びじんみこに診察してもらえるという評判が、よからぬ事を考えるやからを呼び寄せたらしい。


 ただ、タチアナが成敗せいばいしたクソ野郎の一件いっけんがあって以降は、スケさんとカクさんが事前じぜん神眼しんがん患者かんじゃ見極みきわめるようにしたため、よからぬ事を考えていた輩は門前払もんぜんばらいされたらしいが。


 中には無謀むぼうにも、強引ごういんり、ハニーたちをさらっていこうと考えていた集団もいたとのことだが……そいつらは、神殿騎士見習いと神殿騎士試験受験生のちょうどいい練習台となってこのることになったという。


 クソ野郎には容赦ようしゃはしないっ!


 神殿の、この姿勢を明確に示すために、あえて惨たらしく皆殺しにしたらしい。

 所謂いわゆる見せしめだ!


「なんか、俺たちがいねぇあいだ色々いろいろなことがあったんだなぁ……。

 でも、みんなを加護かごしておいてホントよかったぜ!

 クソ野郎どもを自分たちだけで排除はいじょできたんだもんなぁ~。

 すげぇぞ! よくやったな! ははは!」



「あ! だ~りん!

 おかえりなさいなのぉ~! からのぉ~、ただいまなのぉ~!」

(うんうん!)


 ぽすんっ! と……キャルとシャルが俺の胸へと飛び込んできた。そして……


 "チュッ!""チュッ!"

 すりすりすり~。


 キャルが俺の右頬にぎほおに、シャルが左頬ひだりほおに……

 ただいまなのか、お帰りなのか分からないキスをした!

 そのあと、スリスリとほおをずりしてきたのだ。


 こういった "挨拶のキス" の習慣がない日本人だった俺は、ちょっとドギマギしてしまった。


「ははは。 君たちもお帰りなさい。 どうだった? 楽しかったかい?」

「うん! すごくたのしかったのぉ!」

(うんうん!)


「あれ? シェルリィは? 一緒じゃなかったの?」

「こ、ここにいます!」


「おお! 俺の後ろにいたのかい? どうだった? 楽しかったかい?」

「はい! とても楽しかったです。

 キャルちゃんとシャルちゃんが『おねえちゃん』しているところをお目にかけたかったです。 かわいかったですよぉ~。 うふふ」


「う~んっ! 見てみたかったぁ! 今度は一緒について行こうかな?」



 俺にはハニーたちがいる! そして、この子たちもいる!


 そう思った瞬間、きものがれたような……

 心が、そして、身体が軽くなったような気がした。



 ◇◇◇◇◆◇◆



「メイグズ、どうだい? つらくはねぇか?」

「はい! 大丈夫です!」


 お? 気力が充実じゅうじつしている。よかった。

 こういった確認がすぐにできるステータス画面ってのは、やっぱり便利だな。


「よかった。でも無理すんなよ。ボチボチでいいからな」


「はい! あー、なんて充実じゅうじつしているんでしょう!

 働くってことが、こんなにも楽しいだなんて!

 前の会社では思ったこともなかったです。 ありがとうございます!」


「そうか、よかった。 楽しく仕事ができりゃそれにしたことはねぇからな」


 執務室の書庫の中から、インガとソリテアが出てきた。


「ダーリン、お帰りなさい」「お帰りなさい」


「ソリテア、インガ、今日はありがとうな」


「いえいえ、メイグズさんがとても仕事ができる方で、大変助かったんですよ。

 思った以上に仕事がはかどりました。いい人が来てくれました」


「彼女のようなすごく有能な方を手放してくれた商業ギルドには、感謝したいくらいですよ」


 メイグズはほおめ、にっこりと笑った。 いい笑顔だ!


 おっと! そうだ!

 メイグズをいじめていやがったクソ上司を、らしめにいかないとな!


「ちょっといってくる……転移!」



「おい! ガルルバ! てめぇよくも俺の大事なメイグズをいじめてくれたな!」

「だ、誰だ! お前は!?」


「おれか? 俺の正体しょうたいを知るとふるえが来ると思うぜ? それでも聞くか?」

「はっ? 震えが来るだと? バカバカしい! そんなことがあるかっ!」


 そうなんだよなぁ……

 クソ野郎って、神を恐れないからなぁ、震えが来ることはないかもなぁ……。


「俺は神だ。この世界の神だ! お前をばっしに来た! 覚悟しろよ!」

「はっ! お前みたいな若造わかぞうが神であるものかっ! うそつきが!」


 やっぱりこうなるよなぁ……。 面倒めんどうくせぇなぁ~。


 チャッチャとプロパティとイベントをいじくり回してやった。

 これで、もうこのガルルバという男は、今後一切いっさいうそが言えなくなる。


「ビルド&リブート!」

「はっ!? な、なんだ? なんで私はゆかで寝ているんだ? 何をしたっ!?」


 そりゃ、リブートかけたからな……。

 ビルドだけでよかったみたいだが、念には念を入れてリブートしてやったぜ。


「メイグズをいじめたばつとして、てめぇは、うそが言えねぇようにしてやったぜ」


 かなり軽めの罰に思えるけど、こういったやからうそかためた生き方をしているもんだから、嘘がつけなくなるのは、下手へたをすると致命的ちめいてきともなり得る。


 まあ、正直者として評価されるようになれば、それはそれでOKだしな!


「そんなことができるわけがない!」


「てめぇ、メイグズを食事にさそって、飯を食ってから、宿やどに引きずり込んで凌辱りょうじょくしようとしただろう? どうだ?」

「はい。そのとおりです」


 ガルルバは "そんなばかなっ!" とでも言いたげな表情を浮かべて青ざめている。


「ほら? 言った通り嘘がつけなくなっただろう?

 俺が神だということが信じられるようになったか?」


「はい。信じます」


「ははは。てめぇはこれから一生、嘘がつけねぇぞ? 覚悟するんだな。

 まぁ、せいぜい正直者としてちゃんと生きるこったな!

 それじゃぁな! あばよ! ……転移!」


 手緩てぬるいかな……。魂の色が、赤や赤黒だったら、サメのえさにでもしてやろうかと思っていたが、黄色だったからな。 命まではうばわないようにした。


 どれくらいの効果があるかが見物みものだ。 今後この手のやからばっする際の参考にしてやろうとの思いもあっての今回の罰であった。



 ◇◇◇◇◆◆◇



 神殿にある俺の執務室に戻ると、そこにはシオリが待っていた。

 何か急用があるらしく、謁見えっけん一緒いっしょに来て欲しいとのことだった。


 ソリテア、インガ、メイグズに、メイグズの元上司をメイグズをいじめた罰として嘘のつけない身体にしてやったことを告げて、そこで、彼女たちとは別れた。



 今は謁見えっけんに、シオリと二人でいる。


「上様、シオン神聖国が認定した勇者パーティーについて新たに分かったことがありますのでご報告にうかがいました」


 おギンが転移して来た!


「そうか、おギン、ご苦労! では話してみよ」

「ははっ!」


 おギンからの情報に、俺は驚くことになる……。



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