第0028話 勇者招喚

「勇者ユリコのパーティーメンバーが分かりました」


 おギンの話によると、メンバーはユリコを入れて4人ということであった。


「勇者ユリコ、戦士アキュラス、魔導士マリーネルカ、聖女マルルカの4名です。

 ユリコ、アキュラス、マリーネルカの3名は、地球、それも、日本から魂が招喚された転生者です」


 勇者ユリコは日本人なのかっ!?

 ま、まさか……ゆ、ユリコ、橘ユリコかっ!?

 いや……そんなわけがない。きっと別人だな……。


「日本人なのかっ!?」

「はい。この世界に来る前のことを色々と聞いてみましたが、警戒しているのか、3人とも何も語ろうとはしませんでした。

 上様から死語だと伺っている『バッチグー』を思い出し、会話の中に混ぜてみたのですが、全員が意味をちゃんと分かっているようでした。何か参考になりますでしょうか?」

「な、なるほど……バッチグーねぇ……ははは。

 でも、そうなると日本人だった頃の俺と同年代のヤツらなのか?

 そんなオッサンとおばちゃんを招喚するかなぁ?もっと若いやつを呼び寄せそうなんだがなぁ……」


「いえ、私たちがダーリンから伺って知ったように、日本にいる時に、誰か知っている人から聞いたことがあるのかも知れません」

「なるほどな、シオリの言う通り、確かに誰かに聞いた可能性もあるなぁ……」


 勇者ユリコが橘ユリコの転生者であることをちょっと期待したのだが……。

 何十年も前に橘ユリコは亡くなっている。今頃転生するなんて事は、理屈に合わない。

 いや、まてよ……何度か日本人として輪廻転生していれば可能か?いやいや……地球では死イコール刑期満了で魂は解放されるからなぁ……。極悪人だったのならやり直しも考えられるが、ユリコに限ってそれはないからなぁ……。


「それで、彼女たちはいつこっちに招喚されたんだ?認定されたのは俺がこっちに戻った日だったよな?」

「はい。招喚されたのは、上様が帰還される3日前のようです。この世界のことを説明し、納得させるのに3日を要したようです」


「でも……招喚なんてことがホイホイと簡単にできるのか?管理権限も持ってないヤツにそれが許されているのか?」

「いいえ。ダーリンと我々管理助手のみが魂の操作が可能ですので、通常は不可能です」

「となると……やはり管理助手だったシオンが関係しているのだろうか?」

「可能性は高いかと」

「しかし、なんで日本からなんだ?別に、日本人じゃなくてもいいだろうし、他の宇宙には人族が住む惑星はねぇのかなぁ?」


 >>お答え致します。

  まず、地球からの招喚については、もともとが罪人の魂であるため、転生者の身に何かあった場合でも問題にならないからです。

  そして、日本人なのは、異世界転生に対する拒否反応が少ないことが考えられます。


 俺とシオリ、おギン以外、聞かれてはマズい内容があるかも知れないと思って、おギンが現れた時から、ここのいる者に限定して念話回線をオープンにしてある。

 だから、全知師との会話もシオリとおギンは聞こえている。


 <<それで、招喚対象者は招喚する側で選べるのか?

 >>こちらからはある程度の希望を伝えられますが、こちらへ送る魂の選択権は地球側にあります。恐らく、地球の日本担当者が選定しているものと思われます。

 <<なるほど。ありがとう、全知師。


「なるほどなぁ……でも、あの地球の管理者のことだから、地球では手に余るゴミみたいなヤツをこっちに押しつけてきそうだよなぁ……。

 しかしなぁ、招喚された者たちも冷静に考えれば自分たちが捨て駒にされるってことが分かるだろうに……拒否しなかったんだなぁ?」


「推測ですが……色々な能力を与えられて自分たちがこの世界で最強だと錯覚してしまうのかも知れませんね。気が大きくなってしまうのかも知れません。

 あるいは……情にほだされて、見捨てられなくなってしまったとか……」


「まぁ異世界転生モノのラノベやアニメばかりみていると、自分は絶対に死なねぇヒーローだとでも思っちまうのかも知れねぇなぁ……。それに日本人って根本的にお人好しだから、情に訴えられると弱ぇんだよな~」


「しかし、彼女たちの身体はどうしたんでしょう。魂はこちらに取り寄せることができても、それを入れる肉体を用意しなければなりませんから」


 >>マスター。転生者たちをスキャンしてみたところ、彼等の身体は宇宙ステーションから、シオンが持ち出した5体のうちの3体であると判明しました。

  なお、シオンによって持ち出された管理助手仕様の強化人間の肉体は、女性型4体、男性型が1体です。


「となると、やはり、女神シオンというのは、管理助手のシオンで間違いなさそうだな。そう考えると一番辻褄が合うからなぁ。

 こうなると管理システムへのアクセス権すべてを剥奪しておいて正解だったって事になるなぁ……。シオリのアドバイスにしたがってよかったぜ。ありがとうな、ハニー!」


 シオリが頬を染めて、『いえいえ』と言った感じで右手を手刀のようにして顔の前で左右に振っている。


「だけどさぁ、なんで別世界から招喚しなくちゃいけねぇんだ?

 元管理助手シオンがいりゃぁ、プロパティとかを"ちょこちょこっ"といじって、勇者レベルの手駒ぐれぇ簡単に用意できるだろうになぁ……」

「恐らくですが……シオンが、司令部から持ち出した"強化人間の肉体"を利用したかったのだと思います。管理助手レベルの基本機能が標準で使用できるようになりますし、魔法ではなく、神術が使用できるようになりますので……」


「でも、手下をぶっ殺して、魂だけ移植してもいいような気がするんだがなぁ?」

「恐らく……シオン教の伝説になぞらえたかったのではないでしょうか」

「そうか、確か、そんな伝説があるって全知師が言ってたっけ。なるほどなぁ」


 バッチグーを知っているし、ちゃんと腹を割って話せば、ひょっとしたら友達になれるかも知れないな。さゆりと一緒に日本の話題で盛り上がれるかも知れない。 なんとか仲間にできねぇかなぁ。まぁ、魂の色を見てみないとダメだが……。


「俺を討伐するつもりなんだよな?日本人同士なら、ちゃんと話し合えばお互いに理解し合えるかも知れねぇな。できることなら無用な争いは避けてぇからな」

「はい。シオン教の教皇、シミュニオンに騙されているんでしょうし……」


「ん?シオン教の一番の偉いさんか?シミュニオンってのは?男性なのか?」

「いいえ、女性です。ですが妙なのです。50歳くらいの女性のはずなのですが、先日私が直に神眼で確認しましたところ17歳と表示されたのです」


「おギンが直接確認したとなると、間違いねぇな。シオン教徒の中に"完全修復"が使えるヤツがいるということか?神術で若返ったんだよな……。やはり、シオンの仕業か??」


 対決する時は見かけに騙されないようにしなければな……。きっと、老獪に立ち回るだろうからなぁ。


「ところで、ヤツらが神術を使えねぇようにはできねぇのか?」


 >>残念ながら、それは不可能です。

  マスターからの要請により、強化人間の神術発動時間短縮のため、エネルギー集積装置が各肉体に内蔵させてあります。管理システムからの干渉は不可能です。


「そうか……そうだよな。まさか強化人間の肉体が悪用されるなんて、普通は想定しねぇもんなぁ……。管理助手が裏切るなんてなぁ……」


 どんなヤツらなのか見てみたくなった。


「おギン、ちょっと悪ぃが、魂の履歴をのぞかせてもらうぞ?」

「はっ!どうぞ!」


 おギンの"魂の履歴"から、教皇と勇者パーティーの映像を取得して、空中に映し出す。


「シオンっ!ま、まさか……教皇が、シオンだなんて……」

「ん?ハニーどうしたんだ?教皇シミュニオンがシオンだって言うのか?」

「はい。間違いありません。この顔はシオンです」


「全知師、確認しろ」


 >>教皇シミュニオンをスキャンしましたところ、肉体は、シリアルナンバーから管理助手シオンのものと判明しました。

  ただ、魂の方は、シオンのプライマリーキー値と一致しませんでした。肉体を奪われたものと推測します。


「シオンの肉体がシミュニオンというヤツに乗っ取られたっていうのか!?これは話がややこしくなってきたなぁ~。シオンの魂は消されちまったのか??」


「いえ、恐らく……どこかに監禁というか、保管されているかと存じます。

 管理システムのアクセス権の管理には、魂の"プライマリーキー値"を使用しますので、もしもシオンの魂が消されているとしたら、勇者招喚といったことは不可能であるはずです」


「なるほど、ハニーのいう通りだな。これは…ちいとばかし話が厄介になってきたなぁ……管理助手のシオンが囚われてしまっているということなのか……?

 シオンの消息がつかめねぇと下手に動けねぇな……」


 シオンが敵だと分かっていれば、一緒にぶっ潰すだけなんだがなぁ……。


「それで、招喚者の事は分かったんだが……このマルルカって聖女は、招喚者じゃねぇんだな?」

「はい。この惑星の生まれで、敬虔なシオン教徒です。やはり17歳です」

「さすがはおギンだな、よく調べているな」

「はっ!ありがとうございますっ!」


「それで、勇者パーティーの仲はどうだ?そこまでは調べてねぇかな?」


 ん?おギンがちょっとムッとしたぞ。


「いえ、ちゃんと調べてございます!

 勇者ユリコと聖女マルルカは、非常に仲が良いです。一方で、この二人は、戦士アキュラスと魔導士マリーネルカとはあまり仲が良いとは言えません。

 なお、アキュラスとマリーネルカは男女の仲です。しかし……二人の間に愛情は感じられませんでした。不思議な関係です」


「おお!さすがだなぁ~おギン!お前さんは最高の忍びだ!いやつじゃ!」

「ありがたき幸せっ!」


 おお、機嫌を直してくれたようだ。よかった。


「ユリコとマルルカの魂の色は"スカイブルー"でした。

 アキュラスとマリーネルカの魂の色は、なんというか、黒にしか見えないような赤とでもいうのでしょうか?そんな色でした」

「うわっ!勇者たちがかわいそう~。大丈夫なのか?そんなヤツらとパーティーを組んで……??」


「アキュラスは、表面上は紳士を装っているようですが、獣人女性の性奴隷を3人隷属させていて、勇者パーティーを自分のハーレムにしようと考えている節があります」

「アキュラスの成敗は確定だな。その奴隷たちも絶対に早急に解放してやらないといけないなっ!」


 やはり、日本からの招喚者に間違いない。

 まったく!ラノベの読み過ぎだってぇの!異世界招喚、異世界転生ってなると、すぐにハーレムを作ろうとしやがる!

 ……お、俺は違うぞ!……ハーレムが勝手にできちまったんだからなっ!

 俺は違うぞっ!


「これは早いうちに勇者ユリコと、聖女マルルカに接触する必要があるな……。

 彼女たちの身が危険だぜ。それで……コイツらは強ぇのか?」

「はははっ!上様ならば、小指一本で倒せるでしょう!」


 おギンの調べによれば……


■勇者ユリコ:

  →STR70。全属性の上級攻撃神術と上級回復神術が使える。

■戦士アキュラス:

  →STR50。火属性中級攻撃神術のみ使える。

■魔導士マリーネルカ:

  →STR20。全属性の中級攻撃神術と初級回復神術が使える。

■聖女マルルカ:

  →STR8。上級回復魔法と上級防御魔法が使える。


 ということであった。よく調べてきている。頼りになるな、おギン!

 しかし……この程度で俺を討伐するだなんて……ちゃんちゃらおかしいぜ!


「いやぁ、見事だ!見事な調査だっ!褒めて取らす!褒美じゃ、受け取れ!」


 俺は、おエンにも渡した忍刀しのびがたなを一振り、おギンに手渡した。


「はっ!ありがたき幸せ!末代までの家宝と致しますっ!」


 ……ん?おギンが泣いているぞ?


「どうした?おギン?」

「はい……おエンが上様から忍刀を下賜されたと聞き、羨ましくて……。

 夜叉王丸ですらいただいているのに……私は……ううう……」


「お、遅くなってすまなかったな。

 だが……実はな、お前さんに今度会った時に渡そうと思っていたんだよ。

 俺はお前さんを頼りにしているぞ。今回の働き、見事じゃ!天晴れじゃ!

 これからも頼むな!心から頼りにしておるぞっ!」

「ははっ!」

「おっ!そうだ。これも進ぜよう!亜空間収納ポシェットじゃ!」

「あ、ありがとうございますっ!こ、これも欲しかったんです!

 おエンが自慢しているのを見て……ううう……」


 論功行賞って難しいなぁ……。

 おギンは隊長だからな、メンツもあるだろうし……。

 もう一つ何かあげておこうかなぁ……何がいいかなぁ……。

 身体全体に薄くシールドを展開できる指輪を生成した。


「これはお前さんだけだ。受け取れ!」

「はっ!恐悦至極に存じます!こ、これは婚約指輪でしょうか?わ、私も妻にして下さるのでしょうか?」


 えーーっ!なんでそうなるのぉ~!!


「いや、さすがにお前さんの意思の確認もせず、そんなことはしねぇよ。それは、飾りの部分をサッと撫でると、お前さんの身体の周りに極薄いシールドを生成してくれる指輪だ。身体にぴったりとフィットしたシールドだから、行動の邪魔にならねぇから、使い勝手がいいぞ。使ってくれ!」

「はっ!……あ~ぁ、婚約指輪だと思ったのになぁ……」


 ん?最後の方は声が小さすぎて聞き取れなかったぞ……?


「おギン、何か言ったか?」

「い、いい、いえ!な、なんでもありませんっ!ありがとうございましたっ!」

「よしっ!では、引き続き、シオン神聖国の調査の方は頼んだぞっ!」

「ははっ!」


 おギンはどこかへと転移していった。

 ん?なんだか肩を落としていたような……気のせいかな??



 ◇◇◇◇◇◇◇



 おギンからの報告を受けた後、すぐに、カーラの家族をヴァルジャン村へ迎えに行ってきた。これでみんなが揃ったことになる。


 マンションに戻った俺は、マンションの住人全員に、おギンに渡したものと同じ機能を付加した指輪をプレゼントした。

 指輪のデザインはおギンのものよりもちょっとだけゴージャスにしておいた。

 これから、今日のように、俺から離れて活動する機会が増えるかも知れない……そう思った俺は、極薄シールド発生機能付きの指輪をみんなに持ってもらった方が良いと判断したのだ。


 シオリとさゆりは自分自身でシールド展開可能なので、渡さなくてもいいかとも思ったのだが、不要なら回収すればよいと考えて、二人にも渡すことにした。

 結果的に正解だった。すごく喜んでくれたのだ。


 なぜか、みんな左手の薬指に指輪を嵌めている?

 なんとなく意味は察したが……この世界にも地球と同じような習慣があるのか?



 ◇◇◇◇◇◇◆



 この前参加できなかったスリンディレたち視察団にもバーベキューパーティーを楽しんでもらいたくて、神殿関係者のみんなに都合を聞いて回ったのだが……。

 俺が顔を出すだけで……


『あ、そのお顔はバーベキューパーティーっすね!?参加します!OKっす!』

『おお、今夜はバーベキューパーティーですか?嬉しいです。絶対参加します!』

 ………………

 といった感じで、みんな俺の話を聞く前に参加の意思を表明した。

 あんな毒殺騒ぎがあったのに……は・は・は。


 カーラの家族も今回が初めてなので、ヴァルジャン村へ迎えに行った際に、バーベキューパーティーへ参加するかどうかを聞いてみたのだが、こちらも即答で参加してくれることになった。カーラから話を聞いていたそうだ。


 今回も、ひとりでも参加しない人がいたらやめようと思っていたのだが、嬉しいことに全員が参加してくれる。

 今夜も前回同様に、ひとりの欠席者もなく、神殿関係者、農業従事者、俺たちの全員が参加するバーベキューパーティーが開かれることになったのだ。

 これは楽しみだ!


 いつもならもう夕食を食べ始めているような時間から準備を始めることになる。

 子供たちもいるし、あまり遅い時間にはしたくはない。

 俺が何も言わなくても、シオリとさゆりが手伝ってくれたので、あっという間に会場の準備が整う。いつもよりも30分程遅くなったくらいで開始することができたのだ!


「……ということで、それではっ!かんぱーーいっ!」

 "かんぱーーーいっ!"


「あ、そこっ!生肉を掴んだトングで、焼けた肉を皿に取るのはやめておけ!

 腹痛になるぞ!前回も言っただろっ!?」


 誰にも迷惑がかからず、みんなで楽しむバーベキューパーティーって、やっぱり楽しいなぁ!


「おう、ハニー、どうだ?こういったパーティーも悪くねぇだろう?」

「はい。楽しいですわ。これからも機会があれば参加したいです」


 若いピチピチのスリンディレが楽しそうにしている。


「どうだった?お前さんが17歳になったのを見て、みんなの反応は?」

「うふふ。みんなの目が飛び出しそうでしたし、アゴが外れたのか?と思えるほど口を開けて驚くんですもの、おかしかったですわ。ふふふ」

「だろうな。でも見たかったな!」


 スリンディレが微笑む。


「32歳のお前さんもすげぇ魅力的だったが、今のお前さんも、輝いているように美しいな!……ピチピチギャルのお前さん、最高だぜ!」


 スリンディレが頬を染める……。

 その横で、レキシアデーレがにこにこしている。


「どうだ?レキシアデーレ、楽しんでいるか?」

「はい。ありがとうございます。とても楽しいです!

 みんなで集まってこうしたパーティーをするのもいいものですね」


 無理しているようには見えないな、よかった。少しでも気晴らしになればいいのだが……。

 二人は俺に対して深々と頭を下げてから、視察団の一行が話をしているところに合流していく……。



 今夜も当然、酒類は用意していない。

 酒なんて無い方がみんな楽しめていいような気がするな。


「上様!少しよろしいでしょうか!?」

「ん?えーーと?お前さんは確か……」

「中央神殿騎士隊長をしております、バルバラ・クラルグ・エザリントンです」


 おお、ここの騎士隊長は、女性なのか。


「おう!よろしくな。それで用件はなんだ?」

「はっ!そのう……神殿騎士見習いの4人を、すぐに騎士に任命されるおつもりと伺いましたが本当でしょうか?」

「ああ、そのつもりだが、お前さんのところまで話が通ってなかったのか?

 そうだとしたらすまん。真っ先にお前さんに伝えるべきだった。許してくれ」

「い、い、いえ、それはお気になさらないで下さい。私が気になっておりますのは彼女たちが本当にそれだけの実力があるかということなのです。

 いくら人手不足だとはいえ、誰でもいいというわけではないと思います」


「なるほど。それはもっともな話だな。お前さんは、彼女たちの実力を知りてぇとおもっているんだな?実力が足りねぇ時は騎士としては認めねぇと?」

「恐れながら……そうです」


 うん、真面目ないい子だ。こういう子が隊長をしていてくれると心強いな。


「俺はいい部下を持ったぜ。お前さんのような人物が隊長でよかった。忌憚のない意見を言ってくれてありがとうな」


「い、いえ。出過ぎたまねをして大変申し訳ございません」

「いやいや。これからも気が付いたことがあったらどんどん言ってくれな。頼む。

 それで、どうするかなんだが……、どうだ?お前さんとお前さんが選んだ優秀な部下と彼女たちと模擬戦をしてみては?彼女たちの実力がねぇとお前さんが判断したら、その時は騎士への昇格は暫く保留しようと思うが……どうだ?」


「はい!是非、お願いしたいです!」

「よしっ!それじゃぁ、明日の午前はどうだ?都合が悪ぃか?……っと俺が勝手に決めちゃぁだめだな。

 お前さんたちや見習いの4人の都合もあるだろうしなぁ……。

 お前さんの方で日時を調整してくれねぇか?

 それで、後で教えてくれねぇかなぁ?どうだ?」


「はい!承知しました!模擬戦の日時を調整して後ほどお知らせに上がります」

「ああ、頼む。それと……ありがとうな。ホントお前さんが隊長でよかったぜ!」


 バルバラ・クラルグ・エザリントンは、自信に満ちた顔をして去って行った。



 ◇◇◇◇◇◆◇



 飲み物がそろそろ足りなくなるかも知れないと思い、ドリンクディスペンサーの残量を確認しに行く……。

 お、さすがはシオリだ。もう既に確認をしてくれている。ちょうど確認が終わるところだ。本当にハニー、シオリはできる子だな!

 さゆりは……おっ!この子も気が付くいい子だ。肉類の補充をしてくれている!


『シオリ、ドリンク補充、ありがとうな。助かる』

『いえいえ』

『さゆり、食材の補充、ありがとう。助かるよ』

『は~い』



 俺はふと毒殺事件のことを思い出し、マップでみんなの状態を確認する……。

 今回は大丈夫そうだな……。


 そういえば、代官の妻、カミイラル・ジェイペズはどうなったのかな?

 ん?まだ生きている!?あれ!?今いるのは魔獣の森だよなぁ!?

 まさかあんなに魔物がウヨウヨしている中で未だに生き残っているのかっ!?


 マップを拡大してみると、彼女の近くに7つの生命反応がある。ターゲット指定して確認して驚いた!なんと!勇者じゃないかっ!勇者一行が彼女の側にいる!?

 魔獣の森の中、彼女を守るようにして森の外へと向かっている。

 戦士アキュラスの奴隷3人も一緒のようだ。合計8人がともに行動していた。


 そう……どうやら、勇者一行に命を助けられたようだ……悪運が強い……。

 勇者一行が一緒にいては……今は手出しができんな。マーキングはしてあるし、暫くは様子を見るか……。

 しかし、しまったことをしたなぁ、カミイラルを転送した先が、シオン神聖国の近くの森だったなんてなぁ……。よく確認するべきだった。



 さゆりが俺を目がけて駆けてくる。


「ダーリン、さっき言ったんだけど、なんかボーッとしてたみたいなんでぇ~もう一回ちゃんと伝えるね?……マーラーの交響曲第5番他手に入ったよ」


 なんか、みんなと盛り上がっていたからなのかテンションが高めだな。

 これくらい砕けた言葉遣いの方がいいな。


「そうか、ありがとう!嬉しいよ。……それと、その話し方の方が親しみ深くっていいぞ」

「す、すみません。つい……」

「いや、だから怒ってねぇって、そのままでいいって!友達みたいに話そうぜ。

 その方が気楽だいいからよ。なっ?同じ日本出身なんだからよ」

「うん、分かった。そうするね。ダーリン。うふふ。今夜はよろしくね」

「ん?なんだっけ?」

「ううう、ダーリンのいけず……。"伽"のことですぅ」

「あ……ああ。よろしくな。な、なんか照れるな……」

「うふふ。優しくリードし・て・ね!うふっ!」


 は・は・は……。


 >>マスター。必要になり次第、精力絶倫モードへ自動的に移行しますのでご安心下さい。私にドンとお任せ下さい。


 は・は・は……はぁ~~~。



「でね、データストレージを確認する画面があるでしょ?私が今から送るデータをそこに一旦保管してね」

「おう。分かった」


 ピロリン!……受信完了だ。


「よし、入れたぞ?それでどうやって聞くんだ?」

「まずは聴きたい曲を検索してみて。たとえばマーラーの交響曲第5番かな」

「おっ!リストに出てきた。結構いっぱいあるな……小澤さんが指揮しているのもあるじゃないか、これはたまらんなぁ……。ありがてぇ!」

「どれでもいいから、ターゲット指定して、再生って念じてみて。すべて脳内再生形式データになっているから、自動的に頭の中に音楽が流れ出すから」

「ああ、来た!曲が流れ出した!第4楽章へ移動っと。……ああ、なるほど。後は直感で分かるわ。ありがとうな。さゆり!」

「えへへ。役に立てて嬉しいわ。実は私とシオリさんの分も送らせたんだ」

「みんなで聞きてぇ時は……ってそれは無理か……。お前さんとシオリとは感動を共有できるからいいか……」

「手はあるよ。念話回線を繋げばいいんだよ」

「おお!なるほど!お前さんは賢いなぁ!できる女だぜ!」

「でへへぇ~~」


 なんと愛らしい笑顔なんだ!頬を染めての満面の笑みだ!


「それからね。キャルちゃんとシャルちゃん、シェルリィは、今日はラフちゃんのところでパジャマパーティーだって。友達と一緒に泊まるそうよ。ラフちゃんちのベッドを大きくしてあげないとダメかもね」


「キャルもシャルも、シェルリィも、折角のバーベキューパーティーなのに、俺の相手をしてくれねぇ……さみしいなぁ……」

「ははは。でもね、彼女たちは勘が鋭いからね、気配りのできる幼女たちだから、きっと彼女たちは気を使っているんだと思うよ。ダーリンに、何かがあったことが分かっているんだと思う。今日のダーリンは怖い顔してたし……」


「そ、そうか……。俺って幸せ者だよな……。いい人たちに囲まれて……」


 幼女たちにさえ、気を使わせちまったのか……。



 ◇◇◇◇◇◆◆



 今夜のバーベキューパーティーは何事もなく終わった。

 みんなはとても楽しそうにしていたのが嬉しかった。会を開いた甲斐がある。

 お開きだと告げた時に『えーっ!?もう終わっちゃうのぉ~!?』とみんなから声が出た。それこそがどれだけ楽しいひとときであったかを物語っている。

 必ずまたバーベキューパーティーを開催することを、みんなには約束させられてしまったのだが……それは俺も望むところである。



 ◇◇◇◇◆◇◇



 昨夜は、ソリテアが作ったスケジュールにちゃんとしたがったぜ。どうだ!

 六根ろっこん清浄しょうじょう一根いっこん不浄ふじょう。美女たちに迫られたらさすがに……。

 抵抗は無意味だ!!


 相手は、シオリとさゆり、スケリフィ、カークルージュ、スリンディレだった。

 さすがに……神子たちの時のようにいっぺんにお相手するのは気が引けたので、ムードを大切にしてひとりずつお相手したのである!どうだ!

 俺の辞書に"賢者タイム"は存在しない!なぜなら、全知師によって強制的に精力絶倫モードへと移行されてしまうからだ!


 さすがに今朝は寝不足気味だ……。

 ん?みんなとは別々にそれぞれの部屋でお相手したのに……なぜか目が覚めると5人が揃って俺のベッドで寝ているぞ?どういうことだ?


「ん……んん……。あ、ダーリン、おはようございます」

「えーと、スケさん、みんなが一緒にいるのはどうしてなんだ?」


「ああ、それはですね。神子のみなさんは3セットずつ"いたした"ということで、ソリテアさんから『ちゃんと3セットして下さい』と言われて……私たちも、もう2セットしましょうということに……ダーリンが寝ている間に、みんなでがんばりました!うふふ」

「は・は・は……そ・う・な・ん・だ……」


 そ、ソリテアは真面目すぎるぅ~~っ!

 精力絶倫モード、すごすぎるぅ~っ!


「ダーリン、ありがとうございます。これでゴブリンの件は完全に吹っ切れた気がします」

「こちらこそ。俺の妻になってくれてありがとう。君の初めてをありがとうな」

「……ううう……」


 スケさんはさめざめと泣いた……。



 ◇◇◇◇◆◇◆



 昨夜、パーティーが終了するちょっと前に神殿騎士隊長のバルバラが俺のもとへやって来て……騎士見習いの4人との模擬戦を、今日の朝9時頃から神殿前広場で行うことになったと知らせに来た。


 そして今、俺の前には、神殿騎士隊長とその精鋭部下3人と、神殿騎士見習いの

4人、その指導役のスケさんとカクさんがいる。

 俺が模擬戦開始を告げるのを今か今かと待っているのだ。


「各、準備はよいかっ!?ではっ!始めっ!」



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