第0022話 成り済ます鬼畜

「シェルリィ、この部屋が今日からお前さんの部屋だよ。

 自由に使ってくれていいからね」


 神殿マンションの5階、一番西の部屋をシェルリィに使ってもらおうと思う。


「ありがとうございます。

 でも……ひとりだけというのは、ちょっと怖いのですぅ。

 お願いです、神様のお部屋においてもらえませんか? ダメですか?」


「そうか……。

 キャル、シャル、このお姉ちゃんも一緒いっしょに住んでもらってもいいよね?」


「いいともーっなの! だいかんげいなのぉ!」

(こくこく!)


「キャルちゃん、シャルちゃん、ありがとう。 よろしくお願いします」

「よろしくなのぉ~!」

(こくり!)


「まぁ、でも一応、この部屋はシェルリィの部屋としておくからね。

 自由に使ってくれていいから。

 キャルとシャルにもちゃんと自分の部屋があるんだよ。

 そうだよね~、キャル、シャル」


「そうなのぉ! おっきいへやがあるんだよぉ~」

(ふむふむ!)


「本当にありがとうございます。 ゆ、夢のようですぅ……ううう……」


 シェルリィはハラハラと涙をこぼす……。

 絶対にこの子も幸せにしてやらなきゃなっ!


「ところで、シェルリィは将来しょうらい何になりたいの?」

「神官になることだけ考えてきましたので……よく分かりません」


「そっかぁ~。当たり前かぁ……。

 まぁ、これから色々経験して、ゆっくり自分のやりたいことを見つければいいさ。あせることは無いからね」


「はい」


「じゃぁ、みんなのところへ行こうかっ! お昼ご飯を食べよう!」

「おおーっなのぉ!」

(おおーっ!)

「おーっ!」


 お? シェルリィもキャルとシャルにつられて……

 右拳みぎこぶし真上まうえに突き上げるようにしてげたぞ!

 ……まるで本当の三姉妹みたいだな。ははは。みんなかわいいなぁ~。



 部屋割りを確認しておこうかな……えーっと。


10階。東から、シン(シェルリィ、キャル、シャル)、シオリ。

 9階。東から、スケリフィ、カークルージュ、キャル、シャル。

 8階。東から、ソリテア、インガ、ヘルガ、タチアナ・ロマノヴァ。

 7階。東から、ディンク、カーラ、ゼヴリン・マーロウ、さゆり。

 6階。シェリー、ラヴ、ラフ、ミューイ。

 5階。神殿騎士試験受験生の3人が住む。最も西の部屋にシェルリィ。

 4階。空き部屋が4部屋。

 3階。東から、ニング、ロッサナ。空き部屋が2部屋。

 2階。東から、ベックス、ティーザ、レイチェ、タニーシャ。

 1階。食堂兼多目的ホール。厨房他。


 仲間が増えたなぁ~。

 空き部屋ばかりでどうしようかと思っていたが、残りあと6部屋か……。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「たこやき、さいこーなのぉ!」

(ふむふむ!)


 今日の昼食には、たこ焼きも出してみた!


 今までのバイキングメニューには入れてなかった。

 みんなはめずらしそうにじっくりと観察してから、おっかなびっくり食べ始める。


「これは美味しいですわ! あ、2種類あるんですわね?」

「ああ、タレをかけたのと、シンプルなだし醤油じょうゆのヤツとな。2種類ある。

 ゼヴリンはどっちが好みだ?」


 最初にだし醤油じょうゆの方を食べたゼヴリンは、続いてタレがかかった方を食べる……


「えーと……私はシンプルな "だし醤油じょうゆ" の方が好きですわね」

「おお! 気が合うねぇ~。 実は俺もなんだ!」


 他のみんなも食べくらべを始めた……。



「あのぉ~、たこ焼きのぉ、"たこ" ってぇ~、何ですかぁ~?」

「そうか……知らねぇのかぁ? タチアナ、見せてやる! これだ!」


 空中に、たこの動画を表示させた。

 みんなの動きがかたまる!


「きゃぁ~! きもちわるいのぉ~!」

(……)


「まぁ、見た目はアレだけど……美味うまいんだろ?」


 みんながうなずいている。


「な、美味うまけりゃそれでいいじゃねぇか?」


「そうですね~、さわるのはぁ~、ちょっと無理かなぁ~って思うんですけどぉ~、

こうなっちゃえばぁ~、平気ですね~。 美味しいですものね~」


 タチアナが、たこ焼きをフォークでし、目の前まで持ち上げて左右に振る。


 みんなも "うん!うん!" とうなずいている。


「おいしいはぁ~、せいぎなのぉ!」

(!?)


 ははは……、どっかで聞いたことがあるような無いような……。


 シャルが首をかしげている?

 キャルの言ったことに首をかしげるなんて……めずらしいな。こんなこともあるんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◆



 神都の南約1900kmの位置にある大きな町、カレグザム。

 その町の神殿も7大神殿ななだいしんでんのひとつである。


 ヘルガはその神殿で、お后候補きさきこうほとして選出された。


 ヘルガの実家があるフロルセンドゥ村は、カレグザムの東南、約40kmの位置にある。 海に隣接りんせつしており、農業の他、漁業もさかんな大きく豊かな村である。


 例によって、"地元ピープル" のヘルガのアドバイスにしたがって、村人らしい服装に変装してから村の近くの林へと転移してきた。


 しばらく歩くと立派りっぱ防壁ぼうへきと門のようなものが見えてくる。

 村というよりは町のようだ。



 今回の旅は非常におもい……。


 ぶよぶよオーク野郎、"ケーニッヒ"に無惨むざんにも殺されてしまった、ノルムの本当の統括神官、カルメデオ・ストリドムの娘さんに会わねばならないからだ。

(→第0008話参照。)


 彼女、レキシアデーレ・ストリドムは、今、中央神殿を離れている。


 側仕そばづかえをしている神官が、各地をめぐって地方神殿を視察しており、彼女はその旅に同行しているのだ。


 今、彼女たちはちょうどこのフロルセンドゥ村の神殿にやって来ているらしい。


 どういうわけか、中央神殿に、事前に提出されていた行動スケジュールとは大きく異なっているため、位置を特定するのに非常に苦労した。


 といっても、実際に苦労したのはシオリなんだが……。

 彼女がいてくれて本当に助かる。 最高のパートナーだ!



 フロルセンドゥ村の入り口には、ちゃんと検問所けんもんじょがあった。


 ヘルガは神の后候補きさきこうほに選ばれたこともあって、この地方では有名人である。

 だから、検問所もヘルガの "かお" でトラブル無く通過することができる。


 まさにかおパスってやつだな!



 ヘルガの実家へと向かっている。


 一軒いっけんの飲食店の前まで来ると、昼間っから酒を飲んでいる若者たちがいた。

 何やら大声で話をしていて、店の外まで丸聞まるぎこえである。


「俺が将来、立身出世りっしんしゅっせしても、俺はお前のことを忘れんぞ! ずっと友達だ!」


「けっ! 偉そうに! ……やい! チンショウ! お前バカじゃねぇのか?

 やとわれ農夫のうふのお前が出世? ははは。 笑わせるぜ! 王にでもなるつもりか?」


「あーあ。 お前みたいな小物にゃ、俺の気持ちは分からんよ……」


 ん? 陳渉ちんしょう? 故事こじを思い出すな……会話の内容もそっくりだぞ?

 "燕雀安えんじゃくいずくんぞ鴻鵠こうこくこころざしを知らんや" だったかな……。


 チンショウか……、

 そのうちに農民を率いて俺に反旗はんきひるがえしたりしてな……。


 そんなことを考えていると、俺たちが進もうとしている方向で、何やら人だかりができている!?


 見てみると、一人ひとり可憐かれんな女性が、なわたれて、衛兵えいへいてられようとしているところだった!?


 彼女の魂の色は"青"。 とても罪人には思えないな。

 俺の近くにいた野次馬の兄ちゃんに事情を聴いてみる……


にいちゃん、わりぃけど教えてくれねぇか? あの女性は何をやらかしたんだい?」


「ああ、大きな声じゃ言えねぇがな、クソ領主に逆らったんだよ!

 メイドとして、屋敷やしき奉公ほうこうへ上がるように言われたのをことわったらしいぜ。

 それでな……」


 この兄ちゃんから聞いた話によると……

 前の領主が神殿しんでんいかりを買って更迭こうてつされて、5週間ほど前から今の領主に代わったらしいのだが……。


 どうやら今度の領主は "ひひじじいのクソ野郎" らしい!?


 視察としょうして、ヤツはしょっちゅう村を巡回じゅんかいするらしいのだが……。

 その巡回の本当の目的は、実は自分好みの美しい女性を探し出すことだという。


 そして好みの女性が見つかると有無うむわさず、すぐにメイドとして屋敷に奉公ほうこうがるようにと要求するのだそうだ。


 だから、領主が巡回に出たという知らせがあると村人たちは、娘たちを領主のれさせないようにかくすらしい。


 話の途中、妙に引っかかる事を聞いた……

 それは、一旦いったん奉公に上がった女性で、いまだ帰ってきた者はいないということだ。

 家族の者が会いに行っても面会めんかいすらさせてもらえず、追い返されるという。


 絶対に何かあるよな? 後で領主のやかたを調べに行こう……。



 今なわを打たれている女性は無事に戻れないかも知れないという事を知って、奉公の話を断ったらしい……

 すると今度は『領主を侮辱ぶじょくした』という"かり"をつけてきて、現在の状況と相成あいなったわけである。 今、まさに "しょっぴかれ" ようとしているのだ。


 許せんな! ったくよう!


 平和へいわボケした日本人をやっていたから俺の感覚がおかしいのかと思っていたが……

 これはどう考えても、この世界にはゲス野郎が多すぎるよなっ!


 こういう仕様なのか??


 仕様といえば……地球のぼう世界的ソフトメーカーは、バグを指摘して、その修正を要求すると、必ず、『これは仕様です』と言ってっぱねやがったよな。 どう考えてもバグなのになぁ……。


 はっ! いかん、いかん! 余計よけいなことを考えてしまった……。


「スケさん、カクさん、念のためにヘルガをまもれ!

 さゆり! 俺が衛兵えいへいの相手をする!

 お前さんはそのスキにあの子をすくって、ヘルガたちのもとへもどれ!」


「「「「はいっ!」」」」


 俺とさゆりは、高速移動で衛兵と女性との間に移動する。

 衛兵の魂の色は赤黒い。 こんなヤツが衛兵なのか!?


「やい、衛兵! その子はてめぇには渡せねぇ! とっとと帰りやがれ!」

「だ、誰だ貴様! 邪魔をすると容赦ようしゃはしねぇぞ! ……あ! 待ちやがれ!」


 さゆりが衛兵の意識が俺に向いたスキを突き、見事、女性を救出してヘルガたちのもとへと連れ去ったのだ!


 しかし……どうも衛兵らしからぬ口調くちょうだなぁ??


「おっと! てめぇは、あの子のもとへは行かせねぇぜ!

 大人しくあきらめるか、俺にボコボコにされるのかどちらか好きな方を選びな!」


「何をバカな! そこをどけっ! どきやがれ!」


 衛兵は剣をいて俺を袈裟懸けさがけにしようとする!


 だが! 剣は俺に触れた瞬間に "バキッ!" という音とともに折れる!


 驚愕きょうがくしている衛兵を見て、思わず "ニヤリ" としてしまう。

 おどろいてかたまっている衛兵のカブトの上からデコピンをお見舞いしてやった!


 ブベッ! グハッ! ズダンッ! ドタンッ……


 そう、いつものやつだ……。

 強制的にバック転させられながら、地面をバウンドしていった!



 俺がヘルガたちのもとへと戻るやいなや……

 50人程の衛兵がわらわらと集まってくる!?


 ……俺たちは完全に包囲ほういされてしまったのだ!


 周りをざっと見回みまわして気付く……みょうだなぁ?

 というのも、ほとんどの衛兵の魂の色が赤黒いのだ!


 なんだぁ? こんなことがあるのか?

 ここにいるのは本当に衛兵なのか? まともなヤツは見た限りではいないぞ?


 衛兵の垣根かきね、その向こうには、えらそうに馬に乗った "太った男" がいる。

 俺と目が合うと、ニヤリと笑いやがった!


 ほおぅ? あれが領主りょうしゅだな?


 領主自らが、俺たちが進もうとしていた方から馬に乗ってやって来たのだ。

 魂の色はかなり黒に近い赤色だ! クソ野郎確定である!


おろものめ! ワシに逆らうとはバカなヤツらじゃ!

 ……おっ? いい女じゃねぇかぁ……しかも、4人が4人ともいい女だ!

 うひひひっ! みんなワシがいただいてやるぜ! たまんねぇなぁ~。

 おい、小僧! 大人しく女どもを差し出せば、半殺はんごろしだけで勘弁かんべんしてやるぞ!

 どうだ! いい話だろぅ? はははははっ!」


 寝言ねごとてから言って欲しいよなぁ……。ふぅ~。

 俺はスケさん、カクさん、さゆりにオリハルコン製の剣を生成して渡す。


「さゆり! ヘルガと娘さんを頼む!

 スケさん、カクさん、かまうことはない! たたってやれ! 容赦ようしゃ無用むようだ!」


「「「はっ!」」」


 スケさんもカクさんも衛兵どもをよろいごとガンガンはらっていく!

 彼女たちの一振りで、一度に3~4人が鎧ごと両断りょうだんされていくのだ!


 あまりにもあざやかな切れ味に、斬られた瞬間、衛兵たちが "えっ?" と言う表情を浮かべる! 彼等は事態が飲み込めないうちにこの世の生を終えるのであった!


 あたりに強烈な "鉄さび臭" がただよい出す!

 あたり一面が血の海だ! そして、どんどんと広がっていく!?


 いやぁ~、スカッとするなぁ!

 ……と言いたいところだが、凄惨せいさんきわめた光景に気持ち悪くなってきた。


 少人数しょうにんずう大人数おおにんずうを相手にする時は、なさけをかけていては自分がやられてしまう!

 容赦ようしゃしていたんじゃ命取いのちとりになってしまうのだ!


 だから、いちいち魂の色を見ながら斬っていく余裕は無いだろう。

 二人は、彼女たちのはばむ者を容赦ようしゃなくぶった切っていく!


 衛兵の中に魂の綺麗きれいなヤツがいたら、あとで蘇生そせいしてやろうかな……。



 さゆりは自分自身とヘルガ、そして、先ほど助けた娘さんをかこむ領域にシールドを展開てんかいし、防御ぼうぎょ専念せんねんしている。 これならほうっておいても大丈夫だ。


 あれ? いつの間にか、おエンも参戦している!?


 まわりの状況を冷静に判断できる余裕があると思ったら……

 俺に斬りかかって来るヤツを、おエンが始末しまつしてくれていたのか!?


「おエン! ありがとう!」

「はっ!」


「それじゃぁ『真打ち登場!』と行きますかぁ! ……転移!」


 転移して領主りょうしゅ背後はいご、馬のまたがり……

 領主にスリーパーホールドを "かる~く" 喰らわす!


 俺は両腕で領主の首を "かる~く" めてやろうと思ったのだ……が……


 ブチッ! ブシューーーッ!


 し、しまった! 頭がちぎれた!

 またやっちまったぜぇ~! ち、ちから加減って……難しいなぁ……


 うわっ!? 血がき出してきた!?

 うすくシールドを展開していてよかったぁ、あやうく血まみれになるところだったぜ!


「おいっ! 手下ども! これを見やがれ!」


 馬のの上に立ち、右手で "ちぎれた領主の頭" を、髪の毛を持って高くかかげた。


 ドブシャッ!


 その瞬間、頭を失った領主の身体が!?

 ドピュ! ドピュ! と脈打みゃくうつように血を吹き出しながら馬から落ちた!?


 いやぁ、びっくりした!

 思わず "ビクッ!" としてしまったぜ……は・は・は。


 領主のすぐそばにいた側近そっきんたちは数秒固まった。 真っ青な顔をしている。


「と、殿とのぉーーっ!」


 側近そっきんのひとりが大声をあげながら、領主だったむくろのもとへと向かおうとする。

 その様子を見て俺は、かんはつれず、降伏こうふくを勧告する!


降伏こうふくしろ! さもなくば皆殺みなごろしにするぜ? ……抵抗ていこう無意味むいみだ!」


「おのれぇーーーーっ! おかしらかたき!」


 領主だったむくろへと向かおうとしていた男がりかかってくる!


 俺は馬上に立った状態から向かってくる男を飛び越えてかわそうとしたんだが……

 男を飛び越えようと右足を前に出した瞬間!


 ガッ! ブチッ! ブシューーーッ! ………… ドサッ!


 直後、斬りかかってきた男の頭がちぎれて吹っ飛んだ!

 ちぎれた男の頭はかなりの距離を飛んで行き、地面へと落下した!


 何が起こったかというと……

 男は俺にりかかろうと急にがったため、男を飛び越えようとしている俺の右足のつま先が、男の顔にあたってしまったのだ!


 頭を失った男の身体は後ろ向きに、ゆっくりと倒れていく……

 ちぎれてしまった首があったところからは脈打みゃくうつように血が吹き上がっている!


「あ~あ! 急にがって斬りかかってくるんだもんなぁ……

 足があたっちゃったじゃないかぁ! 思わず顔をっちゃったよぉ!

 ……………………?

 ん? おかしら? 領主のことだよな? 妙な呼び方をするもんだな?」


 "ひいいぃっ!"

 ガシャン! ガシャン! ……


 他の側近そっきんたちは抵抗ていこうをやめ、武器を手放てばなしてひざまずいた!

 その他の衛兵たちも側近たちにならって武器を手放す。


 ふと前方を見ると、スケさん、カクさんはヘルガたちのもとへと移動していた。

 手向てむかってきた者の殲滅せんめつが終わったからだ。


 スケさんもカクさんも全くの無傷むきずである。 さすがだ!


 敵で生き残ったのは、俺の前にいる領主の側近を含めて10名程だ。


 素直に降伏した者たちだけが残った。

 抵抗しなかったからそいつらは無傷であった。


 ちょっとでもスケさん、カクさん、おエンに戦いをいどもうとした者は……

 彼女一太刀ひとたちもあびせることができずに、すべてが血の海にしずんだ。


 一刀いっとうのもとに両断りょうだんされてしまったのである!


 つまりここの場では……無傷か、死か、しかなかったのだ!



 あたりは血の海。 両断りょうだんされた累々るいるいたるしかばね……。

 すべてのしかばねは見事なまでに綺麗きれい切断面せつだんめん両断りょうだんされててていた。


 馬上から地上へと降りると、領主の頭を側近たちの目の前に突き出し……


「おい、てめぇら!

 このクソ野郎が拉致らち監禁かんきんしている女性たちのところへ案内しろや!」


 領主の魂の履歴を確認して分かったのだ!


 なんと! コイツらは、この近辺きんぺん縄張なわばりとしていた盗賊団だった!

 領主とその部下になりすましていたのだ!


 ニセ領主、盗賊のかしらは バルテック という名だった。


 道理どうりで領主の側近そっきんが"おかしら"と呼ぶはずだわ……。



 盗賊のかしら、バルテックは、このフロルセンドゥ村を含む6村の前領主が、神殿によって更迭こうてつされたことに目をつけた。


 神都から赴任ふにんしてきた新領主一行を道中どうちゅうせして皆殺しにし、自分たちが領主一行になりすますことを思いついたのだ。


 そして、まんまと悪巧わるだくみは成功し、この村他をすべて支配下に置いたのである。


 ノルムの町で統括神官とうかつしんかんになりすましていやがった、ぶよぶよオーク野郎……

 元々は盗賊のかしらだった男、ケーニッヒとダブった。 クソッタレ!


 ノルムの町の、本当の統括神官の娘、"レキシアデーレ・ストリドム"が今滞在しているこの村が、まさか、こんなことになっているなんてなぁ……。



 ◇◇◇◇◇◆◇



 ニセ領主のやかたへは、俺とおエンだけで向かうことにして……

 スケさんとカクさん、ヘルガ、さゆりには先に神殿へと向かってもらった。


 ノルムの町の、本物の統括神官"カルメデオ・ストリドム"の娘、レキシアデーレを見つけてもらって、俺から話があると伝えてもらうことにしたのだ。


 俺が彼女に会う前に神官の気まぐれで、またふらっとどこかへ行ってしまうとかなわないからなぁ……。



 俺とおエンがニセ領主の館へ向かうのは、ニセ領主が監禁かんきんしている女性たちを救出するためである!


 一応説明しておくが……

 ニセ領主の側近二人を残して、残りの盗賊どもは、スケさんとカクさん、おエンが成敗せいばいした死体もろとも、ぱだかにしてサメの海へと転送してある。


 あたりに広がっていた血の海も凍らせて、ヤツらと一緒にサメの海へと転送してやった。 このまま血の海にしておいたんじゃ、村人が困るだろうからなぁ。


 転送の前に、盗賊ども全員のプライマリキー情報を"輪廻転生りんねてんしょうシステム"のブラックリストにちゃんと登録してやったから……

 サメに喰われて死んだ後にヤツらを待っているのは……恐ろしい地獄だ!


 "奈落ならくシステム"でたっぷりと地獄の苦しみを味わうことになる!



 ニセ領主のバルテックの "あたま" だけは残してある。


 後で蘇生させて、ヤツらの被害者たちに復讐ふくしゅうさせてやろうと思っているからだ。

 側近の二人諸共もろとも、被害者たちに引き渡して、好きなようにさせようと思っている。


 恐らくは被害者やその家族たちの手でなぶり殺しにされるだろう……。


 極悪人ごくあくにんにゃ人権なんていらねぇ! それにただ殺したんじゃ手緩てぬるい!


 おのれ罪深つみぶかさを、た~っぷりと思い知らせてから殺す!

 当然、ヤツらには死後も地獄が待っている! 死後、魂を奈落システムへ送致することは確定事項なのだ!




「こ、この下が女たちがいる地下室です。 あの……お覚悟かくごを……」


「覚悟ってのは何だ?」


「め、目をおおいたくなる、ひどい状況ですので……きついっすよ。覚悟かくごして下さいね」


 マップで地下室の状況を確認すると……

 十数名の弱々しい生命体反応が確認できた。 そのすべてが女性のものだ。


 急がねば……


 俺たちは地下へと降りて、地下室への扉を開ける……。

 直後! 鼻をおおいたくなる強烈な異臭いしゅうが俺たちをおそった! 吐きそうだ……



 地下室の中は薄暗うすぐらくてよく見えない。


 目が慣れるのを待ってもよいのだが……

 神術で光の輪を天井に張り付けるように10個出す。例のまるでLEDシーリングライトのようにも見えるあれだ!


 光に照らされて明らかになった地下室の状況に、怒髪天どはつてんく!


 拷問ごうもん部屋か!?


 監禁されている女性たちは全員が全裸ぜんらにされていた!

 目のやり場には困ったが、そんなことを言っている場合じゃなかった!


 ここは拷問ごうもん博物館はくぶつかんじゃないかと錯覚さっかくしてしまう。色々な道具がそこにはあり……

 それぞれで、女性たちがひどわされている!?


 すぐに助けなくては!

 うっ!? アイアンメイデンまであるのかっ!?


 そのアイアンメイデンは閉じられている!?


 うわっ! 血がしたたっている!

 ああ……かわいそうに……。 ひでぇことをしやがるっ!


 "見えざる神の手" を複数出して、女性たちそれぞれをつつむように配置はいちし……


拘束解除こうそくかいじょ! 完全浄化! 完全修復! 下着&衣服類装着!」


 まずは女性たち全員をから解放し、浄化、修復、衣服等を装着させる。

 ……えず、この部屋での生存者のすべてを回復させた。


「おエン! 上に行って、ロビーで待機たいきしていてくれ!

 俺がここから女性たちをロビーに転送するから、ロビーに寝かせてやってくれ!」


「はっ!」


 おエンがこの屋敷やしきの入り口にあったロビーに到着するのを待って……

 今回復させた生存者たちを一気にそこへと転送した。



 ん? この地下室の向こうにも部屋があるようだな……うわっ!


 そこには被害女性と思われる遺体いたいの山があった。


 遺体が山積やまづみになっていた部屋には、地上外部へとつながる階段があるようだ。

 外へと遺体を運び出すためにこの部屋に集めてあるのだろう……。


 むなくそが悪くなるぜっ!


 腐敗ふはいが激しく、触るだけでもくずれそうな遺体もある。

 手足をしばられたままの遺体もある!? みんなひどい傷をっている!


 筆舌ひつぜつくしがたい状況だ!



 "見えざる神の手" で丁寧ていねいに遺体同士が重ならないように並べて寝かせる。


 アイアンメイデンの中に入れられていた女性も、既に亡くなっていたので、ここに同じように寝かせてある。


拘束解除こうそくかいじょ! 完全浄化! 完全修復! 下着&衣服類装着!」


 まずは遺体の浄化と修復を行う。 蘇生そせい後にふたたくならないためだ。


「修復は無事完了だ! 次は蘇生そせいだが……それはロビーでおこなうことにしよう。

 ……転送!」


 先に転送した女性たちは、おエンのそばでうずくまるようにして泣いている。


 突然俺と一緒に、多くの女性が、まるで眠っているかのような状態でロビーに出現したために驚いている者たちもいるようだ。


蘇生そせい!」 …………


 よし! 全員の蘇生そせいが成功したぞ! よかったぁ!



 ニセ領主がこの村に来てから5週間の間に、犠牲者ぎせいしゃは全部で23人であった。

 その中で死者は全部で11人。 そのすべてを蘇生そせいできたのだ!


 死亡後7週間をぎると蘇生そせいむずかしくなる。 実際には、ほぼ不可能だ!

 その前に発見できたことがよかった!


 遺体が処分されてしまっていたとしたらアウトだった。

 ニセ領主の怠惰たいだな性格がさいわいしたことになる。


 いずれにせよ、早く発見できてよかった!

 ……だが、心の傷は……。



 ◇◇◇◇◇◆◆



 被害女性たちは、俺とおエンとで分担ぶんたんして送ってやる。

 もちろん転移によってだが……。


 凌辱りょうじょく前の状態に身体の方は戻っているが……

 心の傷までは治していないことを被害者家族にも説明しておく。


 神殿前広場で被害者とその関係者だけで犯人の処刑しょけいを行うから、復讐を望むなら、30分後くらいに神殿前広場へ来るようにとも伝えておいた。


 被害者も、その家族や関係者も、みな、助けてもらえたことを、泣きながら感謝していたが……心の傷までは治せてないことに、なんとなくうしろめたさを覚えた。



 ◇◇◇◇◆◇◇



 ニセ領主、バルテックは蘇生そせいさせてある。


 その側近2名とともにぱだかにしてロープで"亀甲縛きっこうしばり"にし、拷問台に大の字になるようにしばけてやった。その拷問台は地面と垂直すいちょくになるように立ててある。


 3人のケツには "苦悩の梨" が!


 これからレキシアデーレ・ストリドムとの面会もあるし……。

 ヘルガの家族の勧誘かんゆうもしなくてはならない。 とっとと終わらせよう。


「みんな、待たせたな!」


 この場にいる全員が首を横に振る。


「実はな、コイツが領主というのは "真っ赤なうそ" だった事が分かった!

 コイツらはこのあたりをらしまわっていた盗賊団だったんだ!

 だからな、遠慮はいらねぇぞ! 思いっきり復讐ふくしゅうしてやれ!」


 ここに集まっている被害者たちとその家族たちの中には嫌そうな顔をしている者もいる。


「まぁ、やりたくねぇヤツにまで無理強むりじいはしねぇから安心してくれ!」


 ホッとしたような表情を浮かべる者たちがいた。


「あ、それから、お前さんたちがなぶごろしにしても……

 わりぃが、俺があと蘇生そせいさせて、アマゾネス・オークのにえにするつもりだ!」


 ほぼ全員に『なんでまたそんなことを!?』というような表情が現れる。


「そうするのは、コイツらに凌辱りょうじょくされる者の苦しみを味わわせながら、生きたまま食い殺されるというばつを与えるために…だ! 不満かも知れんが了承してくれ!」


 俺の説明に、全員が納得したわけではないようだ……。不満そうな者もいる。



 ヤツらの前には台があり、その上にはのこぎりやら、ハンマーやら、ペンチ等……

 拷問に使えそうな器具がズラーッと並べてある。


 被害者とその家族、関係者たちはしばらくお互いに顔を見合わせながら、動こうとはしなかった!


 ……やはり善人ぜんにんには無理か…と思い始めたちょうどその時!

 ある被害女性の父親とおぼしき男が、のこぎりを手に取って、バルテックのもとへと向かった!?


 父親らしき男は、ヤツの前まで来ると、おに形相ぎょうそうわった!


 直後! バルテックの腕をおもむろにゆっくりと、のこぎりで切り出したのだ!

 ゆっくり、ゆ~っく~り……のこぎりを動かす!


 ぎ…ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!


 それが復讐ふくしゅう開始の合図あいずとなった!


 あとは目をおおいたくなるような光景こうけいひろげられる……

 その光景は、被害者、家族、関係者のうらみのふかさを物語ものがたっていた。



 中には復讐ふくしゅうをするのをしとはせず、っていく者もいた。


 そういった者の魂の色は、決まって "青" 系統けいとうの色をしている。

 っからの善人ぜんにんなんだろうな……。



 被害者たちの要望ようぼうで、俺は絶命ぜつめいした3人の男たちを3度よみがえらせて、被害者たちに提供ていきょうしてやることになった。 やはりうらみはかなり根深ねぶかい……。



 そうしている間に、アマゾネス・オーク・クイーンと連絡を取り、受け入れ体勢を取らせておいた。


「ようし、やめだ! もうこれだけやりゃぁ、少しは気が済んだんじゃねぇか?

 そろそろアマゾネス・オークのにえにしてぇんだが、どうだ?」


 処刑しょけいに参加していた全員が同意したので、"ズタズタ""ボロボロ"になった男たちを修復し、蘇生そせいさせてやった。


「てめぇら! ちぃ~とはなぶごろしにされる者の気持ちが分かったか?」


「「「……」」」


「てめぇらに判決はんけつを言いわたす!

 主文しゅぶん……アマゾネス・オークのにえけいしょす! 抵抗ていこう無意味むいみだ!

 判決理由はんけつりゆうは……めんどくせぇ! 省略しょうりゃくだ!

 凌辱りょうじょくされるがわの苦しみをたっぷりと味わいな!

 そして……生きたまま食い殺されてこい! 以上だ! ばっはは~いっ!」


「も、もう……か、かんべん……して…くれ…」


「てめぇらが襲った連中が命乞いのちごいしても、てめぇらは助けなかったんだろう?

 これは自業自得じごうじとくってやつだ! あ・ば・よ!……転送!」


 男たちは真っ青な顔をしながら無言で転送されていった。



 ◇◇◇◇◆◇◆



 今、神殿の執務室しつむしつのうちの一部屋ひとへやりてそこにいる。


 入り口のとびら両脇りょうわきには、スケさんとカクさんが立っている。

 俺の右にはヘルガ、左にはさゆりが、俺と一緒いっしょにソファーにすわっている。


 おエンは……どこかへと転移していったようだな。


 俺たちは、レキシアデーレ・ストリドムがやってくるのを待っているところだ。


 ああ気が重い……。


 レキシアデーレは、ノルムの町の本物の統括神官カルメデオ・ストリドムのひとりむすめである。 彼女には、父親の死を伝えねばならない。


 執務室しつむしつの扉の外に人の気配けはい……

 しばら躊躇ためらうようにしていたが、扉がノックされる。


 とにかく、まずは事実を正確に伝えよう……。


 俺が入室を許可すると、入り口の扉がゆっくりと開かれた……




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