第0021話 一村雨の雨宿り

殿とのっ! 大丈夫ですかっ!」


 かって右にいたマッチョマンが、飛ばされていった男の方へとけだす!


「てめぇ! 何しやがる!」


 左にいるマッチョマンが俺になぐりかかる!

 俺の顔に右拳みぎこぶしたたもうと、強烈きょうれつなパンチをはなつ!


 多分かなりのパンチスピードなんだろう……だが俺には、まるで止まっているかのようにしか見えない。


 俺は左手の人差ひとさゆび一本いっぽんで、男がはなったパンチをける。


「チッチッ……」

「おのれっ! 無礼者ぶれいもの! ヤァーーッ!」


 グベェッ!………………ザザザザーーーッ!


 うわぁっ!

 俺は、パンチをけた人差ひとさゆび左右さゆうって、


 『チッチッチッ! そんなヤワなパンチじゃ俺にゃあ、とどかねぇぜ!』


 って、格好かっこうつけて、マッチョマンに言ってやろうと思ったんだがなぁ……。


 俺が言葉をはっしかけた途端とたんにスケさんがマッチョマンを怒鳴どなけて、俺の左後方からものすごいスピードで俺のよこに来たかと思うと、その勢いのままマッチョマンに左足ひだりあし中段ちゅうだんまわりをらわせたのだ!


 男の身体はスケさんのりを受けたところから不自然ふしぜんがりぎゃく"くの字"に

なって、俺のまえを右方向へとんで行った。


 そして、ぎゃく"くの字"のまま、上半身じょうはんしんから着地すると、そのまま地面じめんけずりながらしばらくすべり……止まる。 今はくちからあわいて気絶きぜつしている。


「スケさん、ありがとうな!」


 スケさんは、あんなおそろしい威力いりょくりをはなったような人には見えない、さわやかな笑顔で大きくうなずいた。 見る者をとりこにするような素敵すてきな笑顔であった。


 カクさんとさゆりは、カーラを守るようにしてあたりを警戒けいかいしている。


 突如とつじょ、俺のまわりがシールドにつつまれた!?


 何事なにごとかとおもかえると、そこにはおエンが忍刀しのびがたな逆手さかてかまえて立っている!?


 その姿が目に入った瞬間! シールドにファイヤーボールがたり、かえされていった!?


 殿とのばれる男のもとへとった、もう一人のマッチョマンが俺にファイヤーボールをはなったのだ!


「おう! おエンか! 助かったぜ! ありがとうな! 見事みごとなシールド展開てんかいだったぞ!

 ちゃんとシールドを使つかこなしているな! さすがだ!」


「はっ! ありがとうございます!」


 実は最初に、男の後ろえりつかみに行く前に、すでに全身ぜんしんうすくシールドを展開てんかいしていたので……

 たとえさっきのファイヤーボールが直撃ちょくげきしたとしても、まったく問題は無かったが、それを言っちゃぁ、おしまいだから、当然とうぜんだまっておく。


忍刀しのびがたなの使い勝手はどうだ? 問題があれば直してやるぞ?」

「いえ、バッチグーです! 最高ですっ!」


「は・は・は……。そ、そうか。 ならよかった……」


 着実ちゃくじつにバッチグーは浸透しんとうして行っているようだなぁ……。 ふぅ。


「おのれっ! 慮外者りょがいものめ! ゆるせませんわ! ヤーーーッ!」


 ギャヘッ! ググ……………… ザザザザーーーッ!


 渾身こんしん一撃いちげきであるファイヤーボールがはじばされて、マッチョマンは愕然がくぜんとしていたようだが……


 カクさんがマッチョマンを怒鳴どなけて、即座そくざ高速こうそくでマッチョマンのところへと移動いどうすると、みぎ中段ちゅうだんまわりをらわせたのであった!


 マッチョマンの身体は、カクさんがりを入れたところから不自然ふしぜんに "くの字" にがり、もう一人のマッチョマンがびている場所の近くまで飛んで行くと、頭から着地ちゃくちし、顔で地面じめんけずりながらすべっていった。


 今、マッチョマン二人がならんでびている。

 二人とも、白目しろめで、くちからはブクブクとあわいている。


「カクさん、見事みごとりだ!」

「いやん! ダーリンの前でおずかしいですわぁん」


 さゆり と カーラ は カクさん を見ながら、ちからなく笑っている。 ははは。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「おねえさん! 大丈夫でしたか?」

「ああ……カーラちゃん! ……はっ! 神様かみさま!」


 カーラの義理ぎりあねが俺に気付きづいてひざまずいた。


 その様子ようすを家の中で見ていたのであろう他の家族たちも、外へといそいで出てくると俺の前に全員がひざまずいた。


「ああ、みんな立ってくれ! そんなことしなくても……ひざまずかなくてもいいから!

 俺たちはしのびの旅だ。 気を使うな」


 カーラの実家には俺たち全員ぜんいんが入って話ができるような場所がなかったので、家の外に、いつもの野営用やえいようテントを設置せっちして、その中のロビーで話をすることにした。


 カーラの義姉ぎしに"無理むり要求ようきゅう"をきつけていたおとこどもは、スケさん、カクさんに怪我けが治療ちりょうさせて、ロープでグルグルきにして、さるぐつわをかまして外にころがしてある。


 キャルとシャルよりも"1つちいさい双子ふたごちゃん"たちが、俺が出したケーキを美味おいしそうに食べている。


 ふたりとも、くちまわりになまクリームを いっぱい つけて、もぐもぐしている。


美味おいしいかい?」


 双子ふたごちゃんふたりは "こく! こく!" とそろってうなずく……かわいいなぁ。


 さゆりに双子ふたごちゃんの面倒めんどうまかせて、他のみんなは、大人たちだけで会話ができるように、子供たちから少しはなれた位置いちへと移動いどうした。


大体想像だいたいそうぞうはつくが……あの野郎とは、なんでめてたんだ?」

「はい。 あの方は領主様りょうしゅさまで、13歳になる息子さんがいらっしゃるのですが……

 その息子さんの……そのう……」


小作料こさくりょう免除めんじょしてやるから、そのわり、その息子に "せい手解てほどき" をしろとでも言ってきたんだろ? 違うか?」


 お義姉ねえさんはほおめながら、うつむ加減かげんうなずく。


「そんな話は無視しろ! 俺が守ってやるから心配するな!

 そういう話は無理強むりじいするようなモンじゃねぇってんだ! ったく、バカ親が!」


「は、はい! そうします。 ありがとうございます」


「あ、それからな。俺とカーラは、お前さんたちに神都にある植物しょくぶつプラントに移住いじゅうするようにすすめに来たんだ。 農場のうじょう住居じゅうきょ無償むしょう提供ていきょうするが、どうだ?

 こんなクソ領主りょうしゅおさめるむらごろしにされるよりはいいと思うんだが?」


 当初、カーラの家族はカーラの兄との思い出がいっぱいまったこの家や土地から離れるのがつらい…と言っていたのだが……


 子供たちの未来を第一だいいちに考えて、移住いじゅうすることを決意けついした。


「それで……いつ移住する? 俺の方は今日でもいいぜ? どうする?」

「村のみんなへの挨拶あいさつもありますし、1週間ほど時間をいただきたいのですが?」


「もうちょっと早くならねぇのかい?

 一応いちおう、俺のほうくぎしておくが、バカ領主りょうしゅうごきのほうも気になるしなぁ……」


「それでは、3日間、お時間をいただけませんか?」


「それは全員が残らねぇとダメなのか?

 領主りょうしゅのバカ息子むすこけんもあるしなぁ、ダニエーレとシャイラ、シェレイだけでも、先に俺たちのところに来てもらった方がいいと思うんだがな。 どうだろう?」


 ダニエーレというのは "カーラの義理ぎりあね" で、その子供が シャイラとシェレイである。


 どうも"いや予感よかん"がするから、この3人だけでも、無理むりにでも、れて行きたいと感じている。


 ダニエーレは義理ぎり両親りょうしん顔色かおいろうかがっている。


「ダニエーレ、お前さんたち親子だけでも今日中きょうじゅう挨拶回あいさつまわりをえられねぇのか?」

「ええ……私はこの村の生まれではありませんので、ご近所きんじょだけに挨拶あいさつすれば大丈夫だいじょうぶですから、今日中きょうじゅう挨拶あいさつえることができますが……」


 ダニエーレは、義理ぎり母親ははおやの顔をチラチラと見ながら話す。


「よしっ! 決めた! じゃぁ、3人は今日連れて行くことにする。 いいな!」


 カーラの父、フロリアンと、母、マリーエが何か言いたそうだったが、それをんだようだ。


「そうだ! いいことを思いついたぞ! 毎日、俺がおくむかえしてやる!

 そうすればみんな一緒いっしょに、今日から俺たちと住めるぜ? どうだ?」


「そんな……神様にそのようなことまでしていただいては、ばちが当たります」


「ははは。 妙なことを言うなぁ、ばちをあてるほうの俺がいいって言ってんだぜ?

 何も問題はねぇよ。 まぁ、お前さんたちがいやだと言うんなら話は別だがな」


 両親のらない態度たいどにカーラは我慢がまんできなくなったのか、ふたりの手を取って一緒いっしょに来るようにさそう……


「お父さん、お母さん、一緒に行こうよ。 ね?」


 まだそんなに年を取っているわけじゃないのに、どうもフットワークがおもいな。

 カーラの両親は、ふたりとも保守的ほしゅてきな性格なんだろうかなぁ……。


 転居先てんきょさき不安ふあんいだいているんだったら実際じっさいに自分の目で見てたしかめれば、気持ちも前向まえむきになるかも知れないな? まず下見したみをしてもらおうかな?


「今から新居しんきょを見に行ってみるか? すぐに帰ってくればいいから……。どうだ?」

「そう……ですね。 はい。 お願いします」


 なんかマリーエは…お義母かあさんは不安そうだな。



 ◇◇◇◇◇◇◆



「ここがお前さんたちに住んでもらう新居しんきょだ!」

「うわぁ~、しゅっご~い! 大き~い!」

「うん! うん!」


 おっ! 子供たちの反応はんのう上々じょうじょうだな!?


 カーラの家族を連れて俺たちは、一旦いったん神殿へと戻ってきた。


 といっても、カーラの家族たちが入居にゅうきょする予定の"植物しょくぶつプラントけん住居じゅうきょ"のほうへ転移してきたのだが……。


 もちろん、シオリには念話ねんわで知らせてある。 ほうれんそう大切たいせつだからな!


「こ、こんな、こんなすごい家に住まわしてもらってもよろしいのでしょうか?」


「ああ、もちろんだとも! 好きに使ってくれていいからな!

 俺の大事な嫁さんになる人の家族なんだからな! 遠慮えんりょ一切いっさい無用むようだぜ!」


 お? フロリアンの、お義父とうさんの表情が良くなったな? 不安が消えている。

 おお!? お義母かあさん…マリーエのほうも顔がかがやいているぞ! 好感触こうかんしょくだな!


「ああ、カーラ。 お前は孝行者こうこうものだね。 旦那だんなさんを見つけたね」


「ありがとう。お母さん。 私、すごく幸せだよ。 こわいくらいだよ。

 私は部屋を別にもらっているけど、こうして、すぐ近くに家族がいてくれるのは、本当に心強こころづよいし、とてもうれしいの! だから早く一緒に住もう?」


「え、ええ。そうね」


「うふふ。 でも、すごいでしょ? 見たこともないものがいっぱいあるでしょ?」


 マリーエは、目をかがやかせながらカーラの言葉に同意どういし、大きくうなずいた。


 ふっふっふっ! やはり実際に新居しんきょを見せて正解だったようだな!


「どうだい? みんな気に入ってくれたか?」


 "はいっ!"


 全員が嬉しそうにしている。 よかった!



 みんなが植物工場の方へ移動し始める。


 ダニエーレは、最後まで住居階じゅうきょかいに残っていた。

 みんながしたかいへとりるのを待ってから、俺に話しかけてきた。


上様うえさま領主様りょうしゅさま無理強むりじいからおすくくださった上に、こんなに素晴すばらしいまいと農地のうちまで私たちにおあたくださるなんて……なんとおれいを申し上げたら良いか……

 本当に、本当にありがとうございます」


「いや。 気に入ってもらえて良かったよ。

 しかし、お前さん。 旦那だんなさんをはやくにくして、さぞや つらかっただろうなぁ。

 義理ぎり両親りょうしん見捨みすてて実家じっかかえったとしても不思議ふしぎじゃねぇのに、これまでよくがんばってきたなぁ~。

 子育てだけでも すげぇ大変 だっていうのに、ホント、あたまがる思いだぜ」


「いえ、そんな……」


 思わず、俺はダニエーレの頭をでていた。


 カーラの義理ぎりあね、ダニエーレが ふとした瞬間しゅんかんにとてもくらい表情を見せるので、気になって魂の履歴を確認してみたのだ。


 そうしたらおっとくしたあと結構けっこうひとりで色々とかかんでしまっていることが分かった。


 余所よそからとついできて、それほど年月ねんげつってないので、けない友達ともだちく、パンク寸前すんぜんにまでめられていたのだ。 かわいそうに……。


 見かけは俺の方が年下とししたなんだが、俺の心はオッサンだ。


 色々ひとりで背負しょんで、誰にも相談できずに、一所懸命に、健気けなげにがんばっている若い娘さんを見ていて、思わずむすめのようにいとおしくなってしまった。


 だから、俺は思わず、ダニエーレの頭をでてしまったのだ。


「ここに住むようになれば、生活も、ちぃ~とは楽になるだろう。

 お前さんの自由になる時間も増えるだろうし、これからは自分のやりたいこともいっぱいしろよ。

 この神殿地区に住んでいるのは、気持ちのやさしいヤツらばかりだ。 困ったことがあれば遠慮えんりょせずに、どんどんまわりをたよればいいぜ。

 もちろん俺に相談してくれてもいいぜ。 大歓迎だいかんげいだ。

 ひとりで背負しょむようなことだけはするなよ。 いいな?」


「はい。 ありがとうございます……ううう」


 ダニエーレは涙を流す……。

 ひとりで本当にがんばってきたんだなぁ。 心から応援おうえんしたくなる!


 母親が ちっとも したかいに来ないので、子供たちが様子ようすを見に来た。

 そして、俺がダニエーレの頭をでているのを見てしまった!?


「神ちゃま、あたしもいいこ、いいこ、ちてぇ~」「あたちも~」

「ふたりともいい子、いい子。 かわいいねぇ~。 いい子だねぇ~」


 右手で双子の姉、シャイラを、左手で妹のシェレイの頭をでる。


「えへへぇ~」「でへへへぇ~」


 この子たちもキャルとシャルの友達になってくれるといいな。


 ダニエーレは、母親らしい慈愛じあいちた眼差まなざしで子供たちを見ている。

 その表情からはくらさが消え、希望きぼうさえ感じられるような……そんな微笑ほほえみをたたえていた。



 ◇◇◇◇◇◆◇



 俺たちも植物プラントの方へ降りてきた。 今いるのはこの建物の2階だ。


「どうだい? お義父とうさん、お義母かあさん。 気に入ってもらえたかな?」

「「はいっ!」」


 おお、こちらへ来る前とは別人べつじんのようにきとしている。


「どうだろうかな? ここに寝泊ねとまりしてもいいんじゃねぇか? ここは快適かいてきだぜ?

 ヴァルジャン村へは、おくむかえしてやるからさ。 どうだね?」


「はい。これほどまで快適かいてきだとは思いませんでした。

 上様うえさまおっしゃるように、ここに寝泊ねとまりするようにして、しの挨拶回あいさつまわりとか、雑務ざつむはここから通うようにしようかと思いますが……

 上様うえさまのご負担ふたんにはなりませんか? 大丈夫でしょうか?」


「お前さんたちは、俺の大切な大切なフィアンセの家族なんだぜ。

 つまりは、俺の家族と言ってもいい。

 だから、遠慮えんりょしだぜ。 こっちの都合つごうわりぃ時には、そう言うしな。

 俺の仲間が手伝ってくれるだろうし、まったく問題はねぇよ」


「ありがとうございます! それでは、よろしくお願いします!」


 いやぁ~、思惑おもわくどおりに事が進んで良かった!


 あのバカ領主りょうしゅが何かしねぇともかぎらねぇしな。

 ここで寝泊ねとまりしてもらったほうが何かとやりやすい。良かった。


 ん? 何か忘れてしまっているような気がするが……ま、いいかっ!


 脳裏のうりに、ロープでグルグルきになっている、マッチョマン二人とバカ領主の姿が一瞬いっしゅんよぎる……。



 ◇◇◇◇◇◆◆



 スケさんとカクさんと一緒に、ヴァルジャン村へと戻ってきた。

 俺はバカ領主りょうしゅをどうしたものかと、ずっとずっと考えている。


 バカ領主りょうしゅの名前は、ロゲル・フンク。 男爵だんしゃくらしい。


 このヴァルジャン村を含む近隣きんりんそん支配下しはいかおさめている。

 領主りょうしゅやかたは、領内りょうないもっとも大きい、ここヴァルジャン村にある。


「おい! お前! たかが一領主いちりょうしゅ分際ぶんざいで、上様うえさまのご家族となられるおかたたいしての無礼ぶれいなるい! けっしてゆるされぬことぞ! 当然、覚悟かくごはできておろうな?」


 領主と二人のマッチョマンは、今、ロープでしばられて、正座せいざさせられてはいるが、さるぐつわははずされている。


 領主りょうしゅどもを糾弾きゅうだんしているスケさんに対して……


「な、なな、何のことだか かりねるのですが……」


 女性であるスケさん、カクさんでは、ここから先の話は言いにくいだろう…と俺がこの先を引き取る。


「てめぇのバカ息子を"男"にするために、俺の義理ぎり兄嫁あによめせい手解てほどきをさせようとしただろうが? とぼけても無駄むだだぜ?

 しかも、てめぇは、あろうことか初夜権しょやけんなんて権利けんり行使こうししているらしいな?」


「そ、それは、領主りょうしゅとしての権限けんげん範囲はんいなのですが……」


「なにっ!? 俺の身内みうちをバカ息子むすこおかさせることがか?

 殺されてぇのか? てめぇ!」


「い、いえいえ……初夜権しょやけんほうです。

 ダニエーレ様のことは大変申し訳ありませんでした。本当に知らなかったんです」


「てめぇなぁ。知っているかどうかの問題じゃねぇし……

 俺の身内みうちでなけりゃ、やっていいってもんじゃぁねぇんだよ……ったく!

 いやがる女性に無理矢理むりやり "せい指南しなん" をさせようとしたこと自体じたい問題もんだいだっつうの!

 分かってるのか!? クソ野郎がっ!」


「……」


初夜権しょやけんほうもそうだ。 なんでてめぇが、大切たいせつ花嫁はなよめ最初さいしょくんだ!?

 てめぇの欲望よくぼうたしてぇ だけだろうが!? 違うか!? ひひじじい!」


「いえ、この村ではふるくから "けがれ" をきらうのです。

 血には悪魔あくま宿やどっていることがあると信じられています。

 ですから、神殿しんでんから領主りょうしゅとして任命にんめいされた私が危険きけんかえりみず、初交時しょこうじ出血しゅっけつ悪魔あくま宿やどっていないかをたしかめるのです。 けっして私欲しよくのためではありません!」


「"理屈りくつ膏薬こうやく何処どこへでもつく" とはよく言ったもんだぜ!

 つけようと思えば、どんなことにでも理屈りくつがつくもんだなぁ… ったく、よおっ!

 屁理屈へりくつをこねるな! クソ野郎が!

 今後は、初夜権しょやけんも、せい指南しなん強要きょうようすることも一切いっさい禁止きんしだ!

 これは神である俺の命令だ! 分かったな!?」


 強烈きょうれつ威圧いあつめて命令めいれいした。


「ひぃーーーっ!」


「いや、それよりも……ばやく、てめぇの一族いちぞく郎党ろうとうを、皆殺みなごろしにしてやるほうはええし、確実かもなぁ? てめぇらに約束やくそくまもらせるよりも、俺のしたが領主りょうしゅえちまった方が一番いちばんいいのかも知れねぇなぁ?」


「ひぃーーーっ! ど、どどど、どうか、そればかりはおゆるしを!」


「スケさん、カクさん、ちょっとそのへん散歩さんぽしてきてくれ。

 お前さんたちには見せたくねぇことを、今からコイツらにするからな」


「「はい。承知しました!」」


 スケさんとカクさんが村の中央にある広場の方へと歩いて行った。


「さぁ、てめぇら、俺の命令を絶対ぜったいまもると約束やくそくできるか? どうだ?」

「や、ややや、約束やくそくします! 絶対ぜったいまもります!」


「他のヤツらにも、ちゃんとまもらせろよ? いいな?」

「「「はいっ!」」」


約束やくそくやぶると……四肢粉砕ししふんさい!」


 "ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!"


「修復!」

「この10倍は苦しんで死ぬことになるぜ。 分かったか?」


"こく! こく! こく! こく!"


 3人はすごい速さでうなずく。


「本当に分かっているのか? …… 四肢粉砕ししふんさい!」


 "ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!"


「修復!」


 これを3人のこころ完全かんぜんにへしれるまでつづけてやった。


「修復!……いいか? 約束やくそくたがえたら、この程度ていどじゃまさねぇからな!

 地獄の苦しみを味わわせながらじっくりと殺すぜ。 いいな、分かったか?」


「はぁはぁはぁ……はい。 や、約束やくそくは…ぜ、絶対ぜったいまもりますぅ…はぁはぁ…」


 ナノプローブを3人の体内に注入。


 何らかの行動がなされた場合、必ずされるイベントに……

 約束やくそくやぶると"ナノプローブ"が活動かつどうして、激痛げきつうともないながら身体からだくさらせるようにプログラミングしてやった。


「ようし……。 えずは勘弁かんべんしてやる。…… 拘束解除こうそくかいじょ!」


 領主りょうしゅ、ロゲル・フンク男爵だんしゃくとそのともの者は "這這ほうほうてい" といった感じで、げるようにこの場からってった。



 ◇◇◇◇◆◇◇



 その日の夜、領主りょうしゅ、ロゲル・フンク男爵だんしゃくやかた


 ロゲル・フンク男爵だんしゃくいやがるひとりのうらわか女性じょせいうでつかみながら、寝室しんしつへとはいってくる。


「ははははっ! いくら神だろうと、この世界のすべてを監視かんしできるわけがない!

 こっそりと分からないようにやってしまえばバレるわけがない! あはははは!」


 強引ごういんに女性のうでり、女性をベッドの上に仰向あおむけにたおす。

 女性は青い顔をしてふるえている!


「ひひひっ! その仕草しぐさがたまらんなぁ……これだから "生娘きむすめ" はいい!」


 男爵だんしゃくは女性にうまりになると、女性のむねもうとする!?

 このクソ野郎はかみとの約束やくそくやぶり、今まさに "初夜権しょやけん" を行使こうししようとしている!


 ぐはっ! …… ぎ…ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!


 突如とつじょ男爵だんしゃく絶叫ぜっきょうすると、ベッドの上から転げ落ちるっ!?


 女性はその声におどろき、顔をつららせて、ガタガタとふるえている……。


 うぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!


殿とのっ! どうされましたっ!?」


 二人のマッチョマンが飛び込んできた!

 その目の前には、絶叫ぜっきょうしながらゆかころまわっている男爵だんしゃく姿すがたが!?


 しばらくすると、ジワジワ と死臭ししゅうにもた "異臭いしゅう" が部屋の中にただよす……。


 男爵だんしゃく身体からだは見る見るうちに、手足てあしさきからけるようにくずちていく!?

 くさってドロドロになり、ほねあらわになると、そのほね粉々こなごなくだけて霧散むさんする!


 あまりの激痛げきつうのためか、男爵だんしゃくはすぐに意識いしき手放てばなした……

 いや! 違う!? 強烈きょうれついたみにえきれず、絶命ぜつめいしてしまったようだ!


 てつさびしゅう強烈きょうれつ腐乱臭ふらんしゅうがあたりにはただよう……。


 あまりのにおいと無惨むざん光景こうけいえきれず、ベッドの上で女性ははげしく嘔吐おうとしたあと、手で口と鼻をさえながら、ベッドからころち、ふらついた足取あしどりでこの部屋へやからげていく。


 マッチョマン二人は、目の前の光景こうけいこしかし、失禁しっきんした!?

 口と鼻をハンカチでおおいながら、その場から動けず、ガタガタふるえている!


「「し、神罰しんばつだ……」」


 と、まるでタイミングをはかったかのごとく、二人の口から同時につぶやかれた。


 この地の領主りょうしゅ、ロゲル・フンク男爵だんしゃくさきほどまでころまわっていたゆかには……

 強烈きょうれつ異臭いしゅうはなつ、ドロドロの汚物おぶつのようなゲルじょう物質ぶっしつがあるだけだった。



 このことは、世間せけんくちのぼり、すぐに神国しんこく全土ぜんどわたる。


 シンが神殿をつうじて、"初夜権しょやけん"というワケの分からない権利けんり行使こうしが、かみ逆鱗げきりんれる行為こういであるということを、神国中しんこくじゅうひろらしめたこともあって……


 のちに、神国しんこくには "初夜権しょやけん" を行使こうしする "バカ領主りょうしゅ" は一人ひとりもいなくなるである。



 ◇◇◇◇◆◇◆



 時間を戻そう……。


 領主、ロゲル・フンク男爵とその供の者を解放かいほうしたあと、俺はスケさんとカクさんと合流ごうりゅうすべく、村の中を見物けんぶつしながら歩いている。


 マップで確認し、スケさん、カクさんが、この村にある神殿しんでんにいることが分かっている。 転移すれば簡単かんたんなんだが、折角せっかくだから歩いて神殿に向かいながら、この村を見て回っているのだ。


 この村は、"村"とは呼ばれているが、ちょっとした町のようだ。


 しばらくすると、にわか雨がってきた!


 近くに雑貨屋ざっかやのようなみせがあったので、そこへいそいで移動いどうして、店の軒下のきした雨宿あまやどりすることにした。 この雨だと すぐにみそうだから それまで待つことにする。


 雨音あまおとを聞きながら ボーッ とまわりをながめていると、路地ろじから、神官服しんかんふくた10歳くらいの女の子が出てきて……雨宿あまやどりするために、俺のとなりにやって来た。


「すみません。ご一緒いっしょしてもいいですか?」

「ああ、いいとも」


 少女は、手で服についた雨をはらっている。


 ふと見ると、そでからのぞくしろうでには、あおアザがいっぱいできていた!?


 俺は少女の目線めせんに合わせるられるようにかがみ……

 青アザが見えていた少女のうでやさしく、そっとつかむ。


「ちょっと見せてごらん」

「あっ!? だめっ……」


 やはり青アザがいっぱいできていた!


 アザのまわりが黄色きいろくなりつつある古いものから、ついさっきつけられたと思われるものまである。


 痛々いたいたしくて見ていられない……。


「修復!」


 少女は、瞬時しゅんじにアザやきずえていくのを見ておどろいている。


「どうしたんだい? 誰にやられたの? 話してごらん?」


 そう言いつつ、眉間みけんの "しるし" をかがやかせ、それを人差ひとさゆびす。


「ああ、神様……ううう……」


 少女は嗚咽おえつする……

 少女が落ち着くまで、俺は彼女の頭をでながらった。


 少女の話では、彼女は神官見習しんかんみならいであり、村の神殿にいる神官の "側仕そばづかえ" をしているとのことであった。


 彼女は、孤児こじだということであった。

 神殿にひろわれてそだてられ、現在げんざい神官しんかん目指めざして神官しんかん側仕そばづかえをしているらしい。


 この彼女が側仕そばづかえをしている神官がクソ野郎だった!

 彼女が、ほんのちょっとミスをしただけで、神官はなぐるの暴力ぼうりょくるう。


 "お前なんか生きている価値がない!" とか、

 "死ねばいいのに!" とか……暴言ぼうげんもしょっちゅうくらしい。


 つい先ほどもひど暴力ぼうりょくるわれ、暴言ぼうげんびせられて……

 かわいそうに、目の前の10歳の少女は、ついには我慢がまんができなくなって神殿を飛び出してきたらしい。


 神殿には、もうもどりたくはない……

 死のうか、どうしようかと、なやみながら歩いていると雨がってきた。


 それで雨宿あまやどりをしようとしたら、そこに俺がいたというわけだ。


 一瞬、同じように虐待ぎゃくたいされつづけてきた "インガ" の顔があたまよぎる……。


 少女は、たまっていた感情かんじょうすかのごとく号泣ごうきゅうしている!

 雑貨屋ざっかやはじめ、まわりの建物たてものから人々ひとびとが、何事なにごとかと思って顔を出す。


 まるで、俺が、この子にひどいことをしているかのように、人々ひとびとにはうつっていることだろう……だが、そんなこたぁ、気にしていられない! 瑣末さまつなことだ!


「かわいそうに。 つらかったなぁ。よくえて生きていてくれた。 ありがとうな。

 俺が必ず助けてやるからな。安心おし。 なっ?」


「うう……。 わ、私を助けて…助けて下さるの?」


「ああ、もちろんだとも! 俺にまかせろ!

 こんな理不尽りふじん暴力ぼうりょく絶対ぜったいに! 絶対ぜったいに! ゆるさないからなっ!」


 "一村雨ひとむらさめ雨宿あまやどり"

 ……まさにその通りの状況だな。 これもなにかのえんってやつだよな……。


「シェルリィ、お前さんみたいなっている子は、他にもいるのかい?」

「えっ? 神様……なんで私の名前を知っているのです?」


「ははは。 神は何でも知っているのだよ。 ははは」


 これはうそである。 当然、ステータス画面で確認しただけだ。


 なんでも知っているのなら、他に虐待ぎゃくたいされている子がいるかどうかも当然分かるはずだと、俺なら突っ込みを入れるところだな。



 シェルリィの他には、ひどわされている子はいないとのことだった。


 クソ神官、リーフ・ヴェンデルのびとをしていた"シェルリィ"だけが、ひどわされていたのだ!


「シェルリィ、この村を出て、俺たちと一緒いっしょまないかい?」

「……あのう……私、どうしたらいいのか分からないです」


「まぁ、えず俺たちのところへ来てみて……

 もしもいやだと感じたら、またべつ居場所いばしょ一緒いっしょに考えるってのはどうだい?」


 シェルリィは、しばしアゴに手をてて、小首こくびかしげながら考えていた……

 そして、"はにかんだ" ような表情を浮かべながら、俺からの提案ていあんを受け入れる。


「……はい。そうします。 よろしくお願いします」

「ああ、よろしくね。 優しいおねえさんが いっぱい いて楽しいと思うよ」


 シェルリィは、にっこりと笑った。

 まだ少々しょうしょう不安ふあんげだが、さきほどまでのくら表情ひょうじょうえている。


「シェルリィ、いやかも知れないけど、一度、神殿に行くよ?

 大丈夫だいじょうぶ! 俺がずっとそばについているからね。 安心して。

 リーフ・ヴェンデルには、指一本ゆびいっぽんれさせはしないからね」


「はい」


 俺はシェルリィを連れて、スケさん、カクさんのいる神殿へと転移した。

 先ほどまでの雨はすでに上がっている。


「スケさん、カクさん、待たせたな」

「「いえ」」


「ところで……その女の子は?」


「ああ、この子は、この神殿の神官見習しんかんみならいだったシェルリィだ。

 今日から俺たちの仲間になった。 よろしく頼む」


 スケさんとカクさんには、こと次第しだいかたって聞かせた。


「そんな神官がいるだなんて! 許せません! 成敗せいばいしてもよろしいですか!?」

「ホント、こんなかわいい子をいじめるなんて……ゲスのきわみですわ!」


 スケさんもカクさんも激怒げきどした!


 俺たちは4人で、神殿の礼拝所らいはいじょで話をしている……。

 そこへ、ひとりの神官らしき男が、外出から帰ってきた。


「シェルリィ! いったい何処どこを ほっつきあるい……はっ!?

 ど、どこにいたのですかぁ? さがしましたよぉ~」


 おいおい、俺たちの顔を見て、きゅう言葉遣ことばづかいを変えたぞ?


 シェルリィが俺のうしろへとかくれる。 ブルブルとふるえている!?


 かわいそうに……。


「やい、リーフ・ヴェンデル!

 てめぇ、よくも俺の大事だいじなシェルリィを、ずっと虐待ぎゃくたいし続けてくれたな!?

 今からそのむくいをけさせてやるから、そこになおれっ!」


「誰なんですか! あなたは!?

 みょうな言いがかりをつけるとゆるしませんよ。 衛兵えいへいを呼びますよ」


くさ外道げどうがっ! だまれっ! このおかたひたい御印みしるしはいらぬかっ!

 おそおおくも、われらがあるじ! 上様うえさまであらせられるぞっ!

 えええーーいっ! がたかーーいっ! ひかえおろうっ!」


 某有名時代劇ぼうゆうめいじだいげきで"印籠いんろう"を出した時に流れる曲が聞こえたような気がした……。


 リーフは、俺の眉間みけん凝視ぎょうしすると、見る見るうちに顔色は青くなり……

 ついには その場で土下座どげざした!?


 神官、リーフ・ヴェンデルの魂の色は赤だ!


 魂の履歴を確認するとシェルリィの他にも、過去かこに何人もの子供たちを虐待ぎゃくたいして殺してきていることがわかる! 死刑しけい確定かくていだな。


「おい、クソ野郎っ! てめぇ、シェルリィの他にも、これまで何人もの子供たちを虐待死ぎゃくたいしさせているだろ! 俺はてめぇを絶対に許さねぇからな! 覚悟しろ!」


「お、おお、恐れながら、まったくおぼえはございません。

 しょ、証拠しょうこはございますでしょうか?」


「スケさん、カクさん、わりぃが、シェルリィをれて、ちょっと外で待っててくれねぇかな?」


「「はっ! 承知しょうちしました」」


 スケさん、カクさん、それにシェルリィが外に出ると、リーフ自身の魂の履歴をリーフに見せてやる。


「どうだ。てめぇがしてきたことはすべて記録してある。

 どうした? 反論はんろんがあれば一応いちおう、聞いていやるぜ?」


「んぐぐぐっ……」


選択肢せんたくしをやろう!

 さかなれにわれるのと、魔獣まじゅうれにわれるのとどっちがいい? えらべ!」


「……」


 まぁ、選べないよなぁ。 こんな選択肢せんたくしきつけられてもなぁ。


「ど、どどど、どういうことですか?」


「人を喰う巨大きょだい肉食魚にくしょくぎょに喰われて死にてぇのか? それとも 魔獣まじゅうに喰われて死にてぇのか? どっちでも好きな方を選べと言っているんだよ。 さあ、どっちだ?」


「そ、そそそ、そんなの選べません!」


「じゃあ、俺が選んでやるぜ! 魚の方にしといてやる」

「ま、ま、ままま、待って下さい! こ、こころえますから、どうか……」

「転送!」


 ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁ……


  神官、リーフ・ヴェンデルは、絶叫ぜっきょうしながら消えた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る