第0020話 復讐のもくろみ

「……出会であいに乾杯かんぱい!」


 今夜の夕食は……バイキングではない!


 マンションの住人じゅうにんはもちろんのこと、新しい仲間たち、農家のうか面々めんめんも、そして、神殿関係者も全部ぜんぶまねいて、全員ぜんいんでバーベキューを楽しんでいる。


 神殿と植物プラントぐんとの間には、ちょっとした広さのがある。

 今そこには10台の "バーベキューコンロ" が設置せっちされており、肉のける美味おいしそうなにおいがあたりにはただよっている。



 住宅街じゅうたくがいでのバーベキュー……

 やっている者たちはたのしいのだろうが、近隣住民きんりんじゅうみんにはたまったものじゃない。

 うるさいわくさいわで……"ひんしゅくモノ" である!


 それが原因げんいんで "殺人事件" がこってしまうことさえある。



 まちまでは、ここからかなりの距離きょりがある。 だから、騒音そうおんも、においも心配ない。

 問題もんだいは、この神殿しんでん施設しせつらしている人たちだ。


 "バーベキューパーティー" をこころよく思わない人が "ひとりでも" いるのであれば、パーティーを開催かいさいするのを やめよう と思っていた。


 ダメで "もともと" だ! っていうつもりで……

 ここに住んでいる全員に、バーベキューパーティーに参加しないかと打診だしんしてみることにしたのである。


 俺に気を使って、本当のことを話せないかも知れない。


 すすまない宴会えんかい参加さんかする苦痛くつうは、俺自身がよく分かっている。

 だから、本心を言っているのかどうかを、こころこえ確認かくにんしながら、全員に聞いてまわったのだが……


 そうしたらなんとうれしいことに! 全員からバーベキューパーティーに参加さんかしてもよいとの返事へんじがもらえたのだ!


 みんな、即答そくとうだった。 同意どうい躊躇ためらった者さえ、まったくいなかった!

 全員が快諾かいだくだったのだ!


 よかった! これで関係者全員でバーベキューパーティーをすることができる!

 これは、親睦しんぼくふかめる よい機会きかい になること間違まちがいない!


 そんなこんなで今全員でバーベキューパーティーを楽しんでいるというわけだ!



「無くなればどんどん追加するからな! どんどん食べてくれよ!」


 さけたぐいは用意よういしていない。


 小さな子供もいるし、若い女性たちもいる。

 神殿関係者には禁酒きんしゅをしている者もいると聞く……。


 たのしいさけむ者ばかりではないだろう。

 "くだ" をいてまわりを不快ふかいにする者もいるかも知れない……。


 そう考えて、酒類さけるいを出すのはやめたのだ。


「あ、そこっ! 生肉なまにくつかんだトングで、けたにくさらるのはやめておけ!

 腹痛ふくつうになるぞ!」


 実際には、レプリケーターで加工肉かこうにくを生成しているし、神術で念のために浄化してからみんなのところに持って行っているので、細菌さいきん繁殖はんしょくする可能性は、ほぼゼロといってもいい。


 だが、"レプリケーターが生成する肉以外" を焼いて食べる機会もあるだろう。


 その時にそなえて、ちゃんとトングを使い分ける "クセ" を付けてもらった方が良いだろうと思ったから、あえて注意ちゅういしたのだ! リスクマネジメントだ!


 そういえば、こっちにも "カンピロバクター" って細菌さいきん存在そんざいするのかな?

 あれは怖いからなぁ……。


 おおっ! ソリテアの家族と、西部開拓を目指していた獣人たちが楽しそうにがっている!? 農業談義のうぎょうだんぎはないているようだな?


 よかったぁ……人族と獣人族、たがいに敵意てきいでも持っていたらどうしようかと思っていたが、その心配は無いようだ。


 特にシオン神聖国によって同胞どうほう虐殺ぎゃくさつされた過去かこを持つ獣人たちが人族をこころよく思っていないんじゃないかと、気になっていたのだが……

 どうやら、苦労ぐろうだったようだ。



 ははは。 キャルとシャルも "にこにこ" しながら、他の子供たちと一緒いっしょに、楽しそうに肉を頬張ほおばっているぞ。 ほおがはちれんばかりにふくらんでいる?


 かわいいなぁ。 ははは。


 年の近い子供もいるから、その子たちとは友達ともだちになれたのかな?

 キャルは "おしゃまさん" だから、他の子たちと話が合うのかなぁ?


 そのうちに、みんな、キャルのように "おませ" になったりして……。

 は・は・は……。



「シンさん。 飲み物です、どうぞ」

「おう! シオリちゃん、ありがとう!

 ちょうど今、取りに行こうと思っていたところなんだ……。

 おっ!? 緑茶りょくちゃ! なんで俺が緑茶りょくちゃを飲みたいと思ってるのが分かったんだ?」


「なんとなく……です。 緑茶りょくちゃでよろしかったですか?」


「ああ、本当にちょうど飲みたいなぁと思っていたところだったんだぜ。

 まさか…また念話回線が開きっぱなしなんじゃないよな?」


「ははは。大丈夫ですよ。 ダダれになってませんから……」


「ははは。いやぁ~、そうなるとやはりさすがはシオリちゃんだよなぁ。

 ありがとうな」


「いえ」


「どうだい? バーベキューを楽しんでるかい?」

「はい。このような食事も楽しくていいものですね」


「そうだろう? じゃあ、これからもちょくちょくやることにしょうかな?」

「はい!」


 俺とシオリが話しているの見て、ヘルガとカーラ、そして、スケさん、カクさんがやってくる。 どうやら明日あす予定よていについて相談そうだんしたいようだ。


 今夜はさすがに何事なにごとも起こらないだろう……と考えて、神殿騎士たちにもはなれる許可きょかを出してある。


 彼等も、このバーベキューパーティーを大いに楽しんでいるようだ。


 スケさんもカクさんもここにいる。


 まぁ、彼女等は近衛兵? というか近衛騎士? みたいなものだから、いつも我々われわれそばにいてくれるのだが……。



「ヘルガ、カーラ、お前さんたちの実家はどうだろう?

 ここへ来てくれると思うか?」


「そうですわね……果樹園かじゅえん軌道きどうっていますから、収入しゅうにゅうについては問題ありませんので、移住いじゅうしぶるかも知れませんわね。

 私の家族は領主様りょうしゅさま小作人こさくにんなんですが、果樹園かじゅえん植物しょくぶつ所有権しょゆうけんっておりますので、果樹園かじゅえん植物しょくぶつと土とを一緒いっしょに、まるごと持ってこられるとしたら、こちらに来るかも知れませんわね」


「なるほどな。 じゃぁ、お前さんの家族が希望したら果樹園かじゅえんごと全部持ってくるとするかな?」


「えっ? そんなことができますの?」


「ああ、できるよ。 亜空間倉庫あくうかんそうこに入れて持って来てもいいし……

 ここへ直接転送してもいい」


「さ、さすがですわね。 神様は偉大いだいですわ! バッチグーですわ!」


「は・は・は……。 それじゃぁ、カーラのところはどうだ?」


「うちは……昨年跡取あととりのあにくなってしまいまして、今は父母ふぼ兄嫁あによめ、そして、兄夫婦あにふうふの4歳になる双子ふたごの女の子たち……

 "全部で5人"が一緒いっしょらしているのですが、男手おとこでりなくて大変苦労たいへんくろうしているようなんです。 ですから、無理むりにでもこちらにれてきたいと思っています」


「そうか。植物しょくぶつプラントなら労力ろうりょくはあまり必要ないから、十分やっていけるだろうからな。 是非とも、こっちへ来てくれるように説得せっとくしような」

「はい」


「スケさん、カクさん、明日も同行してもらっていいか?」

「はい。もちろんですわ」「もちろんお供致します」


心強こころづよいぜ。頼むな!」

「「はいっ!」」


「本当はシオリちゃんにも同行して欲しいんだけどなぁ……。

 そうすると、この中央神殿の方がちょっと心配だし……。

 まだ "さゆり" には、ここをまかせるわけにもいかないし、やはり難しいなぁ……」


「はい……。そうですね。

 ……それでは、明日は "さゆりさん" をれて行ってはいかがでしょうか?

 この世界にれてもらうためにも、よいのではないでしょうか?」


「なるほどな。それじゃぁ、そうするか」


「うーん、そうだなぁ、カーラの実家じっかほうさきに行ってから……

 そのあとにヘルガの実家に行くことにしようかな。

 どうだ、ヘルガ? カーラの実家から俺たちが帰るまで、こっちで待機たいきしてもらえねぇかな?」


「はい。分かりました。 では、こちらでお待ちすることにしますわね」


「じゃぁ、まず、俺とさゆり、カーラ、スケさんにカクさんで、先にカーラの実家に行って、こっちに戻った後に……

 俺とさゆり、ヘルガ、スケさん、カクさんで、ヘルガの実家に行くことにしよう。

 みんな、よろしく頼むな!」


 "はいっ!"


 さゆりが、ソリテアと話をしているのが見える。

 チラリと "さゆり" がこちらを見たので、こっちへ来るようにと手招てまねきした。


 さゆりは、ソリテアと二言三言ふたことみこと言葉をわしたあと、走ってこちらへ向かってきた。


「シンさん、何でしょか?」


「明日、ちょっと出かけるんだが、俺たちに同行どうこうしてくれねぇか?」

「はいっ! よろこんでおともします!」


「よし。 多分たぶん朝食後ちょうしょくごすぐに出かけることになると思うから、そのつもりでな」

「はい!」


「さぁ、みんな! まだまだ にく野菜やさい魚介類ぎょかいるい も……

 食べるものは いっぱい あるし、飲み物も いっぱい あるぞ!

 みんなでバーベキューを楽しもうぜ!」


 "はいっ!"



 いつの間にか、俺のフィアンセたちが、すべて俺のまわりに集まっている。


 さゆりに、俺たちとフィアンセたちとの"出会であいから、現在げんざいいたるまでの経緯いきさつ"を、みんなで順順じゅんじゅんに話をぎながら話していく……みんなはおおいにがっている。


 さゆりが、タチアナがさらわれてしまった時の話や、レッサードラゴンたちの襲撃を受けた時の話にかがやかせていたのが印象的いんしょうてきだ。



 その後俺は彼女たちのもとを離れ、神殿関係者との交流こうりゅうふかめたり、ソリテアの家族や獣人族の人たちと、これからのゆめかたったりした。


 ん? キャルとシャルがいないぞ?

 キャル、シャルと仲良くしていた子供たちの姿も見えないな?


「シンさん、ラフちゃんからの伝言です。

 キャルちゃんとシャルちゃん、二人の友達ともだちになった子供たちはラフちゃんの部屋でねむってしまったので、今夜はラフちゃんの部屋にめるとのことです」


「ラヴ、教えてくれてありがとう。 キャルとシャルの姿が見えないのでさがしていたところだ。 助かる」



 今夜の夕食も、非常ひじょう充実じゅうじつした時をごすことができたな……。

 今夜は特に、色々な人と話せて面白かったなぁ。


 この世界に戻ってきてからは、食事時しょくじどきが楽しくてしょうがない。

 食事をとるのが面倒めんどうで しょうがなかった、日本人だった頃とはえらちがいだ。


 そんなことを考えている時に事件は起こった!


 突然、みんなが自身じしんくびきむしりながら苦しみ出したのだ!


 そして、地面へとたおれ、のたうちまわっている!? くちからはしろあわ!?


どくか!?」


 俺は近くにいる数人のステータスを確認する。

 どくによる状態異常じょうたいいじょうこされている!……致死性ちしせいどくか?


 俺のフィアンセたちは、みんな動揺どうようしているが、どく影響えいきょうはない。

 毒耐性どくたいせいを持っているので当然とうぜんである。


 さゆりも管理助手であるから心配ない。


 俺はマップ上で、状態異常じょうたいいじょうおちいっているすべての者をターゲット指定していし、一気いっき体内たいないどく浄化じょうかしてやり、さらに、修復神術しゅうふくしんじゅつほどこした。


 どくにやられた臓器ぞうき修復しゅうふくするための処置しょちだ。


 数分後には、みんなの状態は完全に回復した!


 小さな子供たちは、キャルとシャルと一緒にラフの部屋で眠っている。

 さいわいなことに、子供たちはどく摂取せっしゅしなかったようで、何事なにごともなかった。



 今、俺とシオリ、さゆりで一体いったいなにどく混入こんにゅうされていたのかを調べている。


「シンさん、どうやらドリンクディスペンサーのすべてに毒物が混入されているようです」


「何!? そうか……。 ありがとう、シオリちゃん」


 クソッ! 誰なんだ!? こんなことをするヤツは……!

 また、シオン教徒を名乗なのやからなのか?



 ◇◇◇◇◇◇◇



 みんなが、どくくるしみ もがいている どさくさ にまぎれて、ひそかにこの場から立ち女性神官じょせいしんかんがいた。


「チッ! しくじったか!……クソッ! シンめ!

 これほどの猛毒もうどくでも殺すことはできないのかっ!? 次こそは絶対に殺してやる!くびあらってっていなさい!」


 おんな神官服しんかんふくてる……。


 神官服の下は黒装束くろしょうぞく。 ふところから取り出した黒布くろぬのでサッと覆面ふくめんすると、神殿脇しんでんわきつないであった馬にまたがり、まちほうへとって行った。



 ◇◇◇◇◇◇◆



 一頭いっとううまが、神都エフデルファイの街中まちなかけていく、かうは代官だいかん屋敷やしきがある方角ほうがくだ!


 馬上ばじょうには真っ黒なあやしい人影ひとかげ……。 むねのあたりがふくらんでいる?

 女性のようだ。


 あと少しで代官だいかん屋敷やしきだというところで、きゅうに馬はいななき、止まろうとする。

 前脚まえあしげて空をかくかのように動かしている。


 馬は、なにやら目の前の何かにおびえてでもいるようだ。


「ええぇーいっ! どうした! あと少しではないか! 進まんかっ!」


 馬上ばじょう人物じんぶつは、うまはらを何度もって、馬を先に進めさせようとするが、しかし、どういうわけか馬はこばみ続けている。


 その馬の前をよく見ると、そこにもくろ人影ひとかげがある!?

 こちらも、むねふくらみから、女性だと判断できる。


 馬前ばぜんおんな姿すがたが確認できるようになると、不思議ふしぎなことに、馬は前脚まえあしろしてきゅうしずかになった。


 馬はもうおびえてはいない。 まるで何事もなかったかのようにしている……。



「待っておったぞ! 観念かんねんして、大人おとなしくばくけ!」

「はっ!? お前は誰だ!?

 私を代官だいかんつま、カミイラル・ジェイペズと知っての狼藉ろうぜきか!?」


「お前が神官たちに "どくった犯人はんにん" であることはすでに明らかとなっている。

 大人おとなしくばくけばし、さもなくば……」


だまもの! ファイヤーボール!」


 馬上ばじょうおんな馬前ばぜんおんなに向けて、高威力こういりょくのファイヤーボールを躊躇ちゅうしょすることなくはなつ!


 あわや! ファイヤーボールが直撃ちょくげきかと思われた瞬間、馬前の女の姿が消えた!

 直後、馬の背の上には、くろ人影ひとかげあらわれて馬上の女の後ろに立つ!


おろものめがっ!」


 馬上にあらわれ、馬の背に立った女は一声発ひとこえはっし……

 代官だいかんつま、カミイラル・ジェイペズの首筋くびすじに向かって手刀しゅとうはなった!


 代官だいかんつまは『 うっ! 』とうめき……直後、その意識いしき手放てばなしたのだった……。


 次の瞬間! その場に馬だけを残して、2つの人影は姿を消した!



 ◇◇◇◇◇◆◇



 毒殺未遂事件どくさつみすいじけんがあって、そのまま夕食を続ける雰囲気ふんいきではなくなった。

 あのあと、すぐにバーベキューパーティーはおひらきになってしまったのだった。


 俺とシオリは、夕食の後片付あとかたづけを早々そうそうえ、今、謁見えっけんにいる。


 ここにいるのには理由がある。


 しの部隊ぶたいムンライトの副隊長ふくたいちょうのエンから、今回の毒殺未遂事件どくさつみすいじけん犯人はんにんらえてくるから、ここで待つようにという念話ねんわをもらったからである。


 しばらくすると、エンが転移してきた。


 エンは左肩に、なにやら黒いものをかついでいる。

 よく見ると…"黒装束くろしょうぞくをしたひと" のようだ。


 エンは、黒装束くろしょうぞくをした、"人らしき モノ" をゆかへと無造作むぞうさろす。

 まるでほうげるかのように……。


「うぐっ……ん……んん?」


 ゆかろされたのは、やはり人だった。

 覆面ふくめんをしていたのだが、体型たいけいから女性であることが分かる。


 えず "見えざる神の手" を使って、その女性をロープでグルグルきにしておく……。


 覆面ふくめんる!

 覆面ふくめんしたかくされていた女性の顔……なんともプライドが高そうな顔立かおだちだった。


「上様、今回の毒殺未遂事件どくさつみすいじけん犯人はんにんです。

 この女は、代官だいかんつまで、カミイラル・ジェイペズです」


 そうか……。 俺はあまかった! 自分の考えの甘さを痛感つうかんした!


 代官だいかん身内みうちがいることを、まった考慮こうりょれてなかった。

 自分自身の思慮不足しりょぶそくこころそこからじたのだった。



「はっ!? ここはどこ……!!!

 シンっ! ムケッシュを返せ! この人でなしめ!

 夫を返せーーっ! 返せ--ーっ!」


「返せって、言われてもなぁ、お前の旦那だんなはとんでもねぇことをたくらんでたんだぜ?

 『はい、そうですか』と、すんなり返せると思うか? 寝言ねごとてから言いな!」


「ムケッシュは……ムケッシュは何もやっちゃいないでしょうがっ! 返せ-っ!」


「あのなぁ……あのまま、お前の旦那だんな野放のばなしにしていたら、俺の大事だいじなフィアンセたちが、お前の旦那だんなや仲間たちに、さんざっぱら凌辱りょうじょくされた性奴隷せいどれいとして奴隷商人に売られちまうところだったんだぜ?

 そんなことがゆるせるとでも思うのか?

 お前さんも女なら、それがどれだけひどいことだか分かるだろう?」


「夫は……まだ何もやっちゃあいない! 

 罪をおかしてもいない者をさばいてもいいわけがあるものかっ! 横暴おうぼうだっ!!

 神だからって、これをゆるせるわけがない!」


 まぁ、普通ふつう法治国家ほうちこっかなら、その理屈りくつとおるかもな……。

 だがな、ここは違う!


犯罪はんざい実行じっこううつそうとした段階だんかいで、そく! アウトだぜ!

 被害者ひがいしゃが出てからじゃ、おせぇんだよ。 そうだろう? そうは思わねぇか?

 それに…これは正当防衛だからなぁ。 まさかお前は凌辱りょうじょくされそうになっても、抵抗ていこうすら、しちゃぁいけねぇなんて言わねぇよな? まもるのは当然とうぜんだろぉ?」


「そんなのは詭弁きべんだ! ムケッシュを返せ--ーっ!!」


「あのなぁ……ここでは俺がルールだ! 鬼畜きちくには容赦ようしゃはしねぇ! 絶対にっ!

 問答無用もんどむようだ! 死あるのみだ! 分かったかっ!」


「きぃーーーっ!! か、返せーーーっ! お、夫を返せ-ーっ!」


 どこまで行っても議論ぎろんが かみわねぇ にまってるわな……。


「それよりも……お前、自分の心配をしたらどうだ?

 お前は何十人も殺そうとしたんだぜ?

 もし俺たちがいなかったら、毒を飲まされた者たちはみんな死んでただろうなぁ。

 ひでぇことをしやがるなぁ、……だ・か・ら! お前をゆるすわけにはいかねぇっ!」


ゆるせないってんなら、どうしようってんだい!?」


「大きな肉食魚にくしょくぎょれと、獰猛どうもう魔獣まじゅうれとどっちがいい?」


「な、ななな、何のことなんだい!?」


「いやなに、お前はどっちに喰われてぇのか? っていう話だよ。 選ばせてやるよ。

 俺ってやさしいだろう? ははは!」


 この会話をはたで聞く者がいたら、俺の方が絶対に "悪者わるもの" だと思うよなぁ……。


「……」

「さあ、どうするよ? 魔獣がいいか? それともサメか?」


 聞かれても決められるわけねぇよなぁ……。


「おのれぇーっ! うららさでおくべきかっ!

 たとえほろんでも、必ずや死霊しりょうとなってお前を取り殺す! 覚えておけ!」


「はいはい。 お前が死んだら、キッチリと奈落ならくそこへ落としてやるから安心しろ!

 もう二度とよみがえることはできねぇから、地獄の苦しみをた~っぷりと味わいながら消えちまいなっ! あ・ば・よっ! …… 転送っ!」


「おのれぇーーっ! たたってやるぅーー……」


 うらみの言葉ことばきながら、女は魔獣まじゅうつ森へと転送されていった。



「おエン! 良くやった! 見事みごと手並てなみだ!

 これほど早く、犯人はんいんつかまえてくるとは、いやぁ~、たいしたものだ!」


「もったいなき お言葉……恐悦至極きょうえつしごくぞんじます」


「何か褒美ほうびらそう! 欲しいものはあるか?」

「いえ、お気持ちだけで十分でございます!」


 この謙虚けんきょさがいいっ!


 ということで、オリハルコン製の忍刀しのびがたなを生成して与えることにする。


 かたなつかの中には、半径2mの球形きゅうけいシールドを発生させられるシールド発生装置はっせいそうち内蔵ないぞうさせておいた。 これをおエンに褒美ほうびとして与えよう。


 あ、そうだ。 一応、おギンの分も作っておこうかな……。


 さてと……おエンが喜んでくれるといいのだがな……。


「欲がないのぅ……。ますます気に入った! では、これをさずけよう!」

「ははっ! ありがたき幸せに存じます! 家宝かほういたします!」


 この子たちと話をしていると、どうしても時代劇じだいげきがかってきてしまうな。

 あ、シオリがあきれた顔をして笑っている……。は・は・は。


「その忍刀しのびがたなには、仕掛しかけがある。

 つかのところにあるそのボタンを押すと、半径2mの球形きゅうけいのシールドがつかの部分を中心として展開てんかいされるようになっておる。

 ほとんどの攻撃を防ぐことができる優れものじゃ! うまく使いこなせよ!」


「はっ! 必ず使いこなしてごらんに入れます!」


「よし! それでは下がれ。 今夜はゆっくりと休むがよい!」

「はっ! 失礼します!」


 そう言うと、おエンはどこかへ転移していった。


 彼女には心から感謝している。

 彼女がいなければ、犯人の特定には時間が掛かっていただろう……。



 ◇◇◇◇◇◆◆



 翌朝、朝食ちょうしょくは、コッペパンに、自分の好きな具材を挟んで"コッペパンサンド"にして食べられるように、各種具材かくしゅぐざいを用意した。


 タマゴサラダ、コロッケ、メンチカツ、トンカツ、エビカツ、チキン南蛮……、

 ハンバーグにソーセージ、ウインナー、ナポリタン、焼きそば……、

 レタス他の野菜類等、その他にもたくさん種類を用意してある。


 それに、タマネギを具材ぐざいのベースにしたベーコン入り野菜スープと、各種飲み物も用意しておいた。


 今朝も朝食はマンションの1階ホールで、みんなで食べることにしている。


 キャルとシャルが、ラフと一緒にホールに入ってきた。

 二人とも、何度もあくびをし、目をこすりながら、トコトコと歩いてくる。


 ソリテアも、家族と一緒に食事をしたいだろうと思い、彼女の家族もここへ呼んである。


 さゆりは、まさか、コッペパンサンドがこの世界で食べられるとは思わなかったと言って感激していた。


 俺が地球の料理についてのデータを持っていて、レプリケーターにリンクしてあるとは思ってもみなかったらしい。 全部シオリちゃんの御蔭おかげなんだけど……ね。



 ◇◇◇◇◆◇◇



 今朝の朝食もみんなで和気藹藹わきあいあいとした雰囲気ふんいきであった。みんな、本当に楽しそうであった。


 もちろん、俺自身もとても楽しかったのは言うまでも無い。


 朝食の後片付あとかたづけを終えてから、昨夜立てた計画通りに、まずは、カーラの実家へと向かうことにする。


 メンバーは、俺に、カーラ、さゆりに、スケさんとカクさんである。


 カーラの意見を参考にして、我々われわれはすでに村人風むらびとふう変装済へんそうずみである。



 この神国から東南東に2000km程のところにある "トークルマアプ"。


 そこは、獣人国家ニラモリアとの国境近くにある大きな町だ。

 その町の神殿も、"7大神殿" のひとつ であり、その神殿でカーラは后候補きさきこうほに選出されたのである。


 カーラの実家は、そのトークルマアプから見て、南西の方向、約48kmの位置にある農村のうそん "ヴァルジャン" の中にある。


 まずは、ヴァルジャン近くの森に俺たちは転移する予定だ。


「ようしみんな、準備はいいか? よければ俺の周りに集まってくれ! ……転送!」



 ◇◇◇◇◆◇◆



 ヴァルジャン村の入り口には門番がいた。

 だが、カーラの知り合いだったので、すんなりと村の中に入ることができた。


 村の中心へと足を進めると、中央広場に人だかりができている。


「いやぁ、マチアスデイルはやっぱりすげぇなぁ! まさか本当に神都の神官試験に合格しちまうとはな!」


「ああ、1万人にひとりしか合格できないんだよな? すごいぜ!」


「そうなんだよ。トークルマアプ周辺で今までに合格した者はいなかったんだからなぁ、マチアスデイルはすごいよ。 天才だな!」


 どうやら、神都エフデルファイにある中央神殿、つまり、俺たちが拠点きょてんとしている神殿だが、その神殿がおこなった神官採用試験にマチアスデイルという青年は合格したらしい。


 しかし、1万人にひとりしか合格できない試験?

 本当にそんなに受験者がいるのか??


 かつての中国、清代末期まで行われていた "科挙" みたいだな……いやそれ以上の難しさか。


 俺は中央神殿の神官たちのことを、ちょっと見直した。


「まさに "破天荒はてんこう" だな……」

「えっ? あの人、神経質しんけいしつそうに見えますよ? 豪快ごうかいな人には見えないのですが?」


 さゆりが俺のつぶやきをひろった。


「あちゃぁ、お前さんも、どこぞの芸人が広めた"誤用ごよう"の方で意味をおぼえた口か?」


「えっ? 誤用とは?」


「"破天荒" というのはな、"豪快で大胆な人" とか……

 "傍若無人なふるまいをする人" って、いう意味じゃねぇんだぞ?」


「えーーーーっ! そうなんですかぁ? そうだとばっかり思っていましたよ!」


「まぁ、俺が日本にいた頃は、テレビのアナウンサーですら間違って使うヤツがいたくらいだからなぁ、しようがねぇといえば、しようがねぇのかなぁ……」


「それで、本当の意味は何でしょうか?」


「ああ、"誰もげたことがない偉業いぎょうげる" って、意味だ。

 まさに、あのマチアスデイルって青年がげたようにな……。

 このあたりで初めての合格者らしいからな。 この言葉にはぴったりだろう?

 そう思わねぇか?」


「はい! 思います! メモメモっと……。勉強になりまっすっ!」


「まぁ、もし万が一にも、日本に戻ることがあったら、気ぃつけて使うんだな」

「は・は・は……」


 さゆりが望むのなら、日本へ送り返してやってもいいんだけどな……。

 いや、だめだな、それはかわいそうだ。 あのクソ管理者のもとじゃなぁ~。



 ん? さすがは神官を志す青年だ。マチアスデイルは俺が誰なのか分かったようで人々をかき分け走り寄ってくる。 そして、俺の前まで来るとひざまずいた。


「上様、このようなところまでようこそおくださいました」


「おう! お前さん、がんばったな! 中央神殿の神官試験にパスしたんだってな?」

「はい。ありがとうございます」


「期待してるぜ、無理せずがんばってくれ」

「はい。がんばります! よろしくお願い致します!」


「カーラさん、上様うえさま一緒いっしょということは……おめでとうございます。

 おきさきに選ばれたんですね?」


「はい。ありがとうございます。 私も夢が叶いました。

 マチアスデイルさんも合格おめでとうございます」


「ありがとうございます。

 神都では色々とお世話になるかと思いますので、どうかよろしくお願いします」


「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


 村人むらびと遠巻とおまきにしてこちらを見ている。


「おっと、こうしちゃぁおられんな……

 俺たちはこれからカーラの家へ行かなきゃならんのだ。

 それじゃぁな、また、中央神殿で会おう」


 ん? マチアスデイルが俺たちの後をついてくる。


「どうした? まだ何かあるか?」


「じ、実は今……かつて、上様うえさまが神官たちにかたられたと言われている言葉を勉強しているのですが、その真意しんいがどうしても分からないものがあるのです。

 それで、直接その真意しんいうかがえたらと思いまして……。

 その言葉は、魔族の方が書かれた本の中に記述があるのですが……」


 マチアスデイルが左肩から たすきけ にしていたかばんの中から、一冊いっさつの本を取り出した。


 俺が語った言葉と言われてもなぁ、記憶は全く無いし……こまったなぁ。


 魔族だって俺の信徒しんとだからいいんだけど、魔族が神学書しんがくしょを書くってのは……

 なんかみょうな感じがするなぁ。 違和感いわかんがあるよなぁ。


「どんな言葉か知らねぇが、俺には語った記憶すらねぇよ。

 見せられてもなぁ、本当に俺が言ったかどうかも分からん。

 だから、聞かれても困る。

 えず……その本をしっかり読めば分かるんじゃねぇのか?」


 本をチラッと見る。

 原書げんしょじゃなくて、翻訳書ほんやくしょのようだ。


「ただ、ひとつアドバイスしてやろう」

「はい。ありがとうございます! お願いします!」


「ああ、簡単なことだ。『 本は原書げんしょを読め』。

 翻訳ほんやくされたものは、情報じょうほうのエントロピーが増大ぞうだいしている可能性が高いからな」


「えんとろぴー? ですか?……申し訳ありません。 よく分からないんですが?」


「伝言ゲームって知ってるだろ? あれと同じことだ。

 つまり言いてぇのは、人の頭を経由けいゆすると情報じょうほう劣化れっかが生じる可能性が高いってことだ。

 伝言ゲームでさ、最後の人が答えた内容が、最初の、問題文の内容とは、まったく異なっちまう…って、ことがあるだろう?

 そういった情報の劣化れっかが、翻訳ほんやくさいにも生じる可能性がある。

 それだけじゃねぇよ。 翻訳者が勘違かんちがいすることもあるだろうし、意図的いとてき内容ないようをねじげていねぇともかぎらねぇしな。

 だから、本は原書げんしょを読まねぇとダメなんだよ。 翻訳版ほんやくばんはやめた方がいいぜ」


「な、なるほど」


「あ、それとな、もうひとつ……本は懐疑的かいぎてきに読め!」

懐疑的かいぎてき? ですか?」


「ああ、間違っている箇所かしょを見つけるつもりで読め。 盲信もうしんしちゃダメだぜ。

 そうやって読んでるとなぁ、誰も思いつかなかったすげぇことを発見するヒントを見つけられることもある。

 それになぁ……ヒューマンエラーは人間にゃぁつきもんだしな。 いいな?」


「はい。気をつけます。 ありがとうございました」


わりぃが、ちょっといそいでるんでな、じゃあ、また神殿でな!」

「お、おいそがしいところを申し訳ありませんでした。 失礼します!」


「おう! じゃあなっ!」


 マチアスデイルは去って行った。


 えらそうにアドバイスしたが、みんな、大学時代だいがくじだい恩師おんしから受けたアドバイスの受け売りだ。 だが、マチアスデイルにもきっと役に立つだろう。


 自分で言っておいてアレなんだが……ヒューマンエラーかぁ。

 これは、本当に人間の特性とくせいじゃなかろうかとさえ思える。


 ソフトウェア開発にたずさわっていると、特にそう思えてくる。


 どんなにキッチリとプログラミングしたつもりでも、なんか知らんけど、バグが入っちまうんだよな……。


 慢性的まんせいてき疲労感ひろうかんの中でプログラミングしているからってわけでもなかろうし……。

 不思議でしょうがない。



 ◇◇◇◇◆◆◇



 カーラの実家の前に来たのだが……なにやら玄関口げんかんぐちで男女がめている。


 その男のほう両脇りょうわきには、"いかつい顔" をした、"がっちりした体型" の男が二人、うでんで立っている。


 俺たちに気がいたようで、こっちをにらむかのようにして見ている。


「……だから、私の息子むすこが"一人前いちにんまえの男になるための儀式ぎしき"の相手あいてをすれば、小作料こさくりょう免除めんじょしてやると言ってるんだ! 悪い話じゃないだろうが?

 お前もおっとくして毎晩まいばんさびしいおもいをしているんじゃないのか?

 ちょうどいいじゃないか? な?」


「ですから、さっきから、おことわりしているじゃないですかっ!

 私はいやなんです! 他をあたって下さい!」


 ……ふぅ、またゲス野郎の登場なのか?


 しかし、多いなぁ、この世界ってゲス野郎の巣窟そうくつのようだぜ。


 話の内容からすると……この農村のうそんじゃぁ、所謂いわゆる日本で言うところの "褌祝ふんどしいわい" のような風習でもあるようだな?


 でも、女性に無理強むりじいはダメだろう……。


「おい! てめぇ! いやがっているじゃねぇか!? 素直すなおあきらめな!」


 高速移動で俺は、玄関先げんかんさきめている男の背後はいごへと移動し、男のうしえりつかんで "かる~く" うしろへとってやった……。


 ぐべっ! ぐがぁっ! びべっ! ザザザザザーーーーッ!!


 し、しまった! また力加減ちからかげんを間違えてしまった! ホントにむずかしいな……。


 男は、強制的きょうせいてきににバックてんをさせられながら、俺たちの後方こうほうへとバウンドしながら飛んで行く。


 最後は顔面がんめんから地面に着地ちゃくちすると、そのまま ザザザ… と音を立てながら、地面をすべっていった。


 飛んで行った男の"用心棒ようじんぼう"らしき二人のマッチョマンは、突然とつぜん出来事できごとに、呆気あっけにとられて、ただ見ているだけである。


 なんか、このパターンって多いよなぁ……。 またまたトラブル発生かよぉ?



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