第0019話 スケープゴート

「シンさん、地球の管理者からメッセージが届きました」


 俺が謁見えっけんに転移するとシオリがすぐに話しかけてきた。


「なんて言ってきたんだ?」


 シオリがメッセージを何も無い空間にうつし出す……。


『強制的に日本人として転生させちゃったことは、ホント! すまなかった!

 それでさぁ、その件の責任者せきにんしゃを転送するからさぁ……そいつをるなとくなと、好きにしてもらっていいからさ、それで勘弁かんべんして欲しいんだわ~。 頼むよぉ。

 じゃ! そういうことで!

 ……あっ、そうそう! この件の責任者せきにんしゃは5分後くらいにはそっちへ転送できると思うからさ、よろしくね。 じゃあね! バイバーーイ!』


「クソ野郎が、ふざけやがって! これで謝罪しゃざいしているつもりかっ?」


 そんな時である。

 謁見えっけんの入り口と玉座ぎょくざとのちょうど中間地点の空間がゆがす……。


 それはだんだん大きくなり、半径1m程の半透明はんとうめい球形きゅうけいをしたシールドのようなものが現れた!?


 そのシールドのようなものの中は、きゅう中心ちゅうしんから外側そとがわ球面きゅうめんに向かって無数むすうのコロナ放電ほうでんようなものが起こっている! プラズマボールのようになっているのだ!


 あちゃ~、球体きゅうたい出現しゅつげんしたところのゆか球面きゅうめんでえぐり取られてしまったようになっている……。 ひでぇ~なぁ!



 しばらくすると、放電ほうでんおさまり、なか人影ひとかげあらわれた!?

 女性だ! それもぱだかだ! 大事なところまでもが 見えそうだ……。


 地球の米国、カリフォルニア州知事しゅうちじつとめたこともある "マッチョな" 映画俳優えいがはいゆうが殺人アンドロイド役を演じた『ターミ○ーター』というSCSI機器の終端抵抗しゅうたんていこうのようなタイトルの映画作品があるが……

 その映画の中で、"殺人アンドロイド"が未来からやってくるシーンのような感じで彼女は現れたのだ!


 はだか登場とうじょうってのも同じだな……。 地球の管理者の演出じゃないだろうな?


 右膝みぎひざを立てた状態でひざまずき、こうべれている。

 立てたひざの上に頭を乗せているかのように見える……。


 空間くうかんゆがみがおさまると、女性は "ふらふら" しながら俺の近くにやってきて……


「申し訳ございません! 貴方様あなたさまが日本でおくなりなった時は、私が日本の担当者たんとうしゃでした! どうぞるなりくなり、性奴隷せいどれいにするなり好きにして下さい!」


 女性は、泣きながら土下座どげざしてびる。


「まぁまぁ……お前さんに責任がねぇことくらい、俺にはちゃんと分かっているからおもてを上げてくれ! いやっ! その前に服を着てくれ!」


「うう……。 この世界ではレプリケーターを使用する権限けんげんがありません。

 服を作れないんですぅ。 わあぁぁぁぁぁん!」


 そうか……この世界の人間? じゃないからな。


 俺は、いつもの"下着&グレーのワンピース&ジーンズ"等々を生成して、目の前の女性に装着そうちゃくさせた。


 彼女のステータスを確認する……。

 名前は "さゆり"、またしても "17歳" だ。 魂の色は銀色である。


「さゆりさん、お前さんはスケープゴートにされたんだな? かわいそうに……」

「えっ? ど、どうしてお分かりになるのです?」


「だってさぁ、俺は "いい年したオッサン" で死んだんだぜ?

 17歳のお前さんじゃぁ、俺が無理矢理日本に転生させられた時には、まだ生まれちゃぁいねぇだろう?

 ただ単に、俺が日本で死んだ時に日本担当をしてただけなんだろう? 違うか?」


「ううううう、そ、そうなんです。

 上様うえさまから『おめぇの責任だ! 責任とって来い』って言われて……。

 でも、本当にすみません。 私どものミスで、大変なご苦労くろうを味わわせてしまい、まこともうわけございませんでした。 心よりおび申し上げます。 ううう……」


「よしっ! 気に入った! お前さん、俺の助手にならねぇか?」

「えっ?」


「俺はお前さんのことが気に入ったぜ!

 スケープゴートにされて、うらごとのひとつでも言いたくなるだろうに……

 なのにお前さんは、地球の管理をしていた者として、ちゃんと俺にあやまってくれたじゃねぇか! なかなかできることじゃねぇ! どうだ? 俺の助手にならねぇか?」


「わ、私なんかでよろしいのでしょうか?」


「おう! もちろんだ!

 実はな、今、人族担当の管理助手がいなくてなぁ、ちょうどこまってたんだよ。

 だから、お前さんがけてくれたら助かるんだがなぁ。

 どうだい? けてくれたらおんるぜ?」


「はい! よろごんでおびきう゛げじまず~! ありがとうごじゃいまずー!!」


 さゆりは、俺の胸に飛び込んできて、おいおいと泣いた……。

 俺は思わず、彼女をギュッときしめてしまったのだった。



 地球の管理者ってのは、ホント、クソだな!

 俺のつとめていた会社の上司じょうし、部長のことが頭をよぎる……。


 自分のミスは部下の責任、部下の手柄てがらは自分の手柄てがら……。 ああ腹が立つ!

 この子は俺と同じで、クソ野郎上司じょうし犠牲者ぎせいしゃだ!


 そのうち、絶対に地球へ行って、地球の管理者をぶっ飛ばす!

 そう俺は強く強く心にちかったのだった!



 ◇◇◇◇◇◇◇



 さゆりが落ち着いてきたので、さゆり、シオリと一緒いっしょに、俺は自分の部屋へと転移してきた。 お茶でも飲みながらゆっくりと話そうと思う。


「シオリちゃん、俺がこっちに戻ってきた時も"さゆりちゃん"の時みたいな現れ方をしたのか?」


「いえ、通常はエネルギー使用量が多すぎるため、さゆりさんのような転送はおこないません」


「へぇ~。 そうなのか?」


「通常、べつ宇宙空間うちゅうくうかんへ、宇宙空間うちゅうくうかんをまたいで転移てんい転送てんそうする場合は、魂とその関連するデータを圧縮あっしゅくして、"ひとつのデータ" にまとめてから、"データのかたまり" として転移先・転送先に送り……

 先方せんぽう用意よういした肉体にくたいへ、魂関連データをインストールというかリンクさせる方法がられます」


「なんで、さゆりちゃんは肉体ごと転移させたんだろうな? 地球の管理者は?」


「こちらの "意向いこう" も聞かずに、一方的いっぽうてきおくりつけるためと……

 エネルギー使用量が多い方法を使うことで、"謝罪しているポーズ"をしめしたかったのでしょう」


 シオリの予想をさゆりが肯定こうていする。


「はい。 地球の上様うえさまは、


 『めちゃめちゃエネルギーを喰う、"肉体まるごと転移" を使うんだ。

  これだけ誠意せいいくせば、ヤツだって きっとゆるしてくれるだろうさ……』


 とおっしゃっていました」


 クソ野郎め! だまされるかってんだ!


「そんなにエネルギー使用量が違うのか?」


「はい。 質量しつりょうの4じょう比例ひれいしてエネルギー使用量しようりょう増加ぞうかします。

 通常の"魂データ送信による転移"であれば 質量しつりょうはゼロですので、ほとんどゼロに近いエネルギー使用量しようりょう宇宙空間うちゅうくうかんまたいだ転移てんい可能かのうなのです」


「私がはだかかれたのも、ちょっとでもかるくしようとしてのことでした」

「地球の管理者ってのは、本当にゲス野郎だな!

 こんなかわいい女の子を、はだかにして送り出すなんて! ゆるせんな!」


 さゆりが "ポッ" とほおめる。



 俺はさゆりに、この惑星で俺の助手、つまり、管理助手として活動かつどうできるように、各種権限かくしゅけんげん付与ふよしてやった。


 もちろん、転移・転送能力も…だ。


「いやぁ~、ホント助かる! さゆりちゃん! こっちに来てくれてありがとうな!

 お前さんみたいな優秀ゆうしゅう人材じんざい確保かくほできて俺はうれしいぜ!

 これでシオリちゃんの負担ふたんも少しは軽減けいげんできるだろうしな! よかったよ!」


「ありがとうございます! おちからになれるように、一所懸命いっしょけんめいにがんばります!」


「ああ、でも無理はするなよ。 がんばりすぎはダメだぞ?」

「ううう……。 なんてお優しい方なんでしょう……」


「いや、別に普通のことなんだけどなぁ。 お前さん、よっぽど"ひでぇ職場環境しょくばかんきょう"だったんだな? 地球って、神の世界までブラックなのか?」

「……?」


「まぁいい、ここでは無理せず、自分のペースでやってくれればいいからな?」

「はい」


「しばらくはシオリちゃんについて、こっちの仕事をおぼえてくれるとたすかる。

 ゆくゆくは人族を担当してもらおうと思っているんで、よろしくな」

「はい。がんばります!」


「あ、それからな、これは俺の個人的な頼みなんでなぁ……

 できたら……で、やってしいってレベルの話なんだが……」


 俺には、日本にいた時にこころからあいした女性がいたこと。

 その女性が無惨むざんにも殺されてしまったこと。 その犯人はんにんを、俺が死ぬまでに見つけられなかったことを話して……


 ヒマな時でいいから、"さゆりが日本担当をしていた時のコネクション"を使って、犯人はんにんだれなのかを調べてはもらえないかと頼んだのだ。


 犯人が見つかったとしても、この世界からではどうすることもできないんだが……

 このことだけが日本人としての俺の心残こころのこりだと話すと、さゆりはこころよ承諾しょうだくしてくれた。


「面倒くさいことを頼んでしまって、ホント、申し訳ない。

 ヒマな時だけでいいから。 頼みます。 どうかよろしくお願いします」


 俺はさゆりに頭を下げた。



 ◇◇◇◇◇◇◆



 マンションの現在の部屋割りは次のようになっている。


10階。東から、シン(キャル、シャル)、シオリ。

 9階。東から、スケリフィ、カークルージュ、キャル、シャル。

 8階。東から、ソリテア、インガ、ヘルガ、タチアナ。

 7階。東から、ディンク、カーラ、ゼヴリン・マーロウ。と空室1部屋。

 6階。シェリー、ラヴ、ラフ、ミューイ。

 5階。神殿騎士試験受験生の3人が住む。1部屋は空室だ。

 4階。空き部屋が4部屋。

 3階。東から、ニング、ロッサナ。空き部屋が2部屋。

 2階。東から、ベックス、ティーザ、レイチェ、タニーシャ。

 1階。食堂兼多目的ホール。厨房他。


 管理助手のさゆりには申し訳ないが、7階の空き部屋に住んでもらうことした。

 つまり以下のようになる。


10階。東から、シン(キャル、シャル)、シオリ。

 9階。東から、スケリフィ、カークルージュ、キャル、シャル。

 8階。東から、ソリテア、インガ、ヘルガ、タチアナ。

 7階。東から、ディンク、カーラ、ゼヴリン・マーロウ、さゆり。

 6階。シェリー、ラヴ、ラフ、ミューイ。

 5階。神殿騎士試験受験生の3人が住む。1部屋は空室。

 4階。空き部屋が4部屋。

 3階。東から、ニング、ロッサナ。空き部屋が2部屋。

 2階。東から、ベックス、ティーザ、レイチェ、タニーシャ。

 1階。食堂兼多目的ホール。厨房他。


「さゆりちゃん、管理助手用の部屋が用意できなくてすまない。

 えず、この図では……ここ! この部屋、ゼヴリン・マーロウのとなりの部屋を使って欲しい」


「えっ!? 住居もお世話下さるなんて、感激ですぅ! ちょぉ~ホワイトですぅ!」


「ちょぉ~ホワイトって。 ははは。

 ところで、日本担当者として神の管理助手をしてた時、家はどうしてたんだ?」


自費じひ単身用たんしんようのアパートをりていました。 こっちに来てよかったぁ~!」


「こんなかわいい女の子を、アパートで一人暮ひとりぐらしさせるだなんて……

 地球は監獄かんごく惑星わくせいなんだろう? わりぃヤツは"ウヨウヨ"いるのになぁ、ひでぇことをしやがるなぁ~、地球の管理者ってのは……。

 せめてりょうぐらいは用意してやるだろうが、普通は?」


「……ははは。当たり前だと思っていましたので、こちらが天国てんごくに思えますよ」


「日本に住んでいたんだから、住宅設備じゅうたくせつびの説明は省略しょうりゃくしても大丈夫だいじょうぶだよな?」


「はい。 わぉ! シャワートイレまであるなんて! 感激かんげきですぅ!

 "中世ヨーロッパレベルの生活"だって聞いてたんで、こちらの世界でらすことになったとしたら、どうしようかと思っていました!」


「ははは。そう思うだろうな。 便利だったからなぁ、日本は」


「アニメとか見て、異世界転生いせかいてんせいにはあこがれていたんですが……

 実際に中世ヨーロッパレベルで生活しなくてはならないとなると、ちょっといてしまいます」


「おっ! お前さんも異世界転生いせかいてんせいモノが好きなのか?」

「はい。 えっ? 上様うえさまもですか?」


「シンでいいよ、上様うえさまとは呼ばないでくれ。

 いやぁしかし、日本のことが話せるお前さんが来てくれてホント嬉しいなぁ!

 これから、よろしく頼むぜ!」


「はい。 シンさん!」


 シオリがなんか "ジトッ" とした目で見ている!?

 居心地いごこちわる沈黙ちんもくがしばらく続く……。 話題を変えよう……強引ごういんに。


「そういえば、シオリちゃん。 間違ってたらすまんが……

 后選きさきえらびの時、シオリちゃんも手をげてくれたように思ったんだけど……

 俺の気のせいかな?」


「……いえ、私も手をげました」


「本当に? 俺なんかの嫁になってくれるのか?」

「……はい。シンさんがよろしければ……ですが」


 シオリがほおめて、"モジモジ" し出す。


「よろしいってもんじゃねぇよ! 最高さいこうだぜ!

 お前さんのような "沈魚ちんぎょ落雁らくがん閉月へいげつ羞花しゅうか" な "超絶ちょうぜつ美人びじん" な上に、あたまれて……

 しかも、性格せいかくまでもがいい子をよめにできるなんて!

 言葉ではくせねぇほどに幸せなことだぜ!」


「そ、それは……ほ、めすぎです」


 最近の俺はかなり変わってきてしまっている。


 以前は "ハーレム" に抵抗感ていこうかんがあったのだが……どうもこのところ抵抗ていこうがなくなりつつある。 キャラクター設定を変更した影響なんだろうか……?


「でもさぁ、実験とはいえ、俺はハーレムを作らねぇといけねぇんだぜ?

 そんなの女性として許せるのかい?」


「女性にかぎった感情かんじょうではないでしょうが……ゆるせません。

 管理助手としての立場たちばを離れて考えますと、絶対ぜったいゆるせません。

 独占欲どくせんよくもあります。 シンさんには他の女性と一緒いっしょにいて欲しくはありません。

 ですが、そのような感情以上に、貴方あなたへの気持ちをころほうが、何倍もつらくてむずかしいのです。 論理ろんりではれず、ディレンマにおちいってしまいます」


「あのぉ~、いいでしょうか?」

「ん? なんだい、さゆり?」


「どちらも……素直すなおに自身の気持ちにしたがったらいいのではないでしょうか?」


「どういうことだね?」


「シオリさんが、ハーレムを作るシンさんをゆるせるならそれはそれ……

 ゆるせないならそれもそれ……っていうことですよ。

 ゆるせないというのでしたら、やめておけばいいだけなんじゃないでしょうか?

 で、ゆるせるんなら、一緒いっしょになればいいだけですし……

 どんとすぃんく! ふぃ~る! ってヤツですよ。考えすぎなんじゃ無いですか?」


 なるほど。 そういう考え方もあるのか……。

 ん? さゆりも映画『燃えよドラ○ン』を見たことがあるのか?


「ここは日本じゃないんですから……法律ほうりつで"一夫一婦"制が定められているわけでもありませんし、たとえ定められていたとしても、神であるシンさんの前では、意味を持ちませんよね?」


「ま、まぁな」


「要するに、各々おのおの納得なっとくしていればそれでいいんですよ。他人がどうこう言えることでもありませんしね。 いやならやめればいいだけじゃないですか?

 自分の気持ちに正直しょうじきに、素直すなおしたがえばいいだけなんじゃないでしょうか?

 私はそう思いますよ」


「なるほどな。まぁ、正論せいろんだな。

 一夫多妻いっぷたさいは、男尊女卑だんそんじょひだと見做みなされがちだが、当人とうにんたちが心から満足まんぞくしているのであれば、何も問題は ねぇもんな。 この世界では禁止されてねぇから特に。

 他人が とやかく 言うもんじゃねぇことだわな、確かに」


 地球では……一夫一婦制いっぷいっぷせい 以外を厳格げんかくみとめていない宗教しゅうきょうの中には、実はずっとさかのぼると "一夫多妻制いっぷたさいせい" を推奨すいしょうしていた "時代" を持つものなんかもあったりした。


 そんな宗教しゅうきょうかぎって、自分たちのそういった歴史れきし過去かこやみほうむって……

 一夫多妻いっぷたさいみとめる宗教しゅうきょうを さも "あく" であるかのように批判ひはんしていたのだ。

 アホらしい。


 とかく価値観かちかんってのは、そとからすりまれやすいものだ……。

 情報の取捨選択しゅしゃせんたくふくめて、自分自身でしっかりと見極みきわめることが肝要かんようだ。


 おのれ自身じしんあたまで、ちゃんとしっかり考えていかなければならない……ということをあらためて認識にんしきさせてくれたなぁ。 この子が仲間になってくれてよかった。


「ということで、私も立候補りっこうほします!」

「へっ? 何に?」


「もちろん、シンさんのおよめさんにですよ!

 おどくですよ~。 私はまだピチピチの処女しょじょなんですからね!」


 この子が仲間になってくれてよかった……ん、だよな?


 いずれにせよ、この子が登場とうじょうした御蔭おかげで、ものちたような心持こころもちになったことだけは確かだな。


 なんか、ハーレムを形成けいせいすることに "まよい" がなくなったような気がした。


「ははは。 その気持ちは嬉しいぜ。 まぁ、ボチボチと知り合っていこうか」

「はい!」



 ◇◇◇◇◇◆◇



「シオリ様、おみみれたきがございます」


「ギンですか? どうしました。

 ここにいるのは上様うえさまと管理助手だけですから、かまいません。 話しなさい」


「はっ! 実は……」


 ギンというのは、シオリの配下はいかものであるとのことだ。

 しの部隊ぶたいムンライトに所属しょぞくし、その隊長たいちょうつとめているらしい。


 つまり、"ギン" が隊長たいちょうで、"エン" が副隊長ふくたいちょうということになる。


 しの部隊ぶたいムンライトには、ギンとエンの下に、100名ほどの忍者にんじゃ所属しょぞくしているとのことで、この惑星の各地かくちらばり諜報活動ちょうほうかつどうおこなっているとのことだった。


「シオン神聖国で "勇者ゆうしゃ" が認定にんていされ、そのパーティーが結成けっせいされました。

 勇者ゆうしゃパーティーの討伐対象とうばつたいしょうは……"上様うえさま" です」


 ん? 俺? 討伐対象とうばつたいしょう


「彼女等の準備じゅんびととの次第しだい、この神国しんこくんでくる可能性かのうせいがあります。

 今はまだ、レベルアップにはげんでいるようですので……

 今すぐにんでくるということはないと思われますが、ご用心ようじんください」


「彼女等? ということは、勇者ゆうしゃは女性なのか?」

「はい。 勇者ゆうしゃ認定にんていされたのは、"ユリコ" という名の女性です」


 その名を聞いてむねが ギュッ とけられる……。

 勇者ゆうしゃ同名どうめいの……最愛さいあいの人だった女性の顔が頭をよぎる……。



「それで……パーティーを結成けっせいしたのはいつのことだ?」

「3日前のことでございます」


「情報をつかむのに、3日もかったのか?

 それとも、情報の伝達でんたつに、3日かったのか?」


「情報がこの中央神殿に伝わるまでに3日をようしました」


 つまり、情報自体は、勇者ゆうしゃ認定にんていされると同時どうじつかんだのに、それを神都しんとへと伝達でんたつするために3日をようしたということらしい。


 ギン自身じしんが、シオン神聖国しんせいこくから"レッサードラゴン"を使って空路くうろ、この中央神殿を目指めざして、可能かのうかぎいそいで、文字通もじどおんできたのだが……

 それでも3日かったということだった。


 この "タイムラグ" はマズいな!


「エンもいるのか?」

「ははっ! ここにおります」


「ギン、エン、いつもありがとうな。 お前さんたちのはたらきがあるからこそ俺たちは無用むような "リスク" を回避かいひできている。 本当に助かっている」

「「もったいなきお言葉……いたります」」


「さっき初めて知ったのだが、お前さんたちには転移能力てんいのうりょくが無いんだな?」

「はい。申し訳ありません。 修行しゅぎょうりず、習得しゅうとくできておりません」


「いや、これは俺のミスだ。 苦労くろうをかけちまったな……。 すまん。

 それで、お前さんたち二人には "転移能力てんいのうりょく" をさずけようかと思う」


「「はっ! ありがたきしあわせにぞんじます!」」


「今すぐに転移能力を付与ふよするから、もう少しそばに来てくれないかな?

 覆面ふくめんはずして顔をよく見せてくれ」


「「はっ!」」


 別に近くに来てもらわなくてもよかったのだが……

 ちょっとだけ彼女たちがどんな顔をしているのかを見てみたくなったのだ。


 ……二人ともすごい美人だ!


 二人には転移能力をさずける。 自身と自身がれているモノを転移させる能力だ。

 ついでに、俺のフィアンセたちと同じ加護かごさずけよう……。


「転移能力の他にも、色々と加護かご付与ふよするから、そこのベッドによこになってくれ。

 加護かご有効ゆうこうにするさいに、一瞬いっしゅんだけだが、意識いしきぶからな」


「「はっ! 失礼します!」」


 彼女たちはベッドに横になった。


 神子みこたちと同じ加護かご付与ふよするのは、これで4回目かな?

 もうれたものである! すぐに作業は終わった。


「それじゃ、一瞬だけ意識が飛ぶからな。 苦痛くつうなどはないからな、安心しろ。

 ……リブート!」


 二人は一瞬意識をうしなうがすぐに正気しょうきもどる。


「これでお前さんたちは、好きな場所へ転移できるようになったぞ!」


「「 ありがとうございます! 」」


「それに、"全攻撃属性"に対する耐性たいせいや、攻撃神術、神眼、修復神術を使えるようにしたし……STRもオーガみに強化きょうかしたぜ」


「「はっ! ありがとうございます!」


「シオリちゃん、あとでどんな加護かご付与ふよされたのかを二人に説明してやってくれ」

「はい。 承知しょうちしました」


「ギン!、エン! 大変な仕事だが、がんばってくれ!

 ……だが、くれぐれも 無理はするなよ。 約束だぞ!

 自分たちのいのちまもることを第一だいいちに考えて行動こうどうしなきゃだめだぞ。いいな!」


「「はっ!」」


「ところで、かぬことくが……

 お前さんたちの仲間に "風車かざぐるま弥七やしち" という名のしのびはいるか?」


「"かざぐるまのやしち"? で、ございますか?

 残念ながら、そういった名のしのびはおりませんが……」


「そうか、では "かぜ鬼若おにわか" とか "柘植つげ飛猿とびざる" という名のヤツはどうだ?

 そういった "名" を持つ者もいないのか?」


「いえ、残念ながら……」


 二人は不思議そうな顔をしている。


「いや……何でも無い、気にするな」


 これでえず、俺のほう用件ようけんんだな……。


「シオリちゃん、後のことは任せた」


「はい。 それでは、ギン、エン、仕事しごともどりなさい。

 それと "加護かご" について説明せつめいをしますから、あとで私の部屋へやに来て下さい」


「「はっ! 承知しました。 では、失礼します!」」


 二人ともえるかのごとく姿すがたした。



「シンさんったら……時代劇じだいげき見過みすぎですよぉ~。

 おギンさんに、おエンさん、風車の弥七さんまでいたら……

 もう『水戸○門』じゃないですかぁ? うふふふふっ!」


「さゆりさんは、シンさんがたずねた人たちがだれなのか知っているのですか?」


 シオリが、自分の知らないことを、さゆりが知っていることに"ショック"を受けているようだ。 その表情はくらい。


「はい。シンさんが先ほどおたずねになった名前は、日本でむかしテレビ放映ほうえいされていた時代劇じだいげきというものに出てくる、忍者にんじゃの名前なのです」


「そ、そうなのですか……」


「その時代劇じだいげきには "おギンさん"、"おエンさん" という、女忍者おんなにんじゃも出てくるのです。

 それで、シンさんは、ひょっとしたら、この世界にも "風車かざぐるま弥七やしち" という名の忍者にんじゃがいるんじゃないか? と思われたんだと思います。 ね? シンさん?」


「ははは……バレたか。その通りだ。 さすがは日本の担当者だなぁ」

「……」


 ん? シオリがかなしそうな顔をしている?

 疎外感そがいかんいだいているのか? これはマズいなぁ。


「ごめんな、シオリちゃん。 日本の話は聞いてても分かんねぇよな?

 それでさぁ、よかったら今度こんど、俺が日本人としてどう生きてきたのかの話を聞いてくんねぇかなぁ? 二人だけでゆっくりとお茶でもしながら……どうだろう?

 お前さんにだけは、是非ぜひとも知っておいてしいからさ……」


「はい。 喜んで……」


 ふぅ……シオリの表情が少しやわらいだ。 よかった。

 大切なシオリにはかなしい顔をさせたくないな。 今後は気をつけよう……。




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