第0006話 本当はいくつなんだ?(ラッキースケベ2)

「みんな待たせたな!

 ……タチアナ、俺のミスでひどい目にわせちまって申し訳ない」


「いえいえ~、とんでもないですぅ~」


 俺はみんなの元に戻ると、まずはタチアナにびた。


 すぐにノルムの町に転移しようと考えていたのだが……

 日もだいぶかたむいてきたし、今夜はここで野営やえいして明日の朝ノルムの町へ向かった方が良さそうだ……。


 なんかノルムの町にきらわれているかのようだな……なかなか行けない。


 日没にちぼつまでにはまだもう少し時間があるな?

 みんなには攻撃神術の練習をしてもらうことにしようかな。


 最初はうまく攻撃神術が使えなかったタチアナを見てしまったので、他のみんなは大丈夫だろうかと不安になったのだ。


「みんな聞いてくれ!

 えーっと、これからすぐにノルムに行こうと思ったんだが……

 てのとおりだ。だいぶ日がかたむいてきたんで、今夜はここで野営して、明日の朝、ノルムの町へ向かおうかと思うが、誰か異論いろんはあるか?

 シェリーさんたち冒険者もそれで大丈夫か?」


「はい、大丈夫です。

 ギルドへの報告は魔物の森の調査が完了し次第しだい、なるべく早くということになっていて、明確な期限はもうけられていませんので、特に今日中にノルムへ行く必要はありません。 明日でも十分です」


 神子たちも神殿騎士たちも異論は無いようだ。


「よぉし! それじゃあ、今夜はここで野営することにする。

 それで……まだ明るいから、みんながちゃんと攻撃神術を使えるかどうか確認しておきてぇんだが、そうしてもいいかな?」


 みんなは目をかがやかせながら同意した。


 まととなるゴーレムを20体ほど、街道脇かいどうわきというか草原に生成した。

 我々からは50m程離れている。


 ゴーレムのモデルは先ほどのクソ魔導士どもにした! 黒いフード付きのローブを身につけていて、ぱっと見は本物の人間のように見える。


 マップを表示させてまわりに生命体反応がないことを確認し……

 念のために半径200mの範囲に防御シールドを展開しておくことにする。


 さっきはわずかなすきかれて、タチアナがクソ野郎にさらわれてしまった。

 あのあやまちをかえさないためだ!



「じゃぁ、ふたりずつ順番にあの魔導士型ゴーレムにファイヤーボールをち込んでもらう! まずは……スケさんや、カクさんや、やっておしまいなさい!!」


「「はい!」」


 ふたりをのぞくみんなは少しうしろに下がり……

 逆にスケさんとカクさん、ふたりは、ゴーレムに向かって数歩すうほ前に出る。


 ……ふたりは両手のひらをゴーレムの方に向けてとなえた!

「「ファイヤーボール!!」」


 まぁ、本当は声に出さなくても、ねんじるだけで発動はつどうできるんだけどね……ん?

 やはりタチアナの時と同じで何も起こらない……。


「あ~、タチアナさんや、みんなに説明してやっておくれ!」

「は~い、分かりましたぁ~」


 タチアナは自身の経験にもとづいて、ターゲットの指定をしてから神術を発動させるようにとみんなにアドバイスした。


「ファイヤーボールはぁ~、ものすご~い威力なのでぇ~、一番低いレベルのものを撃って下さいね~」


「「はい。分かりました」」


 スケさんとカクさんが再び両手のひらをゴーレムにかざした。


「「ファイヤーボール!」」


 ズババババババババーーーン!!


 火球がゴーレムを跡形もなく消し去った。 刹那せつなのち轟音ごうおんとどき……

 みんなからは驚きの声が上がる!


 ファイヤーボールとは思えない威力いりょくだ!

 燃えるというよりも、まるで一瞬いっしゅんのうちに消滅しょうめつしたかのように見えた。


「よし! 合格だ! ……でもすごい威力だな!」

「「はい!ありがとうございます!」」


「今のが最弱のファイヤーボールなのか?」

「「はい! そうです!!」」


 ゴーレムは使い回しができるだろうと思っていた俺の読みはあまかった。

 新たに20体のゴーレムを用意しなおしてから、次のふたりを呼ぶ。


「よし! 次のふたり!」

「「はい! よろしくお願いします!!」」



 ◇◇◇◇◇◇◇



 その後は発動はつどうのミスもなく、みんなが難無なんなく攻撃神術を発動できた。


 ファイヤーボールだけではなく他の攻撃属性の初級攻撃神術も念のために練習してもらったんだが、こちらも全く問題なく全員が発動できた。


 なんだか全員の表情が自信にちているかのように見える。気のせいか?


 まぁ、これでえずは安心だな。



 俺はまわりをながめる……すずやかな風がほおでる。


黄昏時たそがれどきはいつもなんとなくもの悲しい……それはこの惑星でも同じなんだな……」


 無意識むいしきのうちにつぶやいていた。



 ペットボトルに入った冷たい紅茶を人数分作成して、みんなにくばりながら休憩きゅうけいをとるように言った。


「よぉ~し、みんな! お疲れ様! その紅茶でも飲んでひと息ついてくれ!」



 この休憩を利用して俺は全知師に確認する。


 <<全知師ぜんちし、俺が許可した者以外の転移やら転送を禁止することは可能か?


 >>可能です。

  この惑星内での転移・転送のさい実空間内じつくうかんないの2点を亜空間内あくうかんないむすびつけるために、例外なくこの惑星の管理システムが持つ高速な演算処理能力を利用します。

  この管理システムの演算機能利用に対するセキュリティレベルを上げ、利用者を限定することで対応可能です。


 <<なるほどな。

  それじゃぁ、俺とシオリと全知師を除いて……

  取り敢えず転移・転送に関しては演算機能を一切利用できないようにしてくれ。

  あ、それと、今後俺が転移・転送を許可したいと思う者を俺の意思で許可できるようにしてくれねぇか? 何か問題はあるか?


 >>シオリを除く、他の管理助手6人に対しても排除しますか?

  なお、6人には行方不明者ゆくえふめいしゃ1名もふくまれます。


 <<ん? 全員で7人も助手がいるのか?


 >>はい。マスターが司令部に帰還されたら一堂いちどうかいする予定になっております。


 そうか……でもこんな状況ではなぁ……。


 えず安全だと思われる中央ちゅうおう神殿しんでんまで、神子や騎士たちを連れて行かないと、安心して司令部しれいぶになんか行ってられないしなぁ……。



 <<全知師、ちょっと待っててな。

 >>はい。マスター。


「シオリちゃん、俺の助手のひとりが行方不明になっているらしいけど?

 どういうことか説明してくれねぇか?」


「はい……そのう~、本来の人族担当者が、かつてのシンさんとソリが合わなくて、ステーションを飛び出してしまって……

 現在行方不明ゆくえふめいなんです。 もうおくれてしまい大変申し訳ありません」


「そうか……俺はパワーハラスメントでもしたんだろうか……?」


「いえ! 客観的に見ますと、彼女の方がすべてを曲解きょっかいしていたかんがあります。

 すべて逆恨さかうらみに思えました。 これは他の助手たちとも共通の認識です」


「なるほどなぁ……なんとかその子を探し出して和解わかいしたいもんだな……。

 それで現在はシオリちゃんが人族を担当しているということなんだな?」


「はい。私は本来は各担当者を統括とうかつする立場たちばでしたが、彼女の失踪しっそうともない、担当者不在ふざいとなった人族ひとぞくを私が担当することになりました」


「そうか……ありがとうな、シオリちゃん。

 お前さんばっかりに苦労かけてしまって……すまん」


「いえ」


 シオリはほおめている。


「あ、そうだ。 その人族の元担当者はなんていう名前だ?

 覚えておいた方がいいだろうからな?」


「はい。シオンという女性です。肉体は"人族"のものが使用されていました」


 ん? シオン? ……女神シオンじゃないよな? ……まさかな……。


「他の管理助手もみんな"人族"の肉体を持つのか?」


「いえ。 通常は無用むようのトラブルをけるために、管理助手は担当する種族の肉体を使用します」


「それで……どう思う?

 管理助手のみんなには転移・転送権限を付与ふよしようと思っているんだが……

 シオンという行方不明ゆくえふめいの助手にも権限を付与しておいた方がいいだろうか?」


「いえ、私は付与しない方がよろしいかと存じます。

 なぜなら、うえさ……シンさんに対してがいをなす存在となり得るからです」


「確かに一理あるな……」


おそれながら……敵対てきたいする可能性が否定できない以上、転移・転送権限だけではなく、管理システムへのアクセス権すべてを剥奪はくだつすべきかと愚考ぐこういたします」


「無用のリスクは避けるべきか……そうだよな。

 ありがとうな、お前さんは本当にたよりになるな」


「いえ、過分かぶんなるお言葉、恐縮きょうしゅくです」


 <<お待たせ、全知師。

  まずは、管理システムの演算機能利用に対するセキュリティレベルを上げて……

  俺とシオリと全知師以外は、転移・転送に関しての演算機能を一切利用できなくしてくれ。


 >>承知しました。

  ……管理システムの演算機能利用に対するセキュリティレベルを上げて、権限を持つ者以外の利用を禁止しました。


 <<よし、次に……

  シオン以外の管理助手にはあらためて転移・転送権限を付与ふよしてやってくれ!


 >>承知しました。

  ……シオンを除く管理者5名に転移・転送権限を付与しました。


 <<では最後に、現在失踪中しっそうちゅうのシオンに対しては管理システムへのアクセス権をすべて剥奪はくだつしてくれ。


 >>承知しました。

  管理助手シオンが有する管理システムへのアクセス権をすべて剥奪はくだつしました。


 <<ありがとう、全知師。



「これで、ますますシオンとかいう子には嫌われそうだなぁ……。

 そうそう! ところでさっきタチアナを攫ったヤツらなんだけど、女神シオンとか言うのを崇拝すうはいするヤツらだったんだが……何か知っているか?」


「女神シオンというのは、シオン神聖国しんせいこく国教こっきょう、シオン教が崇拝する女神のことだと思われます」


失踪しっそうした助手のシオンと何か関係があるのか?」


「そのご質問については、データが不足ふそくしているためかりねます。

 ただ、シオンが失踪しっそうする以前から存在した宗教団体ではあります」


「じゃぁやはり無関係なのか……?」


「シオンの失踪しっそう後、約2年後にシオン神聖国が建国しましたので……

 タイミング的には無関係とは言えない可能性もあります」


「まだ新しい国なんだな?」


「はい。が "アウロルミア神国" の北東に隣接りんせつしていた国で、元々もともとは獣人族が支配していた地域を、新興宗教しんこうしゅうきょう "シオン教" の信者しんじゃたちがうばって建国した、人族の国です」


「北東? 鬼門かぁ?」

「きもん?……初めて聞いた言葉ですが、"きもん"とはなんでしょうか?」


「いや……俺がいた日本って国の迷信めいしんみたいなもんだな。

 北東の方角ほうがくを"鬼門"、南西の方角を"裏鬼門"と呼んでな、あまりいい方角ではないとされていたんだよ」


「そうなんですか? それで……それは根拠こんきょがあることなのでしょうか?」


「まぁ、住環境じゅうかんきょうが悪かった時代にはそれなりに意味はあったかも知れんが……

 方角ほうがく自体じたいきらうことについては、俺はあんまり根拠こんきょなんてねぇと思っている。

 俺が日本で死ぬ何年か前に知り合いが家を建てるってことになって、相談を受けたことがあってな、その時にこのへんの知識をおぼえたんだよ……」


「家を建てる時に影響するんですか?」


「なんかなぁ……間取りを決める時にな、鬼門の位置に台所だとかトイレだとかを作っちゃぁいけねぇだのなんだの……があるらしいんだよ」


「変わった風習があったんですね?」


「ああ、でもなぁ~、非科学的ひかがくてき非論理的ひろんりてきなんでな、俺にはこだわるヤツの気持ちが全く理解できなかったんだが……。

 今、な~んか知らんが、"北東"って聞いて、ふと思い出しちまったんだよなぁ。

 まぁ、だから気にしねぇでくれ」


「はい。承知しました」


「ごめんらんことを言ってしまったな。

 それで……元々いた獣人族はどうなったんだ? うまく逃げられたのか?」


「残念ながら……シオン教徒にほとんどの獣人が虐殺ぎゃくさつされました。

 彼等の教義には『亜人あじん差別さべつ』がうたわれているくらいですので……

 婦女子ふじょしに対してもなさ容赦ようしゃなく……それはむごたらしい有様ありさまだったようです。

 運良うんよ南進なんしん獣人族国家じゅうじんぞくこっかニラモリアにのがれた者もいましたのですが、その数はごく少数です」


「……なんか腹が立ってきた!

 中央神殿に到着後とうちゃくご、準備が整ったら、俺はシオン神聖国をぶっつぶしに行くぞ!」


「恐れながら……過干渉かかんしょうになるのではありませんか?」


「だがな……獣人族を虐殺ぎゃくさつしたんだろ? 重罪じゅうざいだとは思わねぇか?

 俺がつくった大切な "子供" たちなんだぜ?

 しかも……うちの大事だいじ神子みこたちをメスぶたばわりしたにみんなを性奴隷せいどれいにしようとしたんだぜ?

 シオリちゃん、お前さんもふくめてな!! これはさすがにゆるせんだろう!?

 ……としまえはきっちりとつけねぇとだめだと思わねぇか? 違うか?」


「お気持ちは分かりますが……|

 獣人族虐殺ぎゃくさつの件は何十年も前の話ですから今更いまさらというのもありますし……

 私や神子たちを攫おうとしたことについても、しらを切られたらどうなさいますか?

 現状では証拠を出せとひらなおられたらうつがありません」


 そうだったぁーーっ!!

 タチアナをさらおうとしたヤツらの魂はみんな"奈落ならくシステム"にぶち込んじまったんだぁーーっ!!


 "奈落システム"に入れられた魂は、たとえ俺でも手出しができなくなる。

 ゴブリンの魔石ませき粉砕ふんさいしてしまった件といい……

 俺はもっともっと冷静にならないといけないな。 反省だな。



「とにかく……

 一度そのシオン神聖国ってやつを、じかにこの目で見てくることにするぜ、俺は!」


「シンさんがそうおっしゃるのでしたら私は全力でサポートするだけです。

 その際にはおともいたします」


「ありがとう。頼むぜ」


「ああ、そういえば全知師ぜんちし、タチアナをさらった "ナルゲン" って男が、神子たちへのゴブリンの襲撃と魔物あふれの件への関与かんよを認めたんだが……

 魔石ませきの調査で、あらためてなにか分かったことはあるか?」


 シオリにも聞こえるように口に出して全知師ぜんちしたずねる。


 >>いえ、残念ながらあらたな事実は何も見つけられませんでした。


「そうか、見つけられなかったか……

 それでは誘魔香ゆうまこうってものについてはどうだ?

 魔物を引き寄せるものらしいんだが……情報はあるか?」


 >>この件についてはデータ不足です。


「分からねぇか……。

 実物がねぇんだから、しょうがねぇわな。 ありがとう全知師。以上だ」


「話がだいぶ脇道わきみちれちまったが……

 これで転移・転送の使用制限ができたんで、今回の"タチアナの誘拐事件"みたいに、いきなり現れて、かわいいお前さんたちを"かっさらう"ようなマネはできなくなったと考えてもいいよな? シオリちゃん」


「はい。少なくとも今回のケースのようなことは、不可能になったと考えられます」


「そっか……お前さんにそう言ってもらうと、なんか安心するんだよね。

 ありがとうな!」



 実はこの際だからシオリに聞こうかどうしようかと非常に迷っている質問がある。


 気になってしかたがないことだ。

 それはデリケートな問題のようにも思え、これまではあえてこの話題には触れないようにしてきたのだが……


 えーーいっ! 思い切って聞いちゃえ!!


「あのさぁ、シオリちゃん。 すっげぇ失礼なことを聞くかも知れんが、怒らねぇで答えてくれるか?」


「……えっと、それはやはりご質問の内容次第しだいかとぞんじます」


「んーー、そうだよなぁ……でもモヤモヤしてんだよなぁ~。

 シオリちゃんの年齢のことなんだけど……」


 シオリの表情が一瞬いっしゅんだけけわしくなる。

 背筋せすじが一瞬、こおり付いたような気がした。


「シオリちゃんの肉体年齢は17才なんだよな?

 それじゃぁ、精神年齢というか、魂の年齢っていうのかは一体いくつなんだ?」


「17才ですが……?」


「えーっと……ここと地球とは時間の進行しんこうが同じなんだよな?

 ……で、俺がおっさんになってから死んで帰ってきたっていうのにシオリちゃんの精神年齢は、なんでおばちゃんじゃないんだ? なんで若いままなんだ?」


 シオリはクスリと笑う。


「ああ、そういうことでしたか……

 私はてっきり、としをごまかしていると疑われたのかと思ってしまいました。

 すみません」


 ふぅ~良かったぁ、シオリの表情がいつも通りに戻った。


「……上さぁま……シンさんが地球へと旅立たれてから、この惑星の管理システムはスリープモードに移行したからです。そのモード中は我々管理助手も一時的に機能を停止して待機状態になりますので……」


「Suspended animation か? 所謂いわゆる、コールドスリープのようなものなのか?」

「はい。肉体はそれに近い方法で保存されていました」


「なるほど、そういうことか……

 だからシオリちゃんは17才のままで、全くスレていないのか……」


おっしゃっている意味をかりねますが……。

 シンさんが帰還する……とのメッセージを地球の管理者から受信した本惑星の管理システムが、スリープモードから復帰して……

 シンさんのご帰還に合わせて、復帰した管理システムが我々を再起動したのです」


「じゃぁ、スリープモードへ移行してから復帰するまでの間は、この惑星は放ったらかしのようなものだったんだな?

 だから、あんなシオン教徒なんてヤツらが、のさばっているのか?」


「はい。恐らくは……」


「ん? でもこの惑星の年齢っていうのか……は、46億年くらいか?

 じゃぁ、俺たちだって46億歳以上じゃねぇのか?」


「いえ、以前申し上げましたように、既製品きせいひんのキットを使用していますので……」


「ああ、そうだったな。 なるほど。データの辻褄つじつまさええば、この惑星の住人には正否せいひ見極みきわめられるわけがねぇってことか……」


「はい。ヒューマノイド種族の歴史等も同じです。

 おおよそ2万年分は、それらしい歴史データが作成してあります。

 この惑星のことについては分かりますが……

 高次元こうじげんに存在するという、シンさんの"本体"の年齢までは私には分かりません」


「なるほどな……よく分かったよ、すっきりした!」


 今の俺には本体の年齢なんてどうでもいいし……ああすっきりした。

 ん? そういえばシオンは? Suspended animation しなかったんだろうか?


「ところで……失踪しっそうしたシオンは、スリープモード中も機能停止きのうていしせずに、この惑星で活動していたということになるのか?」


「たぶんそうかと……」


「そっかぁ。少なくとも精神年齢では "おばちゃん"、いやひょっとすると……

 "おばあちゃん"? になっているかも知れないのか?」


 フッと一瞬嫌な予感がした。


「分かった。 ありがとう。 では、そろそろ野営やえいの準備をするか!」


 街道脇かいどうわきというか草原……街道かいどうからちょっとだけ距離を取った位置に2人用くらいの大きさのテントを新しく生成する。


 テントの入り口を入ると大ホテルクラスのロビーが広がる。


 そのロビーの左右には各人の寝室へとつながるドアが15箇所設置されている。

 寝室しんしつはバストイレ付きの洋室ようしつだ。 飲み物が入った冷蔵庫もある! 当然だ!


 ロビーの中、テントの入り口とは反対側には2つのドアがあって……

 1つは食堂へつながり、もう1つは脱衣所だついじょへとつながっている。


 そして、脱衣所の向こうには、れいによって大浴場が広がる!

 もちろん! 高級旅館並こうきゅうりょかんなみあらも用意されているぜ!


 そうなのだ! テントの中は、有名温泉街の高級ホテルなみの宿泊施設が用意されているのだ! ふっふっふ!


 食堂にはバイキング形式の夕食を用意しようと思う。

 自分の好みに合わせて好きなものを食べられるようにと思ってのことだ。


「さぁ、みんなぁ! お疲れ様!  今日は色々あって大変だったな!?

 ……テントの中には各人の寝室が用意してあるから、今日はそこで休んでくれ!

 あ、部屋割へやわりのほうはみんなで相談して決めてくれ!

 ただし、念のために俺とシオリは入り口近くの部屋で寝るから、それ以外の部屋を使うようにしてな!」


 みんなはテントの中に入ると、大きなロビーに驚いている。


「夕食の準備は、みんなが風呂に入っている間にしておくから……

 たり右のとびらから入れる大浴場だいよくじょうでもいいし、各人の部屋にも風呂があるので、そちらでもいい、まずは風呂に入ってサッパリしてきてくれ!」


 部屋の割り振りを決め、各人は自分に割り当てられた部屋を見に行った。

 俺は入り口を入ってすぐ左の部屋で、シオリは同じく入ってすぐ右の部屋にまることにした。


 みんながテントに入ったので、このテントのまわりに防御ぼうぎょシールドを展開てんかいし、今まで張ってあった広範囲こうはんいのシールドを消す。


 そして、俺は食堂に入り、色々な料理を生成し始める……

 レプリケーターを利用して作成するので楽なもんである。



 ◇◇◇◇◇◇◆



 料理の準備を終えてもみんなはまだ入浴中のようだ。


 料理を作っている間にみんなが風呂から出てくるだろうと予測よそくして、風呂に入らず浄化神術じょうかしんじゅつで体を綺麗きれいにしようと思っていたのだが……


 折角せっかくだし、自分の部屋にある風呂に入ることにした。



 ◇◇◇◇◇◆◇



「あ~気持ちいい! 風呂は最高だなぁ! 温泉じゃないのが残念だが……

 ふぅ~疲れが取れるぜぇ……」


「シンさん、お背中をお流しします」


「ひゃぁ~!!」


 いきなり声をかけられたので飛び上がるほど驚いた!

 いつの間にか白いバスタオルを体に巻いたシオリが風呂場にいる!?


「し、しし、シオリちゃん? なんでここにいる!? どうやって入った!?」


「部屋の入り口も、お風呂の入り口も、かぎがかけられていましたので……

 "転移" してきました! ふふふ!」


「……なるほど……って、そうじゃねぇっ!!」


 密室みっしつでふたりきり……上司じょうし部下ぶか間柄あいだがらでこれはマズいんじゃなかろうか??


 俺も男だ! 日本人だった頃は『理性りせいがスーツを着ているような男』と揶揄やゆされていたが、こんな美人を前にして理性をたもち続ける自信は全く無い……


 ここは丁重ていちょうにおことわりしよう!


「気持ちは嬉しいが、やはりこれはマズいと思う……。

 悪ぃけど出ていってくんねぇか?」


遠慮えんりょはご無用むようねがいます! なんでしたら全身をくまなくお洗いしますよ?」


「あのさぁ……これでも俺は一応、男なんだよね。

 こんなふたりだけの密室で、お前さんみたいな"超絶美人ちょうぜつびじん"を前にすれば、さすがの俺でも理性をたもつ自信がねぇよ……。

 気持ちだけありがたくもらっておくぜ。 だから悪ぃけど帰ってくんねぇかな?」


「理性を保つ…ですかぁ? おっしゃっている意味がよく分かりませんが……

 どうぞお気になさらないで下さい。 これも業務ぎょうむ一環いっかんです。

 ささ、そこに座って下さい!」


「いやいやいや~! どうみても職域しょくいきえちまっているだろう!?

 お前さんにそんな業務をさせるわけにはいかねぇよ……」


「大丈夫です! これも秘書としてのつとめだと考えております!」


「いやいやいや! それは違うだろ!? お前さんは肉秘書にくひしょじゃねぇんだから!

 頼むから出て行ってくれよぉ。 お前さんは自分がどれほど魅力的みりょくてきな女性なのかをちゃんと自覚じかくするべきだぜ!

 このままじゃさすがの俺も性欲せいよくに負けて、お前さんをたおしちまいそうなの!」


「え!? に、肉秘書? 性欲? 押し倒す!? あわわわわわわ……」


 ああ……この子は "おぼこ" なんだな……。


 あわあわしているシオリを浴室から出そうと俺は立ち上がった……

 が、これが間違いだった! 俺は目の前が真っ暗になった……。



 ◇◇◇◇◇◆◆



 俺は意識を取り戻す……デジャヴ?


 気が付くと俺はシオリに膝枕ひざまくらしてもらっている……。

 そして、彼女は泣きそうな顔をしながら俺の頭をでている。


 俺がこっちの世界に戻ってきて、目覚めた時と同じ状況であった……


 ん!? 次の瞬間、シオリの豊かな双丘そうきゅうが目に飛び込んできた!

 なんというかちょうどいい大きさだ……眼福がんぷく! …… じゃないっ!


 いやっ! ち、違うっ!? 同じ状況じゃないっ!


 俺はあわてて飛び起きた! 草原で目覚めた時と同様に、今回も、シオリのアゴ先をかすめそうになる!


 シオリは素っ裸だ! そして俺もすっぽんぽんなのだ! 状況が違うっ!


 俺の背中をながしに来た当初、シオリが身につけていたと思われるバスタオルは……

 俺がていたところにいてある!


 おたがいが素っ裸という状況で……俺はシオリに膝枕ひざまくらされていたことになる。


 思わずシオリの下半身へと視線を送りそうになる!


 が、必死に! 必死にえて! えず大きめのバスタオルを2枚生成し……

 シオリを見ないようにして1枚を彼女に差し出し、もう1枚は急いで自身の体に、腰の部分にく!


 俺の体は自然と前屈まえかがみに…… "く" の字になっている。


 生物学的せいぶつがくてきな俺の……人族のオスを象徴しょうちょうする部分が、子孫繁栄しそんはんえいのための準備段階じゅんびだんかい突入とつにゅうしてしまっていたからだ!


 ゆっくりと呼吸することに意識を集中しながら身も心も落ち着かせようとする。

『俺は賢者けんじゃだ! 神らしいけど、今は……け、賢者だ! 賢者になるんだ!』


 ……………………


 シオリの話では、俺は、風呂桶ふろおけから急に立ち上がろうとして意識を失い、たおぎわに俺の手がシオリのバスタオルをはぎ取ってしまったということだった。


 俺はまたまたやらかしちまったようだ。

 ソリテアに続いてシオリにまでも……とほほ。


 ラッキースケベ第2弾だ。


 たおれてしまった俺を見て、あわててシオリはバスタオルを浴室よくしつゆかの上にき、俺をその上にかせると、俺の頭を膝枕ひざまくらに乗せて介抱かいほうしてくれていたとのことだった。


 自分のことは置いておいて、まず俺のことを心配してくれたんだな……

 ホント、いい子だよなぁ。


 倒れる時に俺は体と頭をどこかにぶつけたようで……

 体の数カ所にあざ後頭部付近こうとうぶふきんにはコブができていたらしい。


 それをシオリは回復神術をかけて一所懸命に治療してくれたのだ。


 俺の体は特別仕様とくべつしようなので、ほうっておいてもすぐに自動修復されるようになっているというのに……少しでも早く治そうとしてくれたその気持ちが嬉しい。


 俺が意識を失っていたのは5分程度だったということだ。 その間ずっとシオリは自身が素っ裸であることをも忘れて、俺を必死に介抱してくれていたのだ。


 マズいな……れてしまいそうだぜ!


「シオリちゃん、すまなかった……。

 お前さんはホント、優しいいい子だな。 ありがとう」


「い、いえ……」


 シオリのほおは真っ赤だ。 多分、俺のほおもそうだろう……な。


 俺はこの世界の神である! でも実はラッキースケベの神かも知れない……




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