第0004話 腹ごしらえと身支度とラッキースケベ

「なんか腹減はらへってきたなぁ~」


 <<全知師ぜんちし。 食料を簡単に調達ちょうたつする方法はないのか?


 >>はい、マスター。

  レプリケーターという装置そうち亜空間倉庫内あくうかんそうこないにありますので……

  それを使って食料を作り出すことが可能です。


「レプリケーターがあるのかっ!? この世界には!!」


 突然大きな声を出したので、みんなびっくりしてこちらを見ている。


 レプリケーターとは物品ぶっぴんデータにもとづき、物品のほぼ正確なコピーを生成する装置である! 3Dプリンタの親玉おやだま?みたいなものなの……かな?


 でも、まさかスタート○ックに出てくる装置まであるとは……

 トレッキーもどきの俺は思わず興奮こうふんしてしまった。


「はい。レプリケーターは存在します。我々われわれ管理者のみが所有し、使用できます。

 ちなみに……我々が何かを作り出す際には、このレプリケーターの機能を利用しています」


 シオリちゃんは律儀りちぎな人だな。 ちゃ~んと答えてくれるからな……。


 しかし、そうだったのか!

 何の気なしに"服"や"テント"等を作っていたが、これは、レプリケーターの機能を利用していたのかぁ!


 ん? ということは……亜空間倉庫からレプリケーターをわざわざ出さなくても、イメージするだけで食べ物を作り出せるのか?? 試してみるか……


 ということで、えず食堂用にテントを1つ新たに生成して、その中にここにいる全員がすわって食べられる大きさのながテーブルと人数分の椅子いすを用意した。


えず、ノルムの町に行く前にはらごしらえをしておこうか。

 みんな、今出したテントの中に入ってくれ。 軽い食事を用意するから」


 みんながテントに入ったのを確かめてから、念のために防御シールドを改めて張り直してから俺もテントの中に入った。


 食べ物を作り出すのは初めてなので、ドキドキしながら、日本のコンビニで売っているような各種かくしゅサンドイッチを適当てきとうに30個とペットボトルのアイスティーを15本作り出した。


 シオリをのぞくみんなは目をぱちくりさせている。 ふふ、かわいらしいな!



 俺は各種サンドイッチの具材ぐざいの説明と、サンドイッチが入った袋からの取り出し方、ペットボトルのキャップの開け方等々を説明した。


りなくなったら作り出すから、みんな喧嘩けんかしねぇように分けてくれ」


 みんなは俺に遠慮えんりょしていたが、俺は先にみんなに選ばせる。

 残ったのは "ハムカツサンド&たまご" と "ツナサンド&ハムレタス" であった。


 俺はおっかなびっくりハムカツサンドを食べてみた……うまい!


 ちゃんと味も再現されていた。

 俺が好きなぼうコンビニチェーンの味そのものだった!


「シオリちゃん、なんでちゃんと俺の好きな味が再現できているのかが不思議なんだけど……?」


「はい。地球、特に日本を中心とした各種物品のデータが、レプリケーターにリンクさせてあるからです」


「それはありがたい! シオリちゃんが手配してくれたのか!?」


「はい。 シンさんが地球のものをこいしく思われることもあるかと……

 勝手かってながら地球からデータをせました」


「シオリちゃん、お前さんはなんてく人なんだ! れちまいそうだぜ!」


 と、俺は軽口かるくちをたたいた……んだが……

 ん? シオリの顔が真っ赤っかだ?? マズいおこらせちゃったかな??



 神殿騎士ふたりと冒険者たち4人が少々しょうしょう物足ものたりなそうだったので、要望ようぼうを聞いてサンドイッチを追加してやった。


 ゴブリンと戦ったり、魔物のれから逃げてきたりしたんだもんなぁ……。

 おなかくのは当たり前だな、しっかり食べてくれよ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 ……軽食ではあったが、全員が満足してくれたようだ。 よかった!


 さてと、次は冒険者4人に加護を……

 ん? 冒険者たちは結構けっこうよごれているなぁ~。

 まぁ、そりゃそうかぁ~、色々あったもんなぁ……。


 じゃぁ、まずは先に風呂に入ってもらってサッパリしてもらうか……。


「みんな聞いてくれ! すぐにベッドがある方のテントに移動してくれ!」


 みんなを先にベッドのあるテントに移動させてから "から" になった食堂用テントを亜空間倉庫あくうかんそうこ収納しゅうのうした。


 その後、みんながいるテントへと移動した俺は、テントの奥に脱衣所だついじょ大浴場だいよくじょうを作成して湯船ゆぶね適温てきおんのお湯でたした。


 もちろん大浴場の中には旅館等で見かけるようなあらもちゃんと用意したぜ!


 かがみに、シャワーに、おけ椅子いす……

 そうそう、ボディーソープやシャンプー、リンスも必要だな。


 えーっと、次は……脱衣所だついじょには脱衣だついかごに、バスタオルをと……

 バスタオルはたくさん用意した方が良さそうだな?

 ん~……、扇風機せんぷうきにドライヤーもいるかな? 必要だ…よ・な?


 下着に服、装備の着替きがえも新しく作っておくかな……おっとそうだ!

 どうせ新しく作るんなら、この後、ノルムの町に行くんだし、神子みこ神子みこらしく、騎士きし騎士きしらしく見える服装ふくそう装備そうびにしてやろうかなぁ?


 シオリの意見を聞きながら神子みこたちには神官しんかんのローブとつえを、神殿しんでん騎士きしにはよろいけんを、そして冒険者には今身につけている装備と同じものを新しく作成し、脱衣所にそれぞれ名札なふだともに置いておくことにした。



「えーと。 あのとびらの向こうにみんながいっぺんにはいれる『大きな風呂場』を用意したから……。 今からみんなで、ひとっ風呂ぷろびてサッパリしてきてくれ!」


 テントの奥に新しくできた扉を指さしながら話を続ける。


「その扉のすぐ向こうは脱衣所になっていて……

 そこには、全員分の新品の着替えが用意してある。

 風呂から上がったら、各人用意してあるものに着替えて欲しい。

 どれがだれの着替えかはちゃんと分かるようになっているから……」


 冒険者の4人が顔を見合みあわせて、なにやらひそひそとはなしをしている。


「どうした? 何か問題でもあるか?

 みんなと一緒いっしょじゃずかしいのならひとりずつ順番に入ってもらってもいいぞ。

 みんなで相談して決めてくれ」


「いえ、その~……私たちもはいってよろしいのでしょうか?」


「ああ、もちろんだとも!

 色々いろいろ大変たいへんったし、ゆっくりとあせながすがいいさ、サッパリするぞー」


 冒険者たちは顔を見合みあわせてうなずうと、俺にれいを言って脱衣所へと向かおうとした。


「あ、それから! 風呂からがってからなんだが……

 お前さんたち4人にも他のみんなと同じように加護かご付与ふよしようと思っている」


「「「「 ……? 」」」」


「お前さんたちを俺の庇護下ひごかに置いて加護かごする。

 攻撃神術や、治療神術も使えるようにしてやるつもりだ。

 ……あ、もちろん、いやなら無理には加護しねぇから安心しろ」


 冒険者の女性たちは全員、なんかボーッとしているような感じだ。


「まぁ、苦痛くつうもねぇし、やっぱりいやだってんなら、あとからでも簡単に元に戻せる。

 だから心の準備が必要ってほどのモンじゃねぇんだが……一応いちおう考えといてくれ。

 お前さんたちにとっちゃぁ、悪い話じゃねぇと思うぜ」


 彼女たちは暫時ざんじ、おたがいの顔を見合みあわせて、声は出さずに、目でなにやら語り合っているかのような様子であったが……やがて大きく何度かうなずった。


「「「「 ありがとうございますっ! 」」」」


 みんな嬉しそうに満面まんめんみをかべてれいを言い、脱衣所の中に入っていった。



 ◇◇◇◇◇◇◆



 今、このテントの中、ベッドがある部屋には俺ひとりしかいない。

 シオリをのぞくみんなは入浴中にゅうよくちゅうだ。


 シオリは雑務ざつむ片付かたづけなくてはならないと言って司令部?へ転移して行った。


 この惑星の周回軌道上しゅうかいきどうじょうには巨大な宇宙ステーションがあって、その中に司令部しれいぶがあるらしい。 知らなかった……。


 じゃぁ、なんで俺はそこじゃなくて大草原だいそうげんなか目覚めざめたんだ?

 ……後でシオリに確認してみよう……。



 手持ても無沙汰ぶさたな俺は、ひとりでボーッとしながら、今日これまでに起こった色々な出来事を思い出していた。


 今後の行動について検討けんとうしようかと考え始めたら、おもむろに、脱衣所につながるドアが開き……

 中から、神子たちのリーダー的存在のソリテアが"ふらふら"しながら出てくると、ドアから最も近いベッドに腰掛こしかけた。


 彼女は身体に白いバスタオルを巻き……

 頭にも髪をかわかすためなのか、白いバスタオルを巻いていた。


 目は何となくうつろだ? 顔は……赤い?


 彼女の様子がおかしいな? 逆上のぼせでもしたのかと心配になり声を掛けた。


「大丈夫か?」


 それがマズかった!

 彼女は俺の声にびっくりしたのか、あわててベッドから立ち上がろうとした!


 が、その瞬間! 彼女は意識を失ってしまったのか、前方にたおれ始める!?

 急に立ち上がったので脳貧血のうひんけつを起こしたのかも知れない。


 咄嗟とっさに彼女がたおむであろう場所へ高速移動こうそくいどうして彼女をきかかえようとした!


 なんとか間に合って、彼女をきとめることには成功したのだが……

 なんと! 彼女の体に巻かれていたバスタオルがはだけて美しい裸身らしんがむき出しになってしまった!


 彼女から離れ落ちるバスタオルを咄嗟とっさに右手でつかもうとしたがくうり!?

 あろう事か、彼女の左のおしりつかんでしまったのだ!


 これはマズいっ!!


 今、ここに誰か入ってきたら、まず良からぬ誤解ごかいをするだろう!

 なんせ俺がはだかの彼女をきしめてケツをんでいるようにしか見えないんだろうから……。


 やっちまったっ!


 脂汗あぶらあせひたいにじんでくるのが分かる……

 当然、すでに右手は彼女の体からは離している。


 彼女が悲鳴ひめいを上げるのを覚悟かくごした!

 ………………が、悲鳴は上がらなかった!?


 俺にとってはさいわいなことというべきなのか、彼女は意識を失っていたのだ。


 ふぅ~……。 俺は安堵あんどした。


 彼女の裸身らしんを見ないようにしながら……

 彼女をき上げて、ベッドに仰向あおむけに寝かせる。


 作り出したタオルケットを彼女に掛けると、ひたいにじみ出た脂汗あぶらあせをぬぐい、呼吸こきゅうととのえた。


 げた美しい女体にょたい生々なまなましい感触かんしょくが、まだ両手両腕に残っている。


 多分、彼女は湯中ゆあたりでもしたんだろうな。


 えず、作り出した冷たいれタオルを彼女のおでこにのせてから……

 彼女のステータスを確認しようとしたら、彼女が意識を取り戻す。


「おい! 大丈夫か!? ソリテア!」


「……あぁ上様? は、はい大丈夫です。

 ちょっとお風呂にってしまって、ベッドに腰掛こしかけてすずもうとしたのですが……

 ご迷惑めいわくをおかけして大変申し訳ありません」


「いや俺が悪かった。

 急に声を掛けたりして……驚かせちまったな。 申し訳ない」


「とんでもありません、私が悪いのです。

 湯加減ゆかげんがちょうど良くて、とても気持ちが良かったので、湯船ゆぶねにゆっくりとかりすぎてしまいました」



 ソリテアはベッドに寝ながら話すことが俺に失礼になるとでも思ったのか……

 そう言いながら無理矢理体を起こそうとした。 が、力が入らないようだ?


「ソリテア、無理するな! そのまましばらく横になっていた方がいい」


「こんな格好で申し訳ありません。 どうか失礼をお許し下さい。

 どうもまだ力が……」


 彼女は横になったまま、つやのある美しい髪を "手ぐし" でなんとか整えようとしている。 レディッシュの髪。彼女の髪はとても美しい赤色をしている。

 それが彼女の美しさをより一層いっそう引き立てている。


「あ、ああ、ありがとうございます」


 あれっ? ついつい心の声が口からこぼちてしまったようだ!?

 まっ、本当のことだからいいっか! ははは……。


「でも私……このかみきらいなんです。

 この色のせいで小さい頃からずっといじめられて……。

 みにくいだとか、吸血鬼きゅうけつきだ! 魔人まじんだ! とか言われて石をぶつけられたり……。

 ずっと髪をかくすようにしてきました。

 みにくさをどれほどなげいてきたことか……」


 そうか。 地球でも確か……赤い髪の女性が差別、迫害はくがいされた時代があったな。

 それこそ赤い髪の色こそが『魔女である証拠』だと決めつけられ、レディッシュの女性が大量虐殺たいりょうぎゃくさつされたこともあったと何かの本で読んだことがある。


 むなくそが悪い話だぜ!!


「つらい思いをしてきたんだな……」


 本人ではどうすることもできないことに"いちゃもん"をつけてさげすんだり、バカにしたり、いじめたりするやからは絶対に許せん!! 絶対にだ!!


 ましてや、こんなに綺麗きれいな髪をしたかわいい子を……

 いじめてきたやつらは、ボッコボコのギッタギタにしてやりてぇ気分だぜ!

 ったく、ホント、むなくそが悪くなるな!



「ソリテア! これからは堂々どうどうとしてろよ! 胸を張れ!

 お前さんはすげぇ美人だ! ふるいつきたくなるくらいの美人だ!

 その綺麗きれいなレディッシュヘアもバッチグーだぜ!

 神である俺が保証する! ……俺は大好きだぜ!」


 なさけないことに、どうなぐさめたら良いのかが俺には分からない……。

 自分の思ったままを口に出してしまった……。

 死語も入っちゃったしな……俺は自己嫌悪感じこけんおかんいだいた。


「ばっちぐ~??? です・か? ……???」


「か、完璧かんぺきってことだ! 深く考えるな!

 と、とにかく美しさはこの俺が保証する! 今後お前さんに"いちゃもん"をつけるような奴がいたら俺に必ず言いな! 俺がそいつをボコボコにしてやるから!!」


 彼女、ソリテアはほおめ、こまったような表情で微笑ほほえんでいる。


 しかし……そんなひどってきたにもかかわらず、彼女の"魂の色"は、なんて綺麗きれいなんだろう!


 神子みこたちのリーダー的な役割やくわりをしている彼女と……

 彼女のひかえめで、いやみのない、おくゆかしい人柄ひとがらとの間に、なんとなく"ギャップ"を感じていたんだが、彼女が自分自身の髪、容姿ようしにコンプレックスを持っていることが分かったことで、そのギャップの理由がなんとなく理解できたような気がする。


 な~んか俺が彼女の髪のことについて口を開けば開くほど、ドツボにはまっていく気がするので、話題を変えることにした。



「そういえば、ソリテアはなんで神子になったんだ?」


「私の生まれ育った家はまずしい農家でしたので、所謂いわゆる口減くちべらしで神殿に……

 てられたようなものです」


 うっ、これもかなり重い話だな……。


「私は子供の頃から初級治癒神術が使えたのですが、そのことを知った神官様が私を神子候補として引き取って下さり、母親代わりになって、私を育てて下さいました」


「ほう? 小さい頃から治癒神術が使えたのか? そいつはすげぇな!」


「はい、私は運が良かったのです。

 農家のむすめ口減くちべらしされるとなりますと、そのほとんどが娼館しょうかんに売られてしまうのですから。 余程よほど運が良ければ商家しょうか奉公ほうこうに出されたり、裕福ゆうふくな家庭の養女ようじょになれたりもしますが、そんなことはごくごくまれなことなのです」


「そういうものなのか……」


 この世界では合法ごうほうとなっている以上、娼婦しょうふ男娼だんしょう一概いちがいに悪い仕事、下劣げれつな仕事とは言えない。


 はるをひさぐ事を天職てんしょくのよう思っている人もいるだろう。

 当然、合法的職業に貴賤きせんはない。


 ただどんな理由であっても、おのれの意思にはんして特にそういった春をひさぐようなことを強要きょうようされる人がいることは、俺には看過かんかできないことなのだ!


 ましてや口減くちべらしだとぉ!?

 年端としはかぬ子供をそういった世界に無理矢理ぶち込むのを許せるわけがない!


 折角せっかくこのせいを受けてきたというのになぁ……

 やはり貧富ひんぷの差が問題なんだな? なんとかしてやりてぇなぁ。


 科学技術の発展で、える者もなくなって価値観の転換てんかんが起こり、貨幣制度かへいせいど廃止はいしされた24世紀の地球を描いた『スタ○トレック』の一場面いちばめんがふと頭をぎった。


 ただ、たとえなんとかできるにしても、俺が手を出したらきっと、ヒューマノイドへの過干渉かかんしょうということにされてしまうんだろうな……。


 くそっ! どうしたものかなぁ。


 いい案が全く浮かばない……

 えず今後の検討課題に加えておこう…。




「ところで、どうやって俺の后候補きさきこうほに選ばれることになったんだ?

 神官による多数決か何かか?」


「……?」


 ソリテアは小首こくびかしげる。


各主要神殿かくしゅようしんでんで、『シオリ様から直接神託しんたくを受けた者』が、そのまま后候補者となりました。神託を受けた者は各神殿でひとりずつしかいませんでしたので……」


 ん? 神託?


「后候補を選出せよとのご神託でしたが……

 各神殿では、神託を受けた者こそがシオリ様から直接指名されたものと判断すべきであると考えて、他の候補を検討することもなく、必然的ひつぜんてきに今ここにいる者たちが后候補者として選出されることになったのです」


 そうかっ! 選択せよ と言いつつも、実はシオリが決めていたのかぁ!?


 それで、ソリテアは『なんでそっちが決めてきたことなのに。妙だなぁ?』というような表情をしていたのかぁ!?


「いやなに。 なんでそんなことを今さら聞くんだと思ったかも知んねぇがな。

 人選は全部シオリに丸投げしていたんだが……

 候補者全員がすごい美人な上に魂の善良さにおいてもちどころのない者たちばかりなんでな。 ちょっと気になっちまってな」


 でも、そんな風に否応いやおうなしに指名されたらいやじゃないだろうか?


「ところでソリテア。

 お前さんもみんなも無理矢理に俺なんかの嫁候補にされたんじゃいやじゃねぇか?

 嫌ならハッキリことわってもらっていいんだぜ?

 断ったって怒ったりしねぇから。 どうだい?」


上様うえさま……私ではダメなんでしょうか?

 私では貴方様あなたさまにはふさわしくないということなんでしょうか?」


「いやいやなんでそうなる?? そんなわけないだろう!!

 お前さんほどの女性に好かれて嬉しく思わない男なんているわけないだろ!?

 そうじゃなくてぇ~、お前さんは俺なんかじゃ嫌じゃないのかってこと」


 ソリテアは複雑な表情を浮かべている。


「俺はお前さんには他に好きな男がいるんじゃないのかと心配しているんだよ。

 好きでもない男の妻になることほど苦痛で、不幸なことはないからな!」


「申し訳ありません。 上様のお言葉を誤解してしまいました。

 上様が私のことをおいやでそのようにおっしゃったのかと思ってしまったのです。

 遠回とおまわしに拒絶きょぜつされたのかと……

 そうしたら悲しくなってしまって冷静ではいられなくて……」


 彼女は目に涙を浮かべながらがちに俺から顔をそむけ、しばし考えてから、再び俺の方におもむろに顔を向けた。


「ご安心下さい。 シオリ様からのご神託しんたくで、私たちが嫌だと思えば、無理に候補にならなくても良いとうけたまわっております。

 ここにいる神子たちは、みんな、上様の后候補に選ばれたことを喜んでいる者たちばかりです」



「その決断が、本当にお前さんたちの意思によるものなのか?

 押しつけられた価値観に基づいた判断じゃねぇのか?」


「大変申し訳ありませんが……

 私には上様がおっしゃっている意味を分かりねるのですが……??

 私たちは……いえ、少なくとも私は上様のお后になれるのでしたら、それは私にとって最高の幸せです。 誰かに押しつけられたなんてとんでもありません」


「それなんだが……

 『俺の后になることが最高の幸せ』なんだと神殿で、ずっと誰かに言われ続けたんじゃないのか? そう思うようにすり込まれたんじゃないのか?」


「上様……そ、それはあんまりですわ。

 わ、私の愛を信じていただけないのですか?

 人に『上様を愛している』と信じ込まされているだなんて!?

 愛が……私の愛が、そんなうすっぺらなものだと思っていらっしゃるなんて……

 と、とても悲しいです……」


 彼女はベッドの上で仰向あおむけに寝ていた体を、俺のいるがわとは反対方向へと横向きにしてしくしくと泣き出した。


 タオルケットにおおわれていない彼女のかた小刻こきざみにふるえている。



 地球時代、新興宗教にかぶれて、教祖のハーレムメンバーにされてしまった女性を知っている。


 その女性は、友人や家族の説得にも全く耳を貸さず……

 はたから見れば明らかに胡散臭うさんくさい中年オヤジの教祖きょうそのもとで、性奴隷せいどれいがごとくはべることが至高しこうの喜びだと信じ切っていたらしい。


 彼女を奪還だっかんするために乗り込んで来た親族の前ですら、教祖と "まぐわい" 続けたという話だ。


 常識的思考と羞恥心しゅうちしん欠如けつじょ。 もう彼女は完全に洗脳されてしまっていた。


 一流と称される大学の理学部を良い成績で卒業したその女性は、まさにリケジョを絵に描いたような人物で、きわめて論理的思考ろんりてきしこうの持ち主だった。

 であるがゆえに、俺は当初彼女が宗教にかぶれたなんて全く信じられなかった。


 悪辣あくらつなる宗教というのは、人の心のスキをうまくいて巧妙こうみょうに取り入り、徐々じょじょに心をむしばんでいく……そういうものだ。



 目の前の女性、ソリテアや他の神子みこたちも神殿しんでんという宗教組織によって洗脳せんのうされてしまっているのではないかと心配になってしまったのだ。


 俺自身をあがめる宗教なだけに、そんなマネは絶対に許したくはない!


 だが、作られた価値観によって生み出された感情であっても、それ以外の価値観を持たない今の彼女にとっては、唯一ゆいいつ真意しんいであることには違いない。


 その彼女の気持ちを否定してしまった。

 彼女の純粋じゅんすいな思いをみにじってしまったことは確かで、心が痛む。


 根本的な価値観の相違そうい……

 どんなに議論しようとも、ユークリッド空間における平行線のように、どこまで行っても交わることはない……。


 俺は自身の軽率けいそつさをじた。

 まずは彼女たちの考えを認めて、その後、彼女たちにはいと多様たよう価値観かちかんれてもらうようにしよう……。



「ソリテア、お前さんの真心まごころを疑うようなことを言って申し訳なかった。

 どうか許してくれ。

 お前さんに心底から愛してもらえるなんて俺は幸せ者だよ。

 本当に本心からそう思っている」


 ソリテアは向こうを向いたままだ。 身動きひとつしない?

 かまわず話を続ける……


「そして、俺はお前さんのことを本当に大切に思っている。

 幸せになって欲しいんだ。 それは絶対に間違いねぇ!

 だからこそあんな言い方をしちまったんだよ」


 ソリテアの肩がピクッと動く……


「でも俺はどうかしていたよ……。

 綺麗きれいな魂を持つ信頼できるお前さんの言葉を疑うなんてな……ホントすまねぇ」


 彼女はおもむろにこちら側へ横向きになる。

 目に涙をいっぱいめて微笑ほほえんだ。


 タオルケットがゆるみ彼女の豊胸ほうきょうがゆれて乳嘴にゅうしあらわになりかける……。

 彼女の胸からのすごい引力を感じながらも、必死に視線をらす。


「あーそれで、なんだなぁ。俺の嫁さんとして選ばれなかったらどうなるんだ?」


「あ、はい、あくまでも私の推測ですが……

 今までの生活に戻る……というわけにはいかないと思います。

 上様に選ばれなかったということはすなわち上様から見捨てられたと受け取られてもしかたありませんので、良くて地方の神殿に異動いどう……

 最悪の場合は、神殿を追放ついほうされてしまうかも知れません」


 ソリテアの表情が曇る。 目には涙が?


「……私の愛が上様に拒絶されたらと思いますと……

 ああ、どうすれば良いのか……私はもう生きてはいられません……ああ……」


 彼女は神殿からの追放よりも、俺に愛されないことの方がつらいと言う。


「わ、分かった! 嫁になることを望むみんなを俺は嫁にすることにした!

 だから、悪ぃけどなソリテア。 中央神殿に着くまでに……でいいから、みんなの本心をなんとか聞き出しておいてくれねぇだろうか?

 俺の前じゃみんな本心を言えねぇかも知れんしな……」


「はい。分かりました。 あのう……

 わ、私は上様うえさまのおよめさんになりたいです! おそばにずっといたいです!!」


「お、おぅっ! ありがとう! うれしいよ、ソリテア!

 お前さんだけが頼りだ! みんなの心の声をしっかり聞いてきてくれよ!?」


「はい!」


「あ、そうだ……たとえ俺の嫁さんになりたくねぇ場合でも、その子たちがちゃんとてられる道を一緒いっしょさがしてやると伝えてくれ。

 路頭ろとうまよわせるようなことは絶対にしねぇから……」


「はい。 そう伝えて本心をうかがってみます。 でも……

 おそらくみなさんも妻として上様のおそばにいたいとおっしゃるはずですよ」


 彼女たちがどのような選択をするにせよ……

 彼女たちには、色々な世界を見せて、多様な価値観に触れる機会を作ってやろうと俺はもう一度、強く心にちかった。



 ◇◇◇◇◇◆◇



 しばらくすると脱衣所だついじょの方からにぎやかな声が聞こえてきた。

 みんな風呂から上がって来たようだ。


 ソリテアは体を起こして、タオルケットを体に巻き付けると、ゆっくりと脱衣所のドアへと向かった。


 顔色はだいぶ良くなったように見える。

 目にもしっかりとした輝きが戻っている。


「もう大丈夫か?」

「はい、ありがとうございます。 ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。

 私も着替きがえてまいります」


 そういうと彼女は脱衣所のドアの向こうへと消えた。


 その様子を見ながら俺は、常識とはなんだろうとふと考える。


 常識とは時空じくうの関数、時と場所がことなれば当然常識も異なるよな、それどころか、人によっても異なるだろう。

 いや、同じ人でも心の持ち方ひとつで常識も形を変えてしまうだろう……。


 常識ほど曖昧あいまいであやふやなものはないんだよな。

 みんなはそんなものにしばられて生きている事になる……。


 今の彼女たちが、俺の后候補きさきこうほ神子みこたちが、心から正しいと思っていることを誰かが……いや、この俺が否定するのは間違っているのかも知れない。


 他人に迷惑めいわくおよばないのであれば、俺の価値観を押しつけて、彼女たちの価値観を否定するようなマネはすべきではないのかも知れない……。


 洗脳せんのうされているかも知れないと考えること自体が俺のエゴであって、それこそが、過干渉かかんしょうなのかも知れない……。



 ◇◇◇◇◇◆◆



 ソリテアが脱衣所へ入ってからどうだろう……30分くらいはっただろうか?

 女性たちがみんな、ベッドがあるこの部屋に入ってきた。


 そして今、各人は思い思いにくつろいでいる。ベッドに腰掛こしかけておしゃべりしていたり、装備そうびを確かめている者もいるな……。


 シオリはまだ戻っていない。


「ちょっと神子のみんな! 聞いてくれ!」


 みんなが一斉にこちらを見る。


「お前さんたちは今、俺のことを "神様" とか "上様うえさま" とか呼んでいるんだがぁ……

 これからは、"シン" って呼んでくれねぇかなぁ?

 どうも "神様" だの "上様" だのと呼ばれると体がムズムズしちまうんだよ。

 居心地いごこちわるいっていうかなんていうか……頼むわ」


 そうお願いしたのだが……

 さすがに "シン" とてにはできない! と、みんながくちそろえて反対する。


 結局けっきょく妥協案だきょうあんとして "シンさん" と呼んでもらうことに最終的には落ち着いた。


 みんなは渋々しぶしぶながら同意した……って感じだったな。 ふぅ~。

 さて次は……そうそう! 冒険者4人を加護かごしてやらないとな!


 俺は冒険者、神殿しんでん騎士きし見習みならいの4人をせて、各人をベッドに寝かせ、加護かご具体的ぐたいてきな説明をおこなったあと、どうするかを彼女たちに聞いた。


 その結果、彼女たちは全員が加護かごを受けたいということであったので……

 神子みこ騎士きしたちと同じように俺の庇護下ひごかき、同様の加護をあたえた。


 これでこの子たちも、ひとまずは安心だな。

 そう考えているとシオリが司令部しれいぶからもどってきた。


 お!? な~んか、はだ艶艶つやつやしているし、服も綺麗きれいになっているぞ?

 向こうで風呂にでも入ってきたのかな?


「おぅ! シオリちゃん、おつかれさん! キリがついたのか?」


「はい。なんとか……お風呂に入ってきましたので少々遅くなってしまいました。

 申し訳ありません」


「いやいや、そんなことは気にするな」



 そういえば草原そうげん目覚めざめたけんを聞かなきゃな……。


「あのさぁ、シオリちゃん。 ちょっと聞きてぇんだが……

 俺はなぜ宇宙ステーションの中じゃなくて、草原のどなかで目がめたんだ?」


「はい……どうか非論理的ひろんりてきだとお笑いにならないで下さいね?」


「ん? 聞いてみないと分からんが、笑わないようには努力する」


「シンさんが目覚めざめられたあの草原そうげんは記憶を無くされる前のシンさんが、お気に入りだった場所なんです。 シンさんが仕事につかれた時によく行かれていました」


 ほう? そうだったのか?


「それで、うえさぁ…し、シンさんはいつも、


 『あそこでさぁ、"ボーッ" とう雲や、まわりの景色を見ているとね……

  な~んか、つかれがとれるんだよねぇ……』


 と、おっしゃっていらして……」


 シオリはついつい上様うえさまと言いそうになってしまったようだ。

 そう簡単には呼び方は変えられないもんなぁ。


「へぇ~、そうだったのか……」


「はい。 それで……笑わないで下さいね?

 非科学的なんですが……

 シンさんが記憶を無くされたと聞き、あの場所でお目覚めになればひょっとすると過去の記憶を取り戻されるんじゃないかと……にもつかないことをしました」


「なるほどな、ダメ元で試してくれたんだな?

 ありがとうな! 嬉しいよ、その気持ちが……」


「いえいえ、まんいちけてみたかったので……

 地球から戻されたシンさんのたましいと、今お使いのその肉体との接続が完了したのを見計みはからって、あの草原に転移してきたのです。

 ……が……やはりダメでした。 残念です」


「ありがとう……シオリちゃんは本当に優しい子だなぁ。

 俺を気遣きづかって膝枕ひざまくらまでしていてくれたし……」


「……いえ」


 シオリはほおめた。


 シオリはクールなイメージの超絶美女ちょうぜつびじょである!

 普通にしていると、非常に近寄ちかよりがたい独特どくとく雰囲気ふんいきただよわせている。


 白衣はくいというか実験着じっけんぎ? をいつも着ていることもあってか……

 一見いっけんすると典型的てんけいてきな "リケジョ"! 理性りせい論理ろんり信奉者しんぽうしゃのように見えてしまう。


 そう! ともするとかよわない、冷徹れいてつなアンドロイドのようにさえ見えてしまうのだが……。 じつは非常に慈愛じあいちた、あったかいハートの持ち主なのだ!


 ああ、こんな子と一緒いっしょになれる男は宇宙一の幸せ者だよな……


 美女を形容けいようするためのどんな言葉もかすんでしまうほどの超絶美女ちょうぜつびじょなのに……

 いやみなところはまったくなく、優しく思いやりがあって……

 そのうえあたまもすごく良い。


 なのに、一歩引いっぽひいて他人を立てることがさらりとできる。


 俺が失言しつげんしても実に"さりな~く"、いやみに感じさせないように気を使いながら、うまく訂正してくれるもんな……。


 ホント、尊敬そんけいねんさえおぼえるよ。 こんな素敵な女性がいるんだなぁ……。


 まぁ、俺には高嶺たかねはなだけれどな! …… ははは。


 あれ? なんだぁ? シオリが真っ赤になって、もじもじしている??


「あ゛! またやってしまった! いつの間にか俺はつぶやいてしまっていたのか?

 知らず知らず、心の声がこぼれ落ちてしまっていた!?

 ま、まぁ……いいっかぁ~、全部ホントのことだしな! あはは・は・はぁ。

 シオリちゃん、なんか…ごめん」


「……」


 俺はちからなく笑った。 シオリは真っ赤になってうつむいてしまっている?


 デハでは ソロソロそろそろ ノルムニノルムに ムカウト向かうと スルカナするかな~~。

 あまりの気まずさに棒読ぼよみのような口調くちょうになってしまった、俺。



「みんなぁ~、聞いてくれ! そろそろノルムに行こうと思う!

 みんなで一緒いっしょに町の近くまで転移するつもりだ。 早急さっきゅう身支度みじたく調ととのえてくれ!

 もし何か荷物があるのだったら、俺が亜空間倉庫あくうかんそうこに入れて持って行くから……

 俺のところまで持ってきてくれ! 遠慮えんりょはするな!」



 ◇◇◇◇◆◇◇



 みんなの準備が整ったみたいなので、このベッドルーム&大浴場だいよくじょうがあるテントを亜空間倉庫あくうかんそうこ仕舞しまうために、みんなにはテントの外に出てもらった。


 テントを収納しゅうのうしたところで、マップ画面に切り替えて周辺索敵しゅうへんさくてきおこなう。


 今回は俺自身も転移しなくてはならないので、転送の際には、一旦いったんシールドを消さねばならない。 もしも俺が襲撃者ならそのタイミングをねらう……と考えたからだ。


 周辺には生命体反応は全くない。 今ならシールドを解除しても大丈夫そうだ。


「さぁ、それじゃぁノルムに行くとするか? みんな俺のそばに来てくれ!」


 みんなが俺にれようと体をせてくる……。


 シールドを解除していざ転送!……と思ったときに、誰かが俺の首にうでまわうしろからきついてきた!?


「ちょ、ちょっとすまん。 くっ、苦しいんで、首にはきつかないでくれ……」

「……す、すみませ~ん……」


 うでゆるんだので声のした方を見てみると"タチアナ・ロマノヴァ"という"ほんわかやしけい"美女だった。 もちろんこの子も后候補きさきこうほ神子みこである。


 ゆっくりとした話し方が特徴とくちょうの、やしけい美女だ!


 この子の名前は、なんか知っているような気がするんだがなぁ……

 地球時代のいにでもいたのかなぁ?? う~ん、思い出せない!


 ……とそんなことを一瞬いっしゅん考えたのが失敗だった! 俺のミスだ!


 突如とつじょくろずくめの男がタチアナのそばに現れたかと思うと、彼女の腕を "グイッ" とつかみ、ニヤリと笑いながらタチアナもろとも消えたっ!?


 誰だ……と言いかけたときには、もうふたりの姿すがたは消えていた!

 ほんの一瞬いっしゅんすきかれてしまったのだ!


「くそっ!!!」



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