第0003話 魔物溢れとクソ野郎

 >>警告! 警告! 危険! 極めて危険!

 <<どうしたんだ!! フライデー! ……じゃなかった、全知師ぜんちし!!


 聞き覚えのあるフレーズに、ふと昭和40年代の『宇宙で迷子まいごになる家族』というような題名の海外SFドラマに出てきたロボットを思い出してしまった。


 全知師と会話しながら俺はテントの外に出た。

 重大な事案じあんが発生したようなので、シオリにも俺と全知師とのやり取りを聞かせることにする。もちろん念話ねんわで。



 >>約5キロ西方にある魔物の森で"魔物あふれ"が発生しました。

  おおよそ1万5千匹の魔物がこちらへ向かってきています。

  10分ほどで遭遇そうぐうします。


 まいったなぁ……こうも次から次にトラブルが発生するとは……

 やはりこれも何者なにものかの仕業しわざなのか?


 娘さんたちの攻撃神術の練習台にするには数が多すぎるしなぁ……

 どうしたものかなぁ??


 ちょっと行った先には町もあるようだし……

 俺とシオリ、娘さんたちで力を合わせれば殲滅せんめつすることは可能なんだろうが……

 時間がかかるだろうしなぁ~、疲れるだろうしなぁ~、めんどくさいなぁ~。



 <<全知師ぜんちし、魔物たちをチャッチャと殲滅せんめつするいい手はないか?


 >>お答えします。

  マスターの上空、この惑星の周回軌道上しゅうかいきどうじょうの管理サポート衛星を使用する方法があります。

  衛星には『重粒子砲じゅうりゅうしほう』2もん搭載とうさいされており、それを使用すれば30秒以内にこちらへ向かっている全魔物の殲滅せんめつが可能です。


 な、なんだぁ? ファンタジー世界かと思ったらSFになってきたなぁ?


 まぁ、俺の種族は科学技術がめちゃめちゃ発達はったつしているらしいから、そりゃぁ衛星えいせいくらいは飛ばしていてもおかしくはないわなぁ。


 まっ。俺の記憶にはないけどな……。(苦笑)



 <<よし全知師ぜんちし! 重粒子砲じゅうりゅうしほう発射準備はっしゃじゅんびをしてくれ!

  それと重粒子砲じゅうりゅうしほう威力いりょくおよぶ範囲内にヒューマノイドの生命体反応がないか、ねんのために確認してくれ!


 >>承知しょうちしましたマスター。

  ……殲滅せんめつ予定範囲内にヒューマノイドの生命体反応を5つ確認しました。

  それ以外の動物の生命体反応は探知たんちできませんでした。

  魔物あふれを察知さっちしてみな退避たいひしたものと推測すいそくされます。

  指示をお願いします。


 <<そうか野生動物とかをどうしようかと思っていたが良かった!

  ……じゃぁ、そのヒューマノイド5名を街道脇かいどうわき転送てんそうしてくれ!


 >>承知しました。 ただちに転送を開始します。



 街道脇の空き地に5人が実体化じったいかした。

 お! 俺の指示通り、今度は光のつぶが現れなくなっている!


 走って逃げる途中だったようだ。5名全員がつんのめるように地面に転がった。

 人族ひとぞくの男だけがかなり前を走っていたようである。 他の4人とは、離れた位置に出現した。


「「「「「 う、うわぁ~~っ!!! 」」」」」


 おっ! エルフの女性だ!

 おおっ! ドワーフの女性?少女?に、"犬族いぬぞく"?それとも"たぬき族"?なのか?

 獣人じゅうじんの女性もいる!! ファンタジー世界だぁ!!

 く~~っ、なんか嬉しくなってくる!! おっ! 人族の女性もいる!?



 女性たち4人がいる場所よりもかなり離れた前方に転がっている男のターゲットカーソルは真っ黒に近い赤であった。


 ん? こいつはろくでもない野郎やろうだなきっと……ちょっと【魂の履歴りれき】を確認してみるか?  えーと。 窃盗せっとうから強盗殺人ごうとうさつじん……レイプ殺人もか!!


 ひで野郎やろうだな~、こいつだけ送り返しちまうか?


 この状況から判断すると……

 女の子たちをおとりにして自分だけ逃げようとしたんだな?


 クズ野郎が! ゆるせんな!! ……と思っていると男が大声を出した。


「いってぇなぁ~っ! どこだここは!! 魔物はどうなった!?」

「おい! 今は取り込み中だ! そこを動かずに静かにじっとしていろ!!」


 俺がこう言った直後、地震じしん初期微動しょきびどうのようなれを感じだした!?


 何やら地響じひびきをてて近寄ちかよってくる!?

 西の方からはよどんだ空気がただよってくる!


 ん!? なんかおぞましいごえのようなものも聞こえてきた!


 >>マスター、準備がととのいました。 発射のご命令を。


「OK! あっそうだ、全知師ぜんちし

 可能なら魔石ませきをいくつか回収かいしゅうして、魔物溢まものあふれの原因を分析ぶんせきしてくれ!

 もちろん魔物殲滅せんめつ最優先さいゆうせん! 魔石回収ませきかいしゅうつぎだ! いいな!?

 よし! それでは! 発射っ!! 魔物を殲滅せんめつせよっ!!」


 おっとぉ! つい思わず声に出してしまった!



 その直後である!

 西の上空からくもやぶり、地面にかって放射状ほうしゃじょうに光の雨というか光のスジがそそいだ!


 それは20秒ほど続くと何事も無かったかのごとくやんだ。


 >>マスター、魔物のれの掃討そうとう完了かんりょうしました。

  魔物の森をあふれ出てこちらに向かっていた魔物を、すべて、跡形あとかたもなく消し去ることに成功しました。

  なお、魔石ませき64個を回収かいしゅうしましたので分析ぶんせきに回します。


 <<良くやったぞ! 全知師ぜんちし! 見事みごとだ!!


 念話ねんわつうじて "こと次第しだい" を把握はあくしていたシオリと、喧噪けんそうを聞きつけた神殿しんでん騎士きしのふたりがテントから出てきた。


 テントの中では待機たいきするように言われているのか、神子みこたちがいきひそめている。



「おい、兄ちゃん! こりゃ一体いったいどういうことだっ! 分かるように説明しろや!

 それと……俺ら怪我けがしちまったじゃねぇかぁ! 謝罪しゃざい賠償ばいしょうをしろや!!

 まぁ~、今回は特別にそこのべっぴんさん3人を俺にせば命だけは勘弁かんべんしてやらぁっ! さあ、兄ちゃん! 女をこっちに寄越よこせ!」


 クソ野郎が下卑げびた笑いを浮かべながら、ふざけたことをまくし立てる!


 クソ野郎の後ろの地面でへたり込んでいる4人の女性たちが "すがるような目" を向けて何か言おうとした時、クソ野郎が振り返りその女性たちに命令する……


「てめぇたちはだまっていろ!

 余計よけいなことを言うんじゃねぇぞっ! いいな分かったなっ!!」

「さぁ~、兄ちゃんや、どうすんだ!?

 俺にぶっ殺されたくなかったら素直すなおにそっちの女どもを俺に寄越よこしなっ!!」


 クソ野郎は右のこぶしを見せながら俺に近づいてくる……


「「ええーーいっ! 無礼者ぶれいもの!! ひかえよ! この下郎げろうがっ!!」」


 スケさんとカクさんが同時にさけんだ!

 息がぴったりだよ! かっこいい~なぁ~!!


「な、なんだとぉ~このアマぁ~っ!! てめぇらぶんなぐるぞ!!」


 男は3メートルほどの距離を一気にめ、スケさんになぐりかかった!


 おっ! クソ野郎にしては動きが速いな! そこそこはできるようだな……。

 そこそこは……だがな。 だが、全く話にならんわなぁ~。


 クソ野郎のこぶしがスケさんにとどく前にシオリがサッとそいつとスケさんの間にみ、クソ野郎のよこつらを右手で軽くたたいた!


 シオリは男の一連いちれん言動げんどうはらえかねたらしい。


 シオリはかなり手加減てかげんをしたようだったんだけど……

 クソ野郎はフィギュアスケーターのジャンプのようにすごい勢いで回転しながら吹っ飛んで行き、変な格好で顔面から着地した!


『あー、着地に失敗! 減点げんてん1だな……』


 それでも勢いが止まらないのか地面をゴロゴロと転がり……動かなくなった!

 いや、動いては……いる? よく見るとピクピクしている!?


「あらごめんなさい。そっとでただけなのに……かよわい男ですねぇ~。

 しかし、魔物に喰われそうになっているところを助けてもらったというのに……

 無礼ぶれいにもほどがありますわねぇ~。

 上様! こんなゴミは生かしておいてもしようがないですし……

 やっちゃいましょうか? いや、やっちゃいますね!!」


「おいおいシオリちゃん、かわいい顔したお前さんには似合にあわねぇ言葉だなぁ。

 百年の恋も一時に冷めちまうぜ。そんな物騒ぶっそうな事を口にしちゃぁダメだよぉ~。

 それに……こまかいようだけど"上様うえさま"じゃなくて"シンさん"と呼んでくれよな!」


 シオリは『ガーーン』という感じでショックを受けているようだ。

 スケさん、カクさんは、非常にけわしい表情をしながら地面でピクピクしている男をにらみ付けている。



 ふと男の連れの女性たちを見て気が付いた。

 女性たちは皆、首に囚人しゅうじんがつけるような"首輪くびわ"をつけている。


 俺はどうにも気になって彼女たちのところへ近づいて行き、たずねた。


「ん? 何だ、その妙な首輪は?」

「「「「 …………! 」」」」


 女性たちはみななにか言おうとしているがしゃべれないようだ。


 口はパクパクしているのだが声が出せないのか?

 えずエルフの首にハマっている首輪を選択して情報を表示させてみた。


隷従れいじゅう首輪くびわなのか!? お前さんたちはあのクソ野郎の奴隷どれいなのか!?」

「「「「 …………! 」」」」


 やはり女性たちは声が出せないようだ。

 目にいっぱい涙を浮かべて必死に何かをうったえたがっている?


 そうか! そういえば、さっきあのクソ野郎は、彼女たちに余計よけいなことは言うなと命令してたよな? それでしゃべれないのか?


「大丈夫だよ。 ちゃんとお前さんたちの思いを聞いてやるから安心おし。

 今から俺は神術しんじゅつを使ってお前さんたちの心の声が聞こえるようにするからな」


 そう言いながら、落ち着くようにとの意味を込めて、彼女たちひとりひとり、頭に軽く手を置きながら順に、彼女たちに念話ねんわのパス、念話回線ねんわかいせんをつなげていく。


 これで彼女たちの心の声が聞こえるハズだ。


「さぁ、落ち着いて頭の中で俺に話しかけてごらん」

『助けて下さい!

 私たちは魔物あふれの少し前に無理矢理あいつの奴隷どれいにされてしまったんです!』


 人族ひとぞくの女性、ラヴが話しかけてきた。

 続いてエルフの女性、シェリーが彼女たちが奴隷にされた経緯いきさつを語った。


『私たちはこの女性4人でパーティーを組んでいる冒険者です。

 ギルドの要請ようせい様子ようすがおかしくなった魔物の森の調査を行っていました。

 午前の調査を終えて森のすぐ外の草原でみんなで一緒いっしょに昼食を取って……

 午後の調査を始めようとしたときにその男が森の中からよろよろしながら出て来て私たちの目の前でたおれたんです』


 ドワーフの女の子?ミューイが続きを語る……


『あたしたちは助けなきゃと男に近づいたんだよ。

 そしたら、そいつはラヴちゃんを人質ひとじちにして……

 殺されたくなかったら全員首輪をつけろ!っておどしてきたんだ! それで……』


 人質ひとじちに取られたラヴちゃんというのは最初に話しかけてきた人族の娘さんだな。

 彼女、ラヴのステータスを確認したがこの4人の中ではSTR値が一番低い。

 なるほど……。


 この先は獣人族の女性、ラフが続けた。


『うちらは仕方しかたなく首輪をつけたんだよ。

 で、みんなが首輪をつけたらすぐにあいつは……

 あいつはシェリーに襲いかかって……

 魔物あふれがなかったらシェリーは……

 シェリーはひどうところだったんだよ。 そして、うちらも……』


 そういうと獣人じゅうじんの女性、ラフはエルフの女性、シェリーのほうを見た。

 ラフの目からは涙があふれ落ちている。


 一方、そのシェリーという女性のほうは思い出したのか真っ青になっている。


 彼女の着衣ちゃくいがちょっとみだれているのはそのためだったのか……

 かわいそうになぁ。 こわい思いをしたんだなぁ。


『ホント、魔物あふれが起こらなかったら、そうじゃなかったら……

 私たちはみんな……みんなあいつのおもちゃにされて……ううう……』


 人族の女性、ラヴが泣きながら語った。


 その後の話……魔物あふれが起こってからは、俺の思った通りだった。

 魔物あふれが起こったら、そこで意識を失っているクソ野郎は彼女たちをおとりにしてさきに自分は逃げ出したとのことだった。


 相当そうとうなクズだな。 しかもこいつの魂は真っ黒に近い赤だ!


 俺の権限けんげんで絶対にむくいを受けさせる! 絶対にだ! 命でつぐなわせてやる!

 彼女たちはもちろん……ヤツの犠牲ぎせいになったその他たくさんの女性たちが味わった苦痛をた~っぷりと味わわせてからなっ!



 俺がいた日本という国は性犯罪者には非常にあまい国だと常々つねづね思っていた。


 だが……ここでは俺がルールだっ! クソ野郎には一切いっさい容赦ようしゃはしない!

 重犯罪者に人権などないっ! 死をもっつぐなうべしだ!!


 しかしこの娘さんたちは……魔物あふれで貞操ていそうの危機のほうはなんとか回避かいひできたのは良かったが、今度は魔物の大群たいぐんに追われることになっちまって……


 さぞや怖かっただろうなぁ。


「よし! 事情は分かった! 今それを外してやるからな!」


 そう言いながら彼女たちを一瞥いちべつし……


「管理者たる権限けんげんにおいて……ここにいる4人の者たちの奴隷契約どれいけいやくを強制的に解除かいじょ破棄はきする! 加えて "隷従れいじゅうの首輪" の除去じょきょ! 消滅! を命ずる!!」


 本当は言葉に出す必要はないんだけど、ちょっと格好を付けてしまった……。

 俺が命令すると彼女たちの首から隷従れいじゅうの首輪は外れて、地面に落ちる前に粉々こなごなになりながら消え去った。


 これで彼女たちも普通に会話できるだろう……


 彼女たちにつないでいた念話ねんわパス(念話回線ねんわかいせん)はもう必要ないだろうから切断せつだんした。



 この惑星を支配しているヒューマノイド種族国家の多くに奴隷制度どれいせいどが存在していることが分かった。 全知師ぜんちしが教えてくれたのだ。


 刑罰で重犯罪者を奴隷にすることは、まぁ、良しとしよう……

 だが! それ以外は絶対にゆるさない!


 今後必ず何とかしてやると心に誓ったのであった!



「さぁ、もうこれでお前さんたちは自由だ!」

「「「「 ありがとうございます……ううう…… 」」」」


 彼女たちは俺にれいを言いながら泣いている。

 クソ野郎になにかされる前に助けられてホント良かった。しみじみとそう思う。



 俺はクソ野郎の【たましい履歴りれき】をもう一度念入ねんいりに確認してみた。


 ヤツは、ギルドでも美人びじんパーティーとして有名な彼女たちにずっと目を付けていたようだ……。


 今回、彼女たちがあまり人が近づかない魔物の森へ調査に出かけるのを知り、これさいわいと一芝居打ひとしばいうってわなにはめ、自分のモノにしようとしたのだ!


 彼女たちを性奴隷せいどれいにしてから、まずは自分がたっぷりと凌辱りょうじょくして彼女たちの心をへしり……きたら彼女たちに客を取らせて、自分はヒモのような生活をする……

 それがヤツの目論見もくろみだった!


 本当のクソクズ野郎だな!

 たっぷりとらしめてやらねばはらむしおさまらん!!


 彼女たちはギルドでも評判の美人パーティーなのか……。


 俺の側には優雅高妙ゆうがこうみょう羞月閉花しゅうげつへいか仙姿玉質せんしぎょくしつ……

 美女をたとえるすべての言葉でも言い尽くせないほどの"超絶美女ちょうぜつびじょ"のシオリがいるから俺の美女基準は上がってしまったのか、全く意識しなかったのだが……


 確かにそう言われてみればみんな美人だもんな~。

 良からぬ事をたくらむ者は今後も出てくるかも知れないな。


 この子らにも加護が必要かもなぁ……。


 クソ野郎の処分しょぶんと共に、彼女等への加護の件もシオリに相談してみよう……と考えながらシオリの方を見た。


 ん? シオリがほおめている? なんだ!?

 ……あ゛! しまった! シオリとの念話はつなぎっぱなしだった!


 うわっ! 俺の心の声はシオリにダダれだったのかぁ~!?


『あ、あ、シオリちゃん。 超絶美女のシオリちゃん聞こえますかぁ?』

『は、はい! シン様……シンさん!……あのぅ~超絶美女ちょうぜつびじょではないですぅ……』

『あ~そろそろ念話を切るね~。 ……な、なんかごめん』


 なんか分からんけど、ついシオリにあやまってしまった。

 念話ねんわつなぎっぱなしか……今度からは気をつけようっと。



「シオリちゃん、このクソクズ野郎をどうしたら良いと思う?

 たっぷりとらしめてから処刑してぇんだけど……

 何かいい案はねぇかな?」


 シオリはしばし考えてから提案してきた。


「では、アマゾネス・オークに処理を任せるのがよろしいかと存じます」


「アマゾネス・オーク? なんだそれ!?」


「はい。 シンさんが地球視察しさつに出かけられる前につくられた新種族です。


 『女性を凌辱りょうじょくする魔物はいるのに男を凌辱する魔物がいないのは不公平だ!』


 と、シンさんがおっしゃって……

 オーククラスを継承元けいしょうもととして創られた"女性だけのオーク型魔物種族"です。


 アマゾネス・オークは繁殖はんしょくに他種族のオスを必要とし……

 生まれてくるのはメスだけです。そうなるように設定されています。


 オークが繁殖に他種族のメスを必要とし……

 生まれてくるのはオスだけですので、相対あいたいする存在ということになっております」


「ん? 男女のオーク種が存在するなら……

 一緒いっしょになれば繁殖はんしょくのために他種族をおそうことがなくなるんじゃねぇのか?

 その方が理想的に思えるんだがな……」


「いえ。 オークとアマゾネス・オークは敵対てきたいするように設定されています。

 この2種族を合流させれば他種族への凌辱行為がるかのように思えますが……

 実際にはうまく行きません。

 オーククラスを"継承けいしょう"してアマゾネス・オーククラスが創られた関係で、たがいを繁殖行為はんしょくこういの対象としては認識しないのです」



 うまくすれば他種族の異性いせい凌辱りょうじょくする魔物をらせるかと期待きたいしたのに……

 無理なのか……残念だ。


 かつての俺は意図的いとてきにこんな下手へたなクラス設計をしたんだろうか??


「なるほどな。 ところで、好奇心こうきしんから聞くんだが……

 かりにオークとアマゾネス・オークが子作こづくりをしたらどうなるんだ?」


「その場合、父親と母親のいずれかレベルが高い方の性別になります。

 なお、男女が同レベルの場合はメスが生まれます」


「へぇ~そうなるのか……

 で、シオリちゃん。どうやってアマゾネス・オークへ指示を出せばいいんだ?」


「はい。 アマゾネス・オークは、"クイーン"を頂点とするヒエラルキーを形成していますので……

 その男をアマゾネス・オークに処理させるのでしたら"クイーン"にご指示下さい。

 今からシンさんに "アマゾネス・オークとクイーンに関する情報" を送信します。

 ご査収下さい」


「ありがとう。 シオリちゃんの提案通りに、アマゾネス・オークに処理してもらうことにするわ」


 ピロリーン! というような音が脳内のうないひびく……。


 ん? シオリから添付てんぷ情報付メッセージが脳内に届いたのか?


 送られてきた情報に基づき、アマゾネス・オーク・クイーンと連絡を取ってそこのクソクズ野郎を処分しょぶんさせることにした。



『ああ、もしもし……クイーンか?』

『誰だ、お前は! "もしもし"ってのは何だ!?』


『あー俺だ! 分かるか! 神だ! 元気か?』

『し、失礼致しました! 上様! はい、息災そくさいにございます!』


『あー、そのな、"もしもし"ってのはな……

 こうして念話で最初に話しかける時などに使う"まり文句もんく"のようなモノだ。

 だから、気にするな』

『は、はい。 承知しょうちしました』


『ところでクイーンになぁ、ってたのみがあるんだが……。

 今ここに人殺しやら、女性を無理矢理むりやり性奴隷せいどれいにしたりやら……

 散々さんざんひどいことをやらかしてきた女のてきでクソクズ野郎な人族のオスがいるんだがなぁ……そちらでらしめてやってくんねぇかなぁ?

 凌辱りょうじょくされるがわの思いをた~っぷりと味わわせてやりてぇんだよ』


『はっ! 御意ぎょいのままに!

 そろそろ種族として子種こだねが不足しつつありますので助かります。

 たっぷりとかわいがってやります。

 ……それでその男から子種をしぼくした後はどう致しましょう?

 死んでしまう前にそちらへお戻ししましょうか?』


『いや、いい! 不味まずいかも知れねぇけど食べちゃってもいいぜ。

 食べたくねぇなら攻撃練習のまとにでもして……

 死んだら骨が残らねぇくらいに燃やしてててくれ。

 アンデッドにでもなったらマズいんでな』


『はい。ありがとうございます。づくりにでもしてみなで味わうことにします』


『うん。 面倒めんどうをかけるな。

 じゃぁ後でそっちの広場に"男"は転送するから、誰か待機たいきさせておいてくれ。

 逃げ足が速そうなんでな、気をつけてくれ。 では、よろしく頼む』


 白目しろめをむいて意識を失っているクソクズ野郎の怪我けがを治療してやり、手足をしばって拘束こうそくした。 アマゾネス・オークのみんなが楽しみにしているんだから、できるだけイキの良い獲物えものを送ってやらないとな!



「ううん……な、なんだこりゃ! やい小僧! なわけ! ぶっ殺すぞ!

 俺を解放しろ! さもないと後悔することになるぞ!

 俺は顔が広いんだ! 大貴族だいきぞくにもつてがあるんだからな!」


「ほざくなっ! クソクズゲス野郎が!! 四肢粉砕ししふんさい!!」

「…………ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!! 痛ぇ! 痛ぇ! 痛ぇ! 痛ぇ!」


 クソクズゲス野郎の手足の骨が粉砕ふんさいされた!


 しばしのタイムラグの後、押し寄せる激烈げきれつな痛みに男は絶叫ぜっきょう

 そして、また気絶きぜつしてしまった。


「おっといけねぇ。 あまりの激痛げきつううしないやがった。

 これじゃぁクイーンにおこられちまうな。 ……修復!」


 男をたたきこして宣告せんこくする。


「おい、クソクズゲス野郎!! 判決はんけつを言い渡す!

 主文しゅぶん!……てめぇをアマゾネス・オークへのにえけいしょする!!

 判決理由は……めんどくせぇから省略しょうりゃくだ! 抵抗ていこう無意味むいみだ!!

 凌辱りょうじょくされる者の気持ちをた~っぷりと味わいながら……

 生きたまま食われて死んでこい!! 以上だ!」


「ちょちょ、ちょっと待ってくれ!

 心をえるからさぁ。 た、たのむよぉ~助けてくれよぉ!」


却下きゃっかだ!! ばっははーい! ……転送!!」


 引きつった顔をしながら男は消えた。



 疲れたような顔をしている冒険者の女性たち……。

 相変あいかわらず地面にへたりんでいる。


 シオリの顔を見てからシオリの視線を、"へたり込んでいる彼女たち"へと誘導するように視線を送ったあとあらためてシオリの顔を見ながらたずねた。


「なぁ、シオリちゃん、あの子たちも加護してやった方がいいんじゃねぇかな?

 お前さんほどじゃねぇにしても、みんなかなりの美人だろ?

 あのクソクズゲス野郎のようにねらやからが今後も現れるんじゃねぇかと思ってちょっと心配でなぁ」


「失礼ながら……私は反対です。

 一般人への過度かど干渉かんしょうけるべきかとぞんじます。

 シンさんの后候補者きさきほうほしゃや、おそばつかえる神殿しんでん騎士きしたちを庇護下ひごかに置かれて、加護かごすることは良いと思います。我々の実験に必要であり、我々がこの惑星を管理するために必要な者たちなのですから……。

 しかしながら、一般人にまで強力な加護を付与ふよするとなりますと、場合によっては実験の公正性こうせいせい担保たんぽできなくなる可能性があります」


「そっかぁ……。 でもなぁ~、な~んかほうっておけねぇんだよなぁ……。

 シオリちゃんも見えるだろうけど彼女たちの魂の色は"スカイブルー"なんだぜ?

 神殿神子しんでんみこレベルの純真無垢じゅんしんむく乙女おとめたちなんだぜ?

 わるやつにとってはチョロい相手だろ? いいカモだぞ? あれじゃぁ……」


「しかしながらたとえたぐいまれなきよい魂を持っていたとしても、彼女たちは神殿や我々管理者とは無関係の者たちです。 私は彼女たちへの加護には反対です。

 もし万が一にも、彼女たちがシンさんの配下はいかにでもなれば話は別ですが……」


「神と呼ばれている俺が 『仏教思想』? を持ち出すのはちゃんちゃらおかしいかも知れねぇが……袖振そでふうも多生たしょうえんというじゃねぇか?

 今回のようにえんがあった人たちだけは特別に……ってのはダメなのか?」


「……仏教思想? そで? えん??? ……不勉強ふべんきょうで申し訳ありません。

 おっしゃっている意味を分かりねます」



 そんなことを話しながら、俺たちがチラチラと女性たちを見ていたのが気になったのか、冒険者の女性を代表してエルフのシェリーが話しかけてきた。


「あの~、私たちに何か……?」


「いやそのぉ、なんだなぁ。あれだあれ。これからお前さんたちはどうするのかと思ってな。このまま分かれても大丈夫だいじょうぶかなぁ?って、シオリと話していたんだわ」


「あ、そうでしたか……。

 私たちはこれから依頼いらいを受けた町"ノルム"にもどってギルドに今回の魔物あふれのけんを報告するつもりです。

 みなさんはどちらへ行かれるのかは分かりませんが……もし方角ほうがくが同じでしたら、よろしければ途中とちゅうまでで結構けっこうですので一緒いっしょに行っていただけませんでしょうか?」


「俺たちはこれから神都しんとエフデルファイの中央神殿ちゅうおうしんでんへ向かう。

 一気に中央神殿に転移しようと思っていたんだが……

 "ノルム"までお前さんたちと一緒いっしょに旅をするのも面白おもしれぇかも知れんなぁ。

 ちょっとみんなに聞いてみるわ」



 テントの中から神子みこたちが出てきた。

 俺たちの会話が聞こえて、もう大丈夫だいじょうぶと判断したのだろう。


 冒険者の女性たちは、せいぜい二人くらいしか入れないような"小さなテント"からぞろぞろと7人もの女性が出てきたのを見て口をあんぐりとあけたまま驚く。


「なぁみんな。 神殿に行く前にちょっと寄り道して"ノルム"って町にこの子たちと行きてぇんだが……いいかなぁ?」


「はい。上様うえさま御心みこころのままに」


「もちろん私たち神殿騎士しんでんきしはどこへなりとも上様うえさま神子様方みこさまがたにおともします」


 シオリは無言でうなずいた。


 神子たちのリーダー的存在と思しきソリテアという名の女性が、みなに確認してから同意し……、

 一方、神殿騎士のふたりはたがいにうなずき合ったあと、スケリフィがふたりを代表して同意した。


「えっ? 貴方様あなたさま神様かみさまなんですか? ええっ? 神子みこさまに? 神殿しんでん騎士きしさま?」


「ああ。 まぁ……そういうことになっているな。

 俺はこの星を創造そうぞうして、管理している者だ」


「そ、そそ、そうとはつゆ知らず、ご、ご、ご無礼ぶれいをおゆるし下さい!」


 冒険者の女性たちはみなあわてて土下座どげざした!?


 いやいやいや……

 ぎゃくに俺たちの正体しょうたいがすぐに分かったとしたら、そのほうが気持ち悪いよな……。


 神子たちも、神殿騎士たちも、全く同じグレーのロングワンピースに、ジーンズ、そして、靴はスニーカーだし……


 しかもこの俺は、なにやら上下黒で異世界モノの漫画でも出てくる魔導士のような格好をしているしなぁ……


 ぜーったいに! 分かるわけがないっ!


「いやいや、土下座は止めてくれよ!

 俺たちはこんな格好しているし……ふつうは分からねぇよ。

 今まで通りでいいから、普通に話してくれ!

 それとなぁ、俺のことは "シン" と呼んでくれ。 なっ!?」


 冒険者の女性たちは土下座したまましばらくお互いの顔を見合わせた後、その状態でおもむろにゆっくりとうなずってから立ち上がった。


 冒険者の女性たちは顔を見合わせながら、ばつが悪そうに"もじもじ"している。

 獣人族じゅうじんぞくの女性、ラフが勇気を出して話し出した。


「シンさん。 うちらはみんな神殿騎士をめざしてるんです!」


「え? じゃぁなんで冒険者をやってるんだ?」


「神殿騎士試験の受験料じゅけんりょう、金貨100枚をかせぐためです。

 ひとりあたり金貨25枚が必要なんです……」


 ラフが神殿騎士をめざしていると言い……

 続いてエルフ族のシェリーが、騎士試験の受験料を稼ぐために冒険者をしていると話した。


「「「 金貨100枚!!! 」」」


 神子の何人かが同時に驚きの声を上げた。


 そうだよなぁ。 金貨100枚って日本円でいくらくらいに相当そうとうするんだろう?

 1000万円くらいなのかな?



「おい、スケさん、カクさん、神殿騎士試験を受験するのに金がるのか??」


「いえ、そんなことはありません。

 事前じぜん書類審査しょるいしんさすらなく、誰でも無償むしょうで受験可能です。

 試験日当日に受験を申し込むことさえみとめられています。

 一体どこから金貨25枚なんてデマが流れたんでしょう?」


「ということなんだがシェリーさん。受験料がるって一体いったい誰が言ったんだい?」


「ノルムの町の統括神官様とうかつしんかんさまです。

 金貨25枚をノルムの神殿しんでん寄進きしんして……

 さらに女性だけが統括神官様みずから検査をなさる身体検査を受けねばなりません」


「ん? 身体検査まであるのか? そりゃぁちょっとおかしいじゃねぇか?」


「男性は金貨25枚を寄進きしんすれば受験資格証明書を発行してもらえるんですが……

 女性の場合には身体検査が必要だとのことでした。

 それにその身体検査をパスしても、統括神官様に"身体浄化儀式しんたいじょうかぎしき"をしてもらって、きよい体になったと認められなければ"受験資格証明書"をることができません」


「当然、身体検査とやらをする統括神官ってのは女性なんだよな?」


「いえ、統括神官様は男性です。

 やせている方が多い神官職しんかんしょくにはめずらしく、なんというか……ふくよかなかたです」


「お前さんたち! だまされてんぞっ!!

 金をだまし取られるどころか体までねらわれてんじゃねぇか!!

 ……なんだ! この世界の男はみんなクソクズゲス野郎なのか!?

 許せんな! ったくよぉ! 俺がきっとその豚神官ぶたしんかん成敗せいばいしてくれる!」


 冒険者の女性たちは顔を青くし……

 冒険者たちをのぞくみんなが顔を見合みあわせてかたをすぼめた。


「ほらなシオリちゃんや。 俺はさっきちゃんと穿うがった事を言ってただろ?

 俺たちに出会わなければ彼女等はあやうくクソクズゲス豚野郎のカモになるところだったじゃねぇか!? 危ねぇなぁ~! ゾッとしたぞ!

 ……よし! 俺は決めた! いいよなシオリちゃん!?

 いや、ダメだと言っても俺はこの子らを庇護下ひごかき、加護かごするぞ!

 絶対にだ!」


 シオリは目を閉じ苦笑にがわらいをしながら、おもむろにうなずいた。


「さてと、シェリーさん、ラヴさん、ラフさん、ミューイさん……

 お前さんたちがのぞめばなんだが……神殿騎士見習いにならねぇか?

 俺たちの仲間になって欲しいんだが? どうだろうかな?

 俺たちと一緒いっしょ中央神殿ちょうおうしんでんまで来ねぇか? もちろん無理にとは言わんが……」


「よ、よろしいんでしょうか?……うれしいです。 ぜ、是非ぜひお願いします!」

「「「 はい。お願いします!! 」」」


 シェリーがひかえめながらもすぐに俺からの提案を受け入れ……

 他のみなけることもなくそろって受諾じゅだくした。


「「「「 ありがとうございます!! 」」」」


「そうか! 良かった! 俺としても優秀な人材を確保かくほできて嬉しいよ。

 ああ……でもまずは見習いからな!

 スケさん、カクさんの下で修行してもらって、実力がついたら、すぐにでも正式な騎士になってもらうつもりだ。 あせらず、無理せずにがんばってみるがいいぜ!」


「「「「 はい!! 」」」」



 しかしまさか神殿関係者にクソクズゲス野郎がいるとはなぁ……

 それも統括神官だぜ!? そんな奴が豚野郎だとはなっ!! ったく!


 他の神殿もすべて調べなきゃいかんな!

 同様のクソクズゲス野郎がまだまだいるかも知れん……


 クソクズゲス野郎ども!! くびあらってってろよ!!

 みんなまとめてアマゾネス・オークのなぐさものにしてくれる!


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