8


ちびたちはともかく残りの三人――とりわけティオ――は、パーティーの翌日も余韻を持て余し、外へ飛び出していく元気など露ほども無かった。だから、ティオがユノの部屋を訪れたのは、そのまた翌日、天気の良い日曜の午後だった。


「おおい、坊主。出掛けるぞ」

「どこへ?」

「買い物さ。お前は荷物が少なすぎる。それに食材も買わねえとな。山ほど。うん、そうだ。ほれ、さっさと支度しろよ」


 ユノは肩をすくめる。山ほどとは言わないが、彼も今晩食べるものを調達するべきだと思ったし、そうでなくても、街には近いうちに出てみるつもりだった。読みかけの本をしまい、シャツを着替える。ティオはそわそわしながら待っていて、ユノの準備が出来たと見るや、「さあ、行くぞ」と引っ張り出した。


 愛車に乗り込む時、ティオは座席を目一杯下げて、背伸びし、腹をへこませ、腰を捻り、どうにかこうにか巨体を押し込んだ。車が走り出すと、鼻歌混じりで軽快にハンドルを切る。


しばらくすると「風、入れてくれ」と言うので、ユノはドアに取り付けられたハンドルを回し、窓を開ける。


「人より着込んでる肉が厚いもんで。悪いな」


 目尻を伝う汗を、ティオはうざったそうに手の甲で拭った。


「君、昔はもっと痩せていたと思うんだけど」

「ああ、子どもが産まれてからだよ。食べさせてるつもりが自分が食ってる」

「よく食べるのは良いことだけれどね」


街の中心へ行くほど人が増え、活気がある。旅行客の姿も頻繁に見かけ、行き交う人々の笑顔を、ユノは目を細めて眺めた。


繁華街をぐるりと回り、時折適当な場所で車を停める。

どの店でも、ティオは片っ端から物を買いこんだ。

ユノは彼の後ろを付いて歩き、賑わしい街に特有の不可解なもの――反対方向に回る時計、勝手に歌いだすマグカップ、一人で歩き回る人形七色のサル――をつくづく観賞した。


陽が落ちかける帰り道、車の後部座席には、ティオの大量の買い物が積み上げられ、ユノの方は、街の隅にひっそりと存在する古本屋で手に入れたペーパーバックと、レターセットの包み、数日分の食料の袋を手元に抱えているだけだった。


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