鍵はするりと気持ちよく開いた。


ティオが先に中に入り、明るい日の差し込むワンルームを案内する。

ベッド、机、クローゼット。カウンターを挟み、簡素なキッチン。トイレ、バスルーム。


丹念に部屋を検分するユノを、ティオは愉快そうに眺めた。


「どうだ、良い具合だろ」


「うん」


ユノは振り向き、「とても良い。懐かしいな」とにっこりした。


「大体分かってると思うが、好きに使っていいぜ。欲しいものは遠慮なく言えよ。車だって出してやる。至れり尽くせりだ。何か聞いておきたいことは?」


「特にないよ。今のところは」


「オーケー。じゃあ荷物を片付けたらオレの部屋に来いよ。出来るだけ早くだ!御馳走が待ってるからな。鍵はここに置いておくぜ」


「ああ。どうもありがとう」


机に鍵を置き、ティオは足取り軽く、鼻歌交じりで部屋を出て行く。彼の頭は既に、夕飯のメニューのことでいっぱいになっている。


ユノは窓際に立ち、窓を開ける。

南風が吹き込み、空色のカーテンがふわりと浮いた。


見下ろす景色は、色とりどりの屋根の群れ、活気に満ち満ちた港、その向こうは延々の青海原。数年日本で、緑の山間の草いきれに囲まれ、静穏な生活をしてきたユノにすれば、サンレートは鮮やか過ぎた。


麗らかな陽光を浴びて一息つくと、ユノは鞄を開け、中身を床に広げた。


服が上下合わせても両手で数えられるほど。薄手の上着が一着。下着、靴下。腕時計、タオルが二枚に歯ブラシ。キャンプ用のステンレス食器一揃いとナイフ。お気に入りの本一冊。鞄と靴は、今身に着けている一つずつ。持ち合わせた現金は、折り畳んだシャツに念入りに挟み込んである。


それら全てを部屋のあるべき場所に仕舞うのに、時間は数十分と掛からなかった。


手早くシャワーを浴び、シャツを着替える。

すると長く窮屈な船旅の疲れから、さっぱりと解放された。

戸締りを確認し、温かな食事を目指していそいそと彼は部屋を後にする。

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