「おう、待ちくたびれたぞ」


ティオは、汗を流したさっぱりした顔でユノを出迎えた。

彼が部屋の奥に呼びかけると、子豚のように丸々とした赤毛の男の子が二人、コロコロと先を争って転がり込んでくる。


「大きいほうのちびがミロ、ちっこいほうがナナ」


ユノが親しみをこめて「こんにちは」と言うと、二人はきゃっきゃっとはにかんで「こんにちは!」と可愛らしく返事した。ティオに母親を呼んでくるよう言い付けられ、嬌声を上げながら狭い通路を押し合いへし合い、元気に引き返していく。


「君にそっくりだね」


ユノが感心すると、ティオも深く頷いた。


「だろ?どこからどう見ても親子だ」


長テーブルには、一体何人分なのかというほどの山盛りの料理を乗せた皿と飲み物が所狭しと並べられていた。ティオに座るよう勧められてユノは椅子を引いたが、腰を落ち着ける前にキッチンからバタバタと音がする。


「ユノ!」


後ろで一つに束ねた黒髪を艶やかに揺らしながら駆け付けたアカリは、飛びつくようにユノを抱きしめた。それは友人や兄弟、あるいは子どもにするようなやり方で、つまりとても親しげで愛情深かった。


「見ろ、アカリ。俺たちのおちびちゃんが大きくなって帰ってきたぜ」


ティオが得意げに言うと、アカリは「分かってるわ」という風に何度も頷く。


「ああ!会えてとっても嬉しい!元気にしていた?」


「うん」


「本当に見違えた。昔は私のほうがずっと大きかった。でも今は逆。ね?」


「そうだね。でも僕は、ティオの方が見違えたけれど」


アカリが笑った。


「大きくなったでしょ」


「横にね」


「前にもよ」

 

二人は顔を見合わせて笑った。

ティオと違ってマメなアカリは、数年の間途切れることなく、ユノと手紙をやり取りしていた。”日本”という共通点ができた今、二人は昔よりもさらに増して親密だった。


「おおい、オレの話はその辺でいいだろ」


ティオと子どもたちはテーブルにつき、目を輝かせてその時を待っている。


「食事にしようじゃないか」



威勢のいいティオの号令を皮切りに、みんなは大いに食べ、飲んだ。

特に赤毛の親子の食べっぷりは素晴らしく、五人分を遥かに超えた食事を、わずかな時間のうちに半分以上平らげてしまった。


「ええと、僕、彼らのことを待たせ過ぎてしまったかな?」

 

ユノは食べる手を止めてまじまじとその様子に見入る。

アカリは、ユノが食いっぱぐれることのないよう、せっせと彼の皿に料理を取り分けながら、「この人たち、年がら年中こうだから」と首を振った。


 三人が夢中になって食事を書き込んでいる間、ユノとアカリは離れていた間に起きた様々なことについて熱心に語り合う。


 日本のホストファミリー、町や文化、学校生活、長い船旅のこと。

 街の移り変わり、アパートの住民たちについて、子どもたちのこと。


 料理がほとんど無くなってしまっても、二人の話題は尽きなかった。 



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