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三階建ての小さなアパートメント。
港から離れた高台にあり、サンレートの街を一望できるというのが、ティオの父親がオーナーだった時代からの宣伝文句だ。
一階にはティオが家族と住み込み、二階の三室と三階の三室、合わせて六部屋が貸し部屋。今はそのうち五部屋に住人がいた。
残りの一室は、昨年の末に留学生が出ていってから空き部屋のままで、やっと今日、新たな住人が入居する。
その住人は今、懐かしいアパートの外観に、しげしげと見入っている。
クリーム色の壁面に、木製の洒落た玄関扉。
九つの部屋の窓は全て南向き。いくつかの窓は開け放たれ、レースのカーテンが風に踊っていた。
ティオが意気揚々と扉を押し開ける。
共用玄関は吹き抜けで、内階段が最上階まで螺旋を描いているのを仰ぎ見ることが出来る。
側面の壁には七つのポスト。チラシで溢れ返りそうなものや、べたべたとステッカーが貼ってあるものを、ユノは面白く眺めた。
正面に見えるティオの部屋の前には、壁際にボール、自転車、キックボード、さらにロープやら小さな靴の片方やらが乱雑に置かれ、やんちゃな住人がいることは一目で分かる。
ティオはユノを促し、「こうしないと自分の腹で足元が見えないんだ」と言って、階段をカニのような横歩きで一段一段、慎重に登っていく。
三階のフロアは静まり返っていた。
物音一つ無く、ティオのふうふうと言う荒い息が、やけに大きく響いた。
「お前の部屋は一番奥」
額の汗を拭いながら、ティオが階段から一番遠い部屋を指差す。
「こっちの端は爺さんが一人で使ってる。耳が遠いがそれ以外はすこぶる元気。高台にあるこのアパートの中でも、特別景色の良い部屋に住むんだと言って聞かなくてな。毎日せっせと階段を上り下りしてるよ。お前が昔住んでいた真ん中の部屋――今はお前のお隣さんだな。こっちは学生だ。確かお前とそう変わらない年齢のはずだが、どうだったかな。最近は部屋に引き籠りがちなんだ。その、なんというか――」
青いキーホルダーの付いた鍵をユノに見せ、ティオはそれを鍵穴に挿す。
「少し癖が強いな。うん。まあ、機会があれば会うこともあるだろう」
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