3
「やあ」
青年はティオの前に立ち、気さくに手を挙げた。ティオは相手の洗い立てのような眼の光にまじまじと見入る。
「そのお腹は食べすぎかい?驚いたな。でもすぐに分かったよ。君の頭はとても目立つから」
青年が自分の頭を指差して破顔する。ティオの燃えるような赤毛のことを言っているらしい。
「久しぶりだね、ティオ」
「――おやおや!」
ティオは太い両腕を精一杯に広げ、青年を仰ぎ見た。傍からすれば芝居じみた動作だったが、その実、心の底から驚いていた。立ち上がり、青年を上から下までじっくり目に焼き付ける。
「さあて、俺は可愛い坊やを迎えにきたつもりだったんだがね。これはずいぶんな思い違いをしていたようだ。え?なんとまあ」
青年の逞しい肩をがっしり掴み、肉付きを確かめて、
「良い腕じゃないか。ふうむ、足も丈夫そうだ。どれ、顔を見せてみろ。ふん……、賢そうな目をしていやがる。血色も悪くないな。はあて、こんな男前、俺はとんと思い当たらないがね。しかしお前が人違いしているのでなければ、俺達はどこかで知り合ったようだ。さあどうだい、名前を聞かせてもらおうか。この見事な青年は誰だって?ん?」
ティオはおどけてしかめ面をする。青年は気恥ずかしそうに、しかし堂々と胸を張って答えた。
「――ユノだよ」
ティオは喜び叫んだ。二人は勢い込んで抱擁を交わす。ティオのでっぷりとした贅肉にうずもれ、ユノは危なく窒息しそうになった。
「もう二時間以上も前から待っていたんだぜ。ちょっとばかり、気が利かないんじゃないか?しかし、人と一緒だと思ったがね。そのせいでお前だと分からなかったわけだが」
「あの人は船で会って、足が悪そうだったから少し手伝いをしたんだ。今頃、迎えに来た家族と話し込んでるよ」
「なんとなんと」
ティオは誇らしい気持ちで惚れ惚れとユノを見る。
「ティオの方はどうだい?それにアカリも。元気なのかな」
「俺は見ての通りさ」ティオは膨れた腹をさする。「アカリ!いかんいかん、こんなところで喋くってちゃ。なんたって今日はお祝いだぞ。アカリが飯を用意して待ってるからな、話は食べながら、みんなで一緒に聞こうじゃないか。さあ、車は向こうだ。荷物は?まさかそれだけか?」
ティオは、ユノが肩から斜めに提げた鞄を指差す。機能的だが、子どもたちの通学鞄ほどの大きさしかなく、旅行用というには少々心細い。
「これだけさ。必要なものは大体揃ってるし、足りないものはこっちで買うつもりだよ」
「長い船旅をしてきたとは思えないな」
驚き呆れるティオに、ユノは茶目っ気たっぷりに白い歯を見せる。
「ボロ服一枚だってこれっぽっちも支障はないよ。僕自身がしっかりしていればね」
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