港は船に乗り降りや見送り、出迎えと、とにかく人が溢れ、祭りのような騒ぎだった。ガラゴロ荷物を引く音に負けじと、皆が皆、声を張り上げてお喋りしている。


到着した旅客船からは、すでに続々と人が降りてきていた。

タラップをわっと駆け下りて来た子どもに、ティオはハッと期待を込めた視線を送る。それから慌てて首を振った。


あの子が小さな子どもだったのは昔のこと。今では十八、いや十九だったか。どちらにしろ、すっかり成長しているはずだった。


ティオは少し離れた場所から目を凝らし、気を揉んでそれらしい人物を捜す。


(あいつめ、写真の一枚くらい送ってくれりゃ良いものを)


今日の来訪を伝える手紙には『昼頃に着くだろうから』などと勿体ぶって書いてあったが、このサンレート港はひっきりなしに船が行き来するのだ。どれが目的の船か、皆目見当もつかない。


(昼頃というのもずいぶんあやふやじゃないか。え?十一時か?十二時か?十三時ってこともあるわな)


(せめて、あの頃の面影を残していてくれればいいが)


ティオの懸念をよそに、下船してくる客の列は次第にまばらになっていく。

そして腰の曲がった老婦人が、介添えの青年の手を借りながら、心許ない足どりで船を降りたところで、タラップは引き上げられてしまった。


ああなんと!

この船にも乗っていないとは!


ティオは今日何度目かの落胆を覚えた。

念には念を入れ、彼は時計の針が十一時を指すよりもっと早くから港に来て、こうしてそわそわ、うろうろと船の到着を待っていた。


何かの手違いで到着が遅れているのではないか。

船の問題か、天気の問題か。もしかすると、予定の船に乗り遅れたという理由もありうる。


ティオは悶々と考え、最後にはため息を吐いて、頭を振り振り気を取り直した


(まあまあ、気長に待とうじゃないか。楽しみが先延ばしになるのは悪いことでもあるまい)


待合所に戻るのももどかしく、日陰にベンチを見つけて腰を落ち着ける。


太り過ぎの腹を膝に乗せるように座るティオの半袖のシャツは、すっかり汗が滲んでいた。彼はうんざりしながらベトつく額を手の甲で拭う。坊主を連れ帰ったら、この汗を流すのが先決だ。



目を細めて海面を見晴らしているティオの方へ、先刻、老婦人に手を貸しながら船を降りた青年が真っ直ぐに歩いてくる。


海風を受けたシャツをなびかせ、綻びた目と口元に愛嬌を浮かべて。

端正な顔立ちと、颯爽とした短髪がまさしく精悍な若者らしい。


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