第42話
■
「なるほどね。この子がこの村を攻撃した張本人という訳だね」
「でも、あれはフィスが意図したことじゃない。全部俺の責任だ」
ルーチェとクリティア。
そして、亜人達の長であるセプト。
3人はベットで眠るフィスの周りを囲み、話し合っていた。
「意図したことじゃない。か。なら、君達は自分達の村が襲われても、そんな理由で納得するの?」
「……いや、出来ない。俺が悪かった」
ルーチェは、自分の発言を後悔する。
あまりにも軽はずみ言動だった。と。
「本当にすまなかった。この通りだ。今回の件、俺がどんな責でも負う」
ルーチェは深く頭を下げる。
亜人達が森の中でルーチェ達を一方的に攻撃した原因。
それは、フィスにあった。
先日、森の中でフィスが剣に魔力を乗せ放った一撃。
それが、亜人達の村を直撃していた。
森を薄い紙の様に易々と切り裂いた一撃は、亜人達の村を潰すには十分な威力だった。
だからこそ、亜人達は村が襲われたと思い、森の中で出会ったフィスたちに問答無用で襲い掛かってきたのだ。
「ははっ。君が責任を取る?取ってみなよ。そしたら、今度はこの子が怒り狂って、本当にこの村を滅ぼすよ?」
「それは……」
「この子。フィス君はもはや狂戦士だ。普段は大人しいけど一度スイッチが入れば周りはおろか自身の命さえ顧みること無い。危険だね。この子が本気で怒ればその場所はどんな場所であれ、ただの荒れ地に変わってしまうよ」
ルーチェは言葉に詰まる。
ほんの少し前のフィスの行動を見れば、それを否定する事など出来なかった。
「ふふ、冗談だよ。まぁ、僕がいればなんとでもなるし、被害も殆ど無いからね。意地悪はここまでにしておくよ」
亜人達の長であるセプトは、悪戯っぽく笑う。
元々、ルーチェ達をどうこうするつもりなどセプトには無く、既にその興味は目の前で寝ているフィスに移っていた。
「でも、フィス君は異常だという事は覚えた方がいいね。最早、誰かに依存しなければ生きることさえ出来ない。その大切な物の為なら、世界だろうが迷い無く滅ぼすだろうね。そして、依存する相手が悪なら悪魔に、正義なら英雄に簡単に変わる。本当に繊細で脆い、弱い子だね」
セプトは傷一つない美しい手を小さく握り、フィスの額を小突く。
繊細なグラスを叩き、ヒビが無いか確認する様に。
その様子をルーチェは怒気の篭った目線で睨みつけていた。
いくら敵意が無いとは言え、寝ているフィスを小突く。
その態度が許せなかったのだ。
「君も同じだよ?同じ傷を持った者同士、求め、惹かれ合い、必要とされることで自分の価値と存在を再確認している。依存し合っているんだ。だから、フィス君は君を庇い、君もまたフィス君を庇う事を躊躇わない。むしろ喜んで身代わりになる位だ。大事な人が傷ついてしまう位なら、自分が傷ついた方が痛くないからね」
怒りの視線を楽しむように受け流し、亜人達の長であるセプトは続けていた。
「でもね。君はフィス君の存在意義であり、半身なんだ。もし、君がこの世界を壊して欲しいと願えば、フィス君はそれを命に代えてもやり遂げる。だから、君は決して誰かの身代わりとなり無駄に命を散らしいていい存在じゃないんだよ?」
「回りくどいな、何が言いたいんだ?」
睨みつけたままルーチェは問う。
目の前の少女が何を言いたいのか。
ルーチェにはまるで理解出来なかった。
「良くも悪くも、君の決断で世界は大きく変わる。そういう事だよ」
「はぁ?」
理解を超えた言動にルーチェは、気の抜けた返答をしてしまう。
世界を変えるのは自分だ。
そんな突拍子の無い事を言われれば、誰しもまともな返答など出来ない。
勿論、ルーチェもその一人で、ただ口を開けポカンとしていた。
「あ、あのっ!」
「うん?」
「私はオーランド国の皇女、クリティアと申します」
「そう」
黙ってしまったルーチェの代わりに、クリティアは会話に割り込む。
ただ、亜人の長であるセプトの反応は今までとはまるで違った。
明らかに冷たい口調へと変わっていた。
まるで興味の無い相手と事務的な会話をするように。
「貴方がこの村の長と聞いております。どうかお話だけでも聞いてもらえないでしょうか?」
「うん、その話はこの子が起きてからにしよう。今君と話す事はないね」
「……はい」
蚊帳の外。
それを痛感する言葉に、クリティアはただ項垂れるだけだった。
■
不思議な感触だった。
目が覚めた僕の頬を、優しい風がずっと撫でている。
僕はゆっくりと体を起こす。
それは羽だった。
一枚の大きな羽。
それが僕の頭の横に置かれていた。
「これって……」
僕はその羽を手に取る。
その羽からは、尽きることの無い優しい風が流れてくる。
僕はこの感じを知っている。
付与品だ。
あの港町クランで見た、魔力を込めれば水が出てきた、あの不思議な調度品。
それと凄く似ている。
確かこれは、一部の人しか作れない物凄く高価な物だったはずだ。
「起きた?」
「えっ?」
声のほうへ顔を上げると、目の前には少女がいた。
艶のある水色の髪に、恐ろしい位整った顔をした女の子が。
「ねぇねぇ!どうして君は魂が二つもあるの?」
「おわっ!」
少女は身を乗り出し、僕の前に顔を寄せてくる。
ほんの少しでも動けば触れ合ってしまうくらいに。
僕は慌てて手を突き、少女から距離を取る。
しまった!
慌てて僕は顔をしかめる。
僕は肩にかなりの重症を負っていたはずだ。
当然、そんな肩に負担をかける動作をすれば、恐ろしい痛みがやってくる。
……はずだった。
「あれ?痛くない?」
ただ、いくら待ってもその痛みはやってこなかった。
慌てて肩の状態を確認するけど、そこには傷一つ残っていなかった。
まるで、怪我していたのが夢……だったかのように。
「……どうして?」
「どうして?!質問しているのはこっちだよ!!」
僕の呟きに、少女はズイズイと顔を寄せ、さらに迫ってきていた。
「ちょっ!君は誰!?」
何なんだ?この状況は?!
意味が分からない事だらけだ!
まず、誰だこの少女は?
なんで肩の傷が治ってる?
ていうか、ここは何処だ?
そんな疑問が次々と湧き上がってくる。
「フィスが困ってる。自己紹介もまだだし、ちょっと一旦離れよう。なっ!」
「……むぅ。そうだね」
そんな僕を助けてくれたのは、ルーチェだった。
ルーチェの姿を見るだけで、僕の胸に安心感が広がっていく。
「ルーチェ大丈夫?怪我は無い?」
「大丈夫だって。まずは自分の心配しろよ」
ルーチェは困った様な表情を浮かべていた。
でも、僕にとって僕の怪我なんかよりも、ルーチェの怪我の方がよっぽど重要な事なんだから仕方ない。
「俺は大丈夫だ。全部この人に直してもらった」
そういって、ルーチェは今の現状を僕に教えてくれた。
ここが亜人の村だという事から始まり、僕らが襲われた理由。
そして、目の前の少女の存在。
僕らの現状の全てをルーチェは僕に語ってくれた。
「状況は把握したね!じゃあ、早速僕の質問に答えてくれるかな!?」
少女は待ちきれないといった感じで、僕の前に身を乗り出す。
「えぇ……言えないよ」
少女は僕の中にあるアィールさんの魂の事をしつこく聞いてきた。
ただ、いきなり会った人に、アィールさんの魂について話せる訳が無い。
アィールさんの父親や関係者ならまだしも、無関係の人なら尚更だ。
これは本当に信頼出来る人にしか話せない。
ルーチェを見れば僕の意見と同じなのか、首を横に振っていた。
「んー、なら、どうすれば教えてくれるの??さっきの付与品をあげれば教えてくれる?」
「えっ!?」
心が揺れる。
平時ならまだしも、逃亡者となった今、絶対に手に入らないと思っていた付与品。
それが、ただで貰えるチャンス。
もし、今のがお湯が出る付与品だったら、話していたかもしれない。
「んっ……!」
ルーチェは、小さく咳払いしジトッとした視線を僕に向けてくる。
その視線から逃げるように、僕は慌てて首を振る。
「ダメです、信頼出来る人にしか教えられません」
「あはっ、いいね!その答え!!なら、信頼できれば教えてくれるんだ」
まぁ、そりゃあ、信頼出来ればですけど。
そんなに、簡単に信頼なんて出来ませんよ?
ましてや、付与品を貰ったくらいでは……絶対に!
いや、さっきは危なかったけど。
「僕はね、君がとっても気に入ってるんだよ?僕は知らないことを知るのが何よりの楽しみなんだ。そういった意味で君はとっても魅力的だ!なんていったって分からない事だらけだからね!」
「少しよろしいでしょうか!!」
少女の言葉を遮るように、リティが僕らの会話に割り込んできた。
今まで一言も発しなかったのに、突然大きな声を上げるから驚いてしまった。
「私達は皆さんの助けが欲しくてここまで来たのです!どうかご尽力頂けませんか?」
「無理だね。僕は人の事には関与しないし」
亜人の長であるセプトという少女は、興味が無いのか明らかにトーンダウンしていた。
なんていうか、凄い落差だ。
今までのハイテンションとは真逆。
抑揚の無い事務的な口調に変わっていた。
「なら、せめてこの森の近くに村を作る事を認めて頂けませんか?」
「認めるも何ももう作ってるでしょ?まぁ、放置してれば龍が焼き払うだろうから別にいいけど」
本当に面倒そうにセプトと名乗った少女は答える。
なんだろう、リティに恨みでもあるのかな?
「そこを皆さんのお力貸して守っていただけないでしょうか!?」
「ヤダよ。貸す義理もないし。メリットも無い。それに君はオーランドの王族でしょ?なら知ってるよね?この村の不完全な付与品を渡す代わりに、僕らに関わらない契約だったはずだったけど?」
「それは……」
「そんな簡単に約束を破る人間と取引?それこそ、信頼できない上に僕らにメリットが無いよ」
「すみません」
リティは項垂れ、黙ってしまう。
オーランド国と、この村でそんな契約があったのか。
そんな事全然知らなかった。
でも、契約があろうと、無かろうとリティのお願いは無理だと思う。
向こうにメリットがまるで無い。
それに龍に襲われる可能性がある村を守るというのは、盗賊達から村を守るのとはレベルが違う。
僕が同じ立場なら、絶対に力を貸さない。
「あの?」
「ん?なんだい?!」
僕の発言にセプトと名乗った少女は、急に声色を変え機嫌良く答える。
ここまであからさまだと、ワザとやってるのか?と思ってしまう。
「もう、僕らは帰りますから”土”だけ頂けませんか?」
僕らの村を守ってもらう。
そんな事してもらえるわけが無い。
だから、僕は当初の目的を遂行する。
ここに来た……事は予想外だったけど。
森へ来た本来の目的。
それは、この森に”土”を取りに来たんだ。
ふかふかの黒い土を。
「ん?土?土って地面にある?」
「そうです。土です!」
「土なんて何処にでもあるじゃないか。好きなだけもっていけばいいよ」
「あっ、いえ、普通の土じゃなくて。えっと……」
あ、しまった。
本が無い。
あれは、写真が印刷されていたから、説明には凄く便利なんだよね。
慌てて探すけど、森での戦闘のせいでどこに置いたかすら分からない。
「これだろ」
ポンと僕の肩に固いものが乗せられた。
ルーチェは僕の意図を察したのか、いつの間にか荷物入れから本を持ってきてくれた。
「ああ、ありがと」
僕はその本を受け取り、土の説明が描かれているページを開き、黒い土の参考写真を見せる。
「これです!この土です」
「何これ?!!! 」
「土です。凄く栄養のある」
「違う、違う!!」
セプトと名乗った少女は、水色の髪を靡かせ再び僕に迫る。
そして、僕の持っている本の黒い土が描かれた写真の部分を指差す。
「何これ?!」
「いや、土です」
「だから違うよ!この絵だよ?!これだよ、コレ!!」
ああ、写真の事言ってたのか。
ん?でも、何て説明する?
僕の世界から持ってきた本で、写真を印刷した技術で……
う~ん。説明出来ない。
僕が異世界から来た。という前提を話せない限り、伝えられる訳が無い。
「……ダメです」
「はぁ?!」
「今は教えられません」
「なんでよ」
「……信頼できないから」
「なるほど。これも君が僕を信頼出来れば話してくれるのかい?」
「はい」
信頼できないから教えられない。
それは嘘じゃない。
今の状態で、僕が異世界から来た。とか言えば、きっと嘘つきだとか言われると思う。
だからこそ、お互いに信頼出来ないと話せない。話しても意味が無いんだ。
「よし!わかった!!こうなったら君達の願いを叶えてあげる」
「えっ?」
「村の繁栄を手伝ってあげる。その代わり、僕らも君達の事を見させて貰うよ。ほら、信頼というのは相互の理解があって初めて成立するものでしょ?」
「いいんですか?」
「うん、その代わりこの本を貰うね!」
「えっ?!」
僕は躊躇する。
僕と元の世界を繋ぐ唯一の品物。
それをおいそれとプレゼントするなんて、簡単に決められる事じゃない。
「分かりました!」
悩む僕の代わりに答えたのは、リティだった。
「そんな本でよければいくらでも差し上げます!!」
リティは嬉しそうに声を上げていた。
一応、その本僕のなんだけどね。
「いいのか?」
ルーチェが僕の傍で小さく囁いてくる。
「いいんだ。あれは読んだけどあんま役に立たなかったからね」
あれは一通り読んだ。
でも、僕じゃあんまり理解できなかったし、きっとこれでいいんだ。
「よし!交渉成立だね!ジア、リジー!!」
セプトと名乗る少女の声に反応するように、二人の影が僕らの部屋に入ってくる。
それは、ただの少年と赤色肌の大男だった。
少年の方初めて見るけど、赤肌の男の人は既に知っている。
森での戦いで、僕が短剣を足に突き刺した人だ。
「この人達を手伝って上げな」
「えー!!」
「わかりましタ、と言エ」
明らかに不満の声を上げる少年の頭を、赤肌の大男が軽く叩く。
すると、少年は口を尖らせながらも首を縦に振っていた。
「あと、後ろで聞き耳を立てているフカとユイもだよ」
「……うっ」
「承知しました」
少女の言葉に、もう二つの人影が出てきた。
一人は、この村で戦った褐色肌の男の人だった。
ただ、もう一人は……
僕が拷問した肌の白い綺麗な女性だった。
たぶん、少女が治したんだろう。
僕が削ぎ落とした耳や指は全て元通りに戻っている。
「一応忠告しておくよ、彼らは戦闘には一切参加させないからね?あくまでも君達の村づくりの手伝いだけ。龍が来たら僕の子供達でも流石に危ない」
「わかりました。それでも十分です」
リティは嬉しそうに答えている。
ただ、僕はリティとは違ってそんなに心から喜べない。
僕は今紹介された人の殆どと戦い怪我をさせている。
特に一人には、恨まれる程度じゃ済まない拷問までしてしまっている……。
このままじゃ、村の繁栄を手伝ってもらう所の話じゃない。
だから、僕はベットから腰を上げる。
まず、ユイと呼ばれた色の白い綺麗な女性に謝るために。
「あの、すいません。本当に……」
「気安く話しかけるな。セプト様の命だから従うだけだ。お前と仲良くする気などサラサラない」
憎しみの篭った視線が僕に投げつけ、ユイと呼ばれた女性は部屋から出て行った。
……ですよね。
僕のした事を思えば、謝って許される事じゃない。
「悪りぃなー。こいつの妹は人間に連れ去られてな。だから、人を見るとすぐ殺そうとするんだよ」
「あ、あの、さっきは本当にごめんなさい」
僕はフカと呼ばれた褐色の男性に頭を下げる。
「いや、あれは予想外のいい一撃だったぜ?まぁ、縁があるみたいだからよ!宜しくな!」
意外なことに褐色の男性は怒っていなかった。
むしろ、僕の背中をバンバンと叩き好意的に接してくれる。
「僕はジア。サボるのが仕事みたいだから、サボって寝ていたら見逃してくれると嬉しいな」
「ありがとう。宜しくね」
亜人の子供。ジアと名乗る少年は僕へ手を差し出してくれた。
僕はその小さな手を取りしっかりと握手する。
「私は、リジー。宜しク」
「ああ、リジーさんも、森での戦いでは本当にすいませんでした」
僕が頭を下げると、赤肌の大男であるリジーさんは僕の頭に手を置く。
「問題なイ。あれは正当な戦いだっタ」
「ありがとうございます」
結局、僕が拷問した女性。
ユイさん以外は、僕を許し認めてくれた。
例えそれが、命令だけの表面上だけの物だったとしても。
僕は、その事実だけに深く感謝し、気がつけばもう一度皆に頭を下げていた。
■
「こうやって種を撒くの、分かる」
「「うん」」
子供達の小さな輪が村の畑に広がっている。
その中心では、亜人のジアさんが、村の子供達に種の撒き方を教えていた。
とりあえず、痩せた土地でも育つ作物を持ってきてくれたみたいだ。
ただ、見た目はただの少年にしか見えない亜人のジアさんが僕より遥かに年上だった事には驚いた。
もう、300年近くも生きているらしい。
これからは亜人の人たちは皆”さん”付けで呼ばなきゃダメと密かに誓う。
「あの、僕も手伝います」
僕は子供達の輪に混ざろうと、声をかけた瞬間だった。
子供達は僕を見た途端、蜘蛛の子を散らす様に逃げていった。
今までそんなに関わる余裕が無かったから気がつかなかったけど……
どうやら、僕はかなり嫌われているらしい。
「……君は向こうで見ててくれるほうが嬉しいなぁ」
「はい」
亜人のジアさんに、”邪魔だ”と遠まわしに言われてしまった。
僕はその指示に従い、一人誰もいない小さな丘へと避難する他なかった。
■
僕が避難した小さな丘。
そこから、村が一望できた。
まだ、作り始めたばかりの村だけど、亜人達の協力もあって
それらしい形になってきた。
亜人の人たちは、お世辞抜きで滅茶苦茶優秀だった。
魔法で、地面を堀り、固め、木を切っては組み立てていく。
それぞれ得意な魔法が異なるのも手伝って、様々な場面で活躍してくれていた。
もう、野宿なんてしなくてよくなった。
村の老人達、子供達も、僕なんかよりも遥かに亜人の人たちに懐いている。
客観的に見ても、村は加速度的に進化している。
そして、その中心にいるのはリティ。
決して全てが上手く行っているわけじゃない。
ただ、リティは分からない事や足りない知識を人に聞く勇気があり、またその助けとなる知識をも持っている人たちが周りにいた。
リティは村の長として成長しているのが分かる。
逆に僕は全くと言っていい程、成長していない。
「はぁ……」
気が滅入る。
最近こんな事ばかりだ。
自分だけ成長してない事実を突きつけられる。
僕には何かを生み出し作り上げていく。
そんな力は無い。
僕はただ人や魔物を殺すだけの力しかない。
壊すだけの力だ。
村がこのまま発展していけば、きっと僕の役割はどんどん小さくなっていくだろう。
「おい、何サボってんだ?」
そんな僕の背中から声が投げかけられる。
声の主は見なくても分かる。
ルーチェだ。
「……子供達はみんな僕を見て逃げるんだ。だから邪魔しないようにここにいる」
「あ~、みんなフィスの事、怖がってたな」
ルーチェはスッと僕の隣に座る。
それは凄く自然な動作だった。
「でも、嫌ってるじゃないんだぞ?ただ、怖いだけだって」
「それ、嫌っているとどう違うのさ」
「全然違うぞ?フィスだって俺の事怖いって思うとき無いか?」
「……あるね」
「ほぅ?それは、この口が言ったのか?!」
ルーチェが僕の頬を抓り、ギュウギュウと握る。
でも、それはあんまり痛くは無かった。
「フィスは俺の事嫌いか?」
「そんな訳無い」
「だろ?そういう事だよ」
僕の頬から手を離し、ルーチェは僕に寄りかかる。
そして、そっと僕の肩に頭を乗せる。
ルーチェのいう事は良く分からない。
でも、こうやって一緒にいれば、僕の抱えていた悩みなんてどうでも良くなる。
「なぁ、フィスはこの村の事どう思う?」
「いい村だと思うよ。皆頑張って、一生懸命だ」
「だよな。俺もそう思う」
お世辞じゃない。
老人も子供も皆一生懸命頑張っている。
本当に良い村だと思う。
「もし……さ」
「うん?」
「例えばの話だけど、俺がこの村を滅ぼしてくれって言ったらフィスはどうする?」
「ルーチェが望むならやるよ」
「……そうか」
「どうしたの急に?」
「ううん。なんでもない」
ルーチェは困った様な表情を浮かべると、すぐに立ち上がる。
なんだろう。
もしかして、ダメな返答だったんだろうか。
「それより手伝ってくれ。リジーさんが川から水を引く水路を作ってて人手が足りないんだ」
「うん、分かった!僕で手伝えるなら歓迎だよ!」
ルーチェが僕に手を差し出してくる。
僕はその手を取り、ゆっくりと立ち上がる。
「暑くなるぞ。覚悟しとけよ」
「うん」
ルーチェの言ったとおり。
太陽は真上に登り、攻撃的な日差しは容赦なく僕らの村に降り注いでいた。
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