第14話
「由々しき事態、あり得ない事です!!」
「民も望んでおります!張付けにして死刑にすべきでしょう!!」
刺繍の凝らされた絨毯。
その上には黒い艶を放つ長机が置かれ、その周りでは沢山の男達が声を荒げている。
「よい、余は気にしておらん」
「お言葉ですが、これでは示しがつきません!国の威厳が損なわれます!」
「ただでさえ下賤な評議会の連中が勢力を伸ばしているのに!!」
そこは、豪華な部屋だった。
何人もの男達が大声を上げても、決して外へ声が漏れないように作られた特別な部屋。
そこでは、口論とさえ思える議論が展開されている。
内容は単純。
”化け物”と呼ばれるたった一人の剣闘士を殺せ。
そんな簡単な話である。
「奴隷達から絶対的な支持を受けているあの者を殺せと?」
中でも一番奥の目立つ席。
その席に座っている皇帝はめんどくさそうに言い放つ。
「はい。あの奴隷は我が皇帝へ侮蔑を!不遜な態度を取りました!これは重罪です!!それに先の戦いでは、コロセウムの私兵も殺しております!」
皇帝の周りで声を上げる者達。
高そうな衣服を纏いボテッと出ただらしない腹をそのまま晒している。
この国の政治を司る血筋によって選ばれた人間である。
「……なるほど。確かにな。」
皇帝は大げさに頷いて見せる。
内心では、大きなため息をつきながら。
「まず、私兵を殺されたコロセウムからは何の懇願も来ておらん。これでは罪に問えん。そこでだ、あの剣闘士を正式に罰する為にまず法を整えようと思う。余に不遜な態度を取った者は”死刑”という法を作ろう。当然反発もあるだろうが、皆も協力してくれるな?」
その言葉に、声を荒げていた者達はピタッと静まり返る。
皇帝の言葉の意味に気が付いたのだ。
「いえ……それは……」
「言葉が過ぎました」
周りの人間は次々と言葉を失っていく。
所詮ここにいる者達は、本当に国や皇帝の事を考えている訳ではない。
今の体制が崩れ自分達の特権が失われる事を恐れているのだ。
そして、自分に不利になれば発した言葉の全てを撤回する。
その態度こそ不遜ではないのか。と皇帝は思う。
「罰するだけなら簡単だ。だが、考えてもみよ。あの少年は民衆には嫌われているが、奴隷達からは神の様に扱われているのだぞ?下手につつけば逆効果だ。反乱すら起きかねん」
それに民は今の状況を楽しんでおる。と皇帝は付け加える。
「……では、どうしろと?」
「正攻法では近衛騎士隊長ですら勝てんのだ。適当にやり過ごせばあの少年は何処かに出ていくだろう」
その皇帝の言葉に納得出来ないのか、何人かは不満げな表情を浮かべていた。
「では、なんだ?お前達は余の為に、あの少年と戦ってくれるのか?」
「いえ……」
沈黙が流れる。
誰もその沈黙を破ろうとはしない。
その沈黙を破るという事は、自身が議題の少年と戦う事を意味するのだから。
「異論がないなら、今日はこれにて終いにする」
皇帝はパンパンと手を鳴らす。
その動作を見た側近は、慌てて部屋の唯一の出入り口である扉を開く。
そして、醜い身体を上下に大きく揺らし次々と男達は出ていく。
誰もいなくなったその豪華な部屋。
堪え切れない笑いを必死に抑える子供に様に。
皇帝は一人机に肘をつき肩を揺らしていた。
「ククッ、感謝するぞ少年」
皇帝は確信していた。
あの欲にまみれ、己の保身しか考えていない者達がこのまま黙っているはずがないと。
◆
「甘い!楯は剣とは違う!相手の動きを見てから動かせばいい最後まで剣筋を見ろ!!」
激しい痛みが僕の脇腹へと走る。
木剣が楯を構えていた僕の脇をすり抜け、脇腹へと滑り込んだのだ。
「このっ!!」
僕は魔力を使い肉体強化を発動させ、後ろへ飛びのく。
「いたずらに魔力で肉体を強化するな!必要な所だけだ!!最小限でいい!」
僕に投げかけられた言葉。
的確だと思う。
でも、部分的に魔法で肉体強化するなんて何て出来っこない。
普通の肉体強化だけでも魔力の制御が凄く難しいのに!
「迷うな!いいからやれ!訓練で出来なければ実践で出来る訳がない!!」
言うだけなら簡単だ!
僕はそう思う。
でも、僕はその言葉に従う様に、魔力を小さくそして精密に扱っていく。
カーン。
乾いた木が打ち合う音。
その音が響いたと同時に、僕の木剣が宙を舞っていた。
魔力の制御に気を取られ過ぎたせいで、剣の運びが疎かになったのだ。
「休憩にするか」
「……はい」
悔しい。
また負けた。
何十試合やっただろうか……まだ一度も勝った事が無い。
いくら模擬戦とは言っても、こうまで負けては流石に心が折れそうになる。
今まで懸命に努力し、自信を積み重ねてきた剣の腕。
並みの剣闘士にならもう負ける事はない。
それくらい強くなったのに。
その自信が根こそぎ奪われた感じだ。
「魔力で肉体を限界まで強化する。それは素晴らしい事だと思う。私だって時間をかけなければ出来ない事だ」
剣の稽古をしてくれた人が僕に言う。
いわゆる、反省会って奴だ。
「でも、ここが戦場であればその魔法はまるで役に立たない。理由は分かるな?」
「ええ、すぐバテちゃいますから。10人切れば僕は動けなくなるりますからね」
強化魔法は凄い。
筋力も体の感覚も飛躍的に上がる。
ただ、その欠点。
それは持続性が短い事だ。
限界まで体を強化したら最後。
暫くは動けなくなる。
「その通りだ。だから、君は部分的に最小限の魔力で体を強化する方法を身に着ける必要がある。この技術さえ身につければ君は近衛騎士としてだってやっていける」
「言うだけなら簡単ですけど……」
出来ない。
僕の率直な気持ちだ。部分的に強化魔法を必要な時だけ使う。
確かにこれをマスターすれば、試合中にバテる可能性はかなり少なくなる。
でも、その扱いたるや。
ハッキリ言って難しい。
それを、剣を打ち合いながら調整、発動させなきゃいけないんだ。
本当にこんなの出来る人がいるのか?ってレベルだ。
僕は大きく息を吐き、地面へと寝転がる。
空は雲がとても早く動いている。
雲を運ぶ風は強いが、今はそれが心地い良い。
出来ないことだらけだ。
でも、悪い気分じゃない。
「ゼノンさん」
ゼノン。
それは僕に稽古をつけてくれる人の名前だ。
僕はこの人が強い事を身をもって知っている。
理由は簡単だ。
ゼノンさんは、この間戦った若い近衛騎士だからだ。
僕とアィールさん、そしてセネクスさんと共闘して戦ったあの試合。
そこで、僕の攻撃を全て完封してみせたあの若い近衛騎士。
それがゼノンさんだ。
「なんで近衛騎士辞めたんですか?」
アィールさんとの試合の後、ゼノンさんは近衛騎士を辞めたらしい。
理由なんて始めは興味なかったけど、これだけの技量を身に着けている人だ。
そんな人が騎士。しかも、エリートしか慣れない近衛騎士を辞めるなんて、よっぽどの事があったと思う。
「信じられなくなった、私のしている事が正しいのか」
目を細め、空を見上げながら近衛騎士だったゼノンは言う。
「え?それだけ?」
「ああ、他に理由は無い」
「……馬鹿でしょ?」
僕の本音が出てしまった。
「なっ!バカとは何だ!!」
「馬鹿じゃないですか?信じられなくなったから近衛騎士辞めるとか。極端過ぎでしょ!!生活どうするんですか?」
あれだけの技量を持って、エリートである近衛騎士になって!
その挙句、信じられなくなった。
そんな理由で後先考えず仕事を辞めるなんてどうかしてる。
勢いで行動したら今後の生活がどうなるか位わかるでしょ!
この世界には退職後の保険だって無い。
凄く厳しいんだよ?!この世界は!!
「……こうやって、剣を教えている」
プイッと顔を背けるゼノンさん。
あ!本当に何も考えてなかったんだ!この人!!
「無能か!!奴隷に金銭たかってどうするんですか!」
「む、無能?!私が?!」
ゼノンさんは口をパクパクさせ何かを言おうとしてるが、言葉が出てこない。
この人はバカだ。
だけど、凄くまっすぐな人なのは分かる。
好感は持てるけど、尊敬は出来ない人だな。うん。
「楽しそうじゃな」
ホホッと笑い声を上げながら近づいてい来る一人の老人。
セネクスさんだ。
「セネクス様!!」
ゼノンさんは深く頭を下げ、セネクスさんへ挨拶する。
そういえば、このゼノンさんはセネクスさんの弟子になったんだ。
突然ここにフラりとやってきて、セネクスに”弟子にしてください”って頭を下げるんだもん。
雷撃を食らって変な性癖に目覚めたんじゃないの?って初めは思った位だ。
まぁ、セネクスさんは僕に剣の稽古をつける条件で弟子になる事を許可していたし……。
おかけで僕は、さらに強くなれたし不満は無いんだけど。
「さて、フィス。明日の対戦相手が決まったぞ?」
セネクスさんは僕に言った。
ゼノンさんの挨拶を無視しながら。
「明日ですか?……すごい急ですね」
「まぁ、ついに始まった。という所じゃろ?」
セネクスさんは小さく息を吐く。
「相手はここを50勝して出て行った元剣闘士の英雄じゃよ。覚悟するのじゃな。これはお主が選んだ道じゃて」
嬉しくない報告だ。
でも仕方ない。僕の選んだ選択。
その結果だ。
「まぁ、当然じゃぞ?あれだけ大々的にこの国に喧嘩を売ったんじゃからな」
「はい、覚悟の上です。それより巻き込んですいません」
「気にするなて、全力でサポートすると既に誓っておるからの」
でも、これは僕も予想していた事だ。
皇帝の意に背き、民衆の恨みを買い、そして、独力でここから出ていく。
その選択をした時点で覚悟すべきことなんだ。
「ゼノンさん、もう一本お願いします」
僕はゆっくりと立ち上がり、木剣を拾う。
時間がない。
僕は一秒でも早く強くなる必要がある。
もう僕の周りの世界はゆっくりと動いている。
僕が望んだ通り。
決して楽ではない方向へと。
◆
まただ……、何度俺はこの世界に絶望すればいい。
這い上がれる。
そう思った瞬間、蹴落とされるんだ。
この世界は……。
俺は両親がいる間、裕福に暮らしてきた。
父の商売が成功していたおかげで、食う物、着る物にはなんの不自由もなかった。
両親は俺を本当に愛してくれた。
心の底から幸せだった。
でも、その幸せは簡単に壊された。
たった一人の店の奉公人によって。
その男は盗賊を手引きし、家に引き入れ、俺の両親は殺された。
俺の目の前で。
ただ、他の使用人達は必死になって俺を逃がしてくれた。
そのおかげで俺はこうして生きている。
家族、使用人全てを失って。
それから俺は、使用人達の残された家族で身寄りのない者を集め一緒に暮らし始めた。
それが、ルベルとネル。
俺の新しい家族だ。
それと同時に、俺は女である事を辞めた。
正体がバレない様に。
ルベルとネル。二人にこれ以上迷惑をかけない為に。
ただ、新しい家族との毎日は地獄だった。
食べる物も満足に無くて、物乞いや盗賊紛いの事をする毎日。
腐った物はごちそうで。
盗んだ事を咎められ殴られた事
浚われ売られそうになったことも、1度や2度じゃない
その地獄から救ってくれたのは、セネクスの爺さんだ。
仕事を斡旋してくれ、金が入るようになり生活の拠点も貧民街から比較的安全な場所へ移せた。
そして、こんな俺にも信頼できる初めての友達が出来た。
それがフィス。
馬鹿みたいに純粋で、裏切る事、人を騙す事を知らない変な奴。
この糞みたいな世界では、本当に珍しいタイプの人間。
その二人を俺は裏切ろうとしてる。
「ごめんな……フィス、セネクスの爺さん……」
この世界で信頼できる数少ない人。
全部話せば許してくれるか?
無理だろうな。
俺だったら許さない……。
そもそも全てを話す。
それ自体が無理な話だ。
全てを話せば子供たち……ルベルとネル。
俺の家族が殺される。
俺の両親を殺した一人の奉公人。
グリフによって。
俺の目の前にはもう大きな建物が迫っている。
コロセウムと呼ばれる、歓喜と興奮。そして、人の血で染まった場所。
本当は、もう来たくはなかった。
「仕事で来ました。いいですか?」
「ああ、いいぞ。いつも大変だな。ルーチェ」
俺はいつものようにコロセウムの警備兵に挨拶をする。
お互いに顔も名前も知る。よく見知った仲だ。
(疑ってくれよ!俺を止めてくれよ!!)
俺は心の中で何度も願うけど、その願いが叶う事は無かった。
◆
「あれは僕の勝ちですね。一瞬でしたが、僕の剣が先にあたりました」
「……引き分けだ。真剣ならお互いに致命傷だった」
「はぁ!!またそうやって!」
今日はいい日だ!
あの後!セネクスさんが試合の相手を教えてくれた後!
僕は強化魔法を使わずにゼノンさんに剣を当てられたのだ!
部分的に強化魔法を使う事は出来ないけど、それでも勝ちは勝ちだ!
「私は君の師だぞ!敬意を払うもんだ!」
「弟子より弱い師なんて聞いたことないですよ?」
「はぁ?!誰が君より弱いんだ!!」
「……うるさいのぉ。飯の前くらい言い争いをやめんか」
セネクスさんは僕らの顔を見て注意する。
ちょっと不機嫌な様子が伝わってくる。
「ごめんなさい」
「申し訳ありません、セネクス様」
即座に僕達は謝る。
ゼノンさんに至っては、席を立ち深く頭を下げる程だ。
やりすぎだとは、思うけど。
この人はこういう所での礼儀を欠かす事は絶対にない。
「ん。では、食べるかの」
僕らの態度に満足したのかセネクスさんは暖かいスープに手を付け始める。
ここは食堂。
各自が食事を貰い各々好きな席で食べる。
ゼノンさんは剣闘士じゃないけど、セネクスさんの好意でここで食事を取る許可を特別に貰っている。
「でも、今日の僕の勝ちは間違いないですからね!」
僕は食べる直前の匙を祝杯を上げるグラスの様に頭まで掲げ、ゼノンさんに小さく告げる。
「待て!」
「えっ?!」
その様子を見たゼノンさんの顔色が変わり、僕の腕をグッと掴む。
え?やり過ぎた?本当に怒ったの?
「見せろ!!」
大声でゼノンさんは言う。
その目線は僕ではなく、持っていた小さな匙に向けられている
「匙?ですか?」
「そうだ!」
僕はその剣幕に押し出されるように匙を差し出し渡す。
ゼノンさんはそれを水の入った小さな木樽に入れ、余計な物を洗い流す。
すると、僕の持っていた銀の匙。
スープに触れた部分は黒く変色していた。
「皆食事を辞めろ!!毒が入っている可能性がある!!」
ゼノンさんは叫ぶ。
当然、そんな事を言えば周りからゾロゾロと人が集まってくる。
「確かにな。毒じゃ……毒が盛られておる」
セネクスさんも僕の匙をマジマジと見つめ、そう結論づける。
当然、周りも慌ただしくなり食べた物を吐き出そうとするものも現れ始めた
「俺も見てもいいか?」
ヌッと僕の前に一人の影が現われる。
足音も気配も感じられなかった。
盗賊上がりの剣闘士、ディーンさんだ。
ディーンさんは、僕に忍び足や盗賊のノウハウを教えてくれた人。
この人の教えは戦いよりも一般生活で本当に役に立つのだ。
ディーンさんは、僕のスープに指で取り紙のような物にこすったり、臭いをかいだりしている。
よくわかんないけど、何かを確認しているのだろう。
「うーん。これは即効性の劇毒だな。一口でも食ってたら死んでたぞ?」
大丈夫なのか?
俺食べちまったぞ?
そんな不安そうな声が周りから上がり始め、その輪はどんどん大きくなっていく。
「落ち着け。もうこの毒を食ったら死んでる。だから、フィス以外の食事には毒はないとみて間違いない」
そんなディーンさんの声に、安堵の溜息が木霊する。
「フィスの食事だけに毒か……」
セネクスさんはポツリと言う。
「ま、この中に裏切者がいるって事だな。珍しくもない」
そんな中ディーンさんは言い放つ。
確かにそうかもしれない。
僕だけの食事に毒を入れるなんて、誰でも出来る事じゃない。
「恐らく毒はこの器に塗られたな。何処にあった?」
「ワシの部屋じゃな」
セネクスさんは即答する。
僕はセネクスさんから用意された木製の食器と銀の匙を使っている。
それは、セネクスさんが念のためにと用意した物であった。
「じゃあ、爺さん。あんたが犯人か?」
「やっとらん。だが、それを証明する術もない」
セネクスさんは不満げに言う。
ただ、皆の視線は当然セネクスさんへと集中していた。
「ディーン辞めろ。本当に裏切者いるかはハッキリしてねぇんだ。そもそもこの建物に入れる全員が疑わしい」
この北位の長、ゾットさんが不機嫌そうな声を隠さずに言う。
たしかに、この雰囲気は尋常じゃない。
セネクスさんを一方的に責めるような雰囲気。
犯人と決まった訳じゃないのに、侮蔑するような視線すら感じられる。
「ま、それもそうだ。これは俺の領分だ。調べてみるさ。ただ、フィス。お前は今は自分以外誰も信用すんなよ?油断をすれば背中からやられるぞ?」
ディーンさんはその言葉を残し食堂から出ていき、残された者は自席に戻り食事を再開する。
カチャカチャと食器が擦れる音だけが食堂に響く。
先ほどまでの明るい声や、喧噪などまるでない。
それほど、食堂の雰囲気は重く暗いものに変わっていた。
◆
「で、お主はワシについてくるのじゃな」
「ええ、セネクスさんを疑うなんてありえませんから」
今はセネクスさんの部屋へ戻る最中。
僕は、ゼノン、セネクスさんの3人で月明りに照らされた廊下を歩いている。
盗賊上がりの剣闘士、ディーンさんは誰も信じるな。って言ったけど
セネクスさんは別だ。
疑うなんてありえない。
「ホホッ、可愛いこといってくれるじゃないか。ただし、ワシは男はお断りじゃぞ?」
「……あぁ、そうですか」
こういう事さえ言わなければ、全ての点で尊敬出来る人なんだけどなぁ。
と、僕は心の中で思っておく。
「で、なんでゼノンさんも付いてくるんですか?」
「私はセネクス様の弟子だ。当然だろ?」
暇なのかな?
まぁいいや。
この人はどこかズレてる気がするし僕には関係ない。
「しかし、犯人を燻り出す暇も無いの」
「ですね、もう試合まで1日もないですからね」
毒入りの食事。
あの騒動のせいで、日はとっくに暮れ辺りは暗くなっている。
これで、太陽が出れば僕は試合を迎える。
50勝してここを出ていった英雄と。
「フィス。今夜はワシの部屋に寝泊まりせよ。ワシとゼノンで守るでな」
「分かりました」
確かに二人が近くにいれば安心して眠れる。
近衛騎士に、高度な魔法を使いこなす魔術師。
これほど、頼れる組み合わせもない。
カサッ
その時だった。
何かが落ちる音が聞こえた……と思う。
その瞬間、僕はゼノンさん、セネクスさんの腕を掴み制止させる。
その行為だけで、二人は僕の意図に気が付いたみたいだ。
僕は”先に行く”というジェスチャーを二人にし、忍び足で先へ進む。
良く見れば、小さな明かりがセネクスの部屋から漏れている。
足音は一切しない。
本当にディーンさんから教わった盗賊の技能は色々な所で生きてくる。
誰かがいる。
セネクスさんの部屋には、何かを探す小さな人影が一つ。
(子供?)
小さく弱い明かりから照らされるその姿は、子供にしか見えない。
ただ容赦しない。
たとえ子供であっても、僕やセネクスさんの命を狙うなら殺す。
僕の大切な人を脅かす奴は誰であれ。
女、子供だろうが容赦はしない。
僕はそのまま人影にゆっくり近づく。
その子供は気づきもしない。
後もう少し。
手を伸ばせばその人影に届く位置までやってきた。
僕は一気に動いた。
少年を掴み、床へと投げる。
小さい悲鳴を上げ、その人影は床に倒れる。
僕はその人影に馬乗りになり、持っていた小さなナイフを引き抜き盗賊の首へと押し当てる。
「捕まえました!!」
僕は大声でセネクスさん達を呼ぶ。
「フィス……」
僕を呼ぶ小さな声。
それが、僕の真下から発せられた。
僕は慌てて視線下げる。
そこには見知った少女の顔があった。
「……ルーチェ?……どうして?」
一気に力が抜けていく。
カラン
ナイフが力なく床に落ちる音が部屋に響いていた。
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