第2話

有り得ない。意味深なことだけ言って寝やがった。


「…意外と子供みたいな顔してるのね。」


散々人にある意味酷いことを言っておきながら、またそれなり以上にモテる自信のある私の前でいびきをかいて寝るこの男。冷めた口調と男子の平均よりは高い身長と悪くないどころか進学校のこの高校で学年172人中52位とそこそこ優秀な頭脳。カッコイイと1部の女子から人気のある事は知っていた。

こう見ると特段イケメンという訳では無いが不細工という訳でもない。失礼な評価を下すならば、彼氏にしても恥ずかしくは無いレベルの顔だった。

それよりも清潔感のある所が私的にポイントが高い。

彼はよく平凡な人間というが、かなりの進学校かつ何故か顔のレベルの高い子が集まるこの高校の中の話であり外目線なら充分、いやかなりスペックの高い男なのだ。

私立神山高校。通称神高の男子は他学校の女子からも評判はいい。

総評すれば彼なら充分彼女は出来るしいい青春を送れるはずなのに冷めた目線で常に一歩下がったような笹山八簾が気に入らなかった。


何時も平静な笹山を困らせてやろうと彼の頭を膝に載せる。どんな反応を返してくれるのやら。


暫くすると昼休みの終わりを告げるチャイムで目が覚める。後頭部の柔らかい感触と、薄らと目を開けた時に見えた顔からそう言えば、中田が居たのだったと思い出す。


「何故膝枕?」


「困るかと思ったのに、期待外れ。」


落胆されても。身を起こし、木下から送られてきた新しいLINEに目を通す。


「中田、揉め事に巻き込まれる気はあるか?」


「何?」


「太河と河合の喧嘩に教師も匙を投げたんだと。大荒れらしい。取り敢えず帰るぞ。」


それだけ言うと立ち上がり、屋上のドアを押して中へと戻る。後ろには中田が着いてくるのを知りつつ何も口を開く事無く、振り返ることも無く教室へと戻った。


丁度、行事で生徒指導担当の体育教師が不在で我らが2年A組は担任も大人しく強く出るタイプでは無い。勿論、行事に着いて行った校長はおらず、事なかれ主義の教頭は出てくるわけが無い。


「まぁ、素晴らしい剣幕で。」


ぽつりと苦情のひとつでも飛ばしたいくらいに雰囲気は悪かった。前のドアを占領し喧嘩する2人と後ろに集まる野次馬のその他。

俺と中田は後ろから入り、木下や鈴原と合流する。


「なんで、お前中田さんと一緒に居るんだよ。」


「たまたま、偶然だよ。」


ジト目でこちらを見る木下を流し、鈴原に問掛ける。


「状況は?」


「よく分からないが恐らく、太河が中田さんに告白したんだろう?それから太河の彼女の河合と大喧嘩という事だろう。」


喧々諤々と互いに罵り合っているが俺個人の感想は太河が10割悪いの一択だ。


「あんた!よく顔を出せたわね!」


こちら、と言うより中田に初めて気付いた河合がこっちに寄ってきて、手を振りかぶる。中田の頬を強かに強打しようとした左手を受け止める。


「何のつもりよ!」


「落ち着けよ。悪いのは中田じゃない。悪いのはアイツだろ?」


彼女は普段はこんなに荒れてはいない。普段は理性的で落ち着いている。


「…何が分かるのよ!」


「お前の彼氏が告白したのを断ったんだ。何も間違っちゃいない。」


目を逸らさず、ずっと見詰めてやる。暫く、無言で睨んで来たが、落ち着いて来たのか罪悪感が浮かび目を先に河合が逸らした。


「…悪かったわね。」


「中田も。」


「良いよ。気にしない事にする。」


「…ありがと。」


愕然とこちらを見ていた中田を再起動させ、固唾を飲んで見守っていたクラスメイトにもホッとした雰囲気が漂う。


「おい、笹山!俺が悪いってどういう事だよ!」


唯一の例外はこの馬鹿。お前のせいでこうなった事が分からないらしい。

肩をいからせて、鼻息荒く俺に詰め寄る太河にクラスメイト達が再度慌て出す。


「た、太河くん!」


担任の制しを無視し、俺と太河は睨み合う。


「俺はお前が気に入らねぇ。何様だよ、お前如きが何で夕美子と一緒に居るんだよ!」


知らんがな。


「偶然だ。受け取り方はお前次第だがな。」


「おい、八簾。」


「ん?」


「程々にな。」


「善処する。」


そのやり取りにキレたのか、いきなりおおきく振りかぶって殴りかかってくる。それを楽々回避し、顎を軽く揺らして意識を刈り取る。


「ダメだ。八簾。サボっているからだぞ。ウチの道場にまた通いに来るんだ。」


「す、鈴原さん?」


「ウチは格闘術の道場だよ、八簾は私の弟弟子だ。」


暫くすると何処で聞きつけたのか教頭が保健医を連れてやってくるとそのまま保健室へと連れて行った。処分は俺達全員何もなし。

ま、わかり切った事なわけだが。

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優柔不断男の学園生活 佐々木悠 @Itsuki515

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