第5話 先輩とロールケーキ

やっとの思いで学校を出て、歩くこと1時間。

俺と先輩は駅前にある洋菓子が美味しいことで有名なカフェにやってきた。


おかしいな。ウチの学校、駅近で人気なんだけどなー。


ここまでずっと下を向いて恐る恐る歩いてきた最上先輩は元より、そんな先輩をハラハラしながら見守りつつ同行してきた俺もまた、すっかり疲れてしまっていた。


だって先輩、ずっと下向いてるからすぐ人やら電柱やらにぶつかりそうになるし!

今まで雨上がりに一人の時はいったいどうしてたんだ!?


「ごめんね、私のせいで時間かかっちゃって。でもでも、ここのロールケーキがほんと美味しいんだよっ! 絶対清澄クンと食べたくって!」


達成感からか、日常3割増しの眩しい笑顔を浮かべる先輩。かわいい。


「へえ~そうなんですか。お店は有名だし知ってましたけど、入った事はなかったです」

「ん~やっぱり男の子だけだと入りずらかったりするもんね~」

「あはは」


何気に俺に女友達のいないと断定されているのが少し気になるが、まあ事実なので言うまい。


先輩と揃って店内に入り、茶色で統一されたかわいらしい制服に身を包むウェイトレスさんに窓際の席に案内され、着席。

「注文は任せて!」と胸を張る先輩に食べ物の注文はお任せし、ホットコーヒーのみ注文。


先輩はミルクティーと、名物のモンブランロールケーキを2つ分、注文してくれた。

ほとんど待たされることなく、飲み物とほぼ同時にモンブランロールも運ばれてくる。


「これこれ! ほんと好きなんだっ! 清澄クンも絶対気に入ると思うよ!」


待ちきれないのか、興奮ぎみに息を荒くしながら語る先輩。


「じゃあ、早速いただきましょうか」

「うん!」


それにしても、先輩とロールケーキの組み合わせも絵になるなあ、などと脳内で思い浮かべていると、間もなく俺は”『完璧超人』最上みれいの意外な欠点その③”を目の当たりにした。


ペリペリ。


ペリペリぺり。


「あのー、先輩? 何してるんです?」

「ロールケーキはこうすると一番おいしいの♪」

「いやいや、子供じゃないんだから!」


そう、ケーキが出てくるやいなや、先輩はフォークを器用に使って、ロールケーキを一層一層ばらばらにし始めた。

基本的にスペックが高いせいか、フォーク一本でとてつもない速さでロールケーキを『解体』していく最上先輩。

あっという間に一本の薄皮のカーペットの出来上がりだ。


「みんなにもよく言われるんだけどね。昔っからどーしてもこの食べ方がやめられなくって」

「もしかして先輩、バームクーヘンを一皮ずつはがして食べていたクチですか?」

「そう! はじめはバームクーヘンから! いやーよくわかったね。もしかして、清澄クンは同志だったり?」


てへっと舌を出してお茶目にふるまう先輩。

普段完璧に見える先輩にも、こんな子供っぽい一面があったんだ。


『完璧超人』最上みれいの意外な欠点その③


ロールケーキを一層ずつ分解して食べる。(しかも神ワザ)


またひとつ、欠点を見つけてしまった。

これはいくらなんでも恥ずかしいし、何とか直せるように俺が指導しよう。そう心に決めるのであった。

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先輩、そこだけは直してください! 伍伍亭 @dolonchu

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