俺に届いた手紙。
こんなものを受け取ったのは久しぶりだ(無理矢理だが)。
あの怪しい女が取っていた行動は、俺に告白する為のものだったという事か。
でも、俺が好きという態度ではなかった。
……待てよ、頼まれたと言っていなかったか?
という事は、代理でこの紙を渡してきたのか。
一体、こんな回りくどい事をしてきたヤツは誰なんだ?
「巧、見ていたぞ。相変わらずモテ男だな」
「……これはただのメモ書きのようなものだろ」
「そうなのか?どれ見せてみろ」
「っおい!勝手に見るな」
「へぇ……これはまた朝から刺激的だ。それにしても、斬新な告白の仕方だ」
花岡は俺をいじって楽しんでいる。
でも、何か変だ……違和感があると思うのは俺だけだろうか?
「何を悩んでいるんだ?そんなに眉間にシワを寄せていると一気に顔が老けから止めろって。告白の仕方が古風で新鮮な感じがして良いだろ?俺ならワクワクするけどな」
何がワクワクだよ、俺がこんな手紙をもらって気分が高揚する筈がないのは分かっているだろうが。
「……これ、俺宛じゃない。女に宛てたものだろ」
「違うだろ。直接渡されたんだし」
「いや、これ見てみろ。『貴女』になってる。これは性別が女のヤツに向けて使う言葉だ」
「あぁ……、ほ、本当だ……」
花岡は俺が指摘した箇所を見て、テンションが落ちてしまった。
俺宛じゃないと知り、この話題でこれ以上遊べなくなったからガッカリしたのだろう。
本当に迷惑な手紙だな。
何故、直接俺に届けられたのか。
手紙を返すにも、さっきの女を捜す方が手間がかかりそうだ。
知らないフリをして捨ててもいいと思ったが、この手紙によって近々問題が起きそうな……嫌な予感がしたので止めておいた。
***
「……あの、先日渡した手紙を返してください」
「お前、この間の怪しい女だな」
「先日の行動は怪しかったかもしれませんが、怪しい女ではありません!」
やっと現れたか。
この2週間一度も社内で出会わなかったのに、突然目の前に現れて言う台詞がこれか。
しかも、手紙を返せと?
そう言われて、はいどうぞ……と渡せる訳がないだろう。
たとえ一時だったとしても、俺に与えたあの苦痛に対して謝罪というものはないのか。
「あれからもう日数も経っているのに、あると思うか?」
「あるでしょ。だって、告白する為に書いた手紙ですし。普通の人は、簡単には捨てられない」
「俺、普通じゃないし」
「……捨てたんですか?」
怪しい女は俺を睨みつけつつ、返事を待った。
この俺が手紙を大事に持っていると、本気で思っているのだろうか。
ギャラリーが徐々に増え、女は焦りを感じ始めていた。
「さぁね」
「……捨てたなら良いです。失礼しました」
「おい……って、気が短いやつだな」
実際、いつでも渡せるようにポケットに忍ばせていたのだが、俺が悪意のある返事をした為か、プレッシャーに耐えられなくなったのか、勝手に勘違いして去っていってしまった。
「追いかけなくていいのか?」
「いいよ、面倒だ」
去る者は追わず。
誰がこの手紙を出したのか気になるが、ただそれだけだ。
俺に来たものでもないし、深追いをしたところで他人の恋愛事に興味もないし、知りたくもないしな。
だから追わないと決めた。
そう決めたのに、花岡は後悔しないか?と聞いてきた。
何故そう問いを投げ掛けてきたのか。
理由を聞いても答えなかった。
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