鈴木綾の男関係の噂。

「巧、あれ見てみろ」


「何だ?」



「ちょっと行ってくる」


「おい、会議に遅れるぞ」



 午後から会議の予定がある為、別室へ向かっている最中、花岡に呼び止められた。


 言われた方向を見てみると、アイツが数人の女性達に囲まれていた。


 ここから見る限り特に問題は無さそうだが、花岡は真剣な表情でツカツカと近寄っていった。



「鈴木さん元気?」


「えっ?」


「あ、花岡さんっ。こんにちは」

「きゃあ、花岡さんがこんなに近くに」

「優真様が近いっ」



 花岡に話し掛けられた女達は、アイツを輪の外へ出し、楽しそうに話し始めた。



 それは俺が声を掛けるまで続いた。


 花岡は、何がしたかったのか。



「花岡、会議に遅れるぞ」


「あぁ、そうだった。もうこんな時間だ。ゴメン、またね」


「はい!」

「あぁ、行ってしまわれた……」



「巧、ナイスタイミング」


「なんだそれ」



 花岡の行動は読めない。


 もしかして、あれはアイツをあの女達から助ける為に、起こした行動だったとか。


 いやいや、そんな事はしないだろう。



 ……アイツの事を好きでない限り。



***



「やっと終わった。巧、一杯やってくぞ」


「花岡、その言い方は勘違いされるだろ」



 会議が終わり、俺達はコーヒーを飲もうということになり、休憩室経由で戻ることにした。


 その時、また妙な話が聞こえてきた。


 

「花岡って、鈴木綾とヤったらしい」


「マジで!?趣味悪いな」


「だよな」



 そんな話、何の根拠があってするんだか。


 他人のプライベートの事を、あれやこれや言う方が趣味悪いだろ。



「……花岡、あれ良いのか?」


「構わないよ。事実じゃないのは知ってるだろ」


「まぁな」



 花岡は堂々と休憩室に入り、噂をしていた男性社員の方へ行ってしまった。


 なかなかの心臓の持ち主だ。



 噂をしていた奴等は、花岡が現れた事で気まずかったのか、そそくさと退散していった。



「巧、何飲む?」


「ん、あぁ……カフェラテ、甘めで」


「了解」



 いつもはブラックで飲む俺だが、気疲れで体が甘いものを欲していた。


 花岡は俺のやつよりもっと甘めで、クリーム多め、キャラメルソースなんて追加している。


 周囲には見せないが、相当疲れているらしい。



 各自、飲み物を持って窓際の席に座る俺達。


 今日は快晴か、とてもいい眺めだ。



「誰もいなくなったな」


「店員さんはいるけどね」



 まぁ、その通りだけど。


 俺がチラリと見て目配せすると、店の奥へと消えてくれた。



「花岡、噂……放置していいのか?」


「俺のハートは強いから受け流せるけど、彼女は辛いんじゃないかな」


「……こういう系の人の噂は、尾ひれがつくとどこまでいくかわからないしな」



「巧、俺と彼女の心配してくれるなんて優しいなぁ」


「おい、茶化している場合かよ」


「こういう時こそ、堂々とするしかないでしょ。気にしない、気にしない」



 全く、誰が作り話を発信しているんだよ。


 俺、花岡、まさかのアイツまで……。


 まるで俺達に恨みでも持っているみたいだ。



「さてと、仕事に戻るか」


「あぁ……」


「巧、大丈夫だって。彼女は俺が守ってやるからさ」



 それは余計に噂を助長させるだけのような気もするが、そうしないとアイツが噂に押し潰されるかもしれない。


 俺にも何か出来ることがあれば良いんだが。


 噂の発信源が誰かを突き止めるしかないのか……。

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