社内恋愛問題。

木村巧、噂の的になる。

「営業部の木村さん、今日も花岡さんと良い感じだったよ」


「良いなぁ、私も見たかったぁ」


「私も見たよ。イケメン同士だし、テンション上がるよね」


「あれ見ちゃったらもう仕事にならない」


「やっぱり氷の王子って夜は凄いのかな」


「クールに攻めるとか?」


「キャー!妄想が広がりすぎて鼻血出そう」



 ……今のは聞き間違いだろうか。


 休憩室の前を通りかかった時に聞こえた話題、それが自分の耳を疑うような内容だった。


 俺が女に興味がないっていう噂は聞いたことがあったが、まさかその相手が花岡になっていたとは。



 俺は相手にしないが、花岡が聞いたらあの女共に完全否定してくれるだろう。


 いや……意外と話を肯定も否定もせずに、悪ノリして俺に絡むかもしれないな。



 これは何か対策を打つべきだろうか。


 まずは暫く様子をみてみようか。それからでも遅くはないだろう。



 それにしても、何故こうも俺に変な噂が付くのか。


 これも人気者の性か……。



「いいや、違うね。巧は無駄にイケメン過ぎるんだよ。しかも、彼女がいるとも聞かないし。だからこそ、女性達の噂の標的になりやすい」


「おい、俺は何も言っていないぞ」



休憩時間になった途端、花岡が俺の席まで近寄ってきて図星を突いてきたので驚いた。


いつから俺の事を観察していたのか。


全く間違った事を言っていないので、心臓が痛くなってきた。



「言わなくてもわかるよ。仕事以外、ずっと心ここにあらずで、しかめっ面してる。こういう時は、何か噂されていて困っている」


「あ、そ……」


「長い付き合いだからね、俺、巧を愛しちゃってるからさ」


「何だよそれ」



 また誤解を招く様な発言をしやがって……。


 俺を困らせて楽しむなんて、悪趣味な奴だよ。



「ねぇ、あれ見て。ほら、やっぱり……」

「本当だ。即、報告しなくちゃ」


「待て!」



 おいおい、勘弁してくれ。


 この花岡が俺に絡んだだけだろ。


 しかもわざわざ俺達を観察する為に、営業部まで来るなって。


 これ以上変な噂を広められては困る俺は、駆け出す女性社員を呼び止めた。



「……あ、あの、今、木村さんが私達に声を掛けましたか?」


「あぁ、そうだ」


「な、何か……しましたでしょうか?」



 何もしてはいないが、これからしようとしているだろう。


 俺は女達を一睨みすると、溜め息を吐いた。



「いやぁ、怖がらせてゴメンね。巧がさ、君達が可愛い女性だから呼び止めたみたい」


「え、そ、そんなぁ」


「木村さんにそう思ってもらえたなんて、嬉しすぎます」



「……おい」



 勝手に作り話するな。


 俺はこの女達の容姿なんて全く見ていなかったぞ。


 花岡は笑顔で女達と会話をしているが、俺はその隣で茶番を続けている者達に呆れていた。



「もう戻っていいよ。またね」


「あ、はい」

「失礼します」



 弾けるように帰っていった女達。


 そして俺の隣で満足そうに微笑む花岡。



 今のは何だったんだ?


 俺一人納得出来ずに、席へ戻っていった。

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