同期会は続くよ、何処までだ?

「この後も行くぞ~」


「は~い」


「カラオケ~」


「行こ~」



 居酒屋での同期会はお開きになり、店先では二次会へ行く流れになり盛り上がっている。


 俺は少しずつ連中とは離れ、このまま帰ってしまおうと機会を伺っていた。



「あっ、木村さん見つけた。このまま帰るなんて許しませんよ」


「俺は帰るんだよ。おい、勝手に腕組むな」


「嫌です、まだ帰しません」



 誰だよ、この酔っ払いの女を野放しにした奴は。

 無駄に力が強すぎて、女の腕を振りほどけない。

 全力でやれば離れそうだが、流石に女相手に全力を出すと怪我をさせそうだしな……。



「巧、何やってるんだ?楽しそうだな」


「花岡、これが楽しそうに見えるのか?どうにかしてくれ」


「優真君、木村さんを帰らせちゃダメ」


「だってさ。モテる男はツラいねぇ」


「……はぁ?」



 何がモテる男はツラいねぇだよ。


 これはただ酔っ払いの女に絡まれてるだけだろ。


 花岡は俺に協力してくれるどころか、この状況を楽しそうに見ているだけ。


 はぁ……、この女をどうにかして引き剥がす方法を考えないと……。



 しかしそれを実行することが出来ず、今はカラオケ店の大部屋にいる。


 そして最大の問題は、先程の女が未だに隣にいる事。


 力付くで離れようとしたが、花岡が余計な一言を放ったせいでそれを阻止されてしまったのだ。



「巧、まさか……か弱い女性相手に全力で対抗しようとしてないよな?そんな事をしたら、社内で暴力男なんていう噂まで出るぞ」


「俺が迷惑しているのに、何でそんなことになるんだよ」


「さぁね。まぁ、やってみたらわかるよ」


「…………」



 これは花岡のせいだ。


 これで何かの間違いが起こったとしても、花岡のせいだからな。


 ……いや、何かの間違いなんて起こる筈がない。


 何故ならば、そういう場合というのは双方とも泥酔しているパターンが多いからだ。



 今、俺は素面だ。


 だから、そんな事は絶対に無い。


 隣の女や皆をもっと酔わせてしまえば、判断力も鈍ると思う。


 そうなれば、もうこっちのものだ。


 脳内で帰宅計画を練り、さっさとこの場から離れてしまおうと、積極的に注文取りに徹することにした。



「木村、俺を含めここ4人ビールね」

「木村君、私はカルーアミルクがいい」


「巧、俺はハイボールで鈴木綾は……何にする?」


「私?私は……木村さん」



「……却下」



 予想外の言葉を聞いて、思わず低い声で毒舌を吐いてしまった。俺の我慢も蓄積され過ぎて口から溢れ始めているようだ。


 ここを乗り越えればお開きになるんだぞと気を引き締め、フロントに注文の電話を掛けた。



 電話のコール音が思ったより長い。週末で夜も遅い時間帯だからか混んでいるようだ。


 その間、自分がいる部屋の様子を伺ってみると、酔っ払いながらも楽しそうに歌ったり、それをウトウトしながら聴いていたり、歌など気にせず何やら話している奴もいた。


 そんな中、先程まで俺の隣にいた女が席を立ち、千鳥足で部屋の外へ出ていった。



「巧、着いていってやって。オーダーは俺がやるから」


「は?何で俺」


「素面なのは巧だけだから」


「……なんだよそれ」



 別に着いていなくてもとも思ったが、何かあったら一番判断力のある俺の責任になってしまう気がした。


 「これは花岡に頼まれて仕方なくだからな」と、自分にそう言い聞かせ、さっきの女を追って部屋を出た。

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