第9話 「殴れ!女神よ」をもう一度

「ゴォーッドォブローッ!」

 女神の掛け声が響いた。理由は簡単こっちは心配で不安だらけなのに、目の前の人間はサトウカズマだけで無く、バニルまでもが変だった。

 ──ちょっと前


「あーはー」

 下衆ゲスな笑みをベッドの上の両者は浮かべる。強烈に効いた眠りの魔法はもしかすると三日続くかも。一瞬、思う。思うが、トラブルは過去にあった事なんて無い。

 確かに、美女を救ったのだった。夢の中では。

 舐められた感じ、解るだろうか?寝言は悪気が無く本気だった。即ち、本音。

 本音と言う奴は本来滅多に口にし無い。サトウカズマ達はこう言っていた。

「これで、もう一度お店に通えるぅ」

「オレは神の如きお助け悪魔の働きだなっ」

 こっちの側はこう言っていた。普通なら、女神に感謝し悪を成敗、ぶっ飛ばす。技法では無い、噂の英雄録を広め、「それは、実は女神」で世界は初めて救われる。

 だって、面倒だから。

「起きるかと思って、ベッドを移動させましたがダメで」

 小柄な帽子付きの魔女風の少女が対策を喋る。女神に取っての決意のトリガーには十分だ。


 しかし、ぶつくさ言おうと思っていたら、彼らは本能で、作戦をしゃべっていた。上体だけ起こし腹筋して直立したような感じで身振り手振りを加え、それでも執着するように、ベッドから出ようとしない。彼は、いや、訂正する。彼らは決してベッドから出ようとし無い。

「アンデッドカエル呼びゃあ、負けは無ぇ。ヤツらは人飲みの困らせるタイプだった。ウチのメンツは弱い、弱点で効くだろう。弱点だっ。特にアクアはなっ!」

 アンデッドカエル……仲間のうちにかつての戦慄が走る。思わぬ強敵に苦労した。相方の仮面の彼は、同様の寝言で答えた。

「呼び出すのはなあ、はっきり言って簡単だっ。誤魔化すのはもっと簡単だなっ!お前なかなかやるな!」


 彼女は、反射的にかの魔法を唱える。天敵への一撃、報復への思い。ブルーの光と同じ様な彼女の髪は魔法の力によりなびき、その力で部屋の色も魔法の光ブルーに照らされ、一色になる。反射したのはかつての天敵のせい。あいつを不完全な形で呼び戻そうなど不健全、本来ならかつての強敵に戦慄が走る。

 首を敵の武器を見つめる戦場の様に、身体操法は翻すかの様に髪がなびきついてくる様に、彼女はハッキリとそちら側の方を向いた。

 蘇生魔法の前の状態に戻りなさい。

「はっきり言って死ね」と思いながら。キッチリ神聖視されるだけあり、神秘的な空間に変わり、神秘的な空気が漂う。女神のスイッチが入った。今、オンになった。


「全員一撃で全滅させる。イカ天にかける思い。……願い。一振りのソース思い……とどまり。醤油のかける量に拘り。醤油ベースの匂いと味わいこだわり熟成と製作技法に歴史を感じ、黄金色の熱い思い……願い今食べる喜び。油のリスクも熱い……。これ位、知ってるわ。

 これ語呂や韻を踏むのを優先しててソースを優先したのよね。

 そっちの世界の『大阪のええんか?イカ天ソング』ぐらい知っているわよっ!サブカルに対応してこそ女神の本性!

 いい事?面倒そっちのけ。楽して倒して何が悪いぃ!私の思いが地獄なら、そこは地獄だ。女神様が正しい。はっきり言って私が正しい。英語で言えや!そんな荘厳ぶっ壊すグロリアス・ブレイク!」

 ゴッドブロウのかけ声までが、ここまでだった。見栄を切る所まで。言おうと思っていた事は、普段だったら「イカの天ぷらにもあっちのおソース」「何イカってんねん」と言われるから今まで言わなかった。女神は知っている。英語訛りでで「天ぷぅら」に返されるのもウケる芸人魂的に不味い。大阪は要チェックであり、女神は意外と知っている。当然、拳に力が入る。特に関係ないが、仕事の癖できっと私を見てくれていると。

 当然こう言いたい。

「ニセのアクアちゃんが言っていた」

 見栄を切り、何て言いそうだったんだ。危ねー。彼女は魔法の慣れと一連の行使に意識で女神の当然の怒りを、女神の拳に籠めた。

 使用時に光を伴う、ゴッドブロウの右ストレート、特にフルパワーの女神の気迫、極度の神秘感は今日に限り、思いっ切り決まる。

 光を、ぶっ放しながら思い黄昏れる。き、決まったぁー。女神の本音としてはこうだが、今日は至って大マジメだ。そう言えば、右ストレートにベッドの高さも今日に限り調度良い。

 光の拳が、ベッドの上の患者に襲いかかる。か弱いパンチ力は魔法の力で彼らをこちら側に引きずり戻した。その籠められた遥かなとんでもない魔法のパワーを彼らは感じ取る。か弱い右ストレートの割に、壁に激突する二人組。人間の彼はやっと口を開きこう言った。部屋をブルーに染める女神の圧倒的パワーはしばらく壁に彼らを貼り付けにする。

「や、やあ」

 笑顔だ。カズマはこう言って目が覚める。


 かっこええ。サトウの現世はかっこいいと金になんのか!?本気で仲間達の後の女子二人は置いてけぼりだと思いながら思った。「決まったぁー」とは彼女達の思いだ。そう言えばバニルも金に変えている。しつこい。その、算段もバッチリ悪魔的だ。


 ちゃんとサトウカズマが、女神達相手に「クズマ伝」を含め夢のアイドル舞台の話しを喋れるのはいつの日になる事やら。

「やっぱシビれますぅ」夢の館の彼女達は一様にそう思っていた。

 夢の製品半固形の飴を口に放り込む。あむ、もちゅもちゅもちゅもちゅ、夢魔の彼女たちは女神一行の目を盗み、夢の戦利品を回し合い、『夢の透明な飴』を報酬と言わんばかりに食べている。美味いの比では無い。この世のものでは無いものは、ハマるのでも無く、上の次元、依存が起き飢えから保管場所夜中に這い寄り、家庭内なら奪い合いの戦争が起こる。彼女たちはこれを知っていた。……美人とは抜け目が無い。単純にかわいいリボンも、隠すのも上手い。甘味はそれでいて優しい。溶けると言う表現では無く、調整された甘味に香料もあるだろう芸術的バランスに触れている。

 誰が、めれるか。

 皆、思う事もあるだろう。噛んでもまだ甘く、飴は噛むか飲むかすると『終わり』となる。そうそうそう、事故防止型だ。喉にもアクシデントが少ないだろう。目の前の女神達は全く知らない。

 よって、私たちの動きは他の誰にも邪魔され無い。

 夢の世界から持ち帰って来た半固形の透明化の飴はとある女神が見ていた世界の棒状の練ったタイプの七・五・三と言うお祝い事に使うものを単純に透明化したものだった。

                 ──おしまい

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