女神とは?

 僕は奇跡的に通り魔を撃退した。しかし、投げる方向をミスしてトラックに轢かれて死ぬという情けない死に方をしてしまった。それも、守るはずだった柚希も巻き込んで。目さえ見えていれば周りの状況を判断して的確な対処が出来たかもしれない。


「少年よ、世界が憎いか?」


 ぶっちゃけ、見えてたらどうにかなった話なんだから世界が憎いと言うより見えない自分が憎いかな。


「通り魔は恨まないのか?」


 仮にあのタイミングで通り魔が来なくても別の要因でトラックに轢かれてたんじゃないか?


「いや、さっきからあんた誰だよ」


「神」


 見えないからなんとも言えないけど、神様ってもっと威厳のある渋い声じゃないのか?こんな…こんな幼女みたいな声なのか…?


「うるさい、世界ができてからまだ1000年しか経ってないから幼女なの!」


 脳内にキンキンと甲高く口調の崩れた幼女ボイスが響き渡る。正直、お前の方がうるさい。


「まぁ、いいわ。私と逢えたことを光栄に思いなさい」


 これは駄女神とかそんな類の匂いがする。


「あなたには次の世界へと転生してもらう」


「いや、なんでだよ」


「神の事情ってやつ」


「とりあえず、真後ろに立つのはやめて欲しい。恐怖を感じる」


 幼女女神が僕の前へと移動していくのを感じる。


「さてと、まぁ、目が見えないのは可愛そうね。でも、目を見えるようにするって言うのは少し難しくてね、別の手段を与えてあげるわ」


 幼女駄女神が近づいて僕の胸に触れる。触れると同時に体に何かが入り込む感覚があった。


「…何をしたんだ?」


「はい、これ。藍翔が前世で使ってた白杖」


 幼女超駄女神が前世に愛用してた白杖を手渡してきた。


「藍翔、あのね…いや、なんでもない」


 ここで僕はあることに気づいてしまった。この女神と僕は以前会っている。それは…


「今はその続きを言わなくていい」


 女神が僕の口を指でそっと塞ぐ。女神が僕の胸に触れた時香った匂い、声が…そう…


「藍翔、私とのあの約束覚えてるでしょ?じゃあ、さっさと面倒事片付けて私を解放してね」


 女神は僕の頬にキスをする。そして、僕は強い睡魔に襲われ倒れるように眠りについた。















「藍翔…早く助けに来て欲しいな」


 柚希はひとり何も無い白い空間の中小さく呟いた。私は何故か神様に選ばれた。理由は全く分からない。任された世界もすごくむちゃくちゃだった。神が力を行使するには信仰心が必要だけどその世界には信仰の心がほとんどなかった。つまり、神が力を行使することが困難になるということになる。そして、それは奇跡が起きにくいということを意味する。神の奇跡というものは本来死ぬはずではなかった、死ぬべきではない人を助けるシステム。それが起きにくいということは予め決められたストーリー通りに物事を進められなくなることを意味する。


「なんか藍翔が私の事を駄女神だとか言ってたのは少し傷ついたなぁ…まぁ、見た目がこんなだし」


 信仰心がないと神はその姿の維持で精一杯になる。そして、余力を残そうとした結果姿が幼女になってしまう。実際表面積的にも必要な衣類も幼女にすることで節約できるのだが。そして、その節約したもので私を信じてくれてる藍翔とリンクして奇跡の代行をしてもらう。私は直接手出し出来ないけど、シナリオ通りに進めて最後に助け出して貰えるように多くの準備をしてきた。


「まぁ、あとは藍翔次第なんだよね」


 予定通りの力をつけてもらわなければ完全に詰みになる。神が存在する空間は初めは豪華だったものの、破滅するシナリオを歩む世界を助けるため幾度となく巻き戻した結果、全てのものが無くなって、遂に私ひとりだけになってしまった。唯一の娯楽と言えば、3DSだったりする。たまたま死ぬタイミングで持ってたゲーム機で神の空間に来てからは電池切れを起こさずずっと使えている。


「モンハンも全クリしちゃったしなぁ…」


 レベルをカンストし豪華な装備に身を包んだアバターが表示される。寝る必要も無いのと電池切れがないため実質無制限で永くできる。そして、飽きる。


「まぁ、もう少しの辛抱だ。頑張って待とう」


 女神ユキは再びゲームに没頭し始める。









 体に小石をぶつけられる感覚で意識が戻る。草と土の香りが鼻腔を刺激する。そして、再び石をぶつけられる。

 あまりにもしつこいので起き上がる。


「うわっ!こいつ生きてんぞ!?」


「わー!こっわ、ゾンビだぁ!」


 相変わらず視界は真っ暗で何も見えないが子供ふたりが倒れていた僕に向かって石をぶつけていたようだった。そして、起き上がった僕に驚いてどこかへと逃げていったようだった。


「ここはどこなんだ…?」


 来ている服は着心地がいいものでは無いし、履物は靴じゃなくて藁草履。地面は土ででこぼこ。周りから木の葉が擦れる音がしているため多分森。そして、何も見えない。そう、見えないんだ。あの女神は目が見えるようにするとか言いながら何もしてなかったようだった。

 右側から馬が歩く音と何やら木でできたものが転がる音と軋む音が近づいてきた。僕は慌てて道の端に避けようとしたが、小石につまづいて転ぶ。


「止めなさい」


 馬車の中の女性が御者に馬車を止めるように指示を出したようだった。そして、扉が開く音がして誰かが馬車から降りてくる。


「奥様、素性がわからぬものに近づいては…」


「いいえこの者は女神様が遣えさせた者です」


 降りてきた女性は僕の方へと近づいてくる。


「大丈夫ですか?ひとりで立てますか?」


 僕は女性によって起こされる。僕はそのまま立ち上がり、女性の方へ感謝の言葉を言う。そして、馬車が通れるように道端へと行こうとする。


「今から私の御屋敷に来ませんか?見たところ行く宛てがないのでしょう?」


 もちろん行く宛はない。そもそも、これからどうすればいいかも分かってない。


「突然ですが、よろしくお願いします」


 僕は女性の申し出を受けた。今の僕は何も無いためなんでもいいから保護してくれる人を探さないと1日生きられるかも分からない。間違った選択ではないとは思う。


「では、ご案内致します」


「あっ、えっと」


 女性は先に馬車へと乗り込もうとしてたようだった。


「どうかなさいましたか?」


「僕、盲目で…ひとりでは歩くのが難しいので…」


「では、どうしたらよろしいでしょうか?」


「二の腕の当たりを掴ませてもらえれば大丈夫です」


 僕は女性に誘導され馬車へと乗り込む。見た目は目が見えないから分からないが、座席がふかふかしてる所を考えると上流階級の人物だと思われる。


「さて、名乗り遅れました、私はラーヴェンスベルク家現当主のアーデルハイト・フォン・ラーヴェンスベルクと言います」


 相手が見えないためどんな人かは分からないが、口調の節々からは教養や強さを感じる。


「えっと、僕はアイトと言います」


「アイト…あまりここでは聞き慣れない名前です。今の名前だと今後苦労するので、私がこの世界で生きるための名前をつけてあげましょうか?」


「え?別に今の名前でも…」


「アイトさん、今の名前では帝国と呼ばれる敵国の出身と勘違いされてしまいます。それに、髪の毛の色も黒く、瞳も黒い。いまドイッチュラントが戦っている相手と同じ特徴を持っているのです」


 アーデルハイトさんが言いたいのは、見た目だけではなく名前までも敵国出身のような物だと冤罪で処刑されるかもしれないということだろう。


「えっと、じゃあ、お願いします」


「では、アイトさん、あなたは今日からラーヴェンスベルク家の養子として迎えます。そして、これからはアインハイルト・アヒム・フォン・ラーヴェンスベルクと名乗ってください」


 とてつもなく長い名前だった。


「ミドルネームのアヒムは神が裁くと言う意味です。あなたは女神様から遣わされた者なのでしょう?」


「えぇ?確かに女神からこの世界を救うとかそんな話を…」


「今は出来ないですが、ラーヴェンスベルク家が全力でサポートします」


「でも、アーデルハイトさんは何故それを?」


「神のご啓示ですよ」


 馬車に揺られ僕はラーヴェンスベルク家へと向かう。

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一応盲目ですが最強魔導士です @kickers

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