一応盲目ですが最強魔導士です
@kickers
そんなつもりじゃ
視覚障害者。漢字で書くと難しく感じるが、平たく言えば目が見えない人。少し深く掘り下げるのなら、視力や視野に障害があり、生活に支障が出てる人。
実は視覚障害者と一括りにされているものの、それぞれ程度があり微かに見えるレベルから光すら見えないものがある。
前者の人たちは白杖と呼ばれる杖を持ってない場合がある。しかし、見えにくいもの見えにくいのだから顔を近づけたりしないと文字や物の判別ができない。もしそういう人を見かけたらお店の人を呼んであげるか、助けてあげよう。
後者の人は基本的に白杖を持っているもしくは盲導犬を連れている。盲導犬についての話はまたの機会に話そうと思う。
さて、僕がなぜこんな話をするかと言えば僕自身が後者の視覚障害者だからである。しかし、視覚がない代わりに触覚や聴覚が鋭くなってるため1歩も動けないということにはならない。手っ取り早く体感してもらうならアイマスクをつけた状態で歩こうとしてみたらいい。真っ直ぐは無理かもしれないが、案外立っていられる。
特別支援学校のチャイムがなり、授業の終わりを告げる。僕は慣れた手つきでカバンへとものをしまっていく。
「今日は歩いて帰る日よね?」
先生が声をかける。
「えぇ、母親が仕事でいないので」
母が仕事でいない時は幼馴染の子が僕を学校まで迎えに来てくれる。確かにひとりで全てをやろうとしたらできることはほとんどない。しかし、周りからの助けさえあればスポーツもやろうと思えばできるし、なんだったらゲームだってできる(確か盲目のプレイヤーがいたような気がする)
「じゃあ、気をつけてね」
先生が遠ざかっていくのを肌で感じでいると、幼馴染が教室に入ってきたのか嗅ぎなれた匂いがした。
「藍翔、待った?」
「いいや」
僕は幼馴染の肘上あたりを軽く持つ。視覚障害者を誘導する時は必ず肘上あたり、つまり二の腕を持ってもらおう。間違っても後ろから押したり手を引いたりするのは絶対にやめて欲しい。
「藍翔、行くよ」
幼馴染が僕の歩くスピードに合わせてゆっくり歩いていく。時より段差があったりする時は歩き慣れた道でもしっかり教えてくれる。
「ねぇ、藍翔、今度さ、駅前に新しくできたアイス屋さんのアイスを食べに行かない?」
「ほう?そんなのが出来てたんだ。それにしてもアイスか。最近暑いから食べに行きたいね」
夏が過ぎたというのにまだ残暑が厳しい。今年は暖冬になるだろうと気象予報士が言ってた気がする。
「藍翔、前から自転車来るからちょっと避けるね」
自転車が通り過ぎてゆく。生まれてすぐから目が見えないため、自転車というものが何か見たことない。もちろん、僕は自分の顔がどんな顔なのか、幼馴染の顔がどんな顔なのかも分からない。ただ、母親曰く幼馴染の柚希は可愛いらしい。また、柚希曰く僕はイケメンらしい。昔に駅前で突然声をかけられスカウト?されたが(あまりにも突然なのとそういうのに慣れてなかったため、大声を上げてしまって、警察が駆けつけるという事態に発展したが)
街の通りを歩いていく。僕が通う特別支援学校は町外れにあり、僕の家は街の中心を原点に対象の位置にある。歩いていくとなると40分ぐらいは歩くことになる。
「柚希、後ろから自転車が来る」
「え?あ、ほんとだ」
柚希が気づく前に僕が後ろから来る自転車に気づく。後ろに目でもあるのかって言われそうになるが、微かにペダルを漕ぐ音とフレームが軋む音がしたから気づいた。視覚障害者にとって音という情報はすごく重要になる。
「藍翔」
柚希が話しかけてきた。
「何だ?」
「私、引っ越すことになったの」
青天の霹靂、寝耳に水とはまさにこの事だろう。
「これからの迎えはどうなるんだ?」
「うーん、どうなるんだろ…多分代理の人、見つけてくれるんじゃないかな」
「引っ越すのはいつだ?」
「えっと、再来年」
「おいおい、これまた随分と先だな」
「うん、ちょっと早かったかな?お母さんが転勤だからそれについて行くの」
幼馴染の柚希とは生まれた時から一緒だった。僕が盲目だと知らされた時に僕の母さんを励ましてくれたのは柚希の家族だったし、なにかする時にも柚希が助けてくれた。1度だけ本当に助けられたことがあった。
小学校4年生ぐらいの時だっただろうか。目の見えない生活にほとんど慣れた頃でひとりで出歩いたことがあった。ひとりとはいえ、白杖も使えこなせてたし公園までの道も覚えている。もし困ったら子供ケータイで直ぐに母親に連絡が付く。そんなひとりでも大丈夫だと慢心してた僕に災難が訪れた。
「おい、メクラ!」(※メクラは差別的用語なので絶対に使わないように!)
公園のベンチで座って日光浴を楽しんでいたら突然声をかけられた。声的には同年代だろう。不意に白杖が置いてある辺りに手が伸ばされる感じがしたので、その手をはたいて白杖が盗られるのを防ぐ。
「こいつ見えないくせに手を叩いてきやがった!」
「いみわかんなーい」
「カッコつけてサングラスしてやがるし」
サングラスをつけているのは視覚障害者は相手の目に目線を合わせて会話できないことから、相手に不快な思いをさせないためにとつけている。もし相手と会話していて目を合わせてくれなかったらどんな気分になるか。いい気はしないとは思う。それを防ぐためにサングラスで視線をわかりにくくしてる。
後ろに気配を感じ、咄嗟に体を前に倒す。すると、なにかが飛んでいき、前にいたやつの顔面にそれがヒットする。
「んがっ、いってぇなっ!」
それがきっかけとなったのかそいつは殴りかかってきた。まぁ、小学生のパンチなんて威力が知れているが当たると痛い。風圧、匂い、音など使える情報を全て使って防いでいく。まぁ、はたから見たら一方的に殴られているようにしか見えないが。
「ちょっとあんたたち!」
もうボッコボコにされているように見えるタイミングで幼馴染の柚希が公園に来た。彼女曰く、藍翔が心配だから見てきてって母さんに頼まれたらしい。
悪ガキ達の視線が柚希に向く。柚希は同年代に比べて身長が高かったらしい。悪ガキは柚希を見た瞬間、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「藍翔!大丈夫!?」
柚希が抱きつく。いや、苦しいからやめて欲しいんだが。
「なんともないよ」
「あれ?ほんとだ」
今日のことは柚希が母さんに言ったため、僕は今後のひとりでの外出が禁止された。柚希が来てくれなかったら確実に詰んでたのは事実だ。
「小学校のころそんなことがあったね」
「あの時は本当に助かったよ」
「あ、信号が赤だから止まるね」
車の音が多くなってきたため、そろそろ街の中心部に来たようだった。目で見る景色というものもいいものらしいが、音で感じる景色もまたいい味をしている。また、微かに香るカフェからのコーヒーの香り、通り過ぎる車の排ガスの臭い、それらの刺激も自分が今ここに存在して、今まさに人生を生きてると感じることが出来る要素のひとつにもなる。
空気の流れが複雑なのと話し声の多さからこの周りにはかなり人がいるように感じる。
「世界ってどんな色なんだろな」
「藍翔に色で答えても分からないでしょ」
「まぁな、来世があるのなら…」
僕の声を遮って後ろから悲鳴が上がった。距離は10メートル。悲鳴の後、僕らの方に向かって走ってくる足音がする。通行人が人殺しだとか通り魔だとか口々に言ってるため、つまり通り魔事件が起きたようだった。
「クソリア充がぁあああああああ!」
殺される理由としてはかなり理不尽なものだな。柚希は悲鳴を聞いて突然の事で理解出来ず固まっている。僕は咄嗟に柚希を歩道の奥の方へと突き飛ばす。
「藍翔!?」
まぁ、柚希が守れたらそれでいいか。走ってくる音が徐々に大きくなる。微かな風切り音…相手は右利きで身を屈めて刺突してくる。相手が手に持つナイフを的確に掴み、そのまま相手を車道側へと投げ捨てる。それと同時に激しいスキール音がして、何かがこちらに向かって滑って来るのを感じた。
「あ、藍翔!トラックが!」
投げ飛ばされた相手を避けようとしたトラックが急ハンドルでバランスを崩して歩道側、つまり僕達の方へと横転して滑り込んできているのか。
僕はさすがに慌てて逃げようとした。通り魔からは助かったがその後トラックに轢かれて死んだなんて絶対に嫌だ。音がする真逆の方に逃げようとしたが、運悪く落ちている空き缶を踏みつけて転倒。それも店の目の前。つまり、店頭の目の前で転倒したんだ。
…なんて無様なんだ。
「藍翔ぉおおおおお!」
柚希が僕に覆いかぶさった。
「柚希!死ぬぞ?!」
「…藍翔となら怖くないから…だって…」
僕らは横転して滑ってきたトラックに轢き殺された。
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