第三話 元・《魔王》様、友達一〇〇人作るべく学園へ
一週間後。俺とイリーナは親への別れの
そして数日の旅路を経て、俺達は王都・ディサイアスに
王都の様相は、やはり古代世界とは大きく異なっている。
まず、
「ほう……これはこれは、見事なものですね」
まるで異世界に来たような気分だった。王都の景観は、村のそれとはまるで別物だ。
俺もよく知る石造りやレンガ造りの建造物もチラホラ見られるが、しかし、そのほとんどがどういった素材で、どのような建築技術で成り立っているものなのか見当が付かない。あの雲を
こういうのが、転生の
さりとて、いつまでもこの光景に見とれているわけにもいかない。
これから
活気
学園までの道のりは、
……
「なんだあの子、すげぇ可愛い……声かけてみようかな?」
「やめとけよ、学園の制服着てるってこたぁ、お貴族様か
「まさに
野郎共がヒソヒソと話す通り、イリーナと俺は学園の制服を着用している。
まだ入学したわけではないが、内定者ということで学園側から送られてきたのだ。
男子用のそれは特筆する点がどこにもない。ただ、女子用のそれは……
ゆえにイリーナちゃんの健康的な太ももや、形の良い
「ふふん!
「えぇ。イリーナさんの美貌に
表向き穏やかに返してはいるが、内面では
ウチの
こうなればこちらも
半ば本気でそう思った矢先。
「るっせぇな! たかだか
何やら
大通りの
彼等に囲まれた、一人の美しい少女の姿があった。
年の頃は一八かそこら、だろうか。
これといった身体的
目を引くのは、やはりその容姿と格好。彼女の顔立ちはまるで人形のように
「……キミ達は、そのたかが
「あぁッ!? んだと、コラァッ!」
殺気立つオーク達。……これはもう、話し合いで解決できる空気ではないな。
「助けなきゃっ!」
前に出ようとしたイリーナを、俺は手で制した。
「お待ちなさい、イリーナさん。
この子は俺の友人にして教え子である。ゆえに
よって、ここは
イリーナを納得させると、俺は集団のもとへ向かい──
手近なオーク男一人の後頭部に
不意打ちに対し、相手集団は全員、頭が真っ白になったような顔をする。
そうした
「なんだ、テメェはッ!」
それよりも早く、こちらが踏み込んでいた。
「ご無礼」短い一言を彼等に放った後、俺は少女を見やり、声をかける。
「お
少女は目をぱちくりさせた後。
「あぁ。キミのおかげで、ね。先刻の戦い
ニッコリ
「そうでしょ!
俺が
「うん、本当に素晴らしいよ。少年、キミがさっき見せた
「
「えっ? ……いやいや、冗談だろ? キミ、ヒューマンだよね? ヒューマンがオークを素手で倒すなんて、そんなの不可能だよ」
信じられない、という顔をする少女に、俺は微笑しつつ首を横に振った。
「力の込め方、打撃を加える場所とタイミング。それらを工夫すれば造作もございません」
「い、いや、でも。さっきの踏み込みなんかは、ヒューマンの限界を超えてるようにしか」
「それもまた、工夫にございます。地面に転がっているこちらの方々は魔法の心得を持たぬ素人と見受けました。そうした手合いに魔法の行使はやや大げさと考えましたので、今回は無手の
「へぇ……」
少女の
ゾクリと、寒気が走った。
なぜ? この相手にそうした感覚を味わう要因はないはずだが。
疑問に思っていると、少女は俺の背中をバシバシ叩きながら、
「ハハッ、キミは実に凄い
それから、彼女は別の話題を切り出した。
「ところでキミ達、その制服を着ているということは、魔法学園の生徒かい?」
「いえ、まだ入学前の身です。こちらのイリーナさんも同様、ですね」
「ふむ。あぁ、そういえば。今年は二人、合格内定者がいると聞いたのだけど、キミ達のことだったのか。なるほど、キミ達であればなんの文句も出ないな」
「……貴女は学園の関係者、ですか?」
「その通りさ。今年から講師になったんだ。それも、史上最年少のね」
どんなもんだいとばかりに得意顔となりながら、大きな胸を張る。
それから少女は自己
「ボクはジェシカ。ジェシカ・フォン・ヴェルグ・ラ・メルディース・ド・レインズワース。
ニコニコと明るい笑みを
そんな彼女に応えながら、俺達も自己紹介。
「アードくんに、イリーナくん、だね。ボクも学園に用事があるから、
俺達は並んで目的地へと
ラーヴィル国立魔法学園は国内最大にして
「ま、三日もすりゃ慣れちゃうだろうさ。……ボクは職員室に用があるから、ここでお別れだね。次は生徒と講師として会おう」
じゃあね、と明るく言葉を
ジェシカと別れた後、俺達は校庭にいる生徒達を何人か
デザインの違いは身分の違いを表しているとのこと。こうした区別があるところを見ると、貴族と平民にはまだまだ
そんなことを考えつつ、イリーナと共に学園内を歩き回り、ようやっと学園長室に到着。
ドアの前でノックをして、入室する。
「おうおう、よう来た、よう来た」
広々とした一室の中央、
貴族としての
前世での俺ならばまだしも、今はただの村人でしかない俺ではまずたどり着けぬ境地だ。
そんなゴルド伯爵の横には
彼女は先程からずっと押し
「……
こんなことをポツリと
「左様。どちらも
……どうやら、伯爵の方も
ただの村人と
「君達の武勇伝はよく耳にしておるよ。ゆえに実技試験は
あからさまなリップサービスだな。まぁ、仕方がない。我が両親は歴史に名を残すほどの大
「しかしのう。すまぬが筆記だけは受けておくれ。君等にとっては簡単な問題集だとは思うが……それすら解けぬようでは、さすがに入学は認められん」
ふむ。筆記は
「うむ。……少々早いが、言っておこうかの。ようこそ、我がラーヴィル
なんとも大げさな言い草だな。俺もイリーナも、
それから数日後。俺達は学園内の一室にて、他の受験生達と共に筆記試験を受けていた。
……おかしい。これは、おかしいぞ。いくらなんでも簡単すぎる。多分、これは引っかけ問題というやつだろう。問題の裏の裏まで読み取って解答を導き出せと、そういうことに
さすがは、万能な人材を育成すべく国家の誕生と共に創設された、
タフな問題を出してくれるじゃないか。実に面白い。
試験を終えた翌日の朝。俺はイリーナと共に学園の前へとやってきていた。
合否発表は学園の門前にある
「ま! あたし達が落ちるわけないわよねっ! むしろワン・ツーフィニッシュよっ!」
自信満々といった調子で大きな胸を張りながら突き進んでいくイリーナ。
彼女と共に受験生の集団へと近づき、掲示板を見る。
合否確認はすぐに終わった。何せ俺達の名は一番上に記載されていたのだから。
イリーナの筆記テストは満点合格。
一方、俺の方はというと……
「ね、ねぇ、アード。なんか、おかしくない?」
「そ、そうですね。ちょっと、意味がわかりません」
俺の筆記テストの点数は──
〝〇点〟であった。
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