第二話 元・《魔王》様、友達が出来てウッキウキ
友達が作れなくて
そう、イリーナちゃんである。……ていうか、ちょっと唐突過ぎて実感が
まぁ、友達ができる瞬間なんてものは往々にしてこんな感じなのだろう。
なんにせよ、イリーナと出会って以降、俺の人生は煌めきを得た。
そして本日も、俺は元気に子供らしく、イリーナちゃんと野山を
自宅にて彼女の来訪を待っていると……昼下がりのことである。
「うぉ~い、アードォ~! これこれ! これ見てくれよぉ~! キャッホォウ!」
イリーナちゃんではなく、
その手には
「ここ最近、
きゃっ、なんて言いながら全身をくねらせる親父殿。非常に気持ちが悪い。
「ほらほら、見てよアードくぅ~ん。スゲーべ、コレ?
鬱陶しいテンションを
俺は
「父上。残念ながら、
ほへ? なんて声を出し、首を
「この剣に
「…………えっ? いや……えっ?」
「ご安心ください。業物とまではいきませんが、
そう述べると、俺は剣に付与を行い、父へと
「……ちなみに、だけど。どんな特性を付与したんだ?」
「はい。【切れ味一〇〇倍】【火属性追加】【切れ味自動修復】の三種です」
答えてからすぐ、父は近くにあった机へ剣を
出来損ないを摑まされたことが相当頭にきているようだな。まぁ、今回はモノにあたってもしょうがあるまい。それぐらい、さっきまでの剣は
「……おい、マジかよ、コレ」
刀身を見つめながら、ブツブツと
ともすれば
「ア~ド~っ! あたしが来たわよ~っ!」
かけかねん様子だが、もうどうだってよくなった。やりたきゃやるがいい。
こちとらイリーナちゃんと遊ぶのに
「お待たせいたしました」
「ううん、
俺の手を摑み、元気よく走り出すイリーナちゃん。その可愛らしさは本日も変わりがない。長く美しい銀髪。人形のように整った顔。
この子と友達になれてよかったと、切実に思える瞬間であった。
さて。そんなこんなで、山に
「あっ、そうだ。実はさ、パパに〝剣を新調したいから素材を集めてほしい〟って
「おやすい
「ん~っと、確か……【アルテマ・タイガーの
いや、そんな魔物、この山のどこにもいないのだが。どいつもこいつも
だいたいコレだろうな、という
それを簡単にこなした後。俺達は遊びを
山中のダンジョンに
およそ五時間ほどこもって
俺はまだまだ
外へ出て小
「ね、ねぇ、アード。あたしに、その……無詠唱のやり方を教えなさいよっ!」
山中にて、イリーナがこんなことを言ってきた。
「これはまた異なことを。イリーナさん、
「そ、それは、その…………べ、別にいいでしょっ! そんな昔の話はっ!」
顔を真っ赤にして、
本当は無詠唱ができないのか。
「まぁ、よろしいでしょう。ただイリーナさん。無詠唱について語る前に……そもそも魔法とはいかなるものか、お聞かせ願います」
「ふふん! 簡単よ、そんなのっ! 《魔王》様が創造したルーン言語! それで作られた魔法術式を詠唱して、魔力を消費することで発動するパワー! それが魔法っ!」
正解でしょ? だから
みたいな顔をしながらこちらをチラッチラ見てくる。
そんな期待に応えて、俺は彼女の頭を
「ふへへへへ……! ま、まぁ、あたしだからね! 当然よね!」
得意げな顔して大きな胸を張るイリーナちゃん、マジ可愛い。しかし、
「ではイリーナさん。
これにはイリーナも口ごもってしまった。まぁ、答えられなくて当然だ。何せ教本はそこまで
これは民衆に大きな力を
「よろしいですか、イリーナさん。魔法というものは、ひとえに
「魔法陣の、構築?」
「その通り。そして詠唱とは、
俺は人差し指を立てながら、説明を続行した。
「陣の構築は詠唱だけでなく、脳内に陣そのものを
指先に《フレア》の魔法陣を
「この魔法陣を脳内に
「わ、わかったっ!」
彼女の掌の先に陣が現れ、そこから小規模な
「わっ! わわっ! できた! できたわ! 無詠唱っ!」
「やった! やった、やったっ!」
よほど
その姿に俺は……ほっこりすると同時に
魔法の
通常、《フレア》に対する
おそらく、イリーナの魔力量は平均値よりも遥かに低いのだろう。
「やった! やった! これでアードとおそろいだわっ!」
……たとえどんなことがあろうとも、俺はこの子を支えると決めている。
どんな悲しみだろうと、どんな苦しみだろうと、俺が一緒になって背負う。
何度挫折しても、そのたびに手を引っ張って、起き上がらせてみせる。
それが、友達というものだから。
イリーナちゃん(マジ天使)との日々は流れるように過ぎていった。
そんなこんなで、俺も一五歳である。前世でもこの時代でも、一五歳となれば立派な成人であり、職業
本日、我が家でイリーナの親も交え、進路相談の会議を開く予定である。
さて現在、時刻は夜九刻。空は
両親の代わりに俺が来客を
「こんばんわっ! アードっ!」
夜だろうと関係なく元気はつらつなイリーナと──
「やぁ、アード君。こんばんわ」
二人と共にリビングへ移動し、
「我等が神祖、《
この時代では、俺を主神とした宗教が全世界に根付いているのだが……非常に複雑だ。
女王はともかくとして、自分に対しなぜ感謝の念など
「さ、
「わ~いっ! いっただっきま~すっ!」
もくもくとカレーをかっこむイリーナちゃん。食いしん
「うふふふ。イリーナちゃんは相変わらず可愛いわねぇ~。お母さんにそっくりだわぁ。……あぁ~、快楽責めしたぁ~い……」
危ない発言をする危ない顔した危ない我が母者のことなど目もくれず、イリーナはカレーに
さて。主にイリーナちゃんのおかげで楽しい食事の最中。
「もうそろそろ、話をしようか」
ヴァイスがスプーンをテーブルに置きつつ、こう切り出してきた。
その中性的な
「まずアード君。君はこれから、どうしたい?」
「そうですね……やりたいことはいくつかありますが、目下達成したい目的はと問われたなら……友達を一〇〇人ほど作りたいですね」
「はは。君はなんというか、本当に読めない子だね」
なぜだか苦笑しつつ、ヴァイスは続いて、イリーナに水を向ける。
「君はどうする? 本質的な将来は、既に確定しているけれど、そこに至るまで、まだまだ時間的余裕はある。その間、君はどうしていたい?」
「う~ん……まぁ、とりあえず、その……ア、アードと
照れくさそうに紅い
「うん。二人の気持ちはわかった。となるとやはり」
「魔法学園へ入学するのがベストだわな」
「アードちゃんのやりたいことにピッタリだし、イリーナちゃんの願いも
学園。その単語を聞いた
友達作りがしたけりゃ学園に通うのがもっとも手っ取り早い。かつて前世でそう考えた俺は、外見を
正体を
《魔王》とか呼ばれてるくせに、下々の連中にいじめられてた。
ちょっと授業中、用を足しにトイレへ行っただけなのにウンコマンというあだ名を付けられて笑いものにされたり、心ない連中に机や教本を
「魔法学園っ!? なんだか楽しそうねっ!」
目をキラキラと
「異存はございません。イリーナさんと共に魔法学園へ入学いたします」
「うん。それがいいよ。きっと友達もたくさんできるだろうし……特にアード君。君にとっては常識を学ぶいい機会だと思う」
常識? そんなの
まぁ、ヴァイスにとっては俺もまだまだ単なる子供、という認識なのだろう。
ここは素直に頷いてから……別の話題を切り出す。
「ところで。入学するのはいいとして、我々にそうした資格があるのですか?」
「うん? 資格、とは?」
「魔法学園について、私はよく存じ上げませんが……平民が入学を許されるような場所、なのでしょうか? お貴族様専用の学び場という印象が強いのですが」
「その点については問題ないよ。一昔前は今以上に貴族の平民
「──? それは、どういった意味ですか?」
首を
「……なぁ君達、この子に何も話してないのか?」
我が両親を見やりながら、問いを投げた。
「いやぁ、なんつーかよ。人の武勇伝聞くのは好きだが……」
「自分のことなんて語りたくないのよね~。なんだか
照れ笑いを浮かべる二人に、ヴァイスはため息をついた。
それから彼は、俺のことをジッと
「いいかい、アード君。これから語ることは、
そのように前置いてから、ヴァイスは……
「君の両親はね、かの名高き
「えっ」
ヴァイスの表情には、
……少々、現状は気に食わないものであった。
俺は特別な存在になるということを、自分でも引くぐらいに
過去、《魔王》と呼ばれるほど特別な存在になったことで、様々なものを失ったからだ。
特別な存在になるというのは、
しかし、過ぎてしまったことはもはやしょうがない。大魔導士の息子という立場、
突然変異体とは、種族の限界を
彼等の才覚は一代限りで、次世代に受け
親が特別でも俺は特別ではない。ゆえに……再び《魔王》と呼ばれることにはなるまい。
以降、会議は
そして、食事も終わりに近づいた
ヴァイスがこちらを見て、真剣な面持ちで口を開いた。
「……学園でも、イリーナのことをよろしく
親としては当然の言葉、なのだが。なぜだろう?
ヴァイスの顔には、必要以上の
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