史上最強の大魔王、村人Aに転生する
下等 妙人/ファンタジア文庫
史上最強の大魔王、村人Aに転生する 1
第一話 孤独なる《魔王》の未来世界転生
敗北が知りたい。
いつしか俺は、そんな願いを
神々に等しき存在とそれに
軍を立ち上げて国を
そうした道程の果てに。
俺は、
民衆やほとんどの配下達は、もはや俺のことを人間としては見てくれない。神々に代わる
だから、己の敗北を願うようになったのだ。無様に敗れる姿を見れば、人々は俺のことを自分達と同じ人間として認識してくれるようになるだろうと、そう思ったから。
しかし念願は
《魔王》・ヴァルヴァトスは最終的に、孤独な怪物へと
昔のように、友と笑い合って面白おかしく過ごす。そんな人生を歩めるかもしれない。
孤独感に
……そういうわけで、おぎゃ~である。
組み立てた術式の通り、俺は遠い未来世界で平均的なヒューマンに転生した。
今の俺は《魔王》・ヴァルヴァトスではない。
さて。時が経つのは早いもので、生まれてから六年が経過した。
さすがに普通の赤ん
ゆえに、友達はまだいない。
まぁ、今の俺は普遍的な村人である。ゆえに友達の一人や二人、いつかできるだろう。
そのように高をくくっていたのだが──
季節は
だが、これは
言語をほとんど習得し終えた俺は、父の蔵書を読みふけり、この時代の知識を吸収し続けていた。人生においてもっとも重要なのは
本日も家屋の中にある読書部屋へ
前世での城に代わる我が家は普遍的な木造住宅である。さすがに城と比べれば極めて
床のひんやりした温度を
「ほら、やっぱここにいただろ?」
「アードちゃんはホントに本が好きねぇ~」
開かれたドアの先から、両親の声が耳に届いた。父の名はジャック。母の名はカーラ。いずれも人種はヒューマン。両者共に結構な美形だが、そこを除けば普通の村人である。
「何か
「いんや。別になんもねぇけどよ」
ならば読書に集中させていただこう。
……どうやら、俺が転生した時代は前世からおよそ三〇〇〇年後の未来であるらしい。
俺の死後、統一していた世界は五〇〇年の時を経て無数の国家へと
しかし、《
ここ最近は特にその活動が目立つ。十数年前など、
「大魔導士と
生前の俺ですら、奴等を一柱仕留めるのにかなり苦労した。それをたった三人で。
彼等が規格外な存在であるだけでなく、この時代の魔法文明が極めて高レベルなものへと進化したことも大きな要因であろう。さもなくば、たかだか数人で
「あらあら、うふふ」
「なんつーか、くすぐってぇなぁ」
おかしな反応を示す二人。なんだかよくわからんが、気にするようなものでもなかろう。
俺は読書に集中したのだった。
時の流れは早いもので、俺は一二歳となった。……友達? そんなものはいない。
いや、作りたいとは思っているのだ。そもそも、それが目的で転生したのだから。
知識の吸収も十分したし、もうここいらで友達作りを、と、そう考えたのだが。
他人が
もう俺は《魔王》ではないのだが、しかしそうであっても、人はよく知らない他者を
……白状しよう。修行だの知識習得だのといった
本当は不安と
前世では《魔王》と呼ばれ、神々にさえ恐怖を感じなかった俺だが、今は平民の子供に
危機感を覚えた俺は、身近な人生の成功者達に友達作りのコツなどを聞くことにした。
人生の成功者とは
「友達の作り方ぁ? ハハッ、そんなの簡単だぜ! とりあえずボッコボコにブン
「それは舎弟の作り方では?」
続いて、母の回答はこちら。
「ん~。友達の作り方かぁ~。性
「どんな人生歩んできたんですか」
二人とも、人としてどこかがおかしかった。
どうやら相談する相手を
「
うちの両親はヴァイスの
彼のアドバイスをもとに、早速、俺は友達作り作戦を決行したのだった。
そして一ヶ月後。そこには笑顔で友達と走り回る元・《魔王》の姿が……
ない。そんなもの、どこにもありはしない。
むしろなぜか、
慕ってくれる人どころか、声をかけてくれる人すらいねぇのである。なんでだよ。
そういえばこの前、子供グループが
「アードってさー、なんか変だよなー」
「変ていうかキモい」
「キモいよねー。キモいキモーい」
久しぶりに世界を
さらに一ヶ月後。季節は夏である。暑い日々が続いているが、相変わらず俺の人間関係は真冬の
なんかもう、友達なんて永遠にできないんじゃなかろうか。
……
「では母上。本日も行ってまいります」
「は~い。気をつけて行ってらっしゃい」
家を出て、目的地である村近くの山へ向かう。魔法の修行が目的である。
山に
さて。本日も友達ができない
……などと考えた直後。
「きゃああああああああああああああああああああああ!」
こんな平和極まる山中で、いったい何があればこんな悲鳴をあげるというのだろうか。
とにかく現場へ急行しよう。まず探査魔法《サーチ》を発動し、対象者の位置を特定。
続いて、転移魔法《ディメンション・ウォーク》を発動。悲鳴の主である少女の近くへと、己が身を転移させた。
「……えっ? な、なにもないところから、いきなり出てきた……?」
あどけなさが残る顔の造形は、まさに
「グルゥアアアアアアアアアアアッッ!」
少女に注目していると、視界の
それは一頭の、見上げるほど大きな
「に、
まるで
「あのう。一つ、よろしいでしょうか?」
「な、なな、なによっ!? は、はは、早く逃げなさいってばっ!」
「いや……何をそんなに
「はっ!? た、たかが犬畜生!? なに言ってんのよ、あんたっ!?」
「なにと言われましても。事実を申し上げただけですが」
会話していると、狼が「グルル」と
俺は彼女を押しのけ、魔法を発動する。左
そこから
「……エ、エンシェント・ウルフを
なんだこの反応は? さっきの一合に、
あと、エンシェント・ウルフ? さっきの狼が? それはない。エンシェント・ウルフは強大な
あともう一点。この
「先ほど使用した
「……えっ?」
だから、なぜ驚く? 本当にさっきの一撃を《メガ・フレア》だと
ありえんだろそれは。何せ《メガ・フレア》と《フレア》の
前者は火属性の中級
それに対し、後者は初級の攻撃魔法である。ゆえに見間違うわけがない。
「……そ、そうねっ! あ、あたしとしたことが、言い間違えたわっ! あはははは!」
なんだか無理やりな調子で笑い飛ばすと、彼女は
「と、ところであんたっ! な、名前はなんていうのかしらっ!?」
「アード・メテオールと申します。以後お見知りおきを」
「そ、そう。あたしは、イリーナっていうんだけど……」
彼女はもじもじと
「あ、ああ、あんたをっ! あたしの友達一号にしてあげるっ!」
俺はしばし、差し出された左手を見つめることしかできなかった。
しかし、やがて現状を冷静に受け止め……激しい
そして俺は、万感の思いを込めて、言葉を
「……私などでよければ、末永くお願いいたします」
差し出された手を
それから──彼女はパァッと顔を輝かせるように破顔した。
愛らしい顔に
その顔に、俺は
前世にて出会い、そして死別した、
もう一度、あいつに出会えたような気がして、俺もまた頰を
「あ、ところでイリーナさん。
「えっ!? な、なんかダメだった!?」
「えぇ。握手の時に左手を差し出すというのは、
「えぇっ!? い、いや、その……わ、悪気はなかったの! 許してっ!」
オロオロするイリーナちゃん。友達というか、娘ができたような気分だった。
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