第17話

結局。『穂須戸現代美術館アルバイト募集要項』は僕のブレザーのポケットに収まり、当初の目的は達成された。これできっと鈴木の目に触れることはないだろう。代償はあまりにも大きかったが。

結局。先生は「頑張り次第では、お前を我が一族に向かい入れないわけではない。」と尊大に言い放った。そして、周囲に目を走らせてから声を潜めて「穂須戸現代美術館について、とっておきの情報がもう一つある。気になるならいつでも俺のところに来いよ、ミステリー研究部の副部長殿?」とだけ言うと、パイプ椅子と手製のメガホンを抱えてスタスタと廊下の曲がり角に消えた。窓から差し込む西日に照らされたその後ろ姿を見つめながら、僕はふと安岡先生こそ世間を騒がせている怪盗その人なのではないか、と思った。もしそうならば、穂須戸現代美術館に足繁く通っている理由もつく。例の宝石についてあんなに詳しいのだって怪しいじゃないか。或いは、大胆不敵な怪盗が探偵ごっこに興じる少年たちをちょっと揶揄っているのではないか……。なんて、まさかね。僕は首を振ってその考えを打ち消すと、通学カバンを引っ掴み、生徒昇降口に向けて踵を返した。

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