第9話

「まぁ、そう言うなよ。あと少しくらいは大丈夫だろ?まったく、俺がどれだけ役得な任務をお前に任せているか分かってないよなぁ。この、バイトの募集広告を誰よりも先に目を通せるってことはよぉ、選り取りみどり選び放題って事だぞ。先輩連中にビクビク怯える1年坊主には尚更オイシイ話じゃねぇか。」

んな、強引な……。いくら安岡先生でもこれは度が過ぎている。

「僕はアルバイトはしませんので。それでは失礼しますね。」

「あっ、おい待てよ!田中ぁ!」

学生カバンを肩に掛けてくるりと背を向ける僕の背中に、安岡先生が唾を飛ばす。(見えてませんのでこれは完全に偏見です、ごめんなさい。)先生はどどどっと駆けてきて僕の前に回り込み、1枚の広告を僕の鼻先に突きつける。

「そんなに怒らないでもいいじゃねえか。俺はお前となぁ、貼り付け作業を手伝ってもらいながら世間話でも出来ればいいと思ってだな。ほら、ここなんか俺のお気に入りの美術館なんだ。ほら、俺だって仮にも社会科教師だしなぁ。ほら、美術品には世相が反映されるだろ?」

「僕は一介の男子高校生なので美術館なんて……」

と言いかけてふと、『穂須戸現代美術館』という文字列に目を止める。これってもしや……。

「……ほすとげんだいびじゅつかん?」

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