15.僕は、菜野葉ちゃんに抱えられ、窓から校舎の外に飛び出された。
ちょうど、その姿勢は、僕が菜野葉ちゃんにお姫様抱っこされるような姿勢だった。
そのまま僕らは落下している。
数メートルの下の地面が迫ってくる。
体が怯えすくんだが、僕の顔まで数センチ差まで、菜野葉ちゃんは自身の顔近づけて微笑む。
「大丈夫、心配いらないわ。救世主様は私が守るから」
菜野葉ちゃんがそう言った数秒後に僕らは、すとんと、地面に着地した。
「はふう、急に飛び出すから、ビックリしたですっ」
いつの間にか、女神ちゃんも、僕らの横に居た。
「戸川、戸川、戸川、戸川、戸川、戸川、戸川、戸川、戸川、戸川・・・」
僕らの背後で大勢の声がする。僕を呼ぶ声だ。
振り替えると、校舎は人の魔物の肉片と肉片の繋がった、肉の鎖で締め付けられ、多い尽くされ、そして、校舎そのものが、大きな、大きな肉片となった。
学校のコンクリートと肉片の化合物からは様々な、色んな顔面が浮き出て、僕を嘲笑する。
「戸川、お前いい年こいて、無職とか人生終わってるじゃん」
「その歳で異性関係0とか人間として終わっているんだよ」
「あー、気持ち悪い、お前何で生きてるの?」
顔面達の見覚えのある顔。聞き覚えのある声。
一つ一つが、僕を苛立たせる。
学生時代も社会人になっても、常に僕の周囲にあった、視線と声。
うわざりだった。
「うるさいっ、黙れっ!」
僕が怒鳴り付けると、無数の顔はケラケラと嘲笑する。
「何キレてんの?事実言っただけじゃん。」
「もう、お前は終わりだよ」
「ゴミがっ」
ケラケラ笑う、その声達が、苛だしい。
確かに僕は、今まで、人ともうまく馴染めず、学生時代は苛められ、勉学を励もうとせず、ただ、現実逃避した毎日。卒業しても、ロクな仕事、給料だって正社員で時給制、ボーナスだって年一回五万円、マトモに社会人を名乗って良いのか疑わしい。僕の人生は終わってる、始まる事すら無かった、無かったが・・・。
「黙れっ!お前達、馬鹿にされる覚えは無い!」
「馬鹿にしてる?事実を言っただけだ。終わってる奴って、被害妄想激しいんだよなー」
言い返すと、さらに罵倒で返される。
「お前達なあ・・・」
僕は、拳を握って、飛びかかろうとした。
ドジュウッッッ!!
「ぎゃあああああああああっ!」
「黙りなさい、クズ共がっ」
魔物は炎上した。
横を見ると、光輝くステッキを握った菜野葉ちゃんが居た。
「救世主様、こんな奴らの言う事聞いちゃ駄目ですよっ?これは世界の悪意たる魔物の精神攻撃ですからっ。」
「そうよそうよ、救世主様は世界の中心核なんだから、こんなつまらない事聞いちゃ駄目。」
爆発炎上して断末魔を上げる魔物を無視するかの様に、菜野葉ちゃんは僕を抱きしめ、女神ちゃんは僕の頭を撫でた。
だが、僕は、魔物の言葉を頭の中で反芻していた。
生き恥をさらし続けて来て、そして中年になった僕は・・・
「駄目ですっ、そんな事考えちゃ駄目ですよっ!」
そう言って、ぶちゅりと女神ちゃんに無理矢理キスをされた。
「ぷはっ・・・な、何を・・・」
「救世主様は私達に守られていれば良いんです。余計な事考えて落ち込んじゃ駄目ですよっ」
目の前には、真剣そうな眼差しを浮かべる女神ちゃん。
僕はただ、うん、うんと頷く事しか出来なかった。
『お前は一人じゃ何も出来ない、ほらっ、お前はそうやって、誰かに甘やかれないと生きていけないんだ』
もう、消し炭になってるはずの魔物の声が聞こえた。聞こえたが、魔物はパチパチ火花を弾けながら燃焼しているだけだった。
「・・・帰りましょう、救世主様、私達の住まいに」
女神ちゃんは僕の頭を抱いて、また撫でてくれたのだった。
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