5.二人の少女を連れて帰って来た。

両手で女子と手を繋いで歩くのは、通行人に甚だ不審な視線を送られたものだったが、何とか通報もされずに帰って来た。

「ただいまー」

アパートの自室のドアを開けた瞬間、菜野葉ちゃんはパタパタ部屋の奥に走り、僕の就寝用のマットに飛び込ん込み、そして、クンクン真っ暗の匂いを嗅いでいる。

「ば・・・、バカ!何やってんの!?」

「何って、救世主様の匂い嗅いでいるのよ。ああ、いい匂い」

「嗅ぐな!バカ!」

僕は慌てて菜野葉ちゃんを引き剥がす。

「ふんふん、ふんふん」

横に視線を傾けると、女神ちゃんが、ティッシュの束を鼻に当てて嗅いでいた。

その足元には、ティッシュの束を漁ったと思わしきゴミ箱。

「ば!!ばばば!!馬鹿っ!」

僕は急いで女神ちゃんからティッシュを引ったくって、ゴミ箱の中に捨てた。

「な・・・何なんだよ!君達!自分が何やってるのか分かってるのか!」

僕が怒鳴りつけてやると、ぷくりと頬を膨らませて女神ちゃんは言った。

「えー!減るもんじゃ無いですし、ケチー。」

ぷんぷん女神ちゃんは怒っている様だった。

「いやね、うら若き乙女がおっさんの汚い物の匂いを嗅いじゃいけません!」

「汚くないよ!」

菜野葉ちゃんは叫ぶ。

「救世主様の魔力の残り香がたくさん詰まっているもの!汚くないよ!」

菜野葉ちゃんの顔は真剣そのものだ。

そして、また、マットの匂いを嗅ごうとしたので、はたいてやめさせた。

「魔力の残り香って、何さ?」

「この世界の実在する事が出来る力。それが魔力。世界の核たる救世主様が発しているエネルギー。で、救世主様の発する力の残照がマットからぷんぷんするから嗅いでいたのよ、すんすん・・・あいてっ!!」

また嗅ぎ出そうとしたので、チョップして阻止する。

「やめやめやめ!」

「あう・・・」

菜野葉ちゃんはぷるぷる震えながら可愛らしい目付きで僕を睨む。

「良いじゃない・・・減るものじゃないし・・・」

「いや、常識的に考えて、ダメだろ、無闇に人の物の匂いを嗅ぐのは」

「魔法少女はこれからもっと凄い事して、救世主様から魔力を貰うんですよ?」

きょとんとした顔で女神ちゃんは僕を見つめる。

「抱きしめあったり、キスしあったり、もっと深い事したりして、救世主様から魔力を供給して、魔法少女は力を得るんですよ。じゃないと、救世主様を魔物からお守り出来ないですよ。」

「はっ?抱きしめて、キスして・・・深い事・・・?」

「そうだよ、だからよろしくね、救世主様」

ぎゅっと菜野葉ちゃんは顔を赤らめて僕の手を握った。

「いやいやいや、ダメだって。そもそも犯罪になるでしょ、それ!」

「大丈夫です。世界は救世主様を中心に救世主様の都合良く回ってます。絶対に警察にバレませんし、捕まりもしません。」

また女神ちゃんはゴミ箱からティッシュを取り出して嗅ぎ始めた。

「いや・・・絶対ダメだ、ダメ・・・」

あまりに馬鹿らしくて変態的な要求に頭が痛くなってきた。僕は頭を抱える事にしたが、

「救世主様・・・」

僕の握られた手がさらに強く握らる。

顔を上げると菜野葉ちゃんがじっと僕を見ている。

「魔力供給したいな・・・、キスして良いかな・・・」

そう言って目を瞑り、僕の眼前に唇を突きだして来たのだった。

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