四葉先生との会話

「あはは、そっか。それは災難だったね~」


「災難ってほどじゃないですよ、四葉先生」


 生徒指導室に到着したオレは遅刻した事情を話すと、四葉からそんなことを言われた。

 オレの前のソファーに腰掛けている優しそうなな雰囲気の女性は、この学校で教師をしている四葉南よつばみなみである。

 不思議な雰囲気の教師で、一言で表すとゆるふわ、という感じだ。

 明るめの茶髪で毛先がくるっとウェーブがかかっている。

 この希望ヶ丘学園に入学するために色々と便宜を図ってくれた人でもある。


「それにしても久しぶりだね九条くん。半年ぶりぐらい?」


「もうそれぐらいになりますか。時が経つのは早いものですね」


 四葉と最後に会ったのは希望ヶ丘学園に入学する為に面接に来た時。それ以来一度も会っていないことになる。


「元気そうでなによりだよ~。この半年間ちゃんと勉強してた?」


「勉強は嫌いなのでしてません。面倒なことは大嫌いです」


「あはっ、そうみたいだね。その気だるそうな眼、澱んだ瞳を見てればなんとなく分かるよ。なにもかも面倒くさい、って目をしてる」


 四葉から見たオレはそんな目をしているらしい。


「でもね、そんな澱んだ瞳をしてる九条くんだけど、その瞳の中には一本の芯というか、闇みたいなものも見えるんだよ。なんて言えばいいか分からないけど、そんな気がするの」


 四葉の言っていることをいまいち理解できないオレ。

 たまに四葉は鋭いというかなんというか、感覚的なことを口にする。


「そうでしょうか。オレにはよく分かりませんが」


「別に構わないよ~。私が勝手にそう思ってるだけだからね~」


 すると四葉はソファーから身を乗り出してオレの顔をジッと見つめる。


「実は私はきみに興味があるんだよ」


「困ります。教師と生徒ですよ」


「そういう意味じゃないよ。私が言ったのはきみが知ってた部外秘の情報のことだよ」


「何のことでしょうか」


「とぼけなくてもいいよ~。きみが自分で言ったことでしょ?面接の時にきみは学校側の人間しか知らない部外秘の情報を知ってた。だから私はきみを合格にしたんだから」


 使えそうな人間だから合格にしてあげる、と言われたことを覚えている。


「何で知ってるのかは教えてくれないんだよね?」


「そうですね、企業秘密です。もしくは偶然知ってただけです」


「なんか偶然じゃないような気がするんだよね~?」


「きっと偶然と必然は紙一重なんですよ」


「もし必然だったら不正をした可能性があるってことだけど?」


さっきの優しそうな雰囲気から一変、険しい目つきになる四葉。


「偶然です」


「……まあいっか。この際それは深く追及しない」


 四葉の目元がいつものものに戻る。


「けど、面接の時に私が言ったこと、覚えてる~?」


「もしその力が本物なら力を貸して欲しい、でしたか」


 オレもずっと気になっていたことだったのですぐに思い出す。


「偽物なので力は貸せませんが、力を貸すって具体的には何をするんですか?」


「その時がくれば説明するよ。とりあえず、新入生の集合場所の体育館に行っておいで」


「オレを呼び出した用件は済んだんですか?」


「少し面接の時のことで話がしたかっただけだからね~」


 用はもう済んでいたようだ。

 オレはソファーから立ち上がり部屋を出ようとする。


「それと言い忘れてたけど、白銀さんとは同じクラスだから仲良くするようにね~」


「…………マジですか」


 偶然とは恐ろしいものだ。

 四葉に背中を押されてオレは体育館へと向かった。

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