入学式
「間に合ったか…………」
なんとか集合時間5分前に体育館に到着したオレは、案内の看板に従い入学式の会場である体育館の中に入る。
新入生が並んでいる列を見つけ、オレもそこに加わる。
「面倒そうだ…………」
入学式は好きになれない。そう考えている新入生は少なくないだろう。
校長や在校生の有り難くも煩わしいお言葉を聞いたり、立ちっぱなしや座りっぱなしでしんどかったり、面倒だと感じてしまう。
入学式とは、新入生を歓迎したり節目を表す一種の儀式であり、学生にしてみれば避けては通れない。
オレにしてみれば、入学式に参加するというのは初めての経験であるため、少し楽しみでもある。
「静粛に。ただいまより新入生の入学式を行います」
司会の教員の声が響き、騒がしくしていた生徒たちが口を閉ざす。静寂が戻った頃合いで壇上に一人の男が現れる。
50代ぐらいのスーツを着た男性だ。
「私がこの希望ヶ丘学園理事長の
長ったらしい演説。
どこの世界でも、お偉いさんの演説は退屈だ。
ありきたりな挨拶を聞いていると、突然理事長が壇上で手をあげる。
「突然ですが今から私とじゃんけんをします」
いきなりのジャンケン宣言にわけがわからず、新入生たちはお互い顔を見合わせる。
「私はグーを出します。いいですか。最初はグー、じゃんけんーーー」
ほとんどの新入生は戸惑ったままじゃんけんに参加せず、立ち尽くしている。
入学式でじゃんけんをするなど聞いたことがない。
オレもその他大勢の人たちと同じように参加せずに無難にやり過ごす。
「ポン」
しかし、グーを出すと宣言した理事長のあげられた手はチョキを出していた。周りを見渡すとほとんどの生徒は不参加。数少ない参加した新入生もグーを出すと宣言した理事長に勝つためパーを出していた。
「私にじゃんけんで負けた人、あるいは不参加の人は退学です」
生徒たちの間に動揺が走る。
入学早々退学など許容できることではない。
このままでは大半の新入生は退学してしまうだろう。
そのあまりに理不尽な物言いに新入生の中から異議が飛ぶ。
「そんなっ⁉︎学園長はグーを出すと言ったじゃないですか‼︎」
理事長のグーを出すといった言葉を信じそれに勝つためパーを出していた新入生からの異議だ。
「はい。言いましたけど、それが何か?」
理事長は全く悪びれる様子もなくそう口にする。
「グーを出すことを契約書にサインしたわけでも、確約したわけでもありません。それなのに何故その言葉を鵜呑みにしたのですか?」
「そ、それは………」
「嘘を言っている可能性を考えなかったのですか?姑息な手であろうとも負けは負けだ、と言われてしまえば言い逃れはできませんよ」
理事長は楽しそうに生徒たちを壇上から見下ろしている。
「勝負とはこういう世界です。相手の策を見抜き裏を読む。皆さんも敗北者にならないように努力しなさい。これからの君たちの活躍を楽しみにしています。あ、それと、退学というのは嘘です」
またしても嘘をついていた。
この理事長の話は話半分に聞いていた方がよさそうだ。
一癖も二癖もある学校のようで今から先が思いやられる。
理事長が壇上から降りる。
「それでは次は生徒会長によるお言葉です」
その言葉と共に、生徒会役員と思われる生徒たちが壇上へと上がる。
「新入生の皆さん初めまして。私が生徒会長の天羽
生徒会長もさっきの理事長と同じようなことをダラダラ喋っている。
オレは聞く価値がないと判断し、脳をスリープモードにする。
壇上を見ながら、ぼーっと虚ろな瞳を向ける。
しかし、突然生徒会長の雰囲気が一変する。
「ーーーさて、建前はこの辺でいいだろう」
突然の変化にスリープは強制的に解除され、壇上へと意識が集まる。
口調も変わり、邪悪な笑みを浮かべ壇上からオレたちを見下ろしていた。
「さっきまで俺が言ったことは忘れてもらって構わない。クソ真面目用の方便だ。俺が言いたかったことはそんなことじゃないからな」
生徒会長にあるまじき発言だが、教員たちは誰も止めない。
「この場所は、今お前たちが考えているような甘ったるい場所ではない。実力こそ全て、勝者こそが正義だ。実力が無ければ何もできない。お前たちも精々退学しないように頑張るんだな。俺からは以上だ」
生徒会長が壇上で礼をするが、拍手をした者は1人もいなかった。
生徒会長から激励?の言葉を受け、入学式は終わった。
「在校生諸君は教室へと戻ってください。新入生諸君も自分のクラスへと移動して下さい」
生徒たちが移動を開始する。
オレたち新入生も教員の指示に従い移動を始めた。
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