プロローグ 私と友達になってよ
「ねぇ。私と友達になってよ」
休み時間。
オレは自分の机に突っ伏していた。
窓から入ってくる春風が髪を靡かせ、それが少し心地いい。
隣の席から悪魔のような女の聞き飽きた声が聞こえてくるが、軽く無視する。
今オレは、睡眠から目覚めたばかりで意識が覚醒していない。
「ねぇ。聞いてるんでしょ九条くん。
このまま寝たふりを続けていれば、いずれ諦めてくれるだろう。そうすればオレはさっきの夢の続きを見ることができる。
そんなオレの淡い願いは一瞬で消し飛ぶことになる。
「返事しないとほっぺにチューしちゃうぞ?」
「何の用だよ。
一瞬で意識が覚醒し返事を余儀なくされる。
気持ちよくうたた寝していたオレを見下ろすのは、隣の席の少女の
「ほら、やっぱり起きてた。っていうか、チューされるのが嫌で起きるってどういうこと?そんなに私にキスされるのが嫌なの?」
「そういうのは冗談でするんじゃなくて、本気で好きになった人にした方がいいって思ってるだけだ」
突っ伏していた身体を起こす。
「…………あれ?どうしたの九条くん。泣いてるの?」
白銀に指摘されて自分の頬を触ってみると、微かに濡れていた。
「さっき見てた夢の影響かもな。ちょっと昔の夢を見てさ」
「悲しい夢だったの?」
「あぁ…………きっと悲しい夢だ」
オレは服の袖で涙を拭って席を立とうとする。
「ちょっとトイレ行ってくる」
「うん…………って、ちょっと待ってよ!私の話、終わってないよ⁉︎」
思いっきり服を掴まれ力づくで椅子に座らされる。あわよくば話を逸らして本題が始まる前に逃げようと思っていたオレの作戦は、あと一歩のところで失敗した。
「私の友達になってほしいって話、終わってないよ」
白銀がジッとオレの目を見つめてくる。
「その話は何度も断ってるだろ。オレには無理だって」
「それは私じゃなくて九条くんの考えでしょ。私は九条くんとなら友達になれると思うからお願いするんだよ」
こんな調子でいくら断っても諦める様子がない。
「それにね、私はどうせ友達になるんなら優秀な人がいいの」
「それで何でオレになるんだ。他にも優秀そうなやつはたくさんいるだろ」
このクラス一つとってもオレより優秀なやつは他にいる。
「そうだね。たしかにきみは優秀ってわけじゃないよ。他にもっといい人がいるのかもしれない。けどね、優秀なだけの人はこれまでもたくさん見てきたけど、私が興味を持ったのはそんなところじゃないんだよ」
オレの心臓を指差す白銀。
「私はきみに、きみという人間に興味があるんだよ」
オレに興味があるか。なかなか面白いことを言ってくれる。
「なんでオレなんかに興味があるんだ」
「1か月前の私たちが出会ったあの出来事だよ。私はきみに興味が湧いた」
あの出来事が原因か。
「面倒だな。オレは見捨てとけばよかったと後悔してる」
「酷いこと言ってくれるね。私は助けてくれて結構嬉しかったのに」
別に善意で助けたわけじゃない。
仕方なかったんだ。
「とにかく、今日からきみは私と友達ね」
まったく、どうしてこんなことになったんだか。
嫌でも思い返してしまう。
この少女と出会ったのは1か月前。入学式の日のことだったか………。
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