第22話 召喚①
僕は商店街に向かって走っていた。
何度か転びそうになりつつも、最短ルートで向かう。
靴を履いていなくて、靴下のままだから小石がたまに刺さって痛い。
だけど、その痛さも恐怖がかき消す。
目の前に工事中の看板が立っていて、道を塞いでいた。
「迂回?!うそでしょ!!」
この先は工事中で突っ切れないらしい。無理矢理突っ切ったところで、
出られるかも分からないし…
「もぉぉ!なんでこんな時に!」
僕は意を決して道を戻った。僕のアパートの下に蠢くものがいる。
(アイツだ!)
すぐ近くの筋道を左に曲がる。ここの道は使ったことがない。
方向的には間違ってないけど、商店街まで続いているか分からない。
でも、とにかく賭けて進むしかない。
(お願い!行き止まりじゃありませんように!!)
心の中で祈りながら走り続ける。膝がガクガクして何度も転びそうになる。
でも、アイツに掴まったらお終いだって分かる。
だから、とにかく必死に走り続けた。
肺が痛くて、喉がヒューヒューいっているし、心臓がバクバクいって爆発しそうだ。
恐怖によるものなのか止まれずに走っていることによるものなのか
たった数分なのに、何時間にも感じる。
僕は、数分前のことを思い返していた。
「―これでよし」
ロフトの押し入れから、手鏡で望んだ角度の場所が見れることを確認した。
この調節が一番大変だった。あとは人形。
人形の綿と機械を取り出して中に生米と僕自身の爪、髪の毛を詰めていく。
そしてお札。
このお札は、ネットで転がってたやつ。術の成功率を上げるらしいんだ。
不思議なのは、全然関係ないスレに投稿されてたってこと。
『ひとりかくれんぼをする時にこれ使うといいよ』
ってURLが貼られていた。そこのページ飛ぶと、成功率が上がるって説明が書いてあった。お札の表面を見ても何が書いてあるのかサッパリだ。
だけど、少しでもその可能性が上がるなら試してみたい。
あとは、テレビを砂嵐にして鬼にする人形をお風呂にセットする。
そして僕は塩水を含んで押し入れに隠れて待つだけだ。
時刻は19時を過ぎたところ。外からの光が入ってこないように、しっかりとカーテンを引いた。
2000年代に一次ひとりかくれんぼブームがあった。
それはネット掲示板の世界だけでは終わらず、芸能界も巻き込んだ。
心霊ネタをウリにする芸能人やお笑い芸人なども参戦して動画サイトに動画を撮ってアップしたのだ。
世間がひとしきり盛り上がったあとに、終息した。で、最近また密かにブームになりつつある。僕と同じく当時リアルタイムではなかった世代だ。
前回も今回も誰が始めたんだろうか?
それで、この手のモノが好きな僕はつい出来心で試してみたくなったんだ。
まさかあんな事になるなんて、その時の僕は全然思ってもなかった。
「あ。そうだ。報告しなくちゃ」
立てたスレを開いて、これから始める旨を書き込んだ。すると、ちょっと経ってから一気に書き込みが流れ始める。
30.ななし
おいおいイッチが始めるらしいぞ
31.ななし
おぉ!ついに!!
40.ななし
今度こそ激写うぷする猛者が現れるのか!!
45.1
とりあえず、これから人形を鬼にしてくる。
49.ななし
おー。隠れたらまた教えてくれ
僕はちょっとドキドキしながらお風呂場に人形を持って移動した。
人形はファーブを使うことにした。
理由は二足歩行しないタイプの人形だから跳ねて移動するのかなー?という素朴な疑問から。
いや、かすかな二足歩行は可能かな?お腹を切り裂く時、ちょっと罪悪感があったけど…ごめんね。
ひとりかくれんぼする実況スレはあちこちで立っていて、僕もその1人だった。
まずは最初に僕が鬼になる。それを人形に宣言するんだ。
「最初の鬼は僕だから。最初の鬼は僕だから。最初の鬼は僕だから」
そして、部屋の中を探し回るふりをしてお風呂に戻る。
「ムサシみつけた」
本来はここで、そう言った後に人形のお腹を刺す。僕はさすがに気が引けてそれはしなかった。自分でやっておいてなんだけど、刺す工程は省いたけどさすがにゾッとする禍々しい遊びだなと思った。
さて。次は人形が鬼の番だ。
「次はムサシの鬼、次はムサシの鬼、次はムサシの鬼!」
名前を付けたファーブにそう言いおいて、バスタブに沈めた。お風呂上りで、そのまま使っちゃえと思ったんだ。扉を閉めて、ササッと部屋に戻って押し入れに入った。
さて。ここから長丁場になるぞと気合を入れた。ほとんどの実況者は、分かりやすい怪奇現象が起きるまで1時間くらいかかっていたからだ。
この遊びは2時間を目途に必ず止めなくてはいけない。
その間に起こることはラップ音だとか足音だとか。
1~2時間何もせずに隠れているから、精神的にも体感時間が長い。
あとは恐怖から何でも心霊現象に感じてしまうというのもあるのかも。
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