第21話 閑話休題 心霊クイズ
「高木さん、編集した番組がお蔵入りになったことあります?」
「そりゃあるよ」
「それって、オカルト絡みで?」
「あるねぇ」
「どんなのがあったんだ?」
にゅっと視線の先にチビ先が顔を突っ込んでた。邪魔。
今日も今日とて腹減り貧乏学生が集う佐々木さんのお店である。
「うーん…あぁ。あれは面白かったな。
今も似たような企画の番組があるけど、霊感のある芸人が各心霊スポットでクイズをやるっての」
「あぁ。ありますね。今も昔も企画として成立しやすいのかな」
「あれは、実際に映るスポットもあって興味深いな。出演していて気づいてない奴らもいるが」
「あーいうのって、能力によって視える限度とかあるんすかね」
「あぁ。あるみたいだよ」
「「へぇー」」
「さっき言ってたお蔵入りってのはどんな?」
「あぁ。各スポットで“心霊クイズ”を出すんだよ。で、回答者がそれに答えるんだが…」
スポットで簡易の回答席にいる回答者がフリップにそれぞれお題の答えを書いて回答するんだが、とある廃校での質問が―
「さて、問題です。あの正面の校舎3階の左から2番目の窓に立っている人はどんな人でしょうか?さぁ!お答えをどうぞ!」
全員が答えを書いてフリップをカメラに向けた。
『オカッパで白いブラウスを着た女の子』
書き方はそれぞれだったが、見事に全員一致していた。
「では、次の問題です!あの木から覗いている人は何名いるでしょうか?さぁ!お答えをどうぞ!」
『7名』
これも全員一致。ここまでは軽いジャブだった。
次は、トンネル。ここは目撃情報も多く、肝試しに来た人たちの気分が悪くなったり、声が聞こえたり、車がエンスト起こしたり、足が引っ張られたりなどの現象が多々あるスポットらしい。
そこでの問題は、司会役の芸人がそのトンネルに入っていき、戻ってきたところで出された。
「さて。問題です。いま、私に憑りついている霊は何体でしょう?」
ここで初めて答えが分かれた。少なくて5体、最大で12体。
心霊番組で表に立って出演している霊能者っているだろう?
このクイズはその人の回答が答えになる。
そして、なにかあったら対処もしてもらう。
その霊能者の答えは「20体」だった。
回答者の芸人がウソをついているわけではなくて、これが能力の差なのだろうね。
実は、画面には絶対に出てこない霊能者っていうのがいるんだ。
収録にも同行しているが、存在は表には出てこない。全ての番組にいるわけではないけどね。
出演している霊能者はニセというわけではないが、その人よりも能力が高い…というのかな?表の霊能者が手に負えないものを請け負う側だ。むろん、お値段も張る。彼らはタレント業はせず、それだけを仕事として請けている。
その収録にそんな霊能者がいたんだよ。俺はその人と知り合いでね。
その収録テープを編集中、異変が起きた。
編集が終わった部分に不具合が出たり、室内の明かりが突然落ちた。
最悪なのは機材トラブルだ。編集した部分のデータがとんだりした。
ある時なんか、8つある並んでいるモニターにスーッと白いものが通り過ぎていったりしたよ。
電源が落ちているのに。
なかなか作業が進まなくて焦りとイライラが募っていたんだが、そこにその同行していた知り合いの霊能者から連絡が入った。
「お前、いまやばいの編集してないか?」
と、まぁ開口一番これだ。今自分がやっている編集の話をしたら、
「あぁ。あれか。それ俺が関わってたやつだわ。今すぐ店に来れるか?できれば仕事を中断してすぐにだ」
できればと言っているが、これは【絶対】だ。
長い付き合いからそれを知っていたから、すぐに飛んでったよ。
「あ~…完全に影響受けてるわ」
俺を見るなりそいつはそう言った。どうやら、編集テープによくない念が入り込んでてそれが色々やらかしているようだった。
収録が終わったその場で一度、お祓いをするらしいが、人間を中心に祓って、テープを隅々まで完璧にってほどにはしなかったらしい。
で、何やらやって祓ってくれたんだが、その時に初めて目視できたよ。
自分から出ていく真っ黒い煙を。いやぁ~あれは圧巻だったな。
奴いわく、エネルギー…念みたいなもんらしいが。
その時に撮影の裏話をちょっと教えてもらったんだが最後のトンネルのやつはなかなかヤバい代物だったらしい。
出演霊能者が視えた数は20体だったが、実際は26体。
一瞬トンネル内に入って、すぐ出てきただけで憑いてきたんだが、それには別の要因が重なっていたようだよ。
そのトンネルのわきに流れる側溝があるんだが、そこは元々小川だったらしくてね。それが工事により整備というか、排水路とされたようなんだ。
ほとんど手入れがされていなくて淀んでいるんだが、その奥底に幽霊とは違う良くないものが潜んでいて、トンネルに入る前にその側溝のすぐそばを通ったためにそれの念が張り付き、その念に吸い寄せられるように浮遊していたものがわっと寄って憑いてきたというわけだ。
幽霊ではない良くないものとは?と聞くと、この世界には人間の霊とはまた違うある程度の意思を持った存在がいるらしんだよ。物の怪の一部らしいが。
人間の理から外れた存在であるから、祓うという対象とも違うらしい。
【そこに存在するもの】であって、やたらめったら祓うという事はしないらしいんだがな。当然生き物でもないしな。
人間にとって都合の悪いものであって、彼らは彼らの理の中で息づいているわけだ。理が違うとは言っても同じ世界で存在し合うから、影響を受けるらしいんだな。
で、その存在の念が司会者の芸人に纏わりつき、その念が核となって幽霊が一斉に引き寄せられ、収録したテープにも影響を与えたと。いま考えても、不思議な話だと思うよ。
そのあと、問題のテープをなんとか編集して納品したんだが残念ながらそれが放送されることはなかったよ。
どうやら、テレビ局内でひと悶着あったようなんだな。霊がらみではなかったらしいが、お蔵入り。
知り合いの霊能者が言うには
「放送しちゃならんものは出来ないようになるんだよなぁ」
と言っていた。そこにもなんらかの理というものが存在するんだなと思ったよ。
「へー…そんな事あるんすねぇ」
「なるほど…幽霊ではない類か。神でもない。物の怪みたいなものか?」
「どうだろうね。なにかしらの想念とかなのかな。付喪神もその類かなと個人的には考えているが」
「高木さん、他にも色々ネタ持ってそうですね」
「そうだねぇ…それなりにはあるかな?」
「是非とも聞かせて欲しい!!」
チビ先が鼻息荒く高木さんに詰め寄っている。この人って、なんか色々と残念だよな。
「おひめしゃま~!」
ピンクのハートが飛び交っている甘い声が聞こえてきた。チッと隣で小さく舌打ちが聞こえる。
「邪魔が入ったな」
チビ先あんたって奴は…ホント残念だな!
「おひめしゃま何してるの?」
ぐいぐい俺を押しのけて拓也君が俺とチビ先の間に頭を突っ込んできた。
毎度のことながらほんの少しだけ傷つく。
「僕はお姫様じゃないぞ?まったく」
ぶつくさ言いながらも拓也君のためにスペースをあけてあげている。
「今日はこれにて仕舞いかな?」
高木さんが笑いながら言った。
「そうだな。残念だが…また聞かせてくれ。今日もありがとう」
「うん。色々記憶を掘り起こしてみるよ。じゃあ、俺はいくよ」
俺たちの伝票も併せて持ってレジに向かう高木さんの後ろ姿に合掌をした。
なんて、尊いお方であるか。
「俺も、あんな大人になる」
「守銭奴のお前がか?」
チビ先が鼻で笑ってそう言いあそばしたので、思いっきり鼻を捻りあげてやった。
「おひめしゃまいじめたら、ダメでしょーーー!!」
チビ先が泣きながら鼻を押さえてテーブルに突っ伏しているのを見て拓也くんから指導が入った。俺としたことが、よりにもよって拓也君の目の前で…これは説教が長くなるぞ。
「ん?」
ハクからものすごい焦った気配がした。
ハクを見ると、泣きそうな顔で1年のメガネ後輩に連絡をしろと言っている。
「どうした、ハク?今すぐにか?」
うんうんと頭がもげそうなくらい激しくうなずいている。
「あ、あぁ。分かった。なんか不味いことになったみたいだな」
「どうひた?」
いまだ涙を流しながらもチビ先が聞いてきた。
「例の増幅器君に今すぐ連絡を取れってハクが。ちょっと電話してみます」
ハクの焦りが俺に伝わり、嫌な胸騒ぎがする。彼の連絡先を呼び出して電話をかけた。
「…切られた」
「切られた?」
「はい。なんか、ヤバい状況なのかも」
「電車だとか、図書室だとか出られない状況とかなのかもしれんぞ」
「そうかもしれないですが、ハクの様子だと何かしらの問題が起きてるんじゃないかと…」
チビ先が顎に手を当てて唸りながら考え込んだ。いつの間にか拓也君も神妙な顔つきになっている。拓也君、チビ先の真似してるけど両こぶし当ててる。
なんか違うぞ!それ!和むけどな!
拓也君見てたら少し肩の力が抜けた。
「とりあえず、電話かけ続けてみます」
「では、俺は琉球女子にかけてみよう」
「お、おう」
俺たちはそれぞれに電話をかけ始めた。
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