メガネ君のちょっと怪奇な日常譚

第23話 召喚②

　80．１

　今、押し入れの中

　81．ななし

　キタキタキタキターーーーー！！！！！

　82．ななし

　ちゃんと塩水はふくんだか？

　90．１

　＞82

　大丈夫。でもちょっとつらい…しょっぱい

　この辺りは、実際にやる人によってちょっと変わっていた。

　含みながら待つやり方と、押し入れを出る時に含む方法と。

　僕は、念のために含んで待つことにした。そんなに長くやるつもりもなかったからだ。

　スレが盛り上がるのを眺めて５分くらいたった頃だろうか。

　ガチャッ

　お風呂の扉が開いた音がした。思わず、体が跳ねてしまった。

　びちゃっ…

　びちゃびちゃ　びちゃっ

　びちゃっびちゃびちゃっ　びちゃ

　びちゃっびちゃびちゃっ　びちゃ

（えっ…？）

　きぃぃぃー

　部屋への仕切り扉が開いた時に鳴る独特の音がした。こ、怖い。

　心臓がバクバク音を立てる。

　びちゃっ　びちゃびちゃっ　びちゃ

（えっ？えっ？！複数？！複数いるの？？？）

　複数の足音が部屋に入ってくる。

　120．1

　え…複数のあしおとがきこえるんだけど

　125.ななし

　きたーーーーーーーーーーーーーーー！！！

　126.ななし

　うおぉぉぉおおおおお！！！

　130．ななし

　は？

　131．ななし

　は？

　133．ななし

　は？？？？

　135．ななし

　1、複数の人形を使ったのか？

　138．1

　＞135

　いや1体だけ　ふぁーぶ使った

　139.ななし

　ファーブ？

　じゃんぷしてんのか？

　145.1

　かくにんしてみる

　僕はあらかじめ部屋にセットしておいた鏡との角度が合うように手鏡をのぞき込んだ。

（…え？なにあれ）

　そこに小さく映っていたのはファーブとは似ても似つかぬものだった。

（くも…？いや、なんか様子が違う）

　部屋の中に入ってきたものは、しばし立ち止まっている。驚いた僕はまたスレに書き込んだ。

　180.1

　なんかよく分からないものがいる。ふぁーぶじゃない！

　そんな話きいてない！！

　185.ななし

　1、ファーブ人形じゃないんか？

　なにがきてるんだ？

　190.1

　＞185

　わからない。蜘蛛みたいに見える

　195.ななし

　はいはい。うそ松

　197.ななし

　お憑かれさん

　200.1

　もう一回かくにんしてみる

　僕は、もっとよく確認してみようと手鏡をのぞいた。そいつは、テレビの前に移動して

　キキキキキキ！

　と声を出した。黒板とかを爪とかで引っ搔くような甲高い

　不快な音を生物的にした感じ。背中がぞわぞわした。

（テレビ見てるのかな？なんだ、あれ）

　テレビの明かりに照らされて、そいつの全貌が見えた。最初、蜘蛛と思ってしまった理由が分かった。そいつは、四足歩行で手足？が長く、蜘蛛のように途中で折れている。

（で、でかい…）

　手足の高さは大体145～150㎝くらいで、幅は190～2ｍほど。顔は低い位置にある。僕の部屋は典型的なワンルームだから、そんなデカイものがいると家具もあるから余裕がなくなってしまう。

　そして、なによりも…

（顔が逆さま？！）

　だまし絵のように、顔が180度回転して逆についている。動揺して手鏡を落としそうになった。恐怖から体が震えているのが分かる。

（なんであんな奴がきてるんだよ！！人形に乗り移るんじゃないの？！）

　人形に降霊させる事で、その人形が動く。それが、ひとりかくれんぼと言われているものだった。想像外のものが来てしまって、僕はパニックになった。

　怖い！こわいこわいこわいこわい！！

　震える指で、スレに書き込んだ。今、僕は完全に孤独じゃないって事に少しだけ救われていた。