第19話 閑話休題 ホテルの女

先週さ、彼とラブホに行ったのよ。

入った時に、なんとなく居心地悪く思ったんだけど

まぁ、だからといって出るとか考えないじゃない?

イチャイチャしてお風呂に入って、んでまぁ、いたしたわけ。


終わってゴロゴロしながら話してたら眠くなっちゃって、2人ともいつの間にか

眠っちゃってたの。

どのくらい寝てたのか分からないけど、ふと目が覚めたのよ。


ベッドの布団の上でそのまま寝ちゃってたから

寒くて目が覚めたのかなぁ?って思った。


彼に、布団に入るように言って、喉が渇いたから水でも飲もうかなって思って、

冷蔵庫の所に移動したのね。

そしたらさ、お風呂からシャワーの音が聞こえたの。


え?止めてなかった?!


って思って慌てて見に行ったら、出てないの。

なんなの?って思いながら部屋に戻ったわけ。


なんかやたらと部屋が冷えてるなぁって思って

エアコンの温度あげて、水飲んで、ベッドに入って寝ようと思ったらさ、




ドンドンドンドン!!!!!




って玄関の方からすっごい音が聞こえたのよ。びっくりして飛び上がっちゃった。

彼も飛び起きるくらい、大きい音だったの。


彼とおそるおそる扉のところに行ってさ。

様子伺ったんだけど、外に人のいる気配もないの。

一応、扉を開けて外を確認したけど、やっぱり人がいなくてさ。


もしかして、酔っ払いが部屋でも間違ったのかな?

とかって無理矢理納得して、もどったのね。

また寝ようとしたら




ドンドンドンドン!!!!




ってまた叩かれたの。

目も覚めちゃったし、さすがに不気味になってフロントに電話したのよ。

今すぐ行きますって言われて、待っててさ。


しばらくしてコンコンって聞こえたから、扉を開けに行ったのね。

開けたら、誰もいないの。


意味が分からなくて、気のせいだったのかな?

って思って、閉めようとしたのね。


そしたら、外からガッ!て両手で扉を掴まれたの。ノブじゃなくて、扉の方。

こちら側に指を入れた形で、ガッて。


次の瞬間、女の人が空いた隙間から、目から上だけで覗いたのよ。

恐怖で凍り付いてたら、次の瞬間に女の人が引っ込んで

外から思いっきり閉められたの。


私、外を確認する時に、顔を覗かせて

扉の…なんていうの?ヘリ?に手をかけてたのね。

で、顔を引っ込めたところだったの。

その状態だったから、思いっきり指を扉で挟まれてさぁ。

痛いやら怖いやらで大泣き。


驚いた彼が飛んできて、話聞いて外を確認しようとしたから

泣いて止めて、もう一回フロントに電話しようって言ったの。


彼がまた電話かけて、催促したらさ、フロントの人がさ


「初めてお電話受けましたけど」


って言うの。それからホテルの人が来るまで2人で震えてた。


次にノックが聞こえた時、用心しながら扉越しに声をかけて

ホテルの人だって確認してから開けた。

ちゃんとした人間だって分かってホッとしたよ。


ホテルの人に事情説明して、私の指も見せて、

他の部屋に変える提案もしてもらったけど、

もうそのホテルにいたくなくて、帰ることにしたの。

お代は結構です、って言われたわ。


女の人と対峙したことも、ドアで挟まれたことも怖かったけど、

後で落ち着いて考えたら、あの女の人の覗いた角度が

縦の扉に対して横に平行した角度だったって事に気づいた時が一番怖かった。




生きてる人間じゃありえない角度なんだもん。






ギュッと服の裾を握られ、隣を見るとチビ先が俺の服の裾を握っていた。

心なしか目が潤んでいて顔が青い。


そんなに怖いなら聞くなよ。


俺の同級生が先日体験した霊体験話を一緒に聞いていた。

前に一度、チビ先と一緒にいる時に他の人から霊体験話を聞いたんだが、

その時のチビ先の様子が密やかに広まって、それ以来、時々こんな風に体験話を聞かせに人がやってくるようになった。


なんでも、絶世の美人が怯える姿が萌えるんだそう。

俺には全く理解ができない。


その頃、他のテーブルにいた女どもがこっちの様子を見て、

盛り上がってるなんぞ知らなかった。


俺の服の裾を握っているチビ先と、握られてそのままにしている

俺とのセットが密やかに人気になってるなんて…。


「先輩、そんな怖がりなのになんでオカルトが好きなんスか」


「別に怖がっているわけではないぞ」



嘘つけよ。まだ顔が青いぞ。


この人はオカルトマニアで、興味をそそられる怪異を目にすると

トリップするほどなのに、話を聞くと怖がるんだ。


意味が分からん。


悔しそうに、こちらを見上げているチビ先を見て顔面にチョップをかました。

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