第18話 後編

「えー!そんなオイシイ事があったわけ~?!」


グギギギギ…と歯ぎしりをしてまやちゃんが悔しがった。

次の日に、昨日のゼミ室であった事を報告したんだ。


「まーやーはイケメンが好きだからな。

それにしても、結局首謀者は分からずじまいって訳かぁ。なんか気持ち悪いな」


「うん。スッキリしないよね。」


あのあと、深井さんが目を覚ましてから色々聞いてみたんだけど、

学内で突然見知らぬ男に話しかけられたそうなんだ。

背が高くて、パーカーのフードを深くかぶってて下から見上げているのに、

顔がよく見えなかったそうなんだ。

設楽先輩いわく、なにかしらの幻惑じゃないかとの事だった。


もう僕は、このオカルトの世界はなんでもありなんだと割り切って向き合うことにした。チートすぎるんだよ。みんな。おかしいって。


普通なら、人を呪うことを教えるよって言われて

まともに取り合う人なんていないと思うけど、

深井さんは心の闇、その隙間を突かれたのじゃないかと。


そんな所に、術に長けた者が入り込み、

うまく誘導していったら…

よっぽど心が強い人間じゃない限り厳しいそうだ。


おそらく、その人物は何か目的があって深井さんのような人たちに誰かを呪うという行為をさせて回ったんじゃないかと設楽先輩が推測していた。


なにそれ怖いよ。

そんな事をさせてどうするつもりなのか、僕には全然見当がつかない。


そうそう。

嫌な事ばかり聞いたけど、ひとつだけハッピーな事があったんだ。

あゆみちゃんには新しい恋が訪れた。


元彼の友達なんだけど、実はあゆみちゃんに片思いをしていたらしい。

今回の元彼のゴタゴタを期に急接近したそうなんだ。

今は、その人に大切にしてもらってるらしい。


「あたし、人を大好きになる事は悪い事じゃないと思ってる。

でも、失った時に自分を見失うような、それも自分を振り返らずに一方的に相手憎しになるような恋はもうしたくないと思った。

それじゃ何も生まれないどころか、マイナスになるって分かったの。

今回はマイナスから学べたけど、こんな事はこりごり。


今はまだ、その行為に走った自分を許せてない。たぶんずっと許せないままだと思う。そう思えるようになったのも、彼のおかげなんだけど…」


えへへと照れくさそうに笑うあゆみちゃんを見て、きっともう彼女は大丈夫だなと思った。今の彼は、元彼の今後の態度次第では縁を切ると言っているそうだ。


それとね!


と、あゆみちゃんが嬉しそうに続けた。


「あたしさ、胸が大きいことが自慢だったの。形も自慢!

あいつもそれだけは手放しがたかったらしくて、後半はそれが見え見えでさ。


その時はそれで繋ぎ止められるならって思ってたんだけどね。

今考えると馬鹿みたいだけど。

当時は必死だったから…。


でも、精神的に参っちゃったストレスかな?

びっくりするくらい小さくなっちゃったの。


唯一っていうと大げさだけど、そのくらい自慢のパーツだったから

すごく落ち込んじゃった。

他に誇れるようなものなんかないって思い込んでて。


今の彼は、そんな事は全然気にしなくてさ。それすらも可愛いよって言ってくれるの。パーツとかじゃなくて、自分自身を誇れるようになるのがいいんだなって

思えるようになったよ!」


僕は顔が真っ赤になってしまった。

なんで男の僕にそんな事を赤裸々に語るのさ。


あゆみちゃんはそんな僕を見ていたずらっぽく笑って、

刺激が強かったのかな?って言うんだよ。


ひどいよ。


でも、幸せそうな顔を見てまぁいいかと思うことにした。

もしかして、あゆみちゃんの代償って…それ?


ともすれば、他人には馬鹿らしいと思ってしまうことだけど、

本人がそれに依存していたなら、その絶望は計り知れない。


深井さんは…しばらく休学することになった。

自分自身と妹さんの心のケアを優先にする事にしたそうだ。


あゆみちゃんと、深井さんの呪術スタート時期が

わずかにズレていた事で、僕らはニオイや気配によるサインに気づけなかった。


もう少し早く気づけていれば、彼女の傷は深くならなかったかもしれない。

そんな事は結果論で、今さらでしかないのだけど、そう思ってしまう。


人に殺意を向けて、実際に呪うという行為で成してしまったという事実は消えない。とても優しい人だから、その事実に打ちのめされてしまったんだ。


人を呪わば穴二つ。想像以上の覚悟がいるんだな。


「そういえば、なんで釜だったの?」


あの時に聞き損ねた事を悠理君に聞いた。


「家にあったから」


何名か脱落したか。

せっかく大きく膨らんだエネルギーが1つがあったのに、横からかすめ取られちゃったなぁ。まぁ、ある程度はたまったからよしとするかぁ。



クルルルル…



肩に乗ったイタチが顔に頭を擦り付けてきた。



「ん?どうした。お腹すいたか?今回はよく働いてくれたからな。

エネルギー切れだな」


頭を指でこすって撫でてあげると気持ちよさそうに目を細めた。


「帰るか。ここにはなかなか面白い人物が揃ってて

ワクワクするなぁ。また遊んでもらおうか」




クルルルルル…

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