第17話 中編(4)―②

少し落ち着いた深井さんがハンカチで涙を拭いている。

僕は展開の早さについていけず、ただただ傍観するのみだった。

深井さんに話しかけた目的は、呪いの事を聞き出すためで、

どうやって聞き出すかと頭を悩ませていたんだけど、

まさかこんな展開になるとは…。


「あの…」


おずおずと手を挙げて発言した。


「なんだ、平凡メガネの1回生」


「先輩、あんた彼にもそんな物言いしてるんスか?」


メガネ先輩が呆れたように言った。


「さっき、先輩が深井さんはこのままじゃまずいって言ってましたけどそれってどういう意味ですか?」


「おそらく、術は途中で失敗したんだろう。その失敗エネルギーは返ってきてないみたいだが、彼女自身が人を呪うことで変調をきたしている。

目に見えるものとしては、その頬だな」


イケメンの先輩が代わりに答えてくれた。深井さんは右頬に酷い湿疹ができていた。


「それ、薬を塗っても治らないだろう?」


「はい…痒くてかゆくて…。掻かないようにしているんだけど、

眠っている間に掻きむしってしまうみたいで。薬を塗っても、保湿をしても全然よくならなくて」


「だろうな。それはいわゆる代償だ」


「代償?」


「素人が呪いを成就するには、なにかしらの代償が付いて回る。

それと、どこかで行為自体に罪悪感があると、その心が負のそれに負けてしまうんだよ。ざっくり言うとね。

人を呪わば穴二つって言うだろう?」


あゆみちゃんも何かしらの代償を払ったんだろうか。


「実は先週、呪い返し?って言うんですか?それを友達が行いまして。

返ってきた呪いを閉じ込めちゃったんですよ。お釜に。」


「お釜」


「はい。お釜」


イケメンの先輩が笑い出した。


「発想がユニークだね。一度話してみたいな」


「伝えておきます!」


「それは、先日の女子か?」


美人先輩がそう聞いてきた。


「はい。瑞慶覧まやちゃんと、悠理君っていう双子の姉弟です」


「瑞慶覧?沖縄出身か。へぇ…」


イケメンの先輩が愉快そうにそう言うと


「俺は設楽。3回生で、ここのゼミに属しているよ。よろしくね」


自己紹介をしてくれたので、僕も慌ててした。


「少し落ち着いた?

まぁ。爪もガタガタね。いっぱい心に溜め込んだのね…」


マッチョな先輩が、深井さんの手を取って自分の手で包み込んだ。

深井さんは、堰を切ったように泣き出した。


「それにしても、胸くそ悪い話ね。女の子には優しくする主義の私には堪えがたいわ。彼の業は深いわねぇ…呪いなんか使わなくても、そのうち

同じようにされた女の子たちの念が向かいそうなタイプよね。

今は難しいと思うけど、妹さんはそんな男への思いをさっさと捨てて、幸せな恋をして欲しいわね。」


深井さんは泣きつかれたのか、マッチョ先輩の膝枕で寝ていた。


「モモとハクの癒し効果と、君の増幅効果が効いたかな?」


設楽先輩が僕を見てそう言った。


「え…分かるんですか?」


「分かるも何も、君の増幅機能はすごいからね」


残念ながら僕自身には全然実感がないのだけども、深井さんに良い効果が出てるならいいや。


「それにしても…また呪術か。なんだか引っかかるな」


「またって、他にもあったんですか?」


「あぁ。数ヶ月前に、彼が呪術に巻き込まれてね」


メガネ先輩が?!思わずメガネ先輩を見た。


「あ!先輩!それ俺のクッキーっすよ!

ハクにもあげるんだから全部食べないでくださいよ」


「うるさいな。普段、剛力と設楽からお菓子をもらってるじゃないか。

たまには先輩を立てて譲るべきだ」


美人先輩とクッキーの取り合いをしていた。っていうか、美人先輩の理論むちゃくちゃだよ。


「最近、大学内で体調崩している人多いみたいだしねぇ…。

大学の事務室方ではウィルス性の感染症か何かだと思ってるみたいだわ。

設楽が言ってたじゃない?呪術をやってる人が少なからずいるって。

それと関連してるのかしら?」


「俺はそうだと睨んでるよ。

中には本当の体調不良者や、あとは敏感な人間が当てられたってのもあるだろう」


そ、そんな事もあるんですね…。


「どうすればいいんですかね…僕らには何もできないんでしょうか」


「正直なところ、その中心が分からんからな。彼女の目が覚めたら聞いてみるさ」


中心…まやちゃん達も言ってたな。

呪いの儀式?をさせるのが目的なんじゃないかって。

同時期に色んな人が人を呪おう!なんて事、まずないもんな。

そもそも、そんな非科学的な事を信じてる人間なんて

大学生ともなればほとんどいないだろうし。

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