第13話 中編(1)

例の騒ぎから一週間くらいしてからのこと。

3限の講義で着席して始まるまでの間、なんとなく周りを見ていたら突然背中がぞくっとした。ついで、ある人物に目が引きつけられたんだ。


それは、僕がノートを貸していた子だった。

わけが分からないけど、とにかくぞくぞくが止まらなくて鳥肌が立った。

なんだかその子が怖い。怖くてたまらない。

他の人も、その子を遠巻きに見ている。


「うっわ…やば」


隣に座っていた女子がボソッと言った。


(なんか…臭い)


生臭いような、獣臭いような、なんともいえない臭いがしてきた。


「え?なにこの臭い。くっさ。ねぇ臭くない?」


隣の女子が話しかけてきた。


「うん。なんだろうね。このニオイ」


僕らの周りの人も臭いと言って、ざわざわとしてきた。

不思議なことに、他の席では異臭騒ぎは起きてないんだ。


(もしかして…)


僕はちらっと隣の女子を見て、思い切って話しかけてみた。


「さっき、ヤバいって言ってたけど、何かあったの?」


「え?いや…別に…」


気まずそうにモゴモゴと言葉をにごした。多分だけど、この子は受信機だ。

そして、この臭いは…多分、あの子だ。


(これって、まやちゃんが言ってた呪い系の術を使った人のニオイかな?)


隣の子が具合悪そうな顔色になってきた。実は僕も具合が悪くなってきてたんだ。


(この子から離れないと、お互い辛いだけかも…)


僕はトイレに行くふりをして、席をたった。

幸い、教科書とか出してなかったから鞄を持つだけで良かった。

一度、講義室の外に出て近くにあるベンチで教授が来るまで待った。



「エネ君、どうした!具合が悪そうだけど」


講義が終わって、学食で伸びてた僕にまやちゃんが話しかけてきた。


「まやちゃん…もしかしたら、呪いを行使した人がいるかもしれない」


「なにかあったわけ?」


僕は、さっきの講義室で起きたことを話した。


「あのSAWADAの子だよね?あぃえ~…どうにかして力になってあげたいけどねぇ」


「うん。あの子、穏やかな子で呪いとか無関係なタイプの子っぽいから、

よっぽどのことがあったのかなって…」


「メガネ君、どうしたば~?でーじ具合悪そうだけど」


悠理君が到着した。まやちゃんが悠理君に事情を説明してくれている。

僕は、なんだかまだ悪寒と気持ち悪さが抜けていなかった。


「なるほどなぁ。それで、メガネ君はダウンしてるわけか。

はいはい。よしよし」


悠理君が僕の頭を撫でてくれた。

段々と、呼吸が楽になって悪寒が消えて気持ち悪さもなくなってきた。


「悠理君なんかした?すっごい楽になってきた」


「ちょっとね。メガネ君の気を整えたわけよ」


「ありがとう。すごい!気持ち悪さとか全部消えたよ!」


僕はガバッと顔を上げて、悠理君にお礼を言った。

すごいんだ。さっきまでの具合の悪さが噓のように消えたんだよ。


「いえいえ。どういたしまして~。

別にSAWADAのプリンの恨みなんてないよ~。わー(俺)はお礼なんて求めてないよ~」


あ…悠理君の分、あげるの忘れちゃってた。


「ご…ごめん。今度買ってくるから!」


「うそうそ。冗談やさ!それにしても、その子気になるねぇ」


「うん…僕自身も、今後の講義に障るし…呪いを行使するまで何か思い詰めることがあったなら助けられることがあれば助けたいなと思う」


「だからよねぇ(そうだよね)」


「でも、どうやっていいか分からないんだよねぇ」


「悩んでることないかとか聞いてみるとか?」


「う~~ん…まずは、それでやってみるよ」

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