第3話 失せ物探し(3)

考え方によっては、俺も失せ物探しの代償ということになる。

いやでも、納得いかねぇ。


「これ、俺どうなるんですかねぇ…」


「さぁな。対価交換だから何に相当させるのかは呪術師次第なんじゃないか」


「命とか…?」


「それもありうる」


さすがにそれは勘弁ねがいたい。

まだやりたいことあるのに!彼女だって欲しい。

それに、こいつ(憑きモノ)だってショックを受けてる。


「ど…どうしたら」


「分からん。呪術師突き止めるか、呪い返しするかだな」


「んな簡単に言わないでくださいよ」


「設楽は来週までいないんだよな。

猶予がどのくらい残されているのか分からんからな…仕方がない。

剛力に頼むか」


「モモちゃん先輩に?どういう事ですか?」


「どういう訳か分からんが、あいつなら設楽を呼び出せるんだよ」


設楽先輩は休暇に入ると携帯の電源を落とす人で、明けまで捕まらないのだ。

携帯の意味がないような気がするが、設楽先輩ほど忙しければ休みの時くらい

喧騒から離れたくなるんだろう。

チビ先は深いため息をついて、自分のスマホをいじり始めた。


「剛力に連絡入れておいてやる。明日には設楽に連絡がつくだろう」


チビ先から後光がさして見える。


「ただし、顛末はしっかりと見せてもらうぞ。楽しみだな」


やっぱり、後光は気のせいだ。



「災難だったわねぇ。設楽に連絡ついた?」


次の日、設楽先輩のゼミ部屋に向かうと、そこにはモモちゃん先輩がいた。


「あら?ちぃちゃんは?」


ちぃちゃんとは、チビ先のことだ。


「先輩はお腹が痛いとか言って、逃げました」


「もう。あの子ったら相変わらずね!あとでお尻ぺんぺんだわ」


チビ先はモモちゃん先輩が苦手だ。

いつもどうにかして接触を最小限で済ませようとする。


「設楽先輩には無事、連絡が付きました。遅くに連絡しちゃってすみません…」


「いいのよー。

ちぃちゃんからあんな時間に連絡が来るってことは、

かなり緊急だっていうことは分かるから。

話はある程度説明してもらったわ。災難にもほどがあるわねぇ」


「ここまでくるとお手上げというか、どうしていいか分からなくて」


「そうねぇ。それはもう設楽の領分よ」


「設楽先輩に、午後ゼミ部屋に来るようにって言われてて…」


「設楽ならまだ来てないわ。珈琲淹れるからそれ飲んで待っててちょうだい」


「ありがとうございます。あ。先輩、アイポンのケース変えたんですか?」


「そうなのよー!可愛いでしょう?ワンちゃんなの!」


満面の笑みでアイポンのケースを見せるモモちゃん先輩は、可愛いものが好きだ。


「先輩に似合ってますね」


「やだー!そう?ありがと。豆挽いて出してあげる!」


「ありがとうございます。先輩の淹れる珈琲うまいんで嬉しいです」


「もう!キミってばホント、たらしよね!でも嬉しいわ。ありがとう」


「その顔で可愛いもの好きだとか、

メガネにおだてられて喜ぶとか相変わらず気持ち悪いな」


チビ先が失礼なことを言いながら部屋に入ってきた。


「あら!ちぃちゃん!いらっしゃい。

部屋に来るって珍しいわね。好奇心には勝てなかったのかしら?」


「いや、なんというか、あれだ。そう、好奇心に勝てなくてな。そのとおりだ」


ムッツリとした顔でそう言いながら、俺の隣に腰かけた。


「んふふ。そ。

大方わたしへのお礼とメガネ君が心配で結局きちゃったんでしょ。

相変わらず素直じゃないわねぇ。そういうのツンデレって言うのよ?」


「つんでれ…?なんだそれは。それに僕は好奇心で来たんだ!」


「はいはい。ちぃちゃんにも特製珈琲いれてあげるわね。

設楽まだ来てないから待ってて」


豆をドリップする馥郁たる香りが漂ってきた。

モモちゃん先輩の淹れる珈琲はお世辞抜きにうまい。

使っている道具は普通のものなのに、なにが違うんだろうか?


「はい。こっちはちぃちゃんの牛乳入り」


チビ先は、フレッシュが苦手で生乳じゃないとダメなのだ。

面倒くさいやつ。


「すまない。ありがとう。」


「いいのよ。そういうところ、素直で可愛くて好きよ」


「相変わらず恥ずかしい奴だな。

…ところで剛力、お前また上腕が太くなってないか?」


「モモって呼んでって言ってるでしょ! 分かる? 

ちょっとね、筋トレのメニュー変えたの!」


「その見てくれで可愛らしいもの好きとか、本当に面妖な男だな」


「好みってのはその人の見た目は関係ないだろう?モモはそこが魅力的なんだよ」


「あら! 設楽。おかえりなさい」


長身の色男が部屋に入ってきた。

この色男が設楽先輩。俺が何かとお世話になっている先輩だ。


「設楽先輩!お休みのところすみません…どうしたらよいか分からなくて」


「いいよ。大方の目的は済んでいたし。今回はあまりグズグズしてられないしな」


「ありがとうございます。さすがに猶予が分からないのは怖すぎて」


「うん。まずは、使役霊と化している奴との繋がりを切ろう。

お前の憑きモノも怯えてしまっているしな」


そうなんだ。

こいつも怖がってて、いつもはこの部屋にくるとご機嫌なのに今日は小さくなって俺の膝の上に鎮座している。


設楽先輩は、俺の首の後ろあたりを手で空を切るようなそぶりをした。


「ん。取り合えずはこれでよし。ただし、またすぐ辿ってくると思うから

時間稼ぎのためにも身代わりを作って誘導しておこう」


「どうするんですか?」


設楽先輩は鞄の中から人型に切った紙を取り出した。


「髪の毛を一本くれ」


俺は髪の毛を一本引っこ抜いて先輩に渡した。

先輩はそれをセロテープで人型の紙に貼り付けて、部屋の隅の机の上に置き、

その周りをぐるりと塩で囲った。


「ものすごい力業な結界だな」


チビ先が呆れたように言う。


「いいんだよ。どうせ時間稼ぎでしかないんだから。

使役霊にはかすかな痕跡を頼りに、しばらくぐるぐる迷ってもらうさ。

例え攻撃を仕掛けたとしても相手は身代わりだ。成功したと思って少しの間は油断するだろ」


「お前のやり方はいつも破天荒で見てて興味深いな」


「ちぃは本当にオカルトが好きだな」


「あぁ。理解不能なところに魅力を感じる」


チビ先は立派なオタクだ。


「さて、と。お次はどうするかな。

その女の子が犯人だと決まったわけじゃないから

その子に方向転換するのもね…ただ、犯人には自覚してほしいな。

人を呪うっていうことはどういうことかをね」


設楽先輩の目が細められ、ちょっと怖い。


その日の夜は何事もなくぐっすり寝れた。

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