第4話 失せ物探し(4)

その次の日のこと。

俺は2限のあと、学食に向かう途中で、例の依頼者の女子に声をかけられた。

どことなく顔色が悪い。


「あのさ…変なこと聞くようだけど、身の回りでおかしなこと起きてない?」


「変なことって?」


「んー…誰もいないのに物音がするとか、動物の死体をよく見かけるとか。

あと…視線を感じるとか。」


「いや。そういったことは起きてないよ」


「そう。ごめん。変なこと聞いたね」


「顔色悪いけど、そんなことが起きてるの?」


その子、遠藤静香ちゃんは少し悩んだあと、うなづいた。


「うん。最初は気のせいかなって思ったんだけど…

ふったとはいえ失恋したし、かなりショックだったし、ストレスかなって。

でも、あまりに続くからもしかして偶然じゃないのかなと思って…

それで…あの…」


「俺の噂きいた?」


「うん。なんか、そういったことにも慣れてるって」


「慣れてるのは俺じゃなくて、俺の先輩なんだけどね。

連絡してみるよ。ちょっと待って」


俺は設楽先輩にメッセを送って、

静香ちゃんをゼミ部屋に連れて行ってもいいかと確認した。


「今、ちょうど手が空いてるみたい。これから行ける?」


「大丈夫。5限までなにもない」


「じゃあ、行こうか」



2人でゼミ部屋に向かって歩いていると


「ほら!やっぱり!!あんた達、グルだったんじゃない!」


後ろからヒステリックな声が聞こえて振り向いたら、例の女がいた。


「依頼が終わったのに一緒にいるなんておかしいじゃない!」


いつものド派手な姿は変わらないが、頬がげっそりしてやつれている。


「あんたに関係ないでしょ!

そもそも、他に付き合ってる人がいるって分かってたのに

付き合う神経が理解できないわよ!

フラれたのは私のせいじゃないわ。あんた自身のせいでしょ」


おぉっと。

キャットファイトが始まった。

女同士の言い合いは苦手だ。キンキン声が耳障りだ。


「うるさい!彼は私の方が好きだって言ってたもの!


「じゃあ、なんでフラれてんのよ」


「それは、その男が変な術でも使ったからでしょ!!!」


えぇぇぇぇ。

なにこの剛腕展開。


「いやいやいや。やってないし。そもそも俺、そんなことできないし」


「じゃなきゃ、フラれるはずないわよ!こんなまな板女に負けるなんて許せない!」


「ひどっ…!まな板じゃないわよ!…少しはあるわよ」


あ。ささやかさんですね。

大丈夫。女は胸の大きさじゃないよ!知らんけど。

ちなみに、ド派手女はぷりんぷりんだ。

男が目移りしたのも、まぁ…わかる。


女はフンッと鼻を鳴らして


「でもそのうち彼は戻ってくるから。これ以上邪魔しないでよ!」


言いたいことを言ってスッキリしたのか、女は踵を返して去っていった。

ちょっと情緒不安定なんだろうか。取り合えず、怖い。剛腕ぶりが。

涙目の静香ちゃんを促してゼミ部屋に向かう。


「あらあらあら。どうしたの?可愛い顔が台無しよ?」


モモちゃん先輩が静香ちゃんの頭をナデナデしている。

パーソナルゾーンに侵入するのがうまい。

そして、彼がやると女の子もセクハラに感じない。不思議だ…。


「どうした?もしかして例の女の子と接触したか?紐がついてるな」


設楽先輩が俺をみてそう言った。


「紐って…」


思わず首の後ろに手をやる。


「ビンゴだな。依頼者はその子だ。同じ気配がする。

大方、呪術師がその子の何か一部を使ったんだろう」


さすがです。先輩。


「え?呪術師って?もしかして、私の状況にも関係ある?」


静香ちゃんが聞いてきた。


「設楽先輩、どうやら遠藤さん…あ、この子が前回の依頼者の遠藤静香さんです。

遠藤さんもここ最近、身の回りで妙なことが起きてるらしいんです」


「うん…同じ気配の紐がついてるね。同じ呪術師の仕業だろう」


「遠藤さん、この人が俺の先輩、設楽さん。

オカルトごとに慣れてるってのは、この人のこと」


「そうなんだ…」


静香ちゃん、目がハートになってるよ。

設楽先輩カッコイイもんな。うん。分かるよ…うん…。

さっきまで失恋で暗い顔してたのに、女の子はたくましいな。


「さっき、例の女に遭遇したんですけど、その時に

そのうち彼は戻ってくるって言ってたんです。予想通りかもしれません」


「十中八九、そうだろうな」


「遠藤さん。設楽先輩に依頼する?その場合は依頼料が発生するけど」


「依頼料…?お願いするんだからそうだよね…高いのかな?」


「静香ちゃん、いい子ね。きちんと道理を分かってるわ。

設楽、安くしてあげてよ」


モモちゃん先輩が静香ちゃんの頭を撫でながら設楽先輩にお願いする。


「もとよりそのつもりだよ。その代わり…」


設楽先輩が俺の顔をみてにっこり笑った。


「ワカッテマス。俺が頑張ればいいんでしょ」


敬愛する設楽先輩はそこんとこ、シビアだ。

体で払う。文字通り、体でだ。


「よし。交渉は済んだな」

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