13.小さい方が好き
備蓄倉庫に食べられる食料が残っていたことを確認した時点で、すでに空は茜色に染まりかけてきていた。
かつてのように、どこもかしこも街灯に照らされていた頃ならばまだしも、今の時代の夜は本当に真っ暗だ。
太陽が沈めば、まともに移動もできなくなる。
昨夜の時点でそれを把握していた私は、リュックの中に食料を詰め込めるだけ詰め込んだ後、いそいそと川を目指した。
学校の近くに川が流れていたのは幸運だった。
リュックの中に食料を詰め込んだと言っても、まだ備蓄倉庫には結構な数の缶詰が残っている。
水と食料が近くにあるのなら移動の手間が省けるし、活動の拠点にもしやすい。
今後しばらくはこの辺りを中心に活動していくこととなるだろう。
「ふはぁ……」
夜空の下、全身を包み込むポカポカとした湯の温もりに、私は気の抜けた息を漏らした。
ぽうっと顔も赤くして、湯船の中に肩まで浸かり、体を弛緩させる。
空を見上げてみると、湧き立った湯気が薄暗闇の中に溶けていった。
「マスター、お湯加減はいかがですか?」
――ドラム缶風呂。
川にたどりついてからも、完全に日が暮れるまではまだ少し時間があった。
その余った時間で適当にふらついていたら、寂れた廃屋の庭でドラム缶を発見し、ふと思いついて作ってみたのだ。
火加減を調整してくれているエンに、私はドラム缶から顔を出して、にへらっと笑顔を向けた。
「うへへ、すごくちょうどいいよー。ありがとねぇ、エン」
「どういたしましてです」
ドラム缶風呂の構造は、至って簡単だ。
台となるブロックを並べ、その上にドラム缶を置き、水を入れる。ブロックの隙間に藁や薪などを入れたら着火して、ドラム缶を火で炙る。
そして湯が湧いたら、足場となるすのこをドラム缶の中に入れて、完成だ。
材料を集めてくることも、この崩壊した世界ではそう難しいことではない。
ドラム缶は先の通り寂れた廃屋の庭に放置されていたものを拝借し、台となるブロックは川辺近くに工事現場があったので、そこからいくつか持ってきた。
すのこについては適当な廃屋の机やタンスの木の板をエンにちぎってもらい、切断面を布で何重かに包んで補強したりして、それっぽく自作した。
日が暮れるまでに出来上がらなかったら潔く諦めるつもりだったのだが、それを聞いたエンがむしろ張り切って凄まじいスピードで作業してくれたため、無事完成までこぎつけることができたのだった。
完成後、フンスフンスと褒めてほしそうに私を見上げてくるエンは、実に可愛らしかったことをここに記しておく。
「エン、お風呂作るのほとんど任せちゃってごめんね。大変だったでしょ?」
「あの程度であればエネルギーの消耗量はそれほどのものではありません。必要ならばいつでもお命じください」
「あはは、頼もしいなぁエンは」
ぶっちゃけ私は作り方を簡単に説明したくらいで、後は横で見てただけだ。
最初こそエンにばかり任せるのもダメだろうと思って、頑張って手伝おうともしたのだが……作業が始まって早々に「マスターは見ているだけで大丈夫です」と言外に戦力外通告を受けてしまったのが実情だった。
エンにしては珍しく有無を言わせない強い語気だったことから察するに、きっと相当危なっかしかったんだろう……。
本当に、エンには頭が上がらない。
「はぁー……気持ちいいー……」
ドラム缶の縁に頭を預けて、目一杯くつろぐ。
昨日はお風呂に入るなんて贅沢はできなかったので、二日ぶりの湯が体に染みるようだった。
私が動きを止めると、揺らぎがなくなった水面に、反射した月が浮かび出す。
なんとなく、すくうように両手で包み込んで、そうっと持ち上げてみた。
そういえば月見酒って、こうやって月を反射させながら飲むんだっけ?
お酒の器に使われる
これはお酒じゃなくてお風呂のお湯だから飲むわけにはいかないけど、夜空の中に身を沈めているような独特の趣を感じて、思わず笑みがこぼれた。
「なんだか温泉にでも来たみたいだなぁ」
夜景を見ながら入浴するだなんて、普段なら滅多にしない経験だ。
温泉と呼ぶには少し狭いが、そこはドラム缶なのでしかたない。
「温泉ですか?」
「そうそう。エンは知らないかな。天然のお湯が湧く場所でね、いろんな効能があったりするんだよ」
「効能……?」
「疲労回復とかリラックスとかね。そうじゃなくても単純に気持ちいいし。家で入るみたいに一人じゃなくて、他の人とワイワイするのも悪くないねー」
「他の人とワイワイ……なるほど、そういうものなのですね」
エンはアンドロイドだし、温泉の知識なんて仕入れてもあんまり意味はない。
だけどあるいはアンドロイドだからこそ、自分と縁のないそれが気になるということもあるかもしれない。
だったら……そうだ!
「ね。よかったらエンも入ってみる? お風呂」
「エンがですか?」
「うんうん。きっと気持ちいいよー。エンって勉強熱心だしさ、お風呂ってどんな感じかちょっとは気になったりしてない? 私だけ入るのも悪いと思ってたし、せっかくならエンにも体験してもらいたいな」
「……よろしいのですか? エンも入っても」
「よろしいに決まってるよ。私はエンにもお風呂の良さを知ってもらいたいな」
「……わかりました。それがマスターのお望みなら」
「よーし、決まりだね! じゃあ今度は私がエンに代わって火加減見てあげるから、私が出たらエンが入っ……あれ? エン?」
私はもう存分にお風呂を堪能させてもらったので、次はエンの番だと出ようとしたら、エンが靴と靴下を脱いで踏み台の上に立った。
ドラム缶風呂は入る場所が高いので、踏み台がなければ出入りする時に危険だ。
その踏み台の上に立たれたら、出ようにも出られない。
私が目をパチパチとさせてエンを見上げていると、エンは自分の服の裾に手をかけた。
「では僭越ながら……エンも入らせていただきます」
「へ? ……へあっ!?」
エンは私の目の前で躊躇なく服を脱ぎ去ると、パサリと地面に落とした。
エンが着ていた服はワンピースだったので、それだけで上下ともにエンの真っ白な下着があらわになる。
もちろん下着だけということは、それ以外の部分は肌を晒しているということで……。
お腹、腋、太もも――普段は隠されている、どこか扇情的な部位に視線が吸い寄せられる。
エンは私より小さいけれど、子どもではない。
彼女の体にはどこもしっかりと女の子らしい肉つきがあって、思わずゴクリと生唾を飲み込んでしまった。
「エ、エンっ? なん、え、な、なにして……っ!?」
満天の星空を背景に美しい肢体を晒した彼女の姿は、いっそ芸術的ですらあった。
だけど、悠長に見惚れている暇はない。
服を脱いだ彼女は、次に自分の下着に手をかける。
さすがにそれ以上見続けているわけにはいかず、私は慌てて視線を彼女からそらした。
「エ、エンっ? な、なんで服脱いでるの……?」
「……? 入浴とは、服を脱いで行うものではないのですか?」
「そ、それはそうだけどっ……わ、私が言ってるのはそういうことじゃなくて……!」
視界の端で、エンが不思議そうに首を傾げている。
だけど彼女はこの二日間の経験から、私が変な反応をするのはいつものことだと判断したのか、それ以上は特に気にすることなく下着をすべて脱ぎ捨ててしまった。
そしてゆっくりと、その白い足のつま先を湯船につける。
「それでは失礼します、マスター」
「ひぁい……」
トプン、と沈み込むようにエンが私と同じ湯船に入ってくる。
普通の浴槽ならまだしも、ここは狭いドラム缶の中だ。
エンは私よりも一回りは小さいし、私もさほど大きい方ではないから、一応二人で入れはする。
だけどお互いの肌と肌の大部分が触れ合うことは避けられず、エンの裸体から必死に目線をそらしていた私は、その柔らかな感触に顔を真っ赤に染め上げた。
「……これがお風呂、なのですね。エンはこれまで一〇〇年以上稼働してきましたが、このように高い温度の水の中に入ったことはありませんでした。少し……不思議な感覚です」
エンは物珍しそうに浴槽の水面を見下ろしていた。
そんな彼女の初々しい感想に私もなにか言ってあげたかったが、残念ながら今の私はそれどころではなかった。
「あ、あの……エン。せ、せめて向こう向いて……お願い……」
すぐそばにあるエンの裸体から全力で目を背けつつ、恥ずかしさでプルプルと身を震わせながら、どうにか声を絞り出す。
今の状況は、狭いドラム缶の中でエンと正面で向かい合っている形だ。
正面は……正面はマズイ……!
目と鼻の先にエンの顔があるし、顔が見えるとどうしても意識しちゃうし!
少し寄りかかられただけでも、腕も足も肩も、至るところが触れ合って、まるで抱きしめ合っているみたいになってしまう。
そして極めつけは……む、胸が……いや胸とは限らないけど!
なんだか一際やわっこい感触が私の腕やお腹にフニフニと当たって、全然落ちつかないのだ……!
もうこの際、一緒に入ることになってしまったのはしかたがない。
今更エンに出てってほしいなんて言えるわけもないし、こうなったのはおそらく、私が温泉の話をしてしまったからだということはなんとなく察しがつく……。
私だって、こうしてエンと一緒に入ること自体は、単にものすごく恥ずかしいだけで嫌というわけではなかった。
むしろ約得だ。好きな子と一緒にお風呂に入れるのに、嬉しくないはずがない。
だけど少々、なんというか、刺激が強すぎると言いますか……。
エンと裸で抱き合っていることを意識してしまうと、熱と気恥ずかしさで頭がどうにかなってしまいそうだった。
せめて……せめて私が平常心でいられるくらいの距離感を取ってもらわなくては……。
「……? わかりました、マスターがそうおっしゃるなら。背面装甲をマスターに預ける形になってしまいますが、よろしいでしょうか」
「そ、それくらいなら全然いいからっ……」
「ありがとうございます。では、少し失礼いたします」
ドラム缶の中で、エンがくるりと体を反転させる。
エンの顔は覗き込まなければ見えなくなり、さっきまで当たっていたフニフニとした感触も遠ざかって、私はホッと息をついた。
狭いドラム缶の中で肌と肌を触れ合わせている事実は変わりないが、体勢が正面ではなくなっただけで幾分か緊張も解れ、気が楽になる。
目線も無理にそらす必要もなくなり、浴槽に沈んだエンの裸体が視界に入らない程度に前を向いた。
エンはそんな私の胸に背中を預けるようにして、軽く寄りかかってくる。
「……ふふ」
単に狭いから私に寄りかからざるを得ないだけだということはわかっているけれど、こうしているとまるでエンに甘えられているみたいで、ちょっと新鮮だ。
なんだか無性にエンを甘やかしてあげたくなって、彼女の髪をとくようにして頭を撫でてあげる。
もう何度もこうして頭を撫で続けてきたからか、最初の頃のような不思議そうにする反応はすでになく、エンはずっとされるがままだった。
だけどふと、彼女は思いついたように顔を上げる。
「マスターは、エンよりも胸部装甲が大きいのですね」
「うぇ? う、うん。そんなに大きい方ではないと思うけど……」
「……」
……なにやらエンが自分の体を見下ろして、自分の胸に手を当てている。
思わずそちらに視線が吸い寄せられそうになったが、すんでのところで堪えた。
ダ、ダメですよ私。そんなエッチなところ見ちゃダメです。
女の子同士だから見てもいいのかもしれないけど、だからってこんなエッチな気持ちでは見ちゃダメです。
平常心、平常心ー、と自分に言い聞かせていると、エンが唐突に私を見上げてきて、言った。
「マスターは、胸部装甲がお好きなのですよね?」
「それはだいぶ誤解を招く発言だよ!?」
「? では、胸……いえ。おっぱいがお好きなのですよね?」
「言い回しの問題じゃなくて!」
むしろそっちの方がやばい!
というか、なぜ胸からさらに言い直したのか。
胸よりもおっぱいの方が、なんていうか、言い方がちょっとエッチだ……。
エンはしばらく自分の胸を確かめるように揉んだ後、どこかしょんぼりと項垂れる。
「私もせめてマスターほどにでもあれば、マスターにもっと満足いただけたのでしょうか……」
「いや……あの……」
なんで私がおっぱいが好きだということは確定してるんですかね……?
いや、嫌いじゃないけどさ……好きか嫌いかで言えば、その……好きだけど。
あ、あくまで好きか嫌いかで言えばだ! その二つしか選択肢しかないならの話!
そもそも今は私の嗜好なんかより、落ち込んでるエンを励ましてあげる方が先だ!
「こ、こほん。あのね、エン。おっぱいはね、大きければいいってもんじゃないんだよ」
「そう、なのですか?」
「そうなのです。私はそこまで大きくないけど、大きいと蒸れるし肩が凝るし寝づらいし、いろいろ大変だって聞きます」
「……しかしエンはアンドロイドです。おっぱいが大きくとも、蒸れませんし肩も凝りませんし睡眠は必須ではありません。でしたらやはり、大きければ大きいほどいいのでは?」
「む、むぐ」
た、ただ単におっぱいが小さくても気にすることなんかないよって伝えたかっただけなのに、なんか論破されたみたいになってしまった……。
押し黙ってしまった私を見て、エンは再度しょぼぼーんとし始める。
うぐぐ……っていうか、そもそもだ。
エンはアンドロイドなんだから、おっぱいを含むエンの姿かたちを決めたのはエンを設計した開発者のはずだ。
おっぱいの大きさを気にするような思考回路を持つように作ったのなら、なぜそのおっぱいを大きく作ってあげなかったのか。
……まあ戦闘用だからだろうけど……激しく動く時とか絶対邪魔だし。
と、とにかくだ! そういうわけで、エンはなにも悪くなんかないのだ!
おっぱいの大きさでエンが気に病む必要なんかこれっぽっちもない。どうにかそれを伝えてあげなければ……!
「あ、あのねエン! その、あのー……よ、世の中にはねっ、小さい方がいいって人もいるもんなんだよ!」
そうしてエンを元気づけたい一心で頭をフル回転させ、私が思いついたのは、小さいおっぱいにもちゃんと魅力があるんだよと教えてあげることだった。
「小さい方が……? そのような奇特な方がいらっしゃるのですか?」
「いるいる! めっちゃいる! 大きいだけがおっぱいの良さじゃないんだよ! 形とか柔らかさとか手触りとか、他にもいろいろあって……未成熟だからこその良さっていうのもあるの!」
「未成熟だからこその……?」
「っ、そう!」
まるで珍妙なことでも聞いたかのように、エンはパチパチと目を瞬かせている。
もう自分でもなに言ってるかちょっとよくわからなくなってきたが、ほんの一瞬だが確かな手応えを感じた私は、勢いのまま口を回し続けた。
「第一ね、おっぱいだけ見て判断するのがよくないと思うの! 普段見られ慣れてなくて恥ずかしがったりとか、エンみたいに小さいのを気にしたりとか……そういう小さいからこそ抱えてる恥じらいとか悩みとかと合わさってこそ、おっぱいの良さは一層引き立てられるものなんだよ!」
……なんで私こんなおっぱいについて力説してるんだろう……。
いや、冷静になっちゃダメだ……! 今はとにかく頭を空っぽにして、エンに小さなおっぱいの魅力を伝え続けるんだ!
「……マスターがおっしゃっていることが、エンにはよくわかりません。エンがアンドロイドだからでしょうか。未成熟だからこその良さ……完璧で完全なものの方がエンは良いと思うのですが」
「そ、それを言うなら、昔の日本じゃ胸は小さい方がいいって言われてたんだよっ? 着物は胸が小さくないと綺麗に着れないから、小さい方が美しいとされてたの!」
「……! ……小さい方が、美しい……なるほど……」
目から鱗だったとでも言うように、エンがしんみりと頷く。
……これは、うまくいったかな?
小さい方が美しい……つまりは完璧に近いという表現は、主人の手を煩わせない完璧なアンドロイドになるべく精進を重ねているエンの価値観に、うまく合致するものだったようだ。
エンはもう一度、確かめるみたいにペタペタと自分の胸に手を当てる。
そしておっぱいが好きか聞いてきた時と同じように、再び私の方を見上げてきた。
「マスター。マスターはさきほど、小さい方がいいという方もいると言ってらっしゃいましたよね」
「え? まあ、うん……」
「ではマスターも……おっぱいは、小さい方がお好きなのでしょうか?」
「うぇっ!?」
エンの瞳が、少しばかり不安に揺れているように見えた。
エンは最初、自分のおっぱいが小さいことで落ち込んでいた。
それに関しては私が小さいからこその魅力を全力で伝えることで、どうにか理解してもらえたはずだ。
だけどさらに元をたどれば、彼女がおっぱいの大きさを気にし始めたのは、マスターである私がおっぱいが好きだと思い込んでいたからだ。
その私が、大きいおっぱいと小さいおっぱい、どちらの方が好きなのか――。
おそらくこれが最後の質問だ。これさえ乗り切れれば、エンは完全に立ち直ってくれる。
そしてどちらを選べばエンが元気を出してくれるかも、考えるまでもなく答えがわかっている。
しかしだからと言って、はばかることなく口にするには、それはあまりにも恥ずかしすぎて……。
私がもじもじと言いよどんでいると、次第にエンがしょんぼりと始める。
このまま黙っていたら、きっと彼女は私の返事を待つことなく、私の答えを彼女自身で決めてしまう。
それもきっと、彼女自身が激しく気落ちするような方の答えを。
うぐぐ……ぐ、ううぅ……。
「ち、小さい、方が……小さい方が、私は好きだよ……」
「……! ……本当ですか? マスター」
まだ少し疑うような目つきだった。
答える時に少し躊躇してしまったり、変に小さい声だったりしたせいで、私が気を遣っていると判断されてしまったのかもしれない。
だったらもう、言うしかない。
恥も外聞もかなぐり捨てて、大声で、もう一度同じことを……。
……ええい、ままよ!
「もちろんだよエン……私は、私は……! っ! 私はっ、小さなおっぱいが大好きですっ!」
「マスター……!」
もうぶっちゃけ半分以上ヤケクソだったが、その効果はじゅうぶんあったようだった。
エンは私の叫びに感じ入るように三度自分の胸を見下ろす。
そして今度はしょんぼりとはせず、満足そうに首を縦に振ってくれた。
「それは、よかったです。エンのおっぱいは小さいですが……マスターに満足していただけるのなら、それ以上に良いなどありません」
「……そっか……エンが嬉しそうで、私も嬉しいや……はは……」
エンが元気を取り戻してくれたことは私もこの上なく嬉しかったが、残念ながら私の口からは乾いた笑いしか漏れてくれなかった。
だってもうなんか……おっぱいについて熱弁したり、未成熟の方がいいとか口走ったり……完全に変態の所業じゃん、これ。
……いや、もしかして……私って本当に変態なのかな……。
だって嘘を言ったつもりとかないし……いや正直小さいよりは大きい方がいいと思うけど、エンのおっぱいだったらどっちだろうと気にしないし?
……おっぱいが好きっていうより、これあれだな。
たぶん私が、エンのことを好きすぎるだけだ。
おっぱいもエンを構成する要素の一つだから、エンのおっぱいに限ってのみ、私は大きさや形など気にしないほど強い執着を持っているというだけで……。
……あれ? やっぱり変態なのでは……?
い、いやいやいや! 純粋にエンの全部が好きなだけなんだから、変態なんかではないはず……!
そもそも変態とは? どこまでが常識人で、どこからを変態なのだ?
私とエンの二人しかいないこの世界で、それを決めるのはいったい誰なのだ?
誰も定義する人がいないのなら、変態なんて概念はそもそもこの崩壊した世界には存在しないし、そもそもおっぱいが好きなんてことは人類なら当然のことだし!
だから……えっと……その…………。
…………。
「……きゅぅー……」
「……マスター? え。だ、大丈夫ですかっ? マスター!?」
珍しく慌てたエンに顔を覗き込まれたことで、ここに至って私はようやく、自分がのぼせていることに気がついたのだった。
だからきっと、あんなにおっぱいについて熱く語ったことは全部、のぼせかけていたせいだったのだろう。
小さなおっぱいが……エンのおっぱいが好きだって叫んでしまったことも全部、のぼせかけていたせいに違いない。
だから私は、絶対に変態なんかではないのである。
ぼやけた頭の中でそんな言い訳をつらつらと並べながら、私はエンの手を借りて、どうにかドラム缶風呂を脱出したのであった。
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