7.二日目の朝
深い眠りに落ちた意識の中、誰かが私に呼びかけてくる声がした。
名前を呼んでいる。聞き取れない、誰とも知れない名前を。
どこもかしこも真っ暗な霞がかかっていて、ここがどこなのかすらわからない。
これは……昔の私の記憶、なのかな。
エンは私が記憶喪失だと初めて知った時、完全に破壊された以外の一部の記憶はいずれ戻るだろうと言っていた。
だとしたらやっぱり、これはかつて私の身に起こったことなんだろう。
『ご――ん――――ごめ――ね――――』
破壊され、散らばった記憶の欠片が入り乱れ、やはりろくに聞き取れたものではなかった。
ただなんとなく、誰か女の人に謝られていることだけはわかる。
ごめんね、ごめんね、と。泣きながら、何度も何度も繰り返している。
はっきり言って、私は困惑した。
初めて見る映画やドラマを、途中から見ている感じと言えばわかるだろうか?
実際にあったことだという実感もなければ、どうして謝られているかという前後の話もわからない。
もう少し覚えていることがあればなんとなく感傷に浸ったりもできたのかもしれないが、あいにくと私はなにも覚えていない身の上だ。
どうにも居心地が悪いワンシーンに感じてしまってしかたがなかった。
……もっと深く、意識の奥底に潜っていけば、少しは自分のことがわかるのかな。
私に謝っているこの人のことも、なにか思い出せるかもしれない。
そんな期待を胸に、私に謝り続ける誰かの顔に向かって、私は手を伸ばしてみた。
女の人の姿を隠すように覆っている霞をこの手で払い、その顔を見ることができれば、なにか思い出せるかもしれないと期待して。
だけど伸ばした手が霞に到達する直前、その指先が奇妙な感覚を訴えてきた。
――ふにっ。
と、なにやらマシュマロのごとく触り心地の良い感覚を。
どこか既視感を覚える、実感を伴う確かな感触に、なんだか急速に目の前の光景が遠ざかっていく。
この手で触れたものがなんなのか確かめたいという好奇心が、私の意識を押し上げていく。
このぶんでは、もう意識の奥底に潜ることはできそうにない。
昔のことなんて思い出せたところでどうせ今更どうしようもないことなので、別にいいんだけども。
そんなことより、なんか手の中で自由に形を変える柔らかい感触に、なんか妙に覚えのあるような気が……。
「お目覚めですか? マスター」
「…………んん!?」
パチッと目が覚めたら、朝日を背にするエンが私の顔を覗き込んできていた。
それはまあ、別にいい。エンが私の近くにいることは、なんら不思議なことではないのだし。
ただ、その……目覚めた時の私とエンの状態が問題だった。
「ななな、なに、なにやってるのかなぁ……? エン……」
できるだけ平静を装って、ぎこちない笑顔で問いかけてみる。
いや、装いなんかじゃない。大丈夫、私は紛れもなく平静で冷静だ。
その冷静な目線で、今の私とエンの状態を今一度確認してみる。
地面に仰向けで寝ている私。そんな私の顔を覗き込んでいるエン。
そしてそのエンの手が私の手首を掴んで、ぎゅーっ、と彼女の左胸に押し付けられている。
だ、大丈夫。私は冷静だ……私は冷静冷静冷静……冷静……! 冷静は私!
必死に自分に言い聞かせる私とは裏腹に、エンは特に問題など起こっていないかのような平坦な声音で答える。
「こちらは、前回の経験を踏まえた学習の成果です」
「は、はい? 学習? 成果って?」
「先日、マスターの人工冬眠を解除した後、エンがいくら声をかけても芳しい反応は得られませんでした。しかしこういったことをした直後にお目覚めになりましたので、マスターを起こすにはきっとこれが一番効果的であるとエンは学習したのです」
ふんす! なんて鼻息が聞こえてきそうな感じだった。
あいも変わらず無表情ではあるのだが、控えめに胸を張るその仕草はどこか得意げで誇らしげである。
非常に可愛らしくはあるのだが、どうか今だけは、そんな風に動きをつけないでほしい。
こう、動くたびに、手の中の柔らかな感触が直に伝わってきてですね……。
…………。
「ん……マスター?」
「……はっ!?」
気がつけば、私は口ではやめてと言いつつも、その抗いがたい魅力に誘われるかのように、わずかながら手に力を込めてしまっていた。
手の平から伝わる、小さくも確かな弾力――。
しかし直後に正気に戻った私は、即座にバッと彼女の胸から手を離した。
「マスター? もうよろしいのですか?」
もうよろしいもなにも私はそんなことしたいなんて言ってないんですが!?
と、いうかだよ……?
え、なに? 今のかすかに色っぽかった「ん」は……。
成長途中の胸を触られて痛かったとか、そういう感じでは全然なかった。いやそもそもエンはちっちゃいけどアンドロイドだから成長しないし成長痛とは無縁だろう。
まさかとは思うけど……エンって、そういう感覚あるの? 戦闘用なのに?
エンの胸を触っていた自分の手の平を見下ろし……さっきまでの感触を思い出してしまって、ブンブンとかぶりを振った。
……ほんと、心臓に悪い。二日連続この急な目覚めはだいぶきつい。私たぶん朝とか弱い方っぽいし。
「はぁー……ふぅー……えー、こほん」
バクバクとうるさい心臓の鼓動を落ちつけるように深呼吸と咳払いをしてから、私は少しお説教でもしてやるつもりでエンの目をじっと見つめた。
「あのねぇ、エン。エンはもうちょっと恥じらいを持った方がいいと思うの」
「恥じらい、ですか?」
エンは私の言っていることの意味が心底わからないようで、こてんと小首を傾けている。
こじんまりとした見た目も相まって小動物的な可愛らしさが増大し、あわや一瞬お説教をやめかけてしまうものの、心を鬼にして先の言葉を紡ぐ。
「そう、恥じらい。女の子は普通、ああいうのは恥ずかしがって嫌がるものなの」
「ああいうの……ですか? ……申しわけありません、マスター。具体的な情報の提供を求めます」
「え。だからその、む、胸を触られたり……とか」
若干顔が熱を持つのを感じながら、そう補足する。
……いや、なんで私の方が恥ずかしがってるんだ。逆でしょ。
エンは私のその言い分に合点がいったようだったが、同時に違う疑問が発生したように再び首を傾げた。
「しかしマスター……先日、エンの胸部装甲に先に触れてきたのはマスターの方でしたが……」
「んぐっ!?」
は、反論しづらいところを……。
「い、いやっ……そ、それはそれ、これはこれっていうか……第一あの時は寝ぼけてたから!」
事実なだけに言い訳じみた言葉しか出てこない。
寝起きを口実に無知な少女の胸を揉みしだいた……世が世なら通報され警察に突き出されても文句は言えない所業だ。
まあ世が世ならというか、その世は完全に滅んでるんだけど……。
私が強い口調で言いつけてしまったからか、エンはその無表情を崩すと、徐々に眉尻を下げていく。
「……もしかしてさきほどの件は、やってはいけないことでしたか? またなにか、エンはマスターのお気にさわることを……」
「うぐっ」
しょんぼり、なんて擬音語がこれでもかと似合うエンの落ち込み具合に、私の心はグサグサと刃物を突き刺されたように痛む。
エンの言う通り、始まりは確かに私が昨日エンの胸を不躾に揉んでしまったことなのだ。
マスターである私が、なにも知らないエンにそんなことをいきなりしでかしてしまったら、間違った学習をしてもしかたがない。
それはエンのせいではなく、紛れもなく私のせいであろう。
「エ、エンは悪くないから大丈夫っ。エンはただ、エンなりに私の役に立とうと頑張ってくれただけなんだもんね? そういうのはすごく嬉しいし……だからその、ありがとね、エン」
「では……エンはマスターのお役に立てていましたか?」
「立ってた立ってた! もうすっごくっ!」
鬼にしていた心は桃太郎エンにすっかり退治されて白旗を上げ、私は情けなくエンを甘やかした。なにも悪くないエンを叱る鬼なんて退治されて当然だったのだ。
我ながら稚拙だと自覚できる励ましではあったが、エンは見る見るうちにしょんぼり顔からいつもの無表情に戻っていく。
無表情ながら、ふんすーっ! と、どことなく鼻息荒く元気そうに胸を張るさまは、見るからに上機嫌そうだった。
……うーん……なんかエン、ちょっと知能下がってない?
あれ、元からこんなだっけ? 私が今までエンとまともに向き合ってなかっただけで……。
まあ、エンが嬉しそうならなんでもいいか。
小さな寝起き騒動が一段落し、私は上半身を起こすと、んー! と伸びをした。
柔らかな布団もなにもない、夜空の下での就寝だったので、体の節々が少し痛む。
だけどそれだけで、夜の寒さで体調が悪かったりはしていない。
ふと焚き火の方を見てみると、まだ赤い熱を残した灰が、かすかに煙を立ちのぼらせていた。
「まさかとは思うけど、エン、ずっと起きてたの?」
焚き火が消えたのは今から少し前と言った具合で、灰の量もかなり多い。
私の確信を持った問いかけに、やはりエンはこくりと頷いた。
「肯定します。戦闘用アンドロイドとして、
「まあエンはアンドロイドだから睡眠とかなくても平気なんだろうけどさ……一人で一晩中起きてるのって、辛かったり、寂しかったりしない?」
「寂しい、ですか。何度も言うようですが、マスター。エンに感情は」
「いや、うん。わかった。寂しくはないんだね。それだけわかればじゅうぶんだから」
容易に想像がついたエンの先の言葉を、私は自分の返事で遮った。
なんというか……エンのその先の言葉が、私はあまり好きじゃなかった。
昨夜、私自身がそれを使って罵倒してしまったというのもあるけど……たぶんそれ以上に、ただ単に私が、エンには感情があるって信じたいだけなんだろうな。
「うーん……でも、エンが辛くなくても私は気になるしな……こう、スリープモードみたいなのってないの? エンの機能を一時的に停止する、みたいな」
「使用したことはありませんが、実装はされています」
「じゃ、今度寝る時はそれ使って一緒に寝ようよ。その方が私も嬉しいし」
「……」
エンのことなので、マスターである私が望めばその通りにしてくれると思っていたのだが、予想に反してエンの反応は芳しくなかった。
「あれ? ダメなの? ……もしかして、私と寝るの嫌だった?」
昨夜はひどい言葉で罵倒してしまった。本来なら、謝ったところで許されるようなことじゃない。
私がエンのマスターだったから表面上許してくれただけで、本当は私のことを蛇蝎のごとく嫌っている可能性も……。
あ、ダメだ。なんか泣きそうになってきた……。
あんなひどいこと言ったくせに、私、エンに嫌われるの嫌なんだな。
せめてエンに気づかれまいと必死で涙を堪えていたが、そんなものでは隠し切れないほど顔に出てしまっていたみたいで、エンはあたふたと私の顔を覗き込んできた。
「マ、マスター? どこか痛むのですか? それとも体調が……あっ、昨日おっしゃっていた寂しいというものでしょうか?」
「だ、大丈夫……大丈夫だから。それより、一緒に寝るのってなんでダメなの……?」
ほとんど無表情ではあったものの、私を本気で心配してくれていることがこれでもかと伝わってくるエンの仕草に、私への嫌悪感は一切見られなかった。
どこかホッとしつつ、少し乱暴に目元を拭ってエンに理由を聞き直す。
「……ダメ、というわけではありませんが……いくつか問題があります」
「えっと……問題って? あ、寝てる間にあのトカゲみたいなのとかに襲われたら対処できないとか?」
「いえ、その心配はありません。スリープモード中でも外敵を感知するセンサーは有効になっています。周囲で人類種への脅威を察知した際は自動でスリープモードが解除されますので、ご安心ください」
「あぁ、まあエンって戦闘用だもんね。さすがにその辺はお手の物って感じかな」
じゃあなにが問題なの?
私が首を傾げ再度問いかけると、エンは私の視線を誘導するように、焚き火の方へと指先を向けた。
「主だった問題はやはり、温度管理です。夜の寒さの中でのうかつな就寝は、多くの生命体に悪影響を及ぼすことをエンは知識として知っています。今回は熱源となる焚き火の維持管理をエンが行っていましたが……」
「あー、エンも寝るとなるとそういうわけにもいかなくなるもんね」
エンはアンドロイドなので問題はなくとも、私はこの世で絶滅危惧種にまで至ってしまったか弱い人類なので、環境の影響を大いに受ける。
「はい。ですのでやはり、エンは起動したままの方が」
「や、それなら毛布とかそういうの見つけてくればいいだけでしょ? それなら適当に民家を漁ればあるだろうし」
目覚めた当初こそ廃墟と言えど家探しをするのには少し躊躇があったが、人類が滅んでいるとなれば話は別である。
咎める人もいなければ、罰する法もない。残されたものを有効活用できるならそうするべきだ。
「さすがに冬とかならもっと他に寒さをしのぐ方法とか見つけなきゃかもだけど、まだそこまで寒いわけじゃないしね。まーなんとかなるでしょ」
「……疑問を呈します。先にスリープモードを使用したことがないと述べた通り、エンは休まずとも常に稼働し続けることができます。そのような手間をかけてまで、わざわざエンをスリープモードにすることがそれほど重要なことなのでしょうか?」
どこか困ったように私を見つめる視線に、私はくすりと笑みをこぼした。
「重要だよ。すっごく重要。さっきも言ったけど、エンが寂しくなくても私が気になるからさ」
「マスターが、ですか……」
「そうそう。エンが一人ぼっちでずっと起きてるって思うと、私の心にどんどん負荷がかかって、そのうちなんか急にぽっくり逝っちゃったりしちゃうかも」
「なるほど……確かにそれはとても重要な問題です。了解しました、マスター。安全な環境でスリープモードが実行できるよう、早急な問題の解決に努めます」
「ん。お願いね」
ビシッ! と敬礼でもしそうなくらい真面目に返答してくれたエンの頭を、よしよしと撫でておく。
我ながら適当なこと言ってるなという自覚はあったが、エンが起きてると心が休まらないのは事実なのだ。できればエンにも私と一緒に眠ってほしい。
とりあえず毛布の調達は決定事項として、あとはー……あぁ、新しい服とか欲しいなぁ。
さすがにこの先ずっと今のままっていうのはね……外套一枚にインナースーツだけっていうのはいろいろときつい。主に精神的に。
なにかの拍子で外套がめくれて、もしこんな格好をしていることがエン以外の誰かに知られたら、もう恥ずかしくて生きていけ……あ、私以外全員滅んでるんだった。人類。
あれ? じゃあ他に誰も見る人がいないんだから、別にどんな格好してても問題ないんじゃ?
たとえば、パジャマでもコスプレでも、ナース服でもメイド服でも、なんなら下着姿や裸で出歩いたって誰にもなにも言われない。
……あくまでたとえ話であって、別に本当にそうしたいってわけじゃないからね? そこだけは勘違いしないでほしい。
だってそんなことしでかし始めたら、もうほんとにただの露出狂じゃん。
エンだってきっと、体を冷やすのでおやめくださいと注意してくるに決まってる。
指摘される箇所が倫理的な側面ではなく、健康面だと断言できるのが若干悲しいところだけど……。
とにかく! 私はそんな恥ずかしい格好で外を出歩く変態じゃない!
それだけはここではっきり宣言しておく!
「……ふぅ」
心の中の葛藤に終止符を打って、一息つく。
ひとまず、毛布と服。あと欲しいものがあるとすれば……。
まあ、考えるまでもなく決まっているか。
「喉、乾いたなぁ……」
ごろんと再び地面に背をつけて、朝焼けの空を見上げながら、ぽつりとため息まじりに。
毛布、服。確かにそういうものも重要だが、生命体である以上、やはり最優先すべきはそのエネルギー源だ。
「……水。うん、やっぱり水だな。飲んでも平気な水分を今日中に確保しないと、明日生きられるかどうかも怪しくなってくるし……」
ここは人類が滅んだ後の世界だ。インフラが機能していない以上、まともな飲み水を確保するだけでも困難を極めるだろう。
水が補給できなければ、人は三日で死亡するとされている。
すでに昨日で一日消費してしまっているから、今日を含めて二日しかない。
しかも三日目ともなると、脱水症状やらなんやらでろくに動けるかも怪しい部分がある。
なので猶予は実質一日だけと考えていいだろう。つまるところ今日中にどうにかしないと、本格的にまずいことになる。
さらにここで注意するべきなのは、水を見つけるまでは仮に食料を見つけても食べてはいけないことだ。
食物の消化には水分を必要とする。つまり、水分をじゅうぶんに確保できない状況で食事を行うことは、逆に死期を早めることに繋がってしまう。
無論、食料も今後必要になってくるけれど、こちらは水と違い摂取せずとも三週間から一か月はなくても生きていられるとされている。
そういうわけで、とにかく今は水が最優先だ。
まずこれからすべきことは、太陽が昇って暑くなってくる前に川を探すこと。そしてそこに生息してる生物の種類から、その川の水が飲めるかどうかを判断する。
確かザリガニが棲んでいたら、割と綺麗だからそのまま飲み水として使える可能性が高いとか聞いたことがある。
でも、そもそもトカゲがあんな巨大進化を遂げていた意味不明な時代だ。仮に私の知識そのままの姿のザリガニがいたって、その生態が本当にまったく同じとは限らない。
そうなると、やっぱり飲む前にろ過とかした方がいいんだろうな。
ただ、ろ過するにしても専用の道具が必要になる。作り方は幸い覚えてるけど、その材料をどこかで調達しないといけない。
そもそも、ろ過だって万能じゃない。どんな水も飲み水にできるというわけではなかったりする。
もしもこれから行く川の水の汚染が、ろ過でもどうにもならないほどひどすぎた場合、もっと別のアプローチを模索する必要が出てくる。
なにはともあれ、まずは川の状態を確認すること。
これからどうするにしても、話はそれからだ。
そんな風に私が今後の方針について固めていると、ふと、エンが私の顔を覗き込むようにして視界に入り込んでくる。
「ん、エン? どうかした?」
「考えごとの最中に申しわけありません。一つ、ご提案があり……水をお求めなら、エンの機能の一つがマスターのお役に立てるかもしれません」
「エンの機能?」
「はい。エンは戦闘用のアンドロイドですので、あくまで補助機能程度ではありますが、エンには浄水機能が備えつけられています」
「え、ほんとっ?」
それはまさしく渡りに船な情報だった。
というか、ぶっちゃけもっと早く教えてほしかった。
どうやって飲み水を手に入れようかいろいろ考えちゃってたじゃん……。
「じゃあさ、エンのそれってどれくらい汚れた水分までなら飲み水にできるの?」
「規定はありません。ただし、汚染状況によっては清浄化にある程度の時間を要します」
「……つまり、どんなに汚れてても時間さえかければ飲み水にできるって認識でいいの?」
「肯定します」
壁を殴って破壊したり、巨大トカゲに殴られても傷一つなく微動だにしなかったり、目からビームを撃ったり。
戦闘用のアンドロイドであるというエンの人外じみた戦闘能力はすでに知っていたが、案外彼女はそれ以外の面でも相当優秀なのかもしれない。
どんな水でも飲み水にできるのなら、川や池を見つけただけで飲み水を確保できたも同然だ。
明日の生活も怪しいハードモードサバイバル生活が、一気にイージー……ほど簡単にはならないが、ノーマルモードである。
エンにはほんと頼りっぱなしだなぁ、と苦笑しつつ、地面に手をついて立ち上がった。
「じゃ、エン。喉もカラカラで辛いし、早く川の方に行こっか。どっちに川があるかとかエンは知ってる?」
「はい、知っています。ナビゲートが必要ですか?」
「うん、お願い」
「了解しました。それでは誘導を開始します」
焚き火をしていた空き地を後にして、移動を開始する。
エンを先頭に歩いていたのだが、広い道でそれは少し寂しい気がして、小走りで近づいて横に並んでみる。
こちらに気づいたエンに、なんとなく私が笑顔を浮かべて見せると、彼女はただ、そんな私を不思議そうに眺めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます